東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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枠組みができると、人が集まって、いろんな可能性が生まれる イベント「科学世紀のカフェテラス」「求代目の紅茶会」主催 久樹輝幸氏インタビュー

2019年11月開催「科学世紀のカフェテラス」「求代目の紅茶会」主催インタビュー

 今週の東方我楽多叢誌では、2月27日放送の「東方ステーション 秘封特集」に合わせて、秘封倶楽部と、秘封が好きな人達についてフィーチャーした記事を取り上げています。

 毎年11月に京都みやこめっせで開かれている、秘封倶楽部オンリーイベント「科学世紀のカフェテラス」。
 このイベントは、「京都イベント合同」という、幾つかの東方オンリージャンル即売会を一つの会場で併催するイベントのうちの一つです。
昨年は、3つのオンリーイベントが開催になりました。

 射命丸文とゆかいな仲間たちオンリー「文々。新聞友の会」。
 稗田阿求オンリー「求代目の紅茶会」( + 稗田阿求×本居小鈴プチオンリー「ビブロフィリアの休日」)。
 秘封倶楽部オンリー「科学世紀のカフェテラス」。

 「京都イベント合同」としては2012年より、それぞれのイベントは2010、2011年より開催していて、長く愛されている東方イベントです。

 この内の2つ、「科学世紀のカフェテラス」・「求代目の紅茶会」を主催する、久樹輝幸氏にインタビュー。
 イベント開催のキッカケから、久樹さん自身の同人・東方への入り口の話など、
このイベントが共に長く愛されている理由について、探りました。

 

 

 

一度も参加サークル数の減ったことがないイベント

ーー「科学世紀のカフェテラス」の開催、大変お疲れさまでした。

久樹: 

 ありがとうございます。

ーー「科学世紀のカフェテラス」も、今回で第九回になり、歴史あるイベントの様相を呈しているなと思います。開催の雰囲気はいかがでしたか。

久樹:

 今回で九回目、併催の「文々。新聞友の会」とも、過去8回一緒に開催しましたが、例年と同じように盛り上がったという感じです。
 イベント側が、というよりは、サークルさん側が、合同誌などのいろんな企画をしかけてくれています。それが、このイベントの特徴かなと思っていて。毎年、内容は変わってきてはいますが、サークルさんが盛り上げていただくイベントとして。「科学世紀のカフェテラス」は、昔からこういう雰囲気で運営することができていますね。

ーー第一回から、イベントに向けて作られる合同誌であったり、企画などは多いですよね。

久樹:

 奇抜な合同誌なんかも色々と出たりしていますよね(笑)。

 

ーー参加されているサークル数は、年々増えている感じですか?

久樹:

 ここ3~4年ぐらい、(併催イベントを含めた)サークル数全体としてはほぼ横ばいです。
 ただ、俗に「京都合同」と呼ばれる、いくつかの併催イベントの中で「科学世紀のカフェテラス」だけがちょっと特殊で。第一回の開催以降、一度も参加サークル数が減ったことがないんです。

ーー5年、10年続いているイベントとしては、なかなかすごいことですね。

久樹:

 今年はついに、200サークルの大台に乗りました。
 毎年毎年「今年も申込みは来てくれるんだろうか……いや~今年は減っちゃうんじゃないかなぁ……」と思いながら。まぁそれは、どのイベントでも同じだとは思うのですが。蓋をあけてみると「おぉ……!」となります。

 

 

ーー余談なのですが、サイトに記載されている開催概要が、初回から毎回ずっと「申し込みスペース:80」と書いてあって。「もう80と書かなくてもいいのでは?」と。

第10回(2020年度)開催概要 ー https://cafe-terrace.info/gaiyou.php

久樹:

 最初に開催したときと同じく、併催イベントと同じスペース数、ということにしています。片や増えて片や減っている、という状況なので、これを途中で変えちゃうと個人的にはちょっと悲しいかなーと。全体の配置数限界から見れば、まだ余裕がありますので、実態とだいぶ乖離していますけどね。
 ただまあ、これは「(科学世紀のカフェテラスは)生まれたばかりのサイトです」というようなものなので(笑)。

ーー今年は200スペース以上の申し込みがあったようですが、これは追加募集があったたことによってこの数になったのでしょうか?

