海外からのおたより:ある東方YouTuberから見た、“西洋の”東方YouTubeの世界
コラム『ある東方YouTuberから見た、“西洋の”東方YouTubeの世界』
東方我楽多叢誌は、日本語版以外に英語版・中国語版・韓国語版を有志のご協力により展開しています。
本日は、海外版に寄せられたコラム記事を日本語版にも掲載いたします!
今回ご紹介する翻訳記事は、今から1年ほど前にとある海外東方YouTuberの方に寄稿していただいた「“西洋の”東方YouTubeの世界」です!
なかなか日本には伝わってこない、海の向こう側の東方YouTubeコミュニティ。そこで行われている東方ファンコミュニティは、果たしてどういった様相なのでしょうか。
総投稿動画数185本、チャンネル登録者数1万人以上を有するYouTubeチャンネルを運営している、海外在住の東方YouTuberの視点から見た、われわれ日本人の知られざる東方世界の一部をご紹介したいと思います。
※一部日本語的に難解な表現などもありますが、できるだけ原文と翻訳者のニュアンスを尊重するかたちで編集を入れております。何卒ご容赦くださいませ。
英語版
こんにちは。東方YouTuberのMegapig9001です。
YouTubeの東方コンテンツクリエイターとして、私は”西洋の”東方YouTubeコミュニティの活動に注目していますが、残念ながらその内容はあまりポジティブなものではありません。
「地球上で最低のコンテンツを作れるのは東方のYouTuberしかいない」、「東方のYouTubeには全く興味が持てない」などのコメントをよく見かけるからです。
しかも、根も葉もない噂ばかりではありません。YouTubeには「Touhou meme channel(東方ミームのチャンネル)」が多いのも事実です。
「Reimu Fans be Like(一般的な霊夢押し)」 、「Tenshi Fans be Like(一般的な天子押し)」、「Touhou Fans be Like(一般的な東方ファン)」の3つは、異なるチャンネルの動画例です。
▲有名な「Touhou meme channel(東方ミームのチャンネル)」の内の1つ、「Reimu Fans be(一般的な霊夢押し)」より引用。リンク先はこちら→https://www.youtube.com/watch?v=Tw4qZYmpkfk
これらの動画はそれぞれ少なくとも100回は再生されており、東方YouTubeは”meme【※】“に過ぎないという誤解を拡散しています。
【※】meme(ミーム):ミームとは、リチャード・ドーキンスが1976年に提唱した概念で、一つのアイデア、行動、スタイル、または使用法が、人から人へと模倣を通じて伝播する現象を指す。インターネット上で広く共有される画像やフレーズなどがこれに該当する。(編集部注)
しかし、だからといってミームが本質的に悪いというわけではありません。私の好みに合わないものがあったとしても、東方ミームチャンネルが東方Projectを広め、新しいファンを獲得するのに役立っていることは、否定できないと思います。
ですが、これらの媒体から東方を知った人々に憐れみを抱く人も少なくなく、「こんなもので東方を知ったなんてかわいそう」などいったコメントを目にすると、私は不快でたまりません。東方ほど媒体による優劣を否定する界隈で、「こんなものは取り除け」といったような意見を主張するのは偏狭で偽善的だと思うからです。
著作権を無視したチャンネル投稿や、誹謗中傷的な意見を拡散する投稿などがないわけでもありませんが、しかしなお、ミーム自体が問題ではありません。問題の元凶は、ミームの非多種性にあると私は考えます。
ミームは他のコンテンツと比べて作成に時間がかからないため、生産性が高く、短時間でたくさんのものを作成できます。そのため、ミーム本来の楽しみ方は画像や短い動画など、手っ取り早い暇つぶしが最も適しています。
では、充実した本質的なコンテンツを探している人はどうでしょう。東方音楽に関しては、西洋の音楽クリエイターがおすすめです。”RichaadEB“や”YaboiMatoi“は、東方楽曲の素晴らしいメタルカバーを作っています。
また、”Bit2 Gensokyo Melodies“は、東方の原曲をマルチな楽器でカバーしています。”Lyrica Live“は東方の原曲に対し、それぞれのキャラクターに紐づいた作詞を行っています。
▲Bit2 Gensokyo Melodies『【Touhou☯】 Welcome to Gensokyo! (Peaceful Cover)』より引用
