東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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高村蓮生の「幻視探求帳 ~ Visionary eyes.」第十三回:姫川の流れ込む湖 #洩矢諏訪子

幻想考察コラム:取り扱う内容は筆者の個人的な妄想を含む東方二次創作であり、公式の見解とは無関係です。

 初めましての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。高村蓮生たかむられんじょうと申します。このコラムで取り扱う内容は個人的な妄想を含む二次創作であり、公式の見解とは無関係です。数ある解釈のひとつとしてお楽しみいただければ幸いです。

 

姫川の流れ込む湖

 洩矢諏訪子さまは神様です。初出は東方風神録Extraボスであり、その後もいくつかの作品に登場しています。非想天則ではプレイアブルキャラでしたね。

 能力は「坤を創造する程度の能力」であり、八坂神奈子さまの「乾を創造する程度の能力」とは対になっています。坤は地面であり、さまざまなものを生み出す土台を象徴しています。「支配する父性」に対する「産み育てる母性」という側面がありますね。地母神ガイアです。

 二つ名は「土着神の頂点」ですが、どうやって頂点に立ったんでしょう。ミシャグジさまとお話して回ったんでしょうか。出来るかなぁ、お話。

 今回の話に関係するスペルカードは源符「厭い川の翡翠」姫川「プリンセスジェイドグリーン」です。姫川って諏訪じゃなくない? という話ですね。そもそも姫川の先に湖はありません。

 諏訪子さまといえばネイティブフェイスですが、ネイティブという言葉はナチュラルと同根なので、自然が根底にあります。自然信仰。ところで、自然ってなんなのでしょうか?

 今回も上記の通り精一杯怪しい話です。眉に唾は付けましたか? では、しばしのお付き合いを願います。

 

湖と毒水

 筆者の出身県には日本一深い湖があります。田沢湖といって、火山の火口に水が溜まって出来た、いわゆるカルデラ湖ですね。深さは423メートルで、東京タワー以上、スカイツリー未満です。スキー場のゲレンデから眺める田沢湖はとても綺麗ですが、それはそれ。

 そんな田沢湖の近くにはたくさんの温泉があります。有名なのは乳頭温泉郷にゅうとうおんせんきょうでしょうか。ほかにも有名な温泉がありまして、いろいろな意味で悪名高い玉川温泉ですね。癌に効く(効くとはいっていない)とか、玉川毒水とか。玉川温泉は非常に酸性度が高い泉質であり、その水が田沢湖付近から仙北平野を流れ、大曲の花火で有名な雄物川おものがわと合流します。秋田新幹線の近くを流れていますね。仙北平野は米どころと言われる秋田県の中でも特に収穫量が多く、どこを見ても田んぼみたいな地域です。それだけの面積で稲作をするためには、水の確保が大事になります。江戸時代から土地の開墾と用水路の整備が進んだり進まなかったりしていましたが、その最大の問題が玉川温泉から流れてくる酸性の水です。

引用:Wikipedia

 そこで昔の人は考えました。どんなに強い酸性でも、でかい湖に流し込んだら薄まってどうにかなるんじゃないか、と。結果、どうにかなりました。湖の生態系が。クニマスの絶滅と、山梨県西湖での発見の顛末は御存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。

 現在はダムを建設し、流入前に石灰などで処理しているので、昔よりは環境が良くなったようです。湖に変なものを流し込むのはどうかと思いますが、それもこれも生活のため仕方がないことだった、というわけですかね。生活はそんなに大事?

 

農作物と雑草

 ひとびとの生活に欠かせないものといえば食料です。現代日本では主に米ですね。日本の米は世界一なので。近年『天穂のサクナヒメ』というゲームが流行ったおかげで、田植えから収穫に至るまでにどれだけ複雑な工程を経ているかを、かなり多くの人が知っているような気がします。

 どうしてあんなに手をかけるのかといえば、放置するとイヌビエなんかの雑草が生え放題ですし、稲の実入りも良くないからですね。2023年は気温が高すぎて積算温度の観点から十分に実る前に収穫しなければいけなかったらしく、生産者の努力だけではどうにもならなかったりするようです。とはいえ、雑草を減らし稲を増やす努力は大事。

 ヒトは食事を通して栄養を摂取しますが、ほしい作物だけが生えてくる理想の田畑というのは、残念ながら理想止まりです。雑草が生えて来ますし、害虫も寄ってきます。どうやって欲しい物を多く、いらないものを少なくできるか、というのが問題になってくるわけですね。この辺はおおよその第一次産業に共通するところではないかと思います。自然相手にどう立ち向かうか。知は力なり。

 

産業と自然

 ここまで見てきたように、農業は自然に手を加えて特定の作物を収穫する営みです。つまるところ、自然破壊ですね。漁業も特定の種類の魚を大量に獲ったりします。筆者の出身県ではハタハタを獲りすぎたせいで、一時期禁漁になりました。自然破壊です。林業も杉を植えすぎて花粉症になるので、私怨ですが環境破壊です。つまりヒトは、自然相手に生きていくために環境破壊を続けていると言えるでしょう。気持ちいいですか?

