今日、少女理論観測所はCLUB CITTA’の舞台に立つ。その一線級のパフォーマンスは、彼らがこのステージのヒーローである証明だった
今日、少女理論観測所はCLUB CITTA'の舞台に立つ。その一線級のパフォーマンスは、彼らがこのステージのヒーローである証明だった
音楽シーンにはそれぞれ聖地と呼ばれる場所がある。ロックの聖地、ライブハウス武道館。クラシックの聖地、サントリーホール。
では、東方アレンジシーンの聖地はいったい、どこだろうか。さまざまな想いがあるだろうが、やはり川崎CLUB CITTA’を置いてほかにない。その歴史はFloweringNight2007に始まり、数々のサークルが、どでかいライブをこの地で開催してきた。そしてその歴史は今日、この博麗神社うた祭2022へと至る。
15年前。そんなきらびやかなステージを、憧れの眼差しで見ていたライブキッズがいた。彼は目の前の眩しいステージに魅せられ、音楽を、そして東方アレンジを始めることになる。
そしてそこから現在までずっと、そのキッズは歩みを止めることなく音楽を11年間奏で続けた。二度のワンマンライブを成功させ、大小さまざまなライブイベントへ出演し、2018年には博麗神社うた祭への出演をはたす。また、COOL&CREATEのサポートメンバーとして、既にここクラブチッタの舞台に立った。
しかし、そのキッズは未だ満足していない。自らのサークルでCLUB CITTA’の舞台に出演してこそ、初めてその憧れの渇きは潤うのだ。
博麗神社うた祭2022の告知が解禁となったとき。それはひとりのライブキッズの夢を乗せていた。
【超拡散希望】
11月12日に『クラブチッタ』で開催される『博麗神社うた祭』
少女理論観測所が出演します😭
中学の頃から何度も通った東方の聖地。
いつかあのステージに立ちたくて活動を始めました。
しょじょろん初のチッタにこれまでの全てをぶつけます。
夢が叶う瞬間を見届けてください。 pic.twitter.com/6Ag5gwwQoe— テラ/少女理論観測所公式 (@terra_shojoron) August 31, 2022
今から夢を叶えるライブキッズの名は、テラ。少女理論観測所のリーダーである。
今日、少女理論観測所はCLUB CITTA’の舞台に立つ。
文:えふび~
撮影:るぅく
ワンルール・ゲームチェンジャー
アタック映像が流れ、次に登場するサークルが少女理論観測所だとわかるとフロアから歓声が湧く。彼らが愛されているなによりの証拠だろう。
少女理論観測所が初めてクラブチッタに立った瞬間の映像 pic.twitter.com/iNypljOTrh
— テラ/少女理論観測所公式 (@terra_shojoron) November 13, 2022
「いつものフレーズ」のアレンジがSEとして流れ、メンバーが入場する。
Dr.kent watari、Ba.バツヲ、Gt.テラ、Vo.咲子の順に一人ひとり、この舞台を踏み締めるようにゆっくりとステージにスタンバイした。
テラが指を鳴らし、「少女理論観測所へようこそ」と僕らを舞踏会にいざなうと、『Hollow Masquerade』がスタートする。ダンマクカグラにも収録されていた、しょじょろんの人気曲だ。いきなりの複雑なリズムの曲だが、フロアの反応は充分。息ぴったりに腕をあげ、クラップをする。
そんなフロアに後押しされ、演奏も加速していく。複雑なリズムをDr.kent watariは難なく刻み、Gt.テラとBa.バツヲは水を得た魚のように、CLUB CITTA’の広いステージを縦横無尽に駆ける。そんな楽器隊のパフォーマンスに、Vo.咲子もまったく負けることなく高難度の曲を歌い上げていく。
続く曲は『壊れた人形のマーチ』。ゲストボーカルのあやぽんず*from森羅万象がステージに登場する。
Gt.テラ、Ba.バツヲがマーチのリズムで行進を始めると、フロアもつられて手拍子でマーチのリズムを刻む。そうして生まれた一体感のなかに、あやぽんず*の歌声が加わり絶対の空間を作り出す。さらにステージのスクリーンにはPVが映され、この空間を曲に没入させる。