久樹:

 「科学世紀のカフェテラス」としては一週間程度、申し込みを延長しましたが、締め切った段階で既に208サークルでした。
 そこから、いわゆる追加というのをやりましたが、基本的には併設イベントの「文々。新聞友の会」が募集するという形で出しました、なので「科学世紀のカフェテラス」のカウントとしては入っていないですね。
 追加の募集、というのは、昨年(2019年)の秋に台風が来たということで、イベントに参加できなかったサークルさんもいて。今の関西では、秋のイベントが飛んでしまうと、しばらく頒布機会がないよね、ということもありまして。
 それだったら東方ジャンルで、という縛りでなら追加募集をかけても良いんじゃないかなと。「ジャンルオンリー」という縛り方をすると、東方の場合すこし難しい表現になるので。

ーー普通のオンリーイベントの場合「○○オンリー」って言うとそのジャンルだけになるんですけど、東方にはサブジャンルがたくさんありますからね。

久樹:

 東方はサブジャンルが大変に多いので。そのへんの文言を調整した結果が「東方Projectを扱っていれば、特定の人妖が登場しているかは問いません(オールキャラ)」という募集の表記になりました。結局、追加が39サークル・42スペース分お越しいただきました。

ーー一般参加者数も増え続けていますか?

久樹:

 そうですねえ……ここ数年だと微減している感じはありますけど、まぁ横ばいと言っても間違いではないかと。総体としては安定した参加をいただいています。

 

「科学世紀のカフェテラス」「求代目の紅茶会」開催のきっかけ

ーー改めまして、「科学世紀のカフェテラス」を開催することになったきっかけを教えてください。

久樹:

 そもそも第一回の「求代目の紅茶会」「科学世紀のカフェテラス」を企画したのが、前代表、現在は相談役をして頂いている、有井さんという方なんです。開催の経緯については、もうご存じの方がそろそろ減ってきてはいるかもしれません。
 私は当時(今もですが)、稗田阿求サークルとして主に活動していて。そんなときに広島の某イベントで、有井さんがスペースにお越しになられて「久樹さんですか! 私、有井と申します! 今度、京都で稗田阿求と秘封倶楽部のイベントをやることになりまして……」「おぉ~っ!!!」……という感じですね。
 当時、東方の同人誌即売会は、サブジャンル化がすごく進んでいた時期でした。最初は作品オンリー、例えば紅魔郷オンリーや妖々夢オンリーみたいな形から始まって、その次ぐらいにはキャラクターオンリーがポツポツと。一番最初に立ち上がったのは魔理沙オンリー【※】でしたが、これはかなり早い時期のものなので別として……

 ※「恋色マジック」。2005年10月30日開催の、霧雨魔理沙オンリーイベント。

 

ーーそのあと、他のキャラクターによるオンリーイベントが段々と立ってきて、細分化が始まりましたよね。

久樹:

 東方ジャンルのスケールが広がってきたことで、ジャンルの分解度が上がったということだと私は思っています。その流れで、まさか阿求と秘封のオンリーが来るとは。
 最初に話を聞いたときはめちゃくちゃビックリしたんですけど、「おぉ~!? そうなんですか! おめでとうございます! 絶対参加しますよ!」と返したんです。
 そうしたら「実はですね、久樹さんには、イベントのスタッフを手伝っていただきたく……」「えっ!?」みたいな流れです(笑)。
 当時、私も東方イベントのスタッフはちらほらとやっていましたけれど、関西のイベントのスタッフは、あまりやっていなかったんですよ。一番最初に東方のイベントスタッフをやったのは「東方名華祭」でした。

ーーいきなり名古屋から。

久樹:

 私が作っている「東方コミュニティ白書【※】」の1作目が出る前ですね。東方のコミュニティを取り扱った本を作るときに、イベントのスタッフとしても経験をしたほうがいいよねと思っていました。

