東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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音楽評
2022/07/14

「秘封アレンジで紡ぐ、音楽の境界を超えた物語」東方アレンジ楽曲レビュー『Mary had a little love』/<echo>PROJECT

東方アレンジ楽曲レビュー『Mary had a little love』

秘封アレンジで紡ぐ、音楽の境界を超えた物語

 <echo> PROJECTの秘封倶楽部アレンジアルバム「Mary had a little love」。

 このアルバムは、秘封倶楽部が織りなすダークなストーリーを込めた歌詞が魅力的であり、その世界観にマッチした音楽と共に、多くのユーザーを虜にしてきた。

 また、ファンによってこの歌詞に基づいたストーリーについて数々の考察が綴られている。この熱狂ぶりは日本に留まらず、海外でも「秘封羊学」というコンテンツとして、考察記事や動画が作られているほどであり、多くの人から名盤と讃えられている。

 それでは、そんな魅力的な作品を覗いていこう。

 

Tr.02「鉄塔」

 ロックミュージックと力強い歌声、そしてサビの強烈な描写が印象に残る一曲、それが「鉄塔」だ。

夕暮れ染まる街 流れ照っている車のライト 変わる気ない信号 路上這う猫

 歌い出しはどこか陰鬱で、変わり映えのしない夕方の描写から始まる。これらの描写が、後に起こるメリーの不可解な行動をより際立たせていくことになる。

鉄塔ほら落ちるあの子 空中から見てるあたし 現実ほら虚ろな目で 風が頬殴る

 そして力強く放たれるサビでは、鉄塔から落ちていくメリーの様子、それらがさも当たり前であったかのように、状況描写がなされている。

 Tr.2にしてかなりインパクトがあるが、この曲を聴くことで、このアルバムの雰囲気や魅力を最大限感じとることができるだろう。

 さらに、後に続く曲に対しても「これってこういう意味なんじゃないのかな?」とさまざまな解釈を想起させるトリガーとなっている。

 

Tr.04「Stray CS am:3:00」

「Stray CS am:3:00」は「鉄塔」から打って変わって、明るくテンポよく進んでいく。真夜中に仲よく外出する秘封倶楽部の様子が、鮮明に表現されている。

seek you, seek you, I’m so seek you.

 そして、何度も歌われる「seek you(貴方を求めています)」の歌詞からは、ふたりの恋模様を連想させる。

 ほかにも、度々出てくるラジオに関連するワードや意味深な歌詞などから、何か真意が隠されているような想像が働く。

 

Tr.05「drip+drop」/Tr.06「whip*syrop」

 この2曲は、秘封倶楽部がお互いのことを、どう思っているのかについて語られている。

「drip+drop」では蓮子から見たメリーについて、「whip*syrop」ではメリーから見た蓮子について、それぞれの視点が垣間見える。

drip+drop
琥珀色の水面に浮かぶ白色のクリーム きみの注文はいつだって 甘そうで胸焼けしちゃうよ

 

whip*syrop
琥珀色の水面に浮かぶ白色のクリームと ときめきの魔法が幸せを運んでくれてるの

 どこか現実的で、少し大人びた蓮子とロマンチックで子供っぽいメリー。このふたりの、対極的ともいえる関係を歌詞から感じ取ることができる。

 ふたりの持つ能力も、蓮子はどこか科学的で、メリーは幻想的なイメージを抱くように、両者は対照的な関係性にある。その関係性は、秘封倶楽部において非常に重要な要素であるため、この二曲が生まれたことにも、必然的な説得力を感じる。

 また、この二曲は共通して原曲に「衛生カフェテラス」が使用されているが、アレンジのテイストが大きく異なっている。曲調を比較してみるのも、この作品を楽しむ醍醐味のひとつだろう。

 

Tr.09「chime」

 最後に紹介する「chime」は、ふたりの間にある絶望的な雰囲気や強烈な感情を、ボーカルアレンジという形で見事に表現している。

壊れたチャイム 何度も押して叫んだ 張り裂けそうな 願い 虚しく

 歌詞からは、ふたりの関係が修復不可能かのような、「もうどうしようもない状態 」が伝わり、感情が揺さぶられる。

 なぜこのような状況になったのかについて、具体的に述べられることはないが、これまでの曲やストーリーを捉えていくことで、その片鱗を感じ取ることができるかもしれない。

 

最後に

 今回はアルバムから一部を取り上げたが、ここで触れていない曲にも、密度の濃いストーリーとダークで感情的な歌詞が秘められている。ぜひ、全曲を通して聴いてほしい。

 ところで、ジャンルを問わず作品を楽しむ際は、「考えるな、感じろ」と言われることがあるが、この作品には「感じて、考えよ」という言葉が似合うと私は思う。

 それは、この作品が「音楽」という枠に留まらない拡がりを見せているからだ。冒頭で述べたように、「秘封羊学」としてさまざまな人に親しまれているのも、この作品が「音楽」という境界を越えて、「物語」としての情景を、聴く人に描かせているからだろう。

『Mary had a little love』は、秘封倶楽部が織りなす独特な雰囲気と魅力に酔いしれたい人にこそ薦めたい。「音楽」として聴き尽くし、「ストーリー」として捉え、楽しめるアルバムだ。

 

作品情報

『Mary had a little love』
http://echoproject.xxxxxxxx.jp/mhll.html

<echo>PROJECT
http://echoproject.3rin.net

BOOTH:https://echoproject.booth.pm/items/3866338

Twitter:https://twitter.com/e_c_p_r

ひとことコメント:
10年以上前に発表した楽曲を今もなお楽しんでいただき、同人音楽サークル冥利に尽きる喜びです!
本作は初のコンセプトアルバムで、持てるすべての力を注ぎ込んだ挙句マスターアップの直後に半ば気絶していた思い出があります。
特に気合いを入れたのはMAXパワーで枕を殴打する音の収録です。実際に人肉がぶつかっている臨場感をお楽しみください。

最近の活動情報:
2022年5月、『Mary had a little love』を含む過去作品のダウンロード販売をBOOTHで解禁しました。
https://echoproject.booth.pm/

<echo>PROJECTとしての活動は依然休止中ですが、サークルメンバー個人の活動は細々と続いております。
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Aftergrow, Water Color Melody., MN-logic24, 極東アウトブレイク, 少年ヴィヴィッド

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