そうしてCLUB CITTA’に降り立ったフランドール・スカーレットが、僕らの理性を破壊した。
すでに会場を虜にしたしょじょろん。メンバー全員が今日のために仕上げてきたことが、その演奏から伝わってくる。それもそのはずだ、今日のライブにはしょじょろん全員――特にリーダーのテラにとって、並々ならぬ想いがあった。
MCで一人の東方キッズがクラブチッタに立つまでのストーリーを話しました。
ちょっと長いけど見てもらえると嬉しいです。#うた祭 pic.twitter.com/lzw1nqoojO
— テラ/少女理論観測所公式 (@terra_shojoron) November 12, 2022
「僕、CLUB CITTA’に、しょじょろんで出るのが夢だったんですよ。14歳のときに東方アレンジにハマって、中学とか高校のころに、たくさん東方のイベントに行ってフロアから見上げてたんですよ。その多くのイベントが行われたのが、ここCLUB CITTA’。だからすごく思い入れがある会場で。14歳で東方にハマってから足掛け15年。いつかCLUB CITTA’に立ちたいなと思って、音楽も、ギターも、少女理論観測所も始めたテラが、ついに、しょじょろんでCLUB CITTA’に出ました。ありがとうございます!!」
MCで語るテラを二階席で見守る姿があった。出番を控えたCOOL&CREATEと石鹸屋だ。少年テラが憧れ続けたサークルたちが、その瞬間をじっと見つめている。同じCOOL&CREATEサポートメンバーのまろんやムー、それに同世代の仲間も一緒だ。
「今日この場を用意してくださった博麗神社うた祭の皆さんもだし、ここまで東方が続いているのも東方を愛するみんなの力、そして何より、この世界を創ってくださった神主ZUNさんのお力あってのことなんです。だからすべての東方ファンとZUNさんに最大限の感謝を。ありがとうございます!」
「個人的なことなんですけど、僕が音楽を始めてからずっと応援してくれて、どんなに地方だろうとライブ見にきてくれた両親が、今日も車椅子を引きながら会場に見に来てくれてるんです。そんな両親の支えあって、今の自分があると思うので、お礼を言わせてください。ありがとう!!」
感謝の言葉を会場で聞く、両親。高校時代、石鹸屋のコピバンを一緒に演った、お兄さまも見守っている。
「中学生のとき、毎日のようにお風呂場で石鹸屋を熱唱してて、ご近所中に響き渡ってるよって親から言われたりしたんだけど、そんな姿を知る両親にさ、このクラブチッタでテラが歌うとこ見せたいんだ。見せてもいいかな!?」
そう会場に問いかける。会場は歓声で返事をした。
「『U.N.オーエンは彼女なのか?』のアレンジで『致死量の夜』」とコールし曲が始まる。
その万感の想いを込めてGt.Vo.テラが歌うと、その想いに応えるように、フロアは一層の盛り上がりをみせる。「僕があのころ夢見たステージは、僕が歌うだけじゃ完成しないんだ。最高に盛り上がってほしい。盛り上がれますか!!!?」
なるほど。僕が歌うだけじゃステージは完成しないなら、その夢に、僕たちも一枚噛ませてくれないか。
テラが「music stop!!」と歌い、ブレイクが訪れるとフロアも声を止め、一瞬の静寂を作る。その瞬間、このライブは少女理論観測所のものとなった。
ライブを支配したまま、少女理論観測所のステージは続く。
Vo.うきねが加わり、次の曲は『魔法少女theory』。博麗神社うた祭2018の開催記念コンピレーションCD「繋々歌」に収録されている曲だ。うた祭のために作られ、うた祭2018でも演奏されたこの曲。アーカイブが公開されていることもあり、当時のライブアクトを見た人も多いのではないか。
うた祭以降、今日に至るまでの4年間、しょじょろんを代表する曲として数々のライブで演奏されてきた。もちろん僕も何度もそのアクトを見てきた。
その上で、今日の『魔法少女theory』はその迫力を何段階にも増していた。それは、少女理論観測所の4年間の歩んできた成長。重ねてきた想いの強さだ。
