「何度被弾れ 満身創痍ても 心に幻想ある限り」 東方アレンジCDレビュー 「奉」/凋叶棕
東方アレンジCDレビュー 「奉」/凋叶棕
聴く同人誌
“聴く同人誌”といわれる東方アレンジサークルをご存知ですか?
私が初めてこのサークルのアルバムを開いたときは「なんだこのCDは……!」「ブックレットが同人誌みたいに分厚い……」「まるで“東方”という演劇を鑑賞しているようだ」と困惑したものです。
ブックレットは、1曲ごとに1ページ(歌詞がない曲もです)。それぞれのページに、アレンジ元の原曲に関するキャラクターのイラストが描かれています。
霊夢が空を飛ぶ、咲夜がナイフを構える、劇中を切り取ったような世界観に、私は一気に惹き込まれてしまいました。
だから、もしあなたがこのサークルの曲を聞いたことがないなら、是非「あなたの好きな原曲」のアレンジから聞いてほしいのです。曲から想起されるその“キャラクター”への描写が、あなた自身の「お気に入り」をさらにさらに深めることは、間違いありません。
聴くだけでなく読んで魅させる。ありとあらゆる東方アレンジの固定観念を破壊されました。まだ聞いたことがない人にもぜひこの衝撃を味わってもらいたいのです。
そう、サークル「凋叶棕」のCDを。
「凋叶棕」というサークル
軽快で怪しげなRD氏のピアノ、光収容氏の力強いギター、ヴォーカル陣の高い歌唱力も必聴です。またアレンジ性が強く、サビのヴォーカルラインに原曲のメロディを使用せず伴奏に載せたり、サビの歌唱後に「おまたせ」といわんばかりの原曲要素バリバリのギターが殴りかかってくることも……
他に類を見ないような異色のサークルですが、それをさらに印象的にしているのは、ヴォーカル、めらみぽっぷ氏の表現力。時には「無声音(ヒソヒソ声)」や「スキャット(ラララ~など)」をも駆使し、もはや“歌”という常識に囚われていません。
焦らしに焦らしてからの原曲メロディーが生みだすカタルシス。東方キャラたちが自分の感情を叫ぶ情景すら浮かんでしまいます。
あなたも、凋叶棕の世界観に浸ってはみませんか?
凋叶棕18thアルバム「奉」
数ある凋叶棕のアルバムの中から筆者がおすゝめするのは「奉」です。
「奉」は「ゲームとしての東方」をコンセプトに創られていて、ありとあらゆるところに東方原作STGを連想させるような仕掛けがなされています。
2曲目から11曲目は、東方紅魔郷~東方輝針城までを頒布順にアレンジしていて、原作のスペルカード風(○○符「△△△」)に銘打ってあります。ブックレットを彩る、はなだひょう氏によって描かれたイメージイラストも必見。異変のワンシーンを切り取ったかのような躍動感溢れる背景、喜怒哀楽を湛えた幻想少女達は見応え抜群です。
それに、原作のカバー範囲が広く、大部分の東方ファンが触れたであろうラインナップなので、琴線に触れる方も多いのではないでしょうか?
「奉」トラックリスト
1.Insert Coin(s) 原曲:テーマ・オブ・イースタンストーリー
2.紅魔 「Un-demystified Fantasy」
原曲:Demystify Feast/原曲:二色蓮花蝶 ~ Red and White3.妖々 「全て桜の下に」
原曲:アルティメットトゥルース/ボーダーオブライフ4.永夜 「Imperishable Challengers」
原曲:月見草/竹取飛翔 ~ Lunatic Princess5.花映「タマシイノハナ」
原曲:魂の花 ~ Another Dream/花は幻想のままに6.風神 「ブレイブ・ガール」
原曲:少女が見た日本の原風景/信仰は儚き人間の為に7.地霊 「幻想郷縁起 封ジラレシ妖怪達之頁」
原曲:暗闇の風穴8.星蓮 「ウルワシのベントラー」
原曲:春の湊に9.神霊 「死せる哲学の袂」
原曲:デザイアドライブ/小さな欲望の星空10.輝針 「セイギノミカタ」
原曲:輝く針の小人族 ~ Little Princess11.「テーマ・オブ・カーテンファイアーシューターズ」 -History 2/3-
原曲:テーマ・オブ・イースタンストーリーAnd more…?
