※ご投稿いただいた文章に一部編集を入れさせていただきつつ、原文を尊重したテキストを掲載しております。

 

FELTの活動を振りかえる

　2010年、発熱巫女～ずで活動していたMaurits”禅”Cornelis(以下MZC)とNAGI☆が結成したサークル「FELT」。当時、ほかのサークルでは見られなかった洗練されたスタイルと、多様なジャンルのサウンドで、多くの人々に愛されてきた。サークルのアイデンティティとも言える、ソフトで夢幻的なサウンド、正統派J-POPアーティストのような雰囲気を持つ、アレンジャーNAGI☆とボーカル舞花、美歌による楽曲、そして西欧的なニュアンスを含んだのMZCとVivienneコンビ……異なる魅力のアレンジをリリースし続け、数多くのヒット曲を作り、休まず走ってきたFELT。 

　このようなFELTの異質で新鮮な魅力にとらわれ、彼らの音楽を聴いた筆者が一番好きなアルバムを紹介したい。C79でリリースされたFELT2番目のアルバムである「Fairy Queen」に対する紹介とレビューをしてみようと思う。

 

降り積もる雪が音を吸い、寒さが振動を拒む中、そっと音を通わせ誰かの耳へ届いてほしい

　音楽を鑑賞する時、アルバムジャケット・カバーイラストの存在はかなり重要だと、筆者は個人的に考えている。なぜなら、アーティストのスタイルと、収録された音楽で話そうとするテーマをアルバムから読み取ることができるからだ。アルバム特設サイトのキャッチフレーズを見てみよう。

　降り積もる雪が音を吸い、寒さが振動を拒む中、そっと音を通わせ誰かの耳へ届いてほしい

　冬にリリースされたアルバムとして、真冬の寒さを越えて私たちの耳に自分たちの音楽が伝われば良いという願いがあらわれている。ほのかな笑みを浮かべているアリスの姿はおそらく、FELTが望むこの音楽を聴く私たちの姿ではないだろうか。

　音数は少なめに、共感覚的で瞑想的な雰囲気の音楽ジャンルである、アンビエントミュージック。楽器本来の音にフォーカスし、冬との共鳴を目指した作品というモットーが映える、アンビエントサウンドの精髄が込められたアルバム「Fairy Queen」の中から筆者が選んだベスト曲を紹介する。

 

Tr.01 White ruin infinite

　アルバムの始まりの扉を開くイントロ。まるで真っ白な雪を見るような導入部の穏やかなピアノの音、私たちを音楽の世界に導く、ささやくようなサンプリング、続く空を漂うような穏やかなメロディー。イントロにふさわしいトラックだ。

 

Tr.02 Plan Doll

　ジャケットキャラクターがアリスだからか、最初の曲はアリスのテーマ曲アレンジだ。原曲はクライマックス部分が切なく幽かな感じがあるが、導入部の穏やかなピアノメロディーとボーカルがこの雰囲気をを非常によく生かしている。「糸」や「人形」など、アリスのキャラクター性を反映した歌詞も印象的で、哀愁が感じられるウェルメイドポップロックだ。

 

Tr.03 Brilliant World (Vocal Main Mix)

　「Plan Doll」の対比となる、明るく楽しいハウスアレンジ。個人的に、FELTの曲の中で一番好きな愛着のある曲だ。「Birlliant World」というタイトルにふさわしく明るくて華やかな感じ、まるで明るい朝日を迎えるような魅力的なメロディー。ポップ、ロック、オルタナティブ、ディスコなど、多様なジャンルを行き来するVivienneの魅力的なボーカル、W.novaの甘美なコーラス、間奏区間の楽しいサックス演奏、簡単明瞭に原初的な愛を歌う歌詞ーーそれぞれがシナジーを生んでいる、名曲だ。

 