Vo.咲子が再度ステージインし、しょじょろんメンバー5人全員が集合する。そして続く曲は、『ワンルール・ゲームチェンジャー』。少女理論観測所が、世界をひっくり返すために作った曲。今日のうた祭に向けて作られた曲。
ボーカルふたりの歌から曲が始まり、いよいよストリングスの音が合流するところで、トラブルは起きた。ギターの音が出ないのだ。音楽の神はあまりにも気まぐれで意地悪だ。ライブにおいてしばしば起きるトラブルではあるが、よりによって、なぜ今日、なぜこのタイミングなのか。
普通なら演奏が終了してもおかしくない程のトラブルだ。しかし、しょじょろんのメンバーは狼狽えなかった。
まずはボーカルのふたりが魅せた。そもそもこの曲はボーカルのパートが目まぐるしく変わり、複雑なハモリが入る曲だ。少しの乱れで歌が壊れてしまうはずだが、Vo.咲子、Vo.うきねのふたりは動じることなく歌いあげていく。
Dr.kent watariもテンポチェンジが激しいこの曲のリズムを匠に支えている。Ba.バツヲもオブリ満載の難しいフレーズを的確に弾いていく。さらに、Gt.テラの分を補うように激しくパフォーマンスしフロアの熱をけっして冷まさない。
こうして、しょじょろんメンバー全員が、いつでもリーダーが演奏に戻って来れるように、曲を守り続けた。
しかし、時は残酷にも過ぎていく。Gt.テラは必死に、冷静に原因を探して行くがなかなか原因がわからない。曲が進んでもトラブルは解消されずAメロ、Bメロそしてサビへと展開してしまう。
僕は心のなかで焦っていた。次のサビの終わりにはギターソロが来てしまう。今まではメンバーの協力で曲が保たれていたが、ギターソロだけは誤魔化しようがない。Gt.テラが弾かなければ、いよいよ演奏が崩壊してしまう。
フロアも焦る気持ちがあったかもしれない。もしかしたら、ある程度諦める気持ちもあったかもしれない。
それでもGt.テラは諦めなかった。
思えばそれは当然のことだった。15年間、この舞台に立つことを諦めなかったのだ。ここで諦めるはずがない。
音が出た。
二番のサビから演奏に復帰し、ギターソロを完璧に弾いて魅せた。
ワンルール・ゲームチェンジャー。音楽の神のいたずらに、Gt.テラの想いが打ち勝った瞬間。いや、少女理論観測所の五人全員で打ち勝った瞬間だった。
そしてそれは、彼らがこのライブのヒーローになった瞬間だ。
最後の曲は『Mary Go, Merry Happy』。
「Go! Go! Merry Go!Merry Happy, Let’s Go!」
お決まりのフレーズを会場の600人全員でシンガロング、そしてクラップする。それは音の嵐となり、CLUB CITTA’、東方アレンジの聖地に満ちる。
それは、フロアすべてを支配し、神の気まぐれをもねじ伏せる新時代のヒーローに向けての賛美だった。
僕は確信した。ロックヒーロー、少女理論観測所はこれからもこの場所で輝き続けるのだと。
ヒーローは一度きりの舞台では満足しない。
「CLUB CITTA’で演奏するという夢は叶ったがこれで終わりじゃない、またチッタで演奏したいし、もっと大きな舞台にも立ちたい」とさらなる野心を燃やす。
そして、ヒーローは呼びかけた。
「客席からステージを見上げていた自分が15年後にステージに立ったように、今日、この客席にいるキッズのなかに、将来このCLUB CITTA’に立つ人がいるかもしれない。次は君の番だ。」と。
この日、ひとりの東方キッズが夢を叶えた。
次は、フロアにいた君。そして、このレポートを読んでいる君の番だ。
セットリスト
1.Hollow Masquerade
2.壊れた人形のマーチ
3.致死量の夜
4.魔法少女theory
5.ワンルール・ゲームチェンジャー
6.Mary Go, Merry Happy
今日、少女理論観測所はCLUB CITTA’の舞台に立つ。その一線級のパフォーマンスは、彼らがこのステージのヒーローである証明だった おわり