それ以外にも、東方系のアニメーターも数多くいます。
インドネシア在住ですが、MTB氏のアニメーションは西洋の東方コミュニティで広く愛されており、オリジナルのアニメーションを再現することで「JAPANESE GOBLIN(ジャパニーズ・ゴブリン)」というミームの復活にもつながりました【※】。
【※】「JAPANESE GOBLIN(ジャパニーズ・ゴブリン)」というミームについては、過去に東方我楽多叢誌がコラム掲載した「“派生しやすさ”が、コミュニティを渡り新たな流行を生み出していく。あなたはどこで東方動画を観ていますか?「東方動画から考える動画という作品形態」記事のおまけ部分にて紹介しています。(編集部注)
そのほか、Sr. Pelo氏の東方アニメーションは、西洋の東方コミュニティにとって画期的なビデオとなりました。東方クリエイターはそれ以外にもたくさんいますが、このようなコンテンツはミームよりも作成に時間がかかります。西洋の東方クリエイターは東方歴が10年ほど浅いため、RichaddEBが初の東方メタルカバーを制作した時には、すでに日本では広大なコミュニティに何百人ものクリエイターがいました。
また、東方Projectの人気が日本に集中していることもあり、日本発のあらゆるコンテンツとの間に差があります。音楽とアニメーションに限っては、この10年ほどの遅れを取り戻すことは難しいでしょう。
しかしそれは前述したように、西洋の東方コミュニティが日本発のコンテンツと比べて劣っているわけではありません。上記に挙げた以外にも、西洋には東方のミュージシャンやアニメーターがたくさんいますし、日本発のコンテンツが西洋のクリエイターを妨害するわけでもありません(You Tubeなどのアルゴリズムは、ユーザーが選択した言語の動画を重点的に表示するため)。西洋の東方コンテンツは西洋主体で拡散されます。つまり、今の西洋の東方コンテンツは日本発のコンテンツの豊富さによってではなく、西洋内において歓迎された結果なのです。
言うまでもなく、日本発のコンテンツの豊富さは西洋の比ではありません。特に西洋のミームばかりを見ていると、日本発のコンテンツの方が”優れている”ように見えることもあります。西洋を起源とするコンテンツがミーム主体なら、なおさらです。
しかし、実際のところは日本と西洋とのコンテンツに優劣差はありません。コンテンツの量に違いがあるだけです。東方Projectの世界的な人気が増すにつれ、世界中の東方コンテンツの量が増えることを期待しています。
さて、私の専門分野についてお話します。東方のビデオエッセイについてです。
いくつかの例外 (Surnist氏のコンテンツが思い浮かびます) を除けば、私の趣味嗜好に訴えかける西洋の東方コンテンツはそれほど多くありませんでした。私は東方シリーズの様々な側面に関する分析ビデオを見たかったのです。それがシリーズそのものであれ、ファンゲームであれ、あるいはその両方のミックスであれ。
東方ビデオエッセイを作り始めたのは、基本的に自分が見たいタイプのコンテンツを作るためでした。私自身、自分自身の成長には驚きました。
東方動画の前は、私のチャンネルは主に自分で作っていたファンゲームを披露する場所でした。一番人気のある動画は、私が作った大乱闘スマッシュブラザーズのエンジンの技術デモでした。
チャンネル登録者の大半はこのデモからのものでした。ですので、私の最初の東方ビデオエッセイが1週間で100回再生されたときは驚きました。私の登録者50人のうち、東方のファンはほとんどいませんでしたが、それでも私のビデオは少数の視聴者を見つけることができました。
そして私は別のビデオエッセイを作ることにしました。『Bad Apple Explained: History and Analysis』です。この動画はアルゴリズムで大成功を収めました【※】。
【※】Megapig9001氏がYouTubeに投稿した『Bad Apple Explained: History and Analysis』は現在、125万回再生されています。(編集部注)
長めの東方コンテンツを制作するうちに、わずか1年で登録者が50人から3,000人に増えました。これらの上で気づいたことがあります。
それは西洋の東方コンテンツは何も不利な立場に置かれていないことです。それどころか、誰もが活躍できる絶好の場所があります。
任天堂のマリオのような、競争が激しいジャンルのLet’s Play専用チャンネル【※】で成功させようとするのは、非常に難しいことでしょう。