 

 ※「東方コミュニティ白書」。サークル「久幸繙文」発行の、東方Projectファンコミュニティについての調査内容を纏めた同人誌。2010年8月に初巻を発行、最新刊は「東方コミュニティ白書2019」。
https://www.akyu.info/2019/whitepaper_2019.htm
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=544824

久樹:

 とはいえ、その時はどちらかというと、サークル活動に燃えていた時期で、あまりイベントスタッフとして、というのは意識してはいなかったんです。でも、イベントを支える側からイベントの熱狂に触れてみたら、これはこれでまた違う驚きがありまして。
 まぁ、イベントの熱狂の話は多分、以前、鈴木某龍道先生の記事で語られていたので、そちらをご覧いただければと思うのですが(笑)。

【連載】鈴木龍道氏、JYUNYA氏、ビートまりお氏による「博麗神社例大祭」初期、東方コミュニティ黎明期鼎談(全6回)

 その頃はまだまだ東方が大きくなっていった時期だったので、スタッフとしてイベントに触れるのも「なるほど、面白いな」と思いつつ、まだサークルのほうが面白いとも思っていた時期でもあって。そんなところで、さらに別のイベントのスタッフに誘われるとは思っていなかったので、ビックリしました。

 

ーー最初の「コミュニティ白書」を出すのと「求代目の紅茶会」の第一回は、どちらが先でしたか?「紅茶会」の第一回が2011年の2月ですよね。

久樹:

 「東方コミュニティ白書」を最初に出したのは2011年の夏なので、ほぼほぼ同じ時期だったんですよ。

ーー2011年の久樹さんは、かなり激動だったんですね

久樹:

 そうですね。まぁ、2011年って東方ジャンル的にも色々あった時期でしたよね。その中に、ちょうど飛び込んだみたいな感じではあります。

 

突然の代表交代、でも第一回が楽しかった

ーー(「科学世紀のカフェテラス」公式サイトアーカイブの代表挨拶のページを読みながら)代表交代があったんですよね。先程お話に出た、前代表の有井さんが北海道に移動しなければならなくなって、代表が交代になったと聞いています。

代表交代について ー https://cafe-terrace.info/archive/01/koutai.shtml

久樹:

 そうです。「やります」と言われたのが2月だったんですけど、確か3月ぐらいに有井さんから急に連絡が来て「すみません、北海道に転勤することになって……」「え!?」って(笑)。
 ちょうど2月だから、開催1年ぐらい前の話で。やりましょう!と話していた次の月か、次の次の月ぐらいに「すみません」となりまして……。

ーーそれはなかなか……。タイミングによってはイベント中止になってもおかしくないですよね。

久樹:

 確か、既にもう告知をしてしまっていて。 
 とはいえ関西には手伝ってくれるスタッフもたくさんいたので、イベント自体はできるだろうと。ただ「広報がうまくできないかもしれないので、久樹さん広報やってほしいんだけど」「あぁ、全然やりますよ」という流れで参加したんです。それで、何か肩書きをつけましょうとなり。最終的には、当時副代表だったかな。そういう形で第一回は携わりました。
 それで、イベントが終わった後、今後このイベントどうしましょう、ってなったときに「ちょっとさすがに(遠方から代表を)続けていくのは難しい」となって。
 でも、開催した第一回が、めちゃくちゃ楽しかったんですよね。副代表が一番はしゃいでるっていうぐらい遊んでいましたから。なので、私が代表を引き継ぐことにしたんです。

ーーそうですよね。一番好きなキャラクターのオンリーイベントですし。

久樹:

 だって素晴らしいですよ。当時、阿求サークルで赤色バニラさんやPublic Planetさんとか、色々といらっしゃったんですけど、普通なら島の一角の半分くらいしか無いじゃないですか。でも、なんとオンリーを開くと、「買っても買ってもまだ買うサークルがある! すごい! 周りきれねぇ!」となりまして(笑)。

