東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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幽閉サテライトはいつまでも私たちの心をつかんで離さない。生の『月に叢雲』という体験を、一生忘れないでいてほしい

幽閉サテライトはいつまでも私たちの心をつかんで離さない。生の『月に叢雲』という体験を、一生忘れないでいてほしい

 四番目のステージが終了し、中盤に差し掛かっても、博麗神社うた祭の熱はまだまだ下がりそうにない。

 アタック映像は何度見ても楽しい。観るたび、東方への愛が加速して止まらなくなっていく。

 映像の最後には「幽閉サテライト」のロゴ。私が今まで幾度となく見てきたその文字。ステージライトに照らされ歓声に包まれたその舞台は、結成10年を過ぎても未だ勢いが衰えることを知らない、幽閉サテライトのものだ。

 先日のワンマンライブでお披露目された、幽閉サテライトカラーの水色を全面に押し出した新衣装を身に纏って、彼女たちが登場した。

 

文:涼
撮影:るぅく

幽閉サテライトへずっと、あこがれがおわらないでいる

 ライブだけでしか聴けないピアノのイントロ。ああ、この曲は――下手側に立つMarciaさんが、その答えを歌う。

色は匂へど いつか散りぬるを

 色とりどりのサイリウムで、観客は応戦する。まるで花びらが舞っているみたいだな、と思った。

 ステージが明るく照らされると、Vo.Marciaさんが「みなさんこんばんは!幽閉サテライトです!みなさん盛り上がっていきましょう!」と挨拶。サークルの名刺ともいえる一曲『色は匂へど散りぬるを』を、最高のカタチでスタートさせた。

心躍らせるばかり

 そう歌い、Vocal陣がフロアに笑顔を向ければ

<ばかり>

と、観客たちも声高らかに歌い返す。

 フロアにいるそれぞれが、自分の心に花を咲かせている。その表現は全力のサイリウム振りやタオルぶん回し、身体から溢れ出たジャンプ、ゴリゴリのオタ芸UO大回転など、さまざまだ。

 これから幽閉サテライトがどんなステージを魅せてくれるのか、観客のそれぞれが期待に胸を膨らませていることがわかる。だって目の前にある輝きが、心臓をつかんで離さないから。

 その期待に応えるかのように、幽閉サテライトは止まらない。我々が探していた「声出しできる、そんな当たり前のライブ」という灯りは、もう目の前にある。

 Vo.兎明さんによる二曲目『今、誰が為のかがり火へ』の歌い出しで、ライティングは喜びを表す炎のように真っ赤に。燃え上がったフロアを目に焼き付けるように、兎明さんは観客に近づいて「もっとよく見せて!」と言わんばかりに歌っている。

 幽閉サテライトは五番手だ、終盤も近いのである。それなのに、焚かれているサイリウムは、心の底から燃え上がる炎は、限界を知らない。

 あたり一面が火事になったあと、爽やかなしぶきのような水色の照明から始まった三曲目『穢れなきユーフォリア』。

 この曲は個人的に幽閉サテライト楽曲で、一番バンドサウンドが映える楽曲だと感じている。ドラムの手数がとても多く、ギターソロもほかの楽曲に比べて多くのパートで散りばめられていて、ベースの低音はアレンジの良さをさらに増幅させる。そして、今回はフルバンド構成だ。ライブにはほぼ一年に一度しか出ないといわれる、出演確率SSRのKey.Iceonさんの鍵盤から奏でられるのは、繊細で美しい音。

 その演奏に圧倒されながらも、思い思いの「鬼形獣」の色を振ってなんとか呼吸をする我々。サビ前に強く、一気にステージが照らされる。それはまるで聖地CLUB CITTA’から「まだまだ足りてないんじゃないか!?」と挑発されているようだ。Marciaさんの「声出せ!」という煽りにも負けず声を出していたなか、

このときを 待っていたよ

真っ白な照明がCLUB CITTA’を包む。何も不純なものが混ざっていない「白いキャンバス」とは、これからの明るい未来を指しているのではないか。そしてこの歌詞はこの「声出しできる」という状況を待ち侘びていたということではないのか、そう考えさせられる。

 この楽曲の発表は2019年。有観客ライブではほとんど披露できないまま、コロナ禍に突入してしまった。だから三年越しに、幽閉サテライトはなんの憂いもなくこの曲をライブで演奏し、観客と一緒にシンガロングできる。そんな喜びが光で、歌で、演奏でありありと表現されていて、見ていた私はこの一瞬、呼吸をすることを忘れてしまった。

 その後のサビではフロアが一斉に大きくジャンプ、そして大きな歓声が生まれる。こんなライブの形が、永遠になればいいのに……

 フロアが感極まっていてもお構いなしに、幽閉サテライトは止まらない。Vocalに再び兎明さんが出てくると、さらに水中に沈んだような水色の照明で、四曲目『泡沫、哀のまほろば』が始まる。

 いつもの通り、Aメロで「まだまだライブは続くぞ」と自分たちがその道しるべとなるようかのように手を上げるGt.ikuoさん、気づいた観客も手を振る。一番盛り上がるサビで、ステージは霊夢・魔理沙・咲夜・妖夢永夜抄自機組の色と同じライトで照らされる。巧みで重厚なギターソロ、フルバンドだからこそ聴くことができるキーボードの音は、我々をその水という名の深みへと落とす。