Tr.04 A Silent Voyager

　永夜抄6面のテーマ「ヴォヤージュ1969」をFELTならではのスタイルでアレンジして表現している。落ち着いた、夢の世界のようなのエレクトロニカサウンドに、澄んだギター音が全体を貫く、アンビエントミュージック。タイトルの「A Silent Voyager静かな旅人」というタイトルにふさわしく、聴く人に広大な宇宙を旅するような幻想的な気分を感じさせる。さながら宇宙旅行ーーいや、宇宙まで飛んでいかなくてもいい。夜行列車に乗って、または夜に一人でドライビングをしながら、夜景と夜空を眺める感性もこれと似ているだろう。

　タイトルのVoyagerという言葉は、人生という長い旅に出ている、私たち一人一人を意味するのかもしれない。2回のメロディパートの後、しばらく息抜きをするような静けさが訪れ、そしてまた繰り返されるメロディ。大衆音楽の一般的な構造であるバース-リフレーン-ブリッジ-リフレーンの構造は、私たちが歩む人生の旅路とよく似ているようだ。歌がバースを並べるように、絶えず熱心に前だけを見て人生を生きながら走っていても、いつかは危機や困難に直面するのが人生だ。そして、そのような時はしばらく休んで自分を振り返ったり、息抜きをするブリッジ区間のような時間が必要だ。バース、リフレーン、ブリッジ、リフレーン。それぞれの人生で、それぞれがVoyager旅人になって、その長い旅程を探検する皆に健勝を祈る。

 

Tr.06 蜃気楼

　東方アレンジではなく、オリジナル楽曲だが、本アルバムに流れるテーマに沿った、穏やかなポップロック楽曲。美歌の訴える力の濃い強烈なボーカル、「星」「残響」と、キーワードの別れを素材にした歌詞が印象的だ。

 

Tr.09 Sweet Nocturne

　MZCとVivienneのコンビによる、2番目のボーカル曲。前曲の「Brilliant World」とは対照的な、落ち着いた雰囲気のシティポップスタイルの楽曲。

　原曲は「夜雀の歌声　～ Night Bird」。ミスティアをイメージしたような歌詞が印象的だ。闇と幻覚、そして夜雀の歌声に苦しむさま、これはまるでミスティアのスペルカード「夜雀の歌」を表現しているようだ。「酒に酔って目に見える虚像」を意味する俗語“Pink Elephant’s tail”を活用した、David Kronosの作詞センス、そしてMarkの甘美なサックス演奏もこの曲の魅力だ。

 

Tr.12 You’re the Shine (MZC Grandstreams House Mix)

　アルバムの最後を飾る、MZC既存曲のリミックス。デビューアルバム「Milky Wink」の収録曲（そして間違いなく名曲の）「You’re the Shine」をしっとりとした雰囲気にリミックスし、そこに豊かなジャズサウンドを加えた。

　「冬」という、このアルバムの核心を、明るく暖かな「You’re the Shine」のリミックスで締めくくることで、非常に意味深な余韻を残す。寒い冬の後には暖かい春が待っていることを……。

 

FELTの記憶

　洗練されたサウンドで東方アレンジに新たなセンセーションをもたらしたFELTは、去るC99に出品した32枚目のアルバム「START」を最後に、12年の美しい旅路に終止符を打った。 

　FELTは活動を終えたが、彼らが作ってきた音楽、そしてその音楽が残した心象と思い出は消えない。 この文がFELTの音楽をより多くの人が聞いて記憶の中に残ることができるのに役に立つことを願う。最後に Maurits”禅”Cornelius, NAGI☆, Vivienne, 舞花, 美歌, AO、その他にも数多くのFELTのメンバー、スタッフの方々に感謝の意を表し、健勝をお祈りする。

 

作品紹介

アルバム名：
Fairy Queen
http://feltmusic.net/FELT002/

サークル名：
FELT
http://feltmusic.net/

twitter（X）：
NAGI☆
https://twitter.com/nagi_hoshi
Maurits”禅”Cornelius
https://twitter.com/MZCornelis
Vivienne
https://twitter.com/vivienne_vocal
舞花
https://twitter.com/maika_felt
AO
https://twitter.com/ri_AO
Renko
https://twitter.com/Renko_

Youtubeチャンネル：
https://www.youtube.com/@Felt2010

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