海外からのおたより:10年経った今も愛される未完の二次創作『東方自然癒』レビュー
海外からのおたより:『東方自然癒』レビュー
東方我楽多叢誌は、日本語版以外に英語版・中国語版・韓国語版を有志のご協力により展開しています。
本日は、海外版に寄せられたゲームレビューを、日本語版にも掲載いたします!
英語版
https://en.touhougarakuta.com/game-review-en/touhou-shizenyu-review/
未完の名作『東方自然癒』レビュー
東方自然癒は「東方自然癒Project」*のゲームの一つで、その管理人であるASATO氏と協力者であるFor-Ring氏が開発した東方二次創作ゲームだ。そして、現在は7年以上更新停止状態にある。
*ASATO氏がFor-Ring氏と共に製作したゲームの総称であり 「東方自然癒」、「慧音先生RPG」、「お年玉(妖夢VX)」の3つのゲームが属している。なお、慧音先生RPGとお年玉はすでに配布が終了されており、再配布は禁止となっている。
製作は、全体の統括をASATO氏が行い、戦闘を含むシステム全般、及びキャラクターグラフィック等をFor-Ring氏*が行っている。『東方自然癒』は完成版(v1.0)がリリースされた2011年7月1日から2013年12月10日までに少なくとも20万DL以上されており、配信元のVectorで行われた人気投票2012では、ゲーム・ノベル部門において「Ib」・「ゆめにっき」等、数々のフリーゲーム界のビッグタイトルに局地的に競り勝ち、ゲーム・ノベル部門トップの座を手に入れたこともあった。
この作品は、オリジナルキャラクター「瀬笈葉」と名づけられた少女の姿をした妖怪が、幻想郷の植物が次々と枯れていく異変に立ち向かう物語だ。
物語は幻想郷の西、とある山の崖で生まれた少女の姿をした妖怪“彼女”が、とある妖怪と出会うところから始まる。“彼女”とその妖怪は、共に過ごした日々を通じて幻想郷の様々な事を知る。
約一週間が経ったある日、“彼女”が自らの生まれた崖へ行くと全ての植物が枯れ果てていた。「これが普通のことでないなら、助けたい」そう思った“彼女”に妖怪は「博麗の巫女」の事を教え、お互いに植物を助けるために行動しようと告げた。
妖怪は、長い旅に出る“彼女”に一つのプレゼントをした。“彼女”――清々しい香りを纏う少女の姿をした妖怪は、妖怪から与えられた名前、「瀬笈葉」を受け取り博麗神社へ向かう。
東方自然癒の紹介
次は、ゲームとしての自然癒について迫っていく。
本作は、瀬笈葉と原作キャラクター達を操作して「植物が枯れていく原因不明の異変」を解決する事が目的だ。植物が枯れていく異変の謎と真実を、あなたの手で解き明かそう。
バトルパートでは、ATB(アクティブタイムバトル)と「結界システム」と呼ばれる本作独自のシステムが使用されている。
「結界システム」は、敵や味方がスペルカードを発動するたびに「結界ゲージ」と呼ばれる15個の玉の色が一つずつ変わっていき、それら全ての色が変わると最後に色を変えたキャラクターに応じて様々な効果が発生するというシステムで、これにより緊張感あるバトルを楽しむことができる。
さらに本作には、東方原作には存在しない「東方自然癒」独自のスペルカード「植物スペルカード」という物が存在する。「植物スペルカード」は特定の章から使用可能になり、敵の攻撃やターンの経過等で解除されない強力なサポート効果を得ることが可能となっている。一度使用するとクールダウンが発生し、しばらくの間使用することはできない。
本編自体は、長くても15~20時間程でクリアできるだろう。しかし本作はとある条件を満たすことで「EX」がプレイできる。条件を満たさずにクリアしてしまっても、クリアデータを引き継いで周回プレイが可能だ。二周目は条件を満たせるよう、注意深くもう一度本編をプレイしよう。
自然癒界隈―ファンコミュニティの動き
今回はゲームそのものだけではなく、作品を取り巻くファンたちについてもお伝えしたい。
今日の東方自然癒のファンコミュニティ(ここでは敬意を込めて“自然癒界隈”と呼ばせていただく)は、主に日本の東方自然癒ファンと、中国と韓国のファンによって構成されています。その勢いは本編完成版(v1.0)公開から10年が経とうとしている現在も、衰えていない。
自然癒界隈には、2011年以降毎年8月8日に自然癒の二次創作―東方Projectの三次創作―を様々なサイトで投稿するという慣習があり、去年(2020年)も様々な作品が投稿されました。そして今年の7月1日は、本編完成版の公開から10年と言う重要な節目でもある。そんな愛に溢れた“自然癒界隈”のファンクリエイティブを、“自然癒界隈”に属している私から、いくつか紹介させてほしい。
現在、東方界隈唯一(?) の東方自然癒をメインに扱うサークル「幻想の木の葉」サークル主のうちはセツナ氏。ツイートは毎日瀬笈葉を描くというチャレンジで、1000日間彼女を描く事を達成した。
635日目「私たちの物語はいつまでも!」
累計1000日目の日刊、そして2ndシーズンの一区切りです。見てくださった皆様ありがとうございます。
暫くはのんびりお絵描きやゲームをして、余裕ができたら3rdシーズンが始まるかもしれません。
#日刊瀬笈葉 pic.twitter.com/FdcMqoGjFu— うちはセツナP (@F_setsunaP) June 11, 2021
その他にも、葉を「瀬笈」と言う原作に無い独自の呼び方で呼ぶことが特徴的な、冰蓮と呼ばれるニコニコの人気MMDerが、葉を氏の投稿する人気動画シリーズ「東方三ゲス精」のレギュラーキャラクターに起用した事も日本の東方ファンが東方自然癒に再注目するキッカケとなっているかもしれない。
瀬笈 葉更新しました!