思い出す、遊んだ原作のこと
このアルバムを一から聴いて、今までプレイしてきた原作のことをしみじみと想い起こしました。
「あの弾幕には苦労させられた」
「こんな展開もあって衝撃だった」
「今でも抱え落ちに悩んでいる!!」
「このキャラが好きだ!!」
聴く人によって十人十色の反応が見られることでしょう。
私が最初にプレイしたのは、紅魔郷でした。レミリア・スカーレットのスペルカード、呪詛「ブラド・ツェペシュの呪い」や「レッドマジック」に苦しめられた思い出があります。なんなら今でも苦しめられています。
妖々夢の「反魂蝶 -八分咲-」の展開にも驚かされました。この曲を聞いて、忘れかけていたあの初見当時の全身がゾワっとした感覚が、蘇ってくるようでした。
そして、永夜抄の人妖タッグ!! 決死結界中に偶然出たラストスペル、魔砲「ファイナルスパーク」でボスを圧倒し唖然とした記憶。アリスのラストスペルが綺麗で好きになった。相方との掛け合いが小気味良くて幾度も繰り返した夜。
一曲一曲聴くごとに、あのときの気持ちを思い出させてくれます。
全部書きたいのですが長くなってしまうので、特に思い入れのある原作の曲と、アルバムの最初と最後の曲をレビューさせていただきます。
1曲目:Insert Coin(s)
原曲は原点中の原点。「テーマ・オブ・イースタンストーリー」
原作に触れたことのある誰もがタイトル画面で聴くあのメロディです。
レトロゲームの開始を想像させるコインの投入音。それに呼応するかのように盛り上がっていく聴き慣れたあのメロディー!!
「さぁ!あなたの東方projectを始めよう!」
2曲目:紅魔 「Un-demystified Fantasy」
「世界を全て染め上げゆく緋色」
「勘が告ぐ―異変のはじまりを」
パンチのある入りと間髪入れずに流れるリズミカルなドラムと間奏。初めて紅魔郷をプレイした時の一面道中が目に浮かびます。
また、原曲には紅魔郷と直接の関係はないものが使用されていています。宴会前の戦闘テーマと霊夢のテーマなので異変解決側の視点ですね。
「知識だけの七曜」
「立ち塞ぐ従者」
「紅き館の主」
固有名詞は使ってはいないものの、歌詞の随所に散りばめられたキーワードにシビれました。
激しい曲調に終始していて、手に汗握ったプレイ時の緊張感と異変解決側(おそらく霊夢)の弾幕ごっこの様子が重ね合わせられます。
“異変解決を擬似的に追体験できる”たった一曲だけでここまで心を掻き立てられたこともなかなかありません。
さらに曲の最後まで異変の結末は歌われないのです。「夜の向こう側へ……」と引きのあるアウトロが脳内をリフレインします。
「こんなの聴かされたら紅魔郷をプレイするしかないじゃないですか!!」
「何度被弾れ 満身創痍ても 心に幻想ある限り」
ラストの11曲目「『「テーマ・オブ・カーテンファイアーシューターズ」 -History 2/3- 』」は1曲目と同じ原曲です。
プレイヤー側、つまり私達のことを歌った曲です。
たくさんプレイしてきて、最後にはタイトル画面のBGMに戻るということなのでしょうか。
最初はピアノも優しげで穏やかな曲調なのですが、徐々に激しさを増します。
「何度被弾れ 満身創痍ても 心に幻想ある限り」
「その幻想を残機にして」
「また飛べると信じていく。」
非常にメッセージ性の強いサビですよね。歯痒く焦燥感の募るメロから、一気に捲し立てる濁流のような“叫び”。 幾度となく被弾し挫折した経験があるのでグッときました。
苦手だからと決めボムで逃げていた、呪詛「ブラド・ツェペシュの呪い」を安定させたい。Lunaticも、レザマリルートはノーコンできてない。
何度被弾したって心に幻想(ゆめ)がある限り、また何度でも挑戦できる。飛んでいける。絶対に諦めない。
このサビのフレーズに、スっと背中を押されて。
相手だって、きっと待っている。
ボムで消すだけじゃなく、美しい弾幕の形を保ったまま、その意味ある形を保ったまま“最後まで避けきって欲しい”と。
私には、そう思えてなりません。この曲を聴いてどうしてもやり直したい、もう一度正面から向き合いたい弾幕や相手を思い出しました。全曲に渡って固有名詞が出てこないのも、そういうことなのかもしれません。
「本当の相手は、あなた自身で相手してやってください」
「ハッピーエンドかバッドエンドか、結末はあなた次第」
僕らがいる限り、続き、続いていく曲
11曲名に「-History 2/3-」とあり、これが最後というわけではありません。CDに面白いギミックが施されているので確かめてみてください(And more…?)。
また、東方ライブイベント「博麗神社うた祭in東京 2019」にてこの曲が歌われたのですが、CD版と違うところがあります。そのバージョンが、RDさん本人によりニコニコ動画にアップされています。ぜひ、聴いてみてください。
そして、もしこの曲を聞いたのなら。
あなたのお気に入りキャラが居る、原作シューティングにも、触れてみてください。かつて触れたことがある人は、もう一度。未だ触れたことがない人は、この機会に。
楽園の素敵な巫女も、普通の魔法使いも、あなたを待っていますよ。
ー 全ての弾幕シューターにささぐ
(「奉」特設ページより)
【作品情報】
アルバム名:奉
http://rd-sounds.com/C87.html
サークル名:凋叶棕
http://rd-sounds.com/index.html
サークルtwitter
@rdwithleaf
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