 冗談はさておき、自然は別に人間の都合で出来ているわけではありません。世界の側が人間に合わせる義理はないのです。ですから人間は世界に手を加えて生存と繁栄に適した環境を作り続けてきたわけですね。その際に使われた技術が風水だったりします。乾坤九星八卦良し、というアレです。

 魔術を使うときは魔力が隅々まで行き渡るように魔法陣を描きます。農業も同じで、水が隅々まで行き渡るように田畑を開梱し畝を作ったり、いろいろやるわけです風水でいうなら、人々が隅々まで動き回り活気あふれるように、吹き溜まりや淀みを作らないように都市を設計するということになります。西洋っぽく言うとマナとかオドとかいうあれでしょう。何事も設計だけではなく、メンテナンスが大切なんですけど。回せ回せ回せ。

 最近では土壌の改良だけでなく品種改良が盛んになり、さまざまな特性を持った種が育てられています。最近だと「あきたこまちR」が話題になりましたかね。風評被害で。絶対許早苗。

 

ゲマインシャフトとゲゼルシャフト

 私たちが生活する上で欠かせないのが共同体ですが、その構成からなんとなく2つに分ける概念があります。ゲマインシャフトゲゼルシャフトといって、ざっくりいえば家庭と会社です。感情と生活を共有することで成立しているのがゲマインシャフトであり、価値と資本を共有することで成立しているのがゲゼルシャフトと言えるかもしれません。もちろん例外は膨大にありますが、一つの指針として便利ではあります。

 どうして大人を「おとな」と読むかといえば、もともとは乙名で、村落の代表者という意味だったからですね。そこから集団を運営する能力や権力がある人、と意味が変わりました。

 ところで、集団を運営するというとき、その集団の性格で目的は変わってくるはずです。営利企業なら利益を出すことが、家庭ならみんな安全に快適に暮らすことが求められるように。両者で求められる才能は異なりますし、振る舞いもまた違ってくるはずです。

 企業と国家で異なる点は、その存在理由にあるでしょう。利益の出ない企業は解散すればいいのですが、国家の目的は利益ではなく生活の保証なので、解散は基本的に選択肢にありません。変な言い方をするなら、企業はメンバーを選べますが国家は選べません。国家が国民に「君はクビだ」と言うことは基本的にありませんね。

 土地には農作物も雑草も等しく植物として生えてきます。それは大地の恵みなのでどうしようもないのですが、それらをどう扱かは考えられます。自然に対する人の営みとはその程度のものです。秩序は混沌あってのものですから。神様の理性的存在としての側面を神奈子さまが、生物的存在としての側面を諏訪子さまが担っていると解釈すると、ちょっとやりすぎかもしれませんけれど。

 

川の流れ込む先

 姫川、というと今ひとつピンときませんが、つまり糸魚川のことです。スペルカードでは厭い川と書かれています。それくらい氾濫が多い暴れ川だったようです。この河川周辺は日本で唯一翡翠が採取できた場所だそうです。よく勾玉の原料になってる石ですね。

引用:糸魚川観光ガイド https://www.itoigawa-kanko.net/enjoy/hisuisagashi/

 糸魚川産の翡翠は縄文時代の遺跡から見つかるらしく、その分布は主に東日本、有名なところでは青森の三内丸山遺跡や、さらに北の北海道でも出土しているようです。もちろん宝石だけが動くわけないですね。宝石を持ったヒトがそれだけ広範囲に移住し生活を営んでいたということでしょう。そして定住した各地で土着の信仰を形成したに違いありません。おそらく利益ではなく生活の安全を祈る神として。

 ラテン語のorior発生するは英語original根源的oriental東方的に派生しました。諏訪のミシャグジさまに限らず、日本各地に根源的で東方的なものの象徴としての勾玉と、そこで発生した土着神がいることでしょう。さらにその源流である糸井川に「土着神の頂点」として洩矢諏訪子さまがいらっしゃると考えるのは、大風呂敷でしょうか?

 

高村蓮生の「幻視探求帳 ~ Visionary eyes.」第十三回:姫川の流れ込む湖 #洩矢諏訪子 おわり

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