 落ちサビで手を上げる兎明さん。その手に、その場にいるすべての人の想いを集めているようで、感極まってしまった。ラスサビで、Gt.ikuoさんとBa.キャッツさんがお互いの立ち位置を入れ替えた。キャッツさんはモニタースピーカーよりも前に身体を乗り出し、観客にテクニックと情熱を余すことなく魅せた。

 ikuoさんがギターを替え、ボーカルはMarciaさんに再びバトンタッチ。次の曲は『濡れた髪に触れられた時』。

 幽閉サテライト、水だけじゃ足りなかった。今度は雨を降らせてきた。こんなに雨を振らせては洪水になってしまう――そんな不安は、この青色こそが幽閉サテライトだと分かれば、安心する。

 赤と青、小傘の眼の色と同じ照明のなかで、先ほどの曲とは打って変わって歪んだ重いギターが鳴る。それに負けない声量を放つMarciaさん。

『濡れ髪』はソロ回しが神がかっている。二番の先に突然やってくるikuoさんの速弾きギターソロ。Marciaさんが拍手を煽り、熱量を高めていく。重ねてキャッツさんのベースソロ、そしてもう一度ikuoさんのギターソロ。ふたりの大迫力の掛け合いに共鳴した観客の熱狂は、天を突き抜ける。

 見事なソロパートを越えて、終盤には映像と照明がリンクした。MVの最後に映る雨粒の落ちていくさま、そしてすべてが青に包まれたCLUB CITTA’で、私はこの歌の世界に入ってしまったような気がした。

 ノンストップで5曲演奏して、MCタイムへ。「こんばんはー!幽閉サテライトでーす!」とMarciaさんが改めて挨拶。「声出しできるなんて最高ですね!」と喜びを露わにする。

「盛り上がってますかー!」「声出せますかー!」「こんなもんでいいですかー!?」と矢継ぎ早に観客へコールし、観客もまた歓喜のレスポンスを返す。ああ、楽しい。

 一通りのメンバー紹介を終えて、「次の曲が最後となるんです…」としんみりした表情で話すMarciaさん。当然の様に「えー!」と返す観客。何せ、この場所から離れることを我々は譲りたくないのだから。思い思いに「今きたばっかり〜!」と叫ぶ。

 その叫びを受け止めて、Marciaさんは話し始める。

「この曲はみんなが一度は聞いたことがあると思います。最後に聴いてください、『月に叢雲華に風』!」

 ああ、来ました。来てしまいました。みんな大好き『月に叢雲』のお時間です。

 イントロでは、夜道を照らす月明かりのような照明が会場に差し込み、観客はその夜道を歩むかのように、サイリウムを振る。そんな会場をじっくりと眺めるVocalのふたり。サビにはいれば、全員タオルを大回転! 回るタオルに合わせて飛ぶBa.キャッツさん。それに合わせて兎明さんも飛ぶ!

 タオルが回せて、声も出せる。“最高”以外の言葉がなにかあるだろうか。

『月に叢雲』のバンドアレンジは、ドラムはもちろんのこと、終盤に差し掛かる前に来るベースの速弾き、二番が始まる前にくるノイジーなギター、そしてキーボードが重なって、楽器隊の魅力が存分に引き出されている。

 最後はステージも、すべて幽閉の色に染めていく! 青く染まったステージでikuoさんのギターソロが輝く! 拳を回せと煽るMarciaさん!! そしてドラムがもう……むちゃくちゃ格好良い!!! ステージに立つ演者も、観客も、「楽しい」という気持ちでひとつになっていた。

 バンドアレンジならではのラスサビ前のテンポダウン、最後の最後に一度溜めて、一気に限界突破させてフィニッシュ。……と思ったら、Marciaさんが「回せ〜!!!!」と叫ぶ! かき回されたフロアで、皆思い思いに声を上げ、大きく身体を動かした。

 最初から最後まで駆け抜けて、私たちの心をステージからつかんで離さなかった幽閉サテライト。次の幽閉ライブはこれをさらに超えるものになるだろう……と想像するのは、容易なのではないだろうか。

 会場には中高生の姿も多かった。彼ら彼女らは、おそらく初めて『月に叢雲華に風』のライブ演奏をその場で体験したのだろう。その姿を見て、私が初めて幽閉サテライトを生で観たときのことを思い出した。

 8年前。ただの田舎のいち東方オタク学生でしかなかった私が、初めてのイベントライブで体験したのが幽閉サテライトだった。そのときに生まれた「東方アレンジの世界って、なんて素敵なんだろう」という感情が、今も私のなかで生き続けている。そしてそこからずっと、あこがれがおわらないでいる。

 YouTubeで観て、CDで聴いて、それだけで終わるなんてもったいない。だから、幽閉サテライトの“ライブ”を観に来てほしい。この青い青いステージで、幽閉の音を聴いてほしい。

 あのうた祭の会場にいたあなた。あなたに生まれたこの体験を、一生忘れないでいてほしい。あなたの大好きな、魂を救ったその歌を奏でる「幽閉サテライト」に、あこがれ続けていてほしい。

 

セットリスト

1.色は匂へど散りぬるを
2.今、誰が為のかがり火へ
3.穢れなきユーフォリア
4.泡沫、哀のまほろば
5.濡れた髪に触れられた時
6.月に叢雲華に風

幽閉サテライトはいつまでも私たちの心をつかんで離さない。生の『月に叢雲』という体験を、一生忘れないでいてほしい おわり