【※】日本で言うところの「ゲーム実況」や「(ゲームを)やってみた」系動画がこれに該当します。(編集部注)
西洋の東方YouTubeは、他のシリーズのコミュニティと比較して小さく、伸びしろは計り知れません。東方のビデオエッセイが成功するのは、高い需要に対して供給が低いからです。
そのため、東方のビデオエッセイを投稿するチャンネルは、たとえわずかな登録者しかいなくても、急激に成長することができるのです。私の友人であるMegaFrog氏は、東方を解剖する長い動画を作成し、その動画(その後作成したいくつかのエッセイ動画も含めて)は、1年以内に70人だった登録者を1,250人にまで増やしました。
最近SpirtEye氏が投稿した『The Touhou PC 98 characters that should come back』という動画もアルゴリズムに大ヒットしました。
SpirtEye氏は5ヶ月の間に登録者数を20人から200人以上に増やしました。加えて、AspreyFM氏の新しい長編コンテンツチャンネルも、非常に成功しています。すでに配信時代からの視聴者もいましたが、AspreyFM氏が提供する東方コンテンツを見に訪れる新しい視聴者は、その数をはるかに超えました。
AspreyFM氏が投稿した『Attempting to Complete a Touhou Game without Grazing a Single Bullet!』は10万回再生を突破しました。これは「Bad Apple」のような一般大衆に広まったミームでの話題ではなく、ほぼ東方ファンベースの中での話題です。しかし、それでもなお、それを見たいと思う視聴者が何千人もいたのです。
▲AspreyFM『Attempting to Complete a Touhou Game without Grazing a Single Bullet!』より引用
東方YouTubeは今も成長を続けています。特に新コンテンツの追加などのおかげで、西洋の東方ファンはこれまで以上に大きくなっています。そうした新しいファンから、さまざまなタイプの新しいコンテンツが生まれるでしょう。これは「ミームがついに滅びる」という意味ではなく、ミームと並んで東方YouTubeを形成する動画の種類が増えるという意味です。
しかし、これらのクリエイターの中には誰がいるのでしょうか?
X(Twitter)を見ていると、東方Projectのさまざまな側面における印象的な分析を数多く目にしました。キャラクターがシリーズを通してどのように成長してきたか、ZUN氏がゲームストーリー上で何を意図しているのか、など。
そして、これらの分析を行った投稿者の中には、東方のビデオエッセイを作りたいと話している人がいます。私は、彼らがYouTubeに参加してくれるのを心待ちにしています。
もちろん、私の理想とする「東方YouTubeコミュニティ」は、ビデオエッセイだけに限りません。ミュージシャン、アニメーター、アーティスト、対戦プレイヤー、レビュアーなどなど、東方YouTubeが成長し続けるにつれて、新しいタイプのコンテンツがより多く見られることを、私は切に期待しています。
外部リンク、ウェブサイト等
Reimu Fans be Like :
https://www.youtube.com/watch?v=Tw4qZYmpkfkRichaadEB :
https://www.youtube.com/channel/UCPM1bCbT-dVAHAEIpUUpVLQBit2 Gensokyo Melodies :
https://www.youtube.com/c/lorekingwnLyrica Live :
https://www.youtube.com/user/touhoulyricsMTB :
https://www.youtube.com/c/MTB396Sr. Pelo’s Touhou Animation :
https://www.youtube.com/watch?v=3sOAkdu3tRoMegaFrog’s Iceberg Video :
https://www.youtube.com/watch?v=JiiTmueVZUMSpirtEye’s PC-98 Video :
https://www.youtube.com/watch?v=8TGs3Y-DnDUAsprey’s Grazing Video :
https://www.youtube.com/watch?v=Pkjewzc_uns