東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2020/09/03

「超東方LIVEステージ2018」でZUNさんが初デレ!?「商業」という形で「東方Project」に関わる思いとは

是空とおる氏インタビュー【後編】

 単に「ゴロ」と言うにはあまりに異常な遍歴が語られる是空とおる氏のインタビューもいよいよ最終回となります。この最終回では「同人」と「商業」という言葉についての思いなどが語られます。世界でも是空氏しか語ることができない言葉かも!? ぜひ最後まで御覧ください。

前編 「昭和最後の??」、是空とおるとは何者なのか。「博麗神社崇敬会」の結成、エヴァでは「アスカのマネージャーのシンジ君」そしてグッズ会社の経営者…!?

中編 「ガンパレ」で有名な「無名世界観」のオンラインゲームで「共和国の大統領」になった結果、「東方Project」をTCGにすることができた、数奇な出会い

<プロフィール>
是空とおる

(ぜくう・とおる)本名は高野信二。漫画家 → 雑誌ライター → 編集 → 声優マネージャー → トレカ開発(ハドソン)→ 会社設立(グッズメーカー「アクシア」代表)という異色経歴は全部書けない。MCやパーソナリティも務める二児のパパさん。コミケ参加も約30年というキャリアで原作・脚本などの代表先は「式神の城」「四季使い」「トリニティ・ヴィーナス」「TRPG書籍各種」。アニメ原案では「えとたま」などがある。オタクビジネスの最先端に立ちすぎて「昭和最後のゴロ」という不名誉な名称を与えられるが、本人的には「誉め言葉」と捉えて今日も「立派なゴロ」を目指して邁進している。好きな東方キャラはレイマリ&お姉さん系らしい。

「超東方LIVEステージ2018」を成功させたことで、ZUNさんが初めてデレた

——29歳で会社を立ち上げられて、是空さんご自身の言葉を借りると、“ゴロ業”を存分にやっていくのが30代になるわけですね。

是空氏:
 そうですね。『ChaosTCG』の発売が2009年ですから、ちょうど30代の後半になって、東方Projectに触れることになるわけです。

——でも、是空さんは『ChaosTCG』で東方の世界に入ってから6年ぐらいのあいだ、ゴロとしては特に何もせずに眠っていましたよね? 

是空氏:
 東方Projectのカードゲームは作らせてもらっていましたけど、それ以外はZUNビールのお手伝いをしているだけでしたね。ビール会社からはドワンゴの人間だと思われていたので(笑)。あとは、ZUNさんをはじめとするみなさんと飲んだりしているのが楽しかったので、そういう場に顔を出していたんです。

 ZUNさんが初めて「これは是空さんを認めるしかないね」と言ってくれたのは、ニコニコ超会議の「超東方LIVEステージ2018」なんです。

 2018年4月の超会議で、もともと東方のライブステージをやる予定になっていたんですが、直前の1〜2月ぐらいに、準備金不足で開催できなくなったらしいんです。それで、みんなで飲んでいる時に「どうする?」という話になって。最初は、ビートまりおさんと豚乙女のコンプさんたちが音楽サークルでお金を出し合ってやろうか、みたいな話をしていたんですけど。そしたらまりおが急に、「そこに金を出せそうなヤツがいるぞ!」と言い出して(笑)。

——6年ぐらいの間に、ZUNさんをはじめとする人たちと飲み友達になっていて、2018年にそういう事件が起きた時に初めて、是空さんが頼られたということですか。

是空氏:
 ですね。もちろん段取り的にはほかのこともやっていて、その少し前に、アトレ秋葉原のイベントをやっているんです。

 2016年の年末にZUNさんに「アトレみたいな施設で東方の企画をやるのってどう思います?」と聞いたんです。そうしたらZUNさんが「是空さんがやりたいならやってもいいよ」と言ってくれたので、そこで今までZUNビールを一緒に飲んだりしていた信頼値ができているのかな、みたいに思いましたね。もちろん、ZUNさんの言う「やってもいいよ」という意味合いの重たさはしっかり考えましたけど。

 それで2017年の夏に、アトレ秋葉原で急にイベントをやらなきゃいけなくなった時に東方に白羽の矢を立たせていただき、「東方Project×アトレ秋葉原 博麗神社〜夏祭り」をやらせてもらったんです。そうしたらそれがすごい人気になって。

 このイベントが成功したのは、本当に偶然なんです。ZUNさんが『コンプティーク』の連載企画でお酒を飲みに行く途中に、アトレ秋葉原に寄ってくれて。その時に、会場にサインをしてくれて、ZUNさん自身のアカウントでツイートしてもらったので、そこで初めて「アトレの企画は商業イベントだけど、ZUNさんが応援しているんだ」と、ファンのみなさんに認知してもらえたんです。これがなかったら、このイベントはコケていたと思います。

——そうなんですか? 

