君は、魔法少女メディスン・メランコリーを知っているか? 東方アレンジCDレビュー「劇場版 魔法少女 メディスン・メランコリー」/あらいぐまファクトリー
東方アレンジCDレビュー
君は、あらいぐまファクトリーというサークルを知っているか?
2014 年頃、東方アレンジ楽曲オンリーの DJ としての活動を本格化していた私は、”定番”のサークル以外にも、熱く強い東方アレンジサークルがたくさん存在することを知り、積極的にイベントや即売会に参加して、まだ見ぬ名曲を掘り進めていた。
そんなあるとき、とある DJ イベントでドロップされた、「有頂天変〜WonderfulHeaven〜」のロックアレンジに後頭部を強打された。
不穏なバッキングから始まり、ブレイクからのメロディアスなイントロ、意味はわからないが言霊が強い歌詞、原曲を生かした熱く格好良いサビ………、そして何より、比那名居天子の、不敵で、無敵なイメージを鮮烈に焼き付ける、全体の構成。
ドロップした DJ さんに“最高でした一杯奢らせてくださいのドリンク”を持っていき、「あの熱い曲はどこのサークルですか?!」と、即座に問い合わせた。
それが、本稿で紹介するサークル「あらいぐまファクトリー」との出会いだ。
私が衝撃を受けたロックアレンジのみならず、ポップス、バラード、お笑い(?)と幅広く、ハイクオリティな東方アレンジ楽曲を提供しているサークルである。
サークルの公式サイトを確認すると、2004 年から 2020 年現在まで精力的に活動している、老舗中の老舗だ。
その「あらいぐまファクトリー」が2019 年の秋季例大祭にリリースしたのがこのCD、「劇場版 魔法少女 メディスン・メランコリー」である。
Tr.1「サジタリウス」
このトラックは、2005 年に発表された弾幕対戦シューティング「東方花映塚 ~ Phantasmagoria of Flower View.」のスタッフロール曲「魂の花」を原曲とした、疾走感高い女性ボーカルのハードロックナンバーである。
原曲は特定のキャラクターと関連づいているわけではない。だがアルバムタイトルやジャケットイメージからわかる通り、本曲は「東方花映塚」のプレイアブルキャラクターである妖怪「メディスン・メランコリー」がテーマである。
注目すべきはそのアレンジスタイルで、アニメ、とりわけ派手なアクションを繰り広げる、魔法バトルアニメのオープニング曲を彷彿させる、ドラマティックな構成となっている。
ボーカル「okogeeechann」氏の、水樹奈々氏のような力強くも呂律や音程がぶれない聞き取りやすいボーカルは、本楽曲が“戦う魔法少女が歌い上げる”アニメ曲であることを確信させる。
目を閉じて聞いてほしい。
イントロ〜A メロで無名の丘に佇み、虚空を睨みつけるメディスン・メランコリー。 B メロで次々とカットインされるスーさんや八意永琳といった頼もしい仲間達。博麗霊夢や霧雨魔理沙といった強力なライバル達。 そしてサビに入ると同時に入り乱れる、弾幕の嵐。 サビを抜けた刹那に放たれるスペルカード。
ありありと見えるではないか。私には見える。
東方アレンジ楽曲の強みは、原曲そのものの魅力のみならず、その原曲をテーマとするキャラクターを通して、一つの「ストーリー」として楽しむことができる点にあると私は考えている。
「あらいぐまファクトリー」は、本楽曲のように、その東方アレンジの強みを巧みに生かしたアレンジを多数、我々に提供してくれている。
Tr.2「ルクバトの向かう先」
こちらも完成度の高いアップテンポなロックナンバーである。
「君は、魔法少女という存在を知っているか?」という問いかけから始まる、やはりこちらもアニメのオープニングを彷彿とさせる一曲。
原曲は「メディスン・メランコリー」のテーマ曲「ポイズン・ボディ」であり、そういう意味では Tr.1「サジタリウス」より、尚の事「メディスン・メランコリー」を象徴する楽曲と言える。
Tr1.「サジタリウス」が、ある種の悲壮感を感じさせるのとは対象的に、本曲は正統派魔法少女らしく、絶望的な困難に対する、前向きな勝利への希望に満ちている。
友情・努力・勝利だ。原曲である「ポイズン・ボディ」がシンプルで焦燥感漂うメロディーであることとも対照的で、そう考えるとより一層、味わい深い。
本楽曲は「ゆずり」氏「霖」氏「myu-」氏のトリプルボーカルで歌い上げられており、戦う魔法少女に欠かせない、手強いライバル/頼もしい仲間の存在を窺わせ、オープニングアニメの幻視は更に強まっていく。
そもそも君は、メディスン・メランコリーという存在を知っているか?
