音楽評
2020/07/22

今こそ音楽で、心の旅に出よう。彼女たちがいるかもしれない想像の街へ。「FAR EAST JORNEYS」マッカチン企画/「ESCAPE FROM WEST」東方事変

東方音楽レビュー「FAR EAST JORNEYS」マッカチン企画/「ESCAPE FROM WEST」東方事変

音楽とイメージ

 皆さんは音楽を聞くとき、何をイメージするだろうか?

 何かの映画や小説との関連性かもしれない。自分自身の思い出かもしれない。ライブ、演劇、アニメ、ゲーム、いろいろなケースがあるだろう。

 そういった、音楽、ひいては音楽サークルから感じるもののひとつとして、明暗のイメージがあると思う。
 今回紹介する「マッカチン企画」と「東方事変」もそのひとつで、「マッカチン企画」の可愛く賑やかな楽曲からは渋谷や裏原宿的な明るく楽しいイメージ、「東方事変」の大人びて気怠い楽曲からは歌舞伎町や青山的な薄暗く退廃的なイメージが想起される。

 それぞれの楽曲を聞いているだけで、喫茶店で楽しくお茶しているスカーレット姉妹や、薄暗いバーで物憂げにグラスと紫煙を弄んでいる純狐さんを思い浮かべることができるのだ。(個人的には池袋パルコ東方コラボのビジュアルイメージ。あれ、本当に可愛いかったですよね)

 そんなある意味正反対の、東方的に言うなら陰と陽な両サークルがコラボして同時リリースしたのが、今回ご紹介するアルバム

『FAR EAST JORNEYS』(マッカチン企画)

『ESCAPE FROM WEST』(東方事変)

である。

 

コンセプトは秘封倶楽部の旅路

 両アルバムのジャケットから一目瞭然であるが、コラボのコンセプトは秘封倶楽部である。しかし、両アルバムがすべて秘封楽曲かというとそんなことはなく、基本的には各サークルの通常のアルバムと同様、任意の原曲を各々のサークルらしくアレンジしている。

 本アルバムをコラボアルバムたらしめているのは、各アルバムの1曲目である『ヒロシゲ36号〜NeoSuper-Express』のアレンジ

『YOU&Iのdistance』(マッカチン企画『FAR EAST JORNEYS』)

『ロマン逃避行』 (東方事変『ESCAPE FROM WEST』)

といえる。

 秘封倶楽部楽曲の中でもファンの多いこの原曲を、既に老舗ともいえる両サークルがどのようにアレンジしたのか、ご紹介していきたい。

 

『YOU&Iのdistance』(マッカチン企画『FAR EAST JORNEYS』より)

マッカチン企画『FAR EAST JOURNEYS』

 退屈な毎日から抜け出して、蓮子とメリーのふたりだけで出かける未知の旅。
 もうこれだけで___尊い___以外の感情がなくなる、そんな楽曲である。

 「マッカチン企画」は、ケニー氏とパイン氏の男女ツインボーカルがひとつの特徴だ。ケニー氏の優しく落ち着いた男性ボーカルと、パイン氏の少し鼻にかかったような甘く可愛い女性ボーカル。

 ミドルテンポで爽やかなバッキングに、優しいふたりの歌声。パワーポップという触れ込みにふさわしい、日常生活のBGMにするだけで上機嫌になれそうな前向きな曲調は、まさにマッカチン企画という仕上がりである。

 本楽曲で筆者が特に好きなところは、サビ終わりの「終電に飛び乗って!」というところ。

 皆さんはオフシーズンの夜行列車に乗ったことがあるだろうか?

 人もまばらで、1車両に乗客は自分だけ。車窓からは街の灯りしか見えない。手元の小説をなんとなく読むでもなく眺めながら、窓際においたコーヒーを少しずつ飲みながら、お気に入りの音楽を聞きながら、街の灯りを目で追う、ゆっくり流れる時間。

 そんな空間に、蓮子とメリーが、ボックス席に並んで、仲良く座っているのが見えてくるわけですよ!