是空氏:
 『東方』の商業イベントって、それぐらい難しいんですよ。まず商業メーカー同士の連携が少なく、ファンのみなさんは「東方で儲けに来やがった」というスタンスから入るので。……いやまぁ、商業でやっている以上は利益を出さないといけないので、儲けに来やがったのはその通りなんですけど、「東方を盛り上げにも来ているよ」というのも、分かってもらえたらと思います。

 アトレ秋葉原のイベントも、商業メーカー主催だとオフィシャル感に欠けると感じたため、博麗神社例大祭に主催になってもらえないか相談しに行ったんです。でも例大祭のほうも、「商業イベントで儲けるつもりはない」ということで、「お手伝いはできるけど主催はできない」という話になって。かといってアクシアが主催になると、今度はアクシアが東方商業の代表を名乗ってしまうように見えて、悪目立ちは明確だったので、博麗神社崇敬会という新しい「謎」の団体を作ったんです。

 どこか1社が悪目立ちするのではなく、皆が得をするようにする。そのために上海アリス幻樂団の商業アイテムを扱うメーカーに次々声をかけました。それで10社、20社と声をかけて大きな連合体にして、各メーカーの商品を置くことにしたんです。参加したメーカーさんもビックリしていましたね。「2012年ぐらいに売れなくなった商品がまだ売れる」と。

——そういった商品が存在していたことが、あまり広くは知られていなかったということですよね。

是空氏:
 それもありますし、「同人ショップには入りづらい」というお客さんも来てくれたので。会場は秋葉原駅と直結しているし、商業商品しか置いていないので、親御さんも安心ですから。

 そうやってアトレで成功することができたので、そのあたりの恩返しも含めて、「じゃあ2018年の超東方LIVEステージは、自分がやってもいいよ」と。その時も、音楽サークルのことは自分では分からないので、「博麗神社うた祭」のスタッフの人たちに手伝ってもらって。自分はお金と責任だけ持つからよろしくね、みたいな感じですね。

 「超東方LIVEステージ」が成功してくれて、打ち上げでZUN氏さんが「是空さんに感謝しなきゃいけないかな」と言っているのを聞いて「出た、人たらし!」と思いました(笑)。ツンデレがデレる瞬間ですね。

商業メーカーは、東方Projectに関する同人活動を下支えしている存在だ

——ここまで是空さんの数奇な人生を見てきたわけですが、そんな是空さんの経験は、東方Projectにとってはどんなふうに役に立っているのですか? 

是空氏:
 「東方にとっては」ですか、それは難しいですね。僕がややこしくしている面も正直あるので。最初のほうでお話ししたように、僕自身の商業に対する考え方が偏屈な面はあるんですよ。しかもそれを他人にも求めちゃうところがあるし。たとえば度を過ぎた同人活動などには「ロイヤリティを払うべきだ」と、言ってしまったりとか(笑)。

——これまでの経歴をお聞きしてよく分かったのですが、是空さんは同人と商業の境界線上にいて、その2つをどう区分けするかということについて、ルール作りも含めてずっとやってこられたわけですよね。その中でも東方Projectは特に、グレーゾーンがものすごく広いタイトルなので。

是空氏:
 自分がこれまで商業的なことをやってきた目線で言うと、東方Projectはロイヤリティとか版権管理的な部分をまったく整理していないのがスゴいですね。普通だと委員会制度とかを組んで、この商品を売るためにああしよう、この時期はあの店舗、次にこの店舗でフェアをやろう。というのがあるんだけど、東方には基本それが一切ない。だから各メーカーで「あれもやりたい」「これもやりたい」というのが、同時多発的に起きているんです。

——それは単にそうなっているだけなんですか? それとも意図的に整理されていない? 

