東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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今日、少女理論観測所はCLUB CITTA’の舞台に立つ。その一線級のパフォーマンスは、彼らがこのステージのヒーローである証明だった

今日、少女理論観測所はCLUB CITTA'の舞台に立つ。その一線級のパフォーマンスは、彼らがこのステージのヒーローである証明だった

 音楽シーンにはそれぞれ聖地と呼ばれる場所がある。ロックの聖地、ライブハウス武道館。クラシックの聖地、サントリーホール。

 では、東方アレンジシーンの聖地はいったい、どこだろうか。さまざまな想いがあるだろうが、やはり川崎CLUB CITTA’を置いてほかにない。その歴史はFloweringNight2007に始まり、数々のサークルが、どでかいライブをこの地で開催してきた。そしてその歴史は今日、この博麗神社うた祭2022へと至る。

 15年前。そんなきらびやかなステージを、憧れの眼差しで見ていたライブキッズがいた。彼は目の前の眩しいステージに魅せられ、音楽を、そして東方アレンジを始めることになる。

 そしてそこから現在までずっと、そのキッズは歩みを止めることなく音楽を11年間奏で続けた。二度のワンマンライブを成功させ、大小さまざまなライブイベントへ出演し、2018年には博麗神社うた祭への出演をはたす。また、COOL&CREATEのサポートメンバーとして、既にここクラブチッタの舞台に立った。

 しかし、そのキッズは未だ満足していない。自らのサークルでCLUB CITTA’の舞台に出演してこそ、初めてその憧れの渇きは潤うのだ。

 博麗神社うた祭2022の告知が解禁となったとき。それはひとりのライブキッズの夢を乗せていた。

 今から夢を叶えるライブキッズの名は、テラ。少女理論観測所のリーダーである。

 今日、少女理論観測所はCLUB CITTA’の舞台に立つ。

 

文:えふび~
撮影:るぅく

ワンルール・ゲームチェンジャー

 アタック映像が流れ、次に登場するサークルが少女理論観測所しょじょろんだとわかるとフロアから歓声が湧く。彼らが愛されているなによりの証拠だろう。

「いつものフレーズ」のアレンジがSEとして流れ、メンバーが入場する。

 Dr.kent watari、Ba.バツヲ、Gt.テラ、Vo.咲子の順に一人ひとり、この舞台を踏み締めるようにゆっくりとステージにスタンバイした。

 テラが指を鳴らし、「少女理論観測所へようこそ」と僕らを舞踏会にいざなうと、『Hollow Masquerade』がスタートする。ダンマクカグラにも収録されていた、しょじょろんの人気曲だ。いきなりの複雑なリズムの曲だが、フロアの反応は充分。息ぴったりに腕をあげ、クラップをする。

 そんなフロアに後押しされ、演奏も加速していく。複雑なリズムをDr.kent watariは難なく刻み、Gt.テラとBa.バツヲは水を得た魚のように、CLUB CITTA’の広いステージを縦横無尽に駆ける。そんな楽器隊のパフォーマンスに、Vo.咲子もまったく負けることなく高難度の曲を歌い上げていく。

 続く曲は『壊れた人形のマーチ』。ゲストボーカルのあやぽんず*from森羅万象がステージに登場する。

 Gt.テラ、Ba.バツヲがマーチのリズムで行進を始めると、フロアもつられて手拍子でマーチのリズムを刻む。そうして生まれた一体感のなかに、あやぽんず*の歌声が加わり絶対の空間を作り出す。さらにステージのスクリーンにはPVが映され、この空間を曲に没入させる。

 そうしてCLUB CITTA’に降り立ったフランドール・スカーレットが、僕らの理性を破壊した。

 すでに会場を虜にしたしょじょろん。メンバー全員が今日のために仕上げてきたことが、その演奏から伝わってくる。それもそのはずだ、今日のライブにはしょじょろん全員――特にリーダーのテラにとって、並々ならぬ想いがあった。