 楽しく旅の予定を語ったり、どの美味しいものを食べに行くか相談したり、うとうとし始めた相方を気遣ってそっと本を開いたり、ふたりの優しい時間が流れているのが目に浮かぶ。53分で到着するなんてもったいない、朝までそのままふたりだけを乗せて走り続けてほしい。

 そんな本楽曲ではあるが憂鬱な感情やちょうど世界も終わって、そしていっそ、このまま……と、どこか薄暗い影を微かに落とさずにはいられないのがまた、秘封倶楽部アレンジ楽曲らしくて耳と心に刻まれるのである。

 

『ロマン逃避行』(東方事変『ESCAPE FROM WEST』より)

東方事変『ESCAPE FROM WEST』

 とあるロックナンバーに、

“昔、ある歌手は「遠くへ行きたい」と歌って喝采を浴びたが、遠くへ逃げたいと歌う僕は――”

から始まる曲がある。

 筆者を含む多くの人にとって旅というのは純粋に楽しいものだと思われるが、時と場合、何より抗えない運命によって、旅は負の側面を持つ。『ロマン逃避行』は、そんな曲である。

東方事変」は、察しの良い方ならお気付きの通り、とあるロックバンドからインスピレーションを得ているロックアレンジサークルである。少し(かなり?)捻れた愛を、シンプルで感情的なバックバンドのもと、ボーカルIZNA氏のセクシーで物憂げな歌声で歌い上げるのが、最大の特徴である。

 本楽曲も当然、その力が遺憾なく発揮されている。
 ディストーションで軽く歪んだギターサウンド、深く静かにストーリーを感じさせるメロディーライン、ハスキーで大人びた、それでいて高音に少女らしさも覗かせるボーカル、そして何より、破滅の予感しかない歌詞に、今すぐ冷蔵庫を開けて酒を持ってくるしかなくなる楽曲なのだ。

 メロディーや歌詞の一つひとつが重く味わい深いのだが、特に好きなところを2箇所、紹介したい。

“あゝどこまでも続くような青い景色が 触れられぬものならば 是れは夢か現か”

 どこまでも続く青い景色が蓮子とメリー、ふたりの未来のメタファーであることは想像に難くない。

 では、なぜ触れられないのか。ヒロシゲ36号の車窓が偽物だからだ(詳しくは上海アリス幻樂団『卯酉東海道』のブックレットを参照)。これは秘封倶楽部を愛している人でなければ書けない歌詞だ。痺れる。

 車窓に映る虚構の「日本の原風景」を見ながら蓮子が思うことは何か?

“この世界の矛盾を君と二人だけで解き明かしてみせるのさ”

“この世界の秘密を君と二人だけで解き明かせる筈だった”

 蓮子の(確かな頭脳に裏打ちされた)自信と、結果、打ち砕かれる現実。

 「二人が世界の秘密を」解き明かせなかったのか、それとも「二人で世界の秘密を」解き明かせなかったのか。

 なぜ、旅の回想である本歌詞に一切、メリーが出てこないのか。

 

 そして本楽曲は、「ロマンス見つめようよ二人で」という歌詞で終わりを迎える。

 想像を巡らせるだけで酒がすすみ、明日の二日酔いが確定する。読者諸兄もぜひ歌詞カードを見ながら本楽曲を聴き、妄想の果てに二日酔いになって頂きたい。

 

今こそ音楽で心の旅に出よう

 紙面の都合上省略させていただくが、紹介した2曲以外も、両サークルの雰囲気を十分に味わえる良曲揃いだ。

 街への外出が難しい昨今、自宅で好きなドリンクをお供に本アルバムを楽しむことで、蓮子・メリー、或いは東方キャラクターと想像の街へ繰り出すのは如何だろうか?

 きっと一層、キャラへの愛が深まることだろう。

 そして諸々落ち着いた暁には、スマホにこれらの曲を忍ばせて、彼女らがいるかもしれない楽しい街へ繰り出そうではありませんか!

 

 

【作品情報】

ショップ委託:

『FAR EAST JOURNEYS』

メロンブックス とらのあな

『ESCAPE FROM WEST』

メロンブックス とらのあな あきばお〜こく

 

『FAR EAST JOURNEYS』

  https://mckthjh1.tumblr.com/  

サークル名:マッカチン企画

  http://makka.nomaki.jp/

Twitter:

シンゴ @makkachinkikaku
パイン @makkachinpine
ケニー @keniocrew

YouTubeチャンネル:

  https://www.youtube.com/user/kenioyoyo

 

『ESCAPE FROM WEST』

  https://mckthjh1.tumblr.com/

サークル名:東方事変

  http://www.touhoujihen.net/

Twitter:

NSY @Sally_NSY
IZNA @ste_izna