是空氏:
 僕の個人的感想としては、そこに意識的に触れないことによって、平等にしている。例外を作らないようにしているのかなと思っています。例外というのは特別。という意味でもあります。僕自身も例外になりたいと欲するところはあるんだけど、仮に僕がオッケーになったら、他も全部オッケーになっちゃうから出来ないよね、という。

 そもそも論として、東方Projectは同人作品なので「管理する」ということを考えないようにしているのかなと。それはそれでいいと思っているんですけど、後からに来てハデにやらかす方も居ますので、管理されてないのは厄介だな。とも思っています。

 非常に乱暴な表現になりますが、東方に関しては、商業よりも同人のほうがよりお得な部分があると感じます。商業商品ですと、申請してチェックを受け、流通制限の元にロイヤリティを払います。同人ですとこれらが存在せず、すり抜けてしまう場合が多々あります。

 また、商業で言われる「先行者利益」が働きにくい部分があります。後発の商業メーカーが先輩メーカーが構築してきた長い歴史の中にある「暗黙のルール」みたいなことをサクっと無視して展開しちゃう場合もあります。そう考えると、東方Projectは管理しないからこそ、あらゆる最新を受け入れることができる。それが東方のすごい部分であり、怖い部分でもあると思いますね。

 まぁ僕も勝手に商品作りに来て、勝手に怖がってるだけの人ではありますけど!

 僕自身としては、見えないように存在している商業と同人の壁はちょっと崩したいと思っていて。博麗神社崇敬会を作ったり、「東方やおよろず商店」を立ち上げたりしているのは、それに対するアンチテーゼの部分があるかもしれないです。たとえばZUNさんをはじめ、多くの人たちが同人誌や同人CDや同人ソフトを売るのに大手の同人流通を使っていますけど、現実には同人店舗は商業施設です。つまりは皆さん商業を利用して生きてるわけです。拡大解釈すると「直接参加の同人即売会以外のあらゆる手段は、東方Projectという商材を商業の舞台で展開して利益を得ている」わけです。

 その中で、私も良く「商業が儲けに来たか」と言われちゃいますが、商業が無ければ同人も生まれない部分があるので、より前に出て「商業もいいモノですよ」と、我々の活動をご理解いただけるように努めたいと思っています。

 もちろん、ZUNさんたちがこれまで築いてきたものを聖域にしなければいけないことは理解しています。でも、いろんな商業の方々が東方Projectの商品を売ったり、東方Projectそのものを紹介することによって、例大祭をはじめとするいろんなイベントが回っている部分もあると思うんです。

——ふだん何もない時であれば、ひょっとしたら同人だけでも上手くいったかもしれないですけど、2020年に新型コロナウイルスがもたらした危機のようなことが起こった場合には、商業流通や商業メディアの助けが必要になると、今回非常によく分かりましたよね。同人即売会が開けない以上、通販やダウンロード販売といった流通に頼らざるを得ないわけですから。そういう時に、赤字を一瞬かぶることができるのが、商業の強みなので。

是空氏:
 なので、この記事を読まれている方を含めたいろんな方々に「商業にも優しくしてね」と言いたいですね。下世話な話、商業だから、やっぱり儲けないといけないんですよ。儲けないとみんなのお給料も出ないし、活動もできないですから。「同人で好きにやってるヤツらに何をちょっかい出しているんだ」って言う人もいるかもしれないですけど、僕ら商業は、同人活動の下支えとして絶対的に存在していますので、そこはぜひ認めていただきたいと思っています。

——良い同人、悪い同人があるように、良い商業、悪い商業があるよと。そこは是空さん自身としても、かなり気を遣われている部分ですよね。

是空氏:
 これもまた大事なところなんですけど、僕自身はたしかにいろいろと商業展開には気を遣っているんですけど、だからと言って僕が正解なのかどうかも、また分からないんですよ。もしかしたら今後、別の企業が入ってきて、僕らの上から全部塗りつぶしていくかもしれないので。

 たとえばルールが全部変わって、販売ルートの制限がなくなったりすれば、Amazonとかがいちばん強くなるわけですよ。そういう大きなところがひとり勝ちして、僕らは全員死んじゃう可能性だってあるんです。そういう未来に対しては逆に、「ZUNさんお願い、僕らを守って!」と思っていますから(笑)。

 でもZUNさんは守ってはくれない(笑)。守る理由がないんです。だって僕らが勝手にやってるんですから。ZUNさんたちはもしかしたら大手が来て焼き畑になってもよし、と思っているかもしれない(笑)。焼き畑をすると僕らは一回死んじゃうけど、そこに肥料が残って、新しい芽が出てくるので。

——我々はZUNさんを、100パーセント理解することはできないですからね。

是空氏:
 そういう意味では、自分はクリエイターになれなかった人間だと思っているので、100パーセント理解できない人たちに憧れを抱いているんだ思います。芝村さんやZUNさんをはじめ、やはりクリエイターには憧れますね。

他人様から借りたIPをゴロゴロ転がして大きくしていく“立派なゴロ”になりたい

——そろそろまとめに入ろうと思いますが、是空さんは東方Projectのどんなところがお好きですか? 