「僕、CLUB CITTA’に、しょじょろんで出るのが夢だったんですよ。14歳のときに東方アレンジにハマって、中学とか高校のころに、たくさん東方のイベントに行ってフロアから見上げてたんですよ。その多くのイベントが行われたのが、ここCLUB CITTA’。だからすごく思い入れがある会場で。14歳で東方にハマってから足掛け15年。いつかCLUB CITTA’に立ちたいなと思って、音楽も、ギターも、少女理論観測所も始めたテラが、ついに、しょじょろんでCLUB CITTA’に出ました。ありがとうございます!!」

 MCで語るテラを二階席で見守る姿があった。出番を控えたCOOL&CREATEと石鹸屋だ。少年テラが憧れ続けたサークルたちが、その瞬間をじっと見つめている。同じCOOL&CREATEサポートメンバーのまろんやムー、それに同世代の仲間も一緒だ。

「今日この場を用意してくださった博麗神社うた祭の皆さんもだし、ここまで東方が続いているのも東方を愛するみんなの力、そして何より、この世界を創ってくださった神主ZUNさんのお力あってのことなんです。だからすべての東方ファンとZUNさんに最大限の感謝を。ありがとうございます!」

「個人的なことなんですけど、僕が音楽を始めてからずっと応援してくれて、どんなに地方だろうとライブ見にきてくれた両親が、今日も車椅子を引きながら会場に見に来てくれてるんです。そんな両親の支えあって、今の自分があると思うので、お礼を言わせてください。ありがとう!!」

 感謝の言葉を会場で聞く、両親。高校時代、石鹸屋のコピバンを一緒に演った、お兄さまも見守っている。

「中学生のとき、毎日のようにお風呂場で石鹸屋を熱唱してて、ご近所中に響き渡ってるよって親から言われたりしたんだけど、そんな姿を知る両親にさ、このクラブチッタでテラが歌うとこ見せたいんだ。見せてもいいかな!?」

 そう会場に問いかける。会場は歓声で返事をした。

「『U.N.オーエンは彼女なのか?』のアレンジで『致死量の夜』」とコールし曲が始まる。

 その万感の想いを込めてGt.Vo.テラが歌うと、その想いに応えるように、フロアは一層の盛り上がりをみせる。「僕があのころ夢見たステージは、僕が歌うだけじゃ完成しないんだ。最高に盛り上がってほしい。盛り上がれますか!!!?」

 なるほど。テラが歌うだけじゃステージは完成しないなら、その夢に、僕たちフロアも一枚噛ませてくれないか。

 テラが「music stop!!」と歌い、ブレイクが訪れるとフロアも声を止め、一瞬の静寂を作る。その瞬間、このライブは少女理論観測所のものとなった。

 ライブを支配したまま、少女理論観測所のステージは続く。

 Vo.うきねが加わり、次の曲は『魔法少女theory』。博麗神社うた祭2018の開催記念コンピレーションCD「繋々歌」に収録されている曲だ。うた祭のために作られ、うた祭2018でも演奏されたこの曲。アーカイブが公開されていることもあり、当時のライブアクトを見た人も多いのではないか。

 うた祭以降、今日に至るまでの4年間、しょじょろんを代表する曲として数々のライブで演奏されてきた。もちろん僕も何度もそのアクトを見てきた。

 その上で、今日の『魔法少女theory』はその迫力を何段階にも増していた。それは、少女理論観測所の4年間の歩んできた成長。重ねてきた想いの強さだ。

 Vo.咲子が再度ステージインし、しょじょろんメンバー5人全員が集合する。そして続く曲は、『ワンルール・ゲームチェンジャー』。少女理論観測所が、世界をひっくり返すために作った曲。今日のうた祭に向けて作られた曲。