めっちゃ良くなったから前の持ってる人は是非更新してね!🤛https://t.co/dPu0puer0k
「東はあっちです!」 pic.twitter.com/Gg9KUzrght— ニク (@nikuukinyo) January 7, 2021
瀬笈葉のMMDモデルを配布しているニク氏
瀬笈葉 立ち絵素材リンク #東方自然癒 #瀬笈葉 #東方 #東方オリキャラ #立ち絵素材 https://t.co/79IxjQCcHT pic.twitter.com/bCOTMs0aRA
— 夜刀 (@yatomikage) January 1, 2020
通称 「瀬笈葉が好きすぎる人」、夜刀氏による立ち絵配布
終於畫了個頭貼出來#東方自然癒 pic.twitter.com/QsKd3cHY5L
— 04葉 (@04leafy) June 28, 2021
海外の自然癒ファン04葉氏の描いた葉
例大祭お疲れ様でした
初の女装がかなり疲れたので帰りますでも瀬笈葉というキャラクターをやれてとても満足しています
次の例大祭は行けるかわかりませんが行ければまた瀬笈葉で行こうと思っています
改めましてお疲れ様でした pic.twitter.com/kjvEz7dkwI— ドリーム (@Dream_Saga_00) October 6, 2019
2019年の博麗神社例大祭で葉のコスプレをするコスプレイヤー、ドリーム氏
近年においても自然癒の新規プレイヤーは少なからず存在していて、今なおその勢いは留まっていない。特に最近は、自然癒ファンの手で自然癒の精神的続編を作ろうとする流れが存在し、実際にモン魔理氏が「東方葉々癒伝」というタイトルで二次創作をしている。
現在制作中の #東方葉々癒伝 のゲームパッケージ画像を作りました。
当創作の題材にさせて頂いた東方自然癒も今年で10周年。私の創作をキッカケに、新たに自然癒に触れる人が今後増えていけば嬉しいですね。 pic.twitter.com/7aIZxb8psG
— モン魔理 (@_Monmari0118_) August 3, 2021
オリジナルのキャラクターが登場する他の東方二次創作とは一風変わった発展を遂げた自然癒界隈。この作品や「瀬笈葉」のことだけではなく、そこから様々な人の努力によって作られてきた東方ツクール界隈にも少しでも興味を持っていただければ、筆者にとってこの上ない幸せである。
東方Projectの二次創作ガイドラインと同様に、東方自然癒に関わる三次創作ガイドラインもASATO氏が表示しています。東方自然癒の三次創作を作る場合は必ず以下のサイトをご参考にしてください。http://tohosizenyu.iza-yoi.net/guide.html
10年経った今でも、遊んで欲しい一作
筆者が初めて本作をプレイしたのは10年以上前になる。
今、そのプレイ当時の感動や抑えられない熱量そのものを思い出すことは難しいが、 しかしそれでも今ここでこの作品を紹介するのは、そう思うようになった今の筆者さえも惹きつける「何か」を、あなたにも味わってほしいからだ。ほかの作品にはない「何か」を味わいたい方にこのゲームをお勧めしたい。
この作品の評価はプレイヤーの好みにより極端に二分化する。その原因はASATO氏の書くストーリーによるノベルゲーム的な側面、そしてRPGとしての完成度の高さが、プレイヤーの心を激しく揺り動かし、忘れたくても忘れることのできない良くも悪くも衝撃的な経験を与えているからではないだろうか。私はそれこそが、この作品がプレイヤーに与える「何か」だと思う。
類似作品では味わう事の出来ないこの経験を、このゲームを是非味わってほしい。
作品情報
「東方自然癒」
【作者公式ブログ】http://tohosizenyu.blog.shinobi.jp/
【委託・頒布情報】http://tohosizenyu.iza-yoi.net/toppage.html