是空氏:
 作品的には、設定が深いところが好きですね。じつは僕も寺社仏閣が好きで、個人的に一の宮巡りとかをしているんです。芝村さんの作品もそうなんですけど、僕は結局、設定の深さに魅了されるタイプのオタクなんだと思います。

 あとはZUNさんの人格ですね。シューティングゲームは難しいのでやれないです(笑)。音楽は最近、いろんなサークルの方と知り合いになったおかげで、勉強ができてきましたけど。

——好きなキャラクターは? 

是空氏:
 難しいですね。最近モノがいちばん出ていくのは妖夢なんだけど、やっぱり霊夢と魔理沙かなぁ。東方はこの2人の世界観がすべてだと思いますけど、どのキャラが好きかって言われると困りますね。

 すごいカルトなことを言うと、ZUNさんが作ったんだけど東方Projectにはいないキャラクターを、東方に混ぜたいなと思うことはよくあります。たとえば、ZUNさんが「秋葉原ビールフェア」で作ったキャラクター(ビール子)とか。「このキャラを使わせてくれないかな」って思いますね。

——是空さんはブレないなぁ(笑)。是空さんは東方においては、意識的にゴロ業を貫いていますよね。

是空氏:
 まぁ、役割分担としては分かりやすいので。「とりあえずオレを倒してから行け」ぐらいの存在にはなりたいですし。ZUNさんや周囲の人たちにも言っているんですよ。「公式の中にゴロもひとりぐらい、いたほうがいいでしょ?」って。ZUNさんからは「いらない」って言われていますけど(笑)。

——是空さんは今後、東方Projectでどんな仕事をしていきたいですか? 

是空氏:
 ZUNさんに酒代を払っている、つまり版権許諾を得ている全部の商品を「東方やおよろず商店」に載せて、そこを見れば全部の商品が分かるようにしたいですね、もちろん、それをやるにはいろんなメーカーの利害関係があるので現状だと難しいことが多いですが、次々チャレンジします。

 商業として東方ProjectというIPをZUNさんからお借りしている以上は、引かずに足して返さなきゃいけない。とは常に考えています。

——僕は是空さんが以前に語った、「ゴロと名乗る以上は、ゴロゴロ転がして大きくしていかなくちゃいけない」という言葉が、ずっと忘れられなくて。すごく尊敬しているセリフですね。

是空氏:
 本来のゴロの意味とはズレるので、皆さんよく勘違いしますが、自分でも「立派なゴロになりたい」と思っています。コミケのスタッフからも「昭和最後のゴロ」とか呼ばれているんですけど、今日こうやって振り返ってみたら、自分は平成デビューなんですよ(笑)。

——なるほど、生まれは昭和でも、ゴロ業は平成からですね(笑)。じゃあ「平成最初のゴロ」でいいじゃないですか。

是空氏:
 平成のゴロはもうすでに何人かいるので(笑)。まぁ、面白いから「昭和最後のゴロ」を、自分でも使っていますけど。

——そういえば、『東方LostWord』の話を聞くのを忘れていましたね。

是空氏:
 『東方LostWord』では、自分はパワフルアドバイザーというポジションなので、パワフルにアドバイスしています(笑)。イラスト面やメインストーリー、声優さんの件や商業としての二次創作の立ち位置やら、企画の立ち上げ時からいろいろとパワフルに決めさせてもらっていますね。

 そのあたりはいずれまた、『東方LostWord』のインタビューがある時にでも、詳しくお話しします。開発陣もすごい東方好きで頑張ってます。『東方LostWord』もぜひよろしくお願いいたします!!

——では最後に、読者のみなさんに向けて一言お願いします。

是空氏:
 自分としてはまだまだだと思っているので、今後も「また是空かよ」と言われるように、がんばりたいと思っています。「あいつはどこにでもいるな」と言われるのは、じつはその場所に必要とされてないとできないことなので、自信を持って入り込みます。

 その意味では、ユーザーさんからどう見えているのかというのも、ものすごく大事だと思っています。「是空がやることだから大丈夫だよ」とユーザーさんからも言われるように、頑張っていきます。きっとこれからもZUNさんが謎の試練を用意してくると思うので(笑)。

 ですので、みなさんも『東方』の商業商品に触れる機会があったなら厳しい視線と共に、一緒に楽しんでもらえればと思います。

 で、楽しんでくれたらぜひ商品を買ってあげてください(笑)。そこだけは、たぶん同人も商業も同じです。

——ありがとうございました。

「超東方LIVEステージ2018」でZUNさんが初デレ!?「商業」という形で「東方Project」に関わる思いとは おわり