 ボーカルふたりの歌から曲が始まり、いよいよストリングスの音が合流するところで、トラブルは起きた。ギターの音が出ないのだ。音楽の神はあまりにも気まぐれで意地悪だ。ライブにおいてしばしば起きるトラブルではあるが、よりによって、なぜ今日、なぜこのタイミングなのか。

 普通なら演奏が終了してもおかしくない程のトラブルだ。しかし、しょじょろんのメンバーは狼狽えなかった。

 まずはボーカルのふたりが魅せた。そもそもこの曲はボーカルのパートが目まぐるしく変わり、複雑なハモリが入る曲だ。少しの乱れで歌が壊れてしまうはずだが、Vo.咲子、Vo.うきねのふたりは動じることなく歌いあげていく。

 Dr.kent watariもテンポチェンジが激しいこの曲のリズムを匠に支えている。Ba.バツヲもオブリ満載の難しいフレーズを的確に弾いていく。さらに、Gt.テラの分を補うように激しくパフォーマンスしフロアの熱をけっして冷まさない。

 こうして、しょじょろんメンバー全員が、いつでもリーダーが演奏に戻って来れるように、曲を守り続けた。

 しかし、時は残酷にも過ぎていく。Gt.テラは必死に、冷静に原因を探して行くがなかなか原因がわからない。曲が進んでもトラブルは解消されずAメロ、Bメロそしてサビへと展開してしまう。

 僕は心のなかで焦っていた。次のサビの終わりにはギターソロが来てしまう。今まではメンバーの協力で曲が保たれていたが、ギターソロだけは誤魔化しようがない。Gt.テラが弾かなければ、いよいよ演奏が崩壊してしまう。

 フロアも焦る気持ちがあったかもしれない。もしかしたら、ある程度諦める気持ちもあったかもしれない。

 それでもGt.テラは諦めなかった。

 思えばそれは当然のことだった。15年間、この舞台に立つことを諦めなかったのだ。ここで諦めるはずがない。

 音が出た。

 二番のサビから演奏に復帰し、ギターソロを完璧に弾いて魅せた。

 ワンルール・ゲームチェンジャー。音楽の神のいたずらに、Gt.テラの想いが打ち勝った瞬間。いや、少女理論観測所の五人全員で打ち勝った瞬間だった。

 そしてそれは、彼らがこのライブのヒーローになった瞬間だ。

 最後の曲は『Mary Go, Merry Happy』。

「Go! Go! Merry Go!Merry Happy, Let’s Go!」

 お決まりのフレーズを会場の600人全員でシンガロング、そしてクラップする。それは音の嵐となり、CLUB CITTA’、東方アレンジの聖地に満ちる。

 それは、フロアすべてを支配し、神の気まぐれをもねじ伏せる新時代のヒーローに向けての賛美だった。

 僕は確信した。ロックヒーロー、少女理論観測所はこれからもこの場所で輝き続けるのだと。

 ヒーローは一度きりの舞台では満足しない。

「CLUB CITTA’で演奏するという夢は叶ったがこれで終わりじゃない、またチッタで演奏したいし、もっと大きな舞台にも立ちたい」とさらなる野心を燃やす。

 そして、ヒーローは呼びかけた。

「客席からステージを見上げていた自分が15年後にステージに立ったように、今日、この客席にいるキッズのなかに、将来このCLUB CITTA’に立つ人がいるかもしれない。次は君の番だ。」と。

 この日、ひとりの東方キッズが夢を叶えた。

 次は、フロアにいた君。そして、このレポートを読んでいる君の番だ。

 

セットリスト

1.Hollow Masquerade
2.壊れた人形のマーチ
3.致死量の夜
4.魔法少女theory
5.ワンルール・ゲームチェンジャー
6.Mary Go, Merry Happy

今日、少女理論観測所はCLUB CITTA’の舞台に立つ。その一線級のパフォーマンスは、彼らがこのステージのヒーローである証明だった おわり