そもそも君は、メディスン・メランコリーという存在を知っているか?
前述の通り「東方花映塚」のプレイアブルキャラであり、棄てられた人形から変化した、哀しい、生まれたての妖怪である。「メディスン・メランコリー」は自身の出自である人形を、人間から開放することを目的として異変に関わっている。そういう意味では「東方輝針城」等における、付喪神異変の先駆けとも言えるかもしれない。
これを踏まえて、紹介した Tr1.「サジタリウス」Tr.2「ルクバトの向かう先」の歌詞を読み解くなら、この2曲は一貫して抑圧への抵抗をテーマとしており、改めて本マキシシングルが「メディスン・メランコリー」というキャラクターを正しく、強く意識していることが伺える。
また、メディスン・メランコリーの能力は「毒を使う程度の能力」だ。
操る毒は対象を選ばず、いわゆる酒毒のようなものも対象に含まれるそうだ。例えばスペルカードのひとつ譫妄(せんもう)「イントゥデリリウム」は幻覚を伴う意識障害を表している。
本アルバムを聴くことで、魔法少女アニメの幻覚が見えてしまうというのは、もはや必然ではないだろうか?
ところで、余談ではあるが「ポイズンボディ ~ Forsaken Doll」はリズムが 3 拍ということもあってなのか、極端にアレンジの数が少ない。筆者の東方アレンジ楽曲ライブラリ 12000 曲中、40 曲未満しか「ポイズンボディ」のアレンジ曲は存在しなかった。
良い意味でとても東方らしいキャラクターなので、もっとメディスンの、ポイズンボディのアレンジ楽曲が増えてほしいと切に願う。
ところで、劇場版ってどういうことだ
本楽曲に限らず、サークル「あらいぐまファクトリー」には強い幻覚でアニメ好きの血を滾らせてくれる楽曲がとても多い。
本盤のタイトルに「劇場版」とあるのも、これがアニメタイアップ曲的アレンジであることを強く象徴しているのだが、実は、マジでオリジナルとなるテレビ放映版的な楽曲が存在する。
「魔法少女メディスン・メランコリー」
メディスン・メランコリーの曲「ポイズンボディ ~ Forsaken Doll」アレンジ
ー ベストアルバム「AR」収録
が、それである。
当然こちらもアニメを連想させる楽曲作りであり、曲中で軽妙な語りが入るのはもちろん、何よりも楽曲内で必殺技(スペルカード)を叫ぶところが、よりオーソドックスで奥ゆかしい。 初期〜中期のあらいぐまファクトリーを支えたボーカルの一人「芽美」氏の、コブシの入った強い歌唱力と掛け合いも見逃せない。
おそらく、テレビアニメ版「魔法少女メディスン・メランコリー」はコメディアニメなのだろう。
筆者が愛する、同サークルの熱いアニメオープニング(的な)楽曲は他にも
「Impluse」
(冒頭で紹介した「後頭部を強打された」楽曲)
比那名居天子の曲「有頂天変〜WonderfulHeaven〜」アレンジ
ー ベストアルバム「AR」収録
「Alter ego」
依神紫苑/依神女苑姉妹の曲「今宵は飄逸なエゴイスト」アレンジ
ー アルバム「ULTIMATE」収録
などなど、枚挙に暇がない。それでいて
「100 時間耐久ドレ顔カバディ」
ドレミー・スイートの曲「永遠の春夢」アレンジ
ー アルバム「ULTIMATE」収録
「キング・オブ・ザ・説教」
茨木華扇「華狭間のバトルフィールド」アレンジ
ー ベストアルバム「AR2」収録
といった、その確かな実力で楽しい楽曲を量産しているところも、本サークルの面白さである。
最後に、同サークルからベスト・アルバムとして「AR – Augmented Reality」、「AR 2nd impact」がリリースされていることをお伝えする。こちらには、本稿で紹介した過去作なども多く収録されている。
本稿の各曲が琴線に触れたかたは是非、こちらも購入をご検討いただきたい。
【作品情報】
アルバム名:魔法少女メディスン・メランコリー music archive
http://www.raccoon-factory.com/gm2.html
サークル名:あらいぐまファクトリー
http://raccoon-factory.com/
サークルtwitter:
あらいぐまファクトリー @araigumafactory
代表 そえ @Raccoon_factory
入手先情報
ショップ委託:
メロンブックス(クリックで開きます)
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BOOTH(クリックで開きます)
サークルYoutubeチャンネル:
https://youtube.com/channel/UCLuA-CCzpgeMYIQELLiFVeA