ーー嬉しい悲鳴ですね(笑)。

久樹:

 こんなにイベントでお金使ったのの初めてだなぐらいの勢いで。まぁ、当時からほぼ、すべての島を絨毯(爆撃で購入)していて。第一回からずっとほぼ絨毯で買っているんですけど。

 

ーー第一回「求代目の紅茶会」のサイトを見ていますが、この時でももう100スペース近かったんですね。

久樹:

 そうなんですよ。最近ちょっと、厳しいところではあるんですけど、ぜひまた盛り上げて行きたいなとは思います。

ーー私は第一回に参加させて頂いたんですが、その当時「こんなに参加者がいっぱい!?」と、すごくびっくりした記憶があります。

久樹:

 当時、新しいイベントができるたびに「本当にそのイベント成立するの?」みたいな、期待半分不安半分みたいな雰囲気がありましたけど、「稗田阿求、秘封倶楽部、ここに在り」という感じで(笑)。
 今も昔もですが、こういう「テーマを掲げること」によって、テーマの認知度が上がると思っていて。最近だと「蓬莱人形」周辺だったりとか。
 枠組みができると、そこに人が集まってきて、「あ、この人も好きだったんだ!」となる。いろんな可能性が生まれてくるんです。同人誌即売会って、そういうひとつの箱、枠組みだと思っています。

 秘封倶楽部に関しては「境界から視えた外界」っていう東京の秘封オンリーもすごく盛り上がっていて、東西ですごく盛り上がっているムーブメントがあったという。
 京都で「紅茶会」を開いた後、東京のほうで阿求オンリー「御阿礼祭」が開催されるようになったりとか。東西で秘封と阿求が盛り上がる流れになっていったなというのは、良い思い出ですね。

 

ーー私も東京のほうの第一回にも参加していて。当時の秘封界隈、阿求界隈の盛り上がりって、みんなが同じ船に乗っているような感じがありました。
 東西二つのイベントが繋がることになって、クリアファイルコラボとかもありましたね。これはどのようなきっかけがあったのでしょうか?

久樹:

 第一回のときなんですけど、東京の「境界から視えた外界」さんが切符型の入場証を作っていて。あれが「卯東京行」で、第一回の「科学世紀のカフェテラス」が「酉京都行」になっていました。そういう感じで、当時からちょっとコラボっぽいことを企画していたんです。
 どちらも秘封好きであるのは間違いないし、東京も秘封、京都も秘封ということで盛り上がっていた時期だったので、一緒にさらに盛り上げていこうよという流れでしたね。

ーー個人的には、東京秘封のサークル入場証(硬券切符)以降、秘封でグッズ、固有物をみんな作り出すようになったかな、というイメージがあります。みんな、非現実の実在性みたいなものを、より求めるようになっていって。

久樹:

 あぁ、そうですね。特に、「境界から視えた外界」さんは生徒手帳も作りましたからね(笑)。

ーー毎回、東京の「境界から視えた外界」では、参加サークルの入場証を特典アイテム的に作っていて。切符の硬券を作り、ある時は大学の生徒証を作り、またある時は菫子の高校の生徒手帳を。

久樹:

 カード型と手帳型がありましたよね。あれを持って帰って、電車の座席の上に置いて「生徒手帳落とした人が……」ってTwitterに上げてる人とかいましたよね。非実在だけども実在性みたいな。

ーーそれが流れ流れて、「宇佐見蓮子の落としもの【※】」に繋がっていったのかもしれません(笑)。

久樹:

 そうですね(笑)。

 

 ※「宇佐見蓮子の落としもの」。サークル「すずだんご」制作の秘封倶楽部二次創作作品。宇佐見蓮子がどこかで落とした……という設定で、架空の大学のレジュメや、蓮子が書いたかもしれない研究レポートなどが保存されているUSBメモリ。
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=582763

 

(つづく)

枠組みができると、人が集まって、いろんな可能性が生まれる イベント「科学世紀のカフェテラス」「求代目の紅茶会」主催 久樹輝幸氏インタビュー おわり

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