東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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「声出しライブ」が帰ってきた。会場の熱を高め、自分たちの世界へ観客を惹き込んだ最高の一番手、イノライ

「声出しライブ」が帰ってきた。会場の熱を高め、自分たちの世界へ観客を惹き込んだ最高の一番手、イノライ

 声出しライブが帰ってきた。幻想入りしようとしていた声出し可能ライブが、ここ、川崎CLUB CITTA’クラブチッタで我々と再会する。

 いつだったか、YouTubeに上がっていたうた祭のアタック映像を初めて見たとき、私は目を輝かせた。1フレームの情報量、込められた熱量。こんなすごい映像があるんだ。そして、東京ではこんなすごいモノが流れるイベントがあるんだ……! そう思った。

 調べてみると、川崎CLUB CITTA’という場所は東方ライブがよく行われている場所らしい。そしてそれは東京にあり……ということを知った田舎の東方キッズ――そう、私はそのとき以来、本格的に映像制作を始め、漠然と「いつかCLUB CITTA’でVJをやりたい」という夢を持つようになった。

 そんな私が映像屋を志し上京して4年、とうとう憧れの場所へ行くことになった。なんだかんだ機会に恵まれなかった分、今日は楽しむぞ! そんな、まるで初めて東方ライブに参加したときのような高揚感で、私はその場所に降り立った。

 ちなみに場所が東京じゃないということを知ったのは、目を輝かせてから数年経っての話。 

 開始前のMC「つなぐ、つながる、東方」は、うた祭で恒例のコール・アンド・レスポンスなのだそうだ。この東方ライブの聖地で、私もこの掛け声に加われてうれしかった。そして、フロアの「東方ーー!!」という全力の叫びは、間違いなくこれからのステージへの期待に満ち溢れていた。

 生で見るアタック映像は、私が今まで何度も繰り返し見てきたYouTubeの映像よりもっと凝縮された、1フレームに入りきらないくらいの東方の要素で詰まっていて、本当に美しかった。ワクワクはさらに大きくなり、フロアで叫ぶカウントダウンがゼロになったとき、私の中のリミッターも解除された。

 

文:涼
撮影:るぅく

我々は帰ってきた。この場所ではみな声を出し、空間になることができる

「それでは早速最初のアーティストさんに参りましょう。オープニングアクトはこのアーティストさんです!」MCの叫びで幕が上がる。500人が拍手で見守る中、赤い照明で登場したのはイノライだ。演者の後ろにあるスクリーンにはMVミュージックビデオが投影された。

「博麗神社うた祭来てくれてありがとう! 楽しんでいきましょう!」とVo.ボーカルNachiさんが一曲目『Monster』で会場に熱を入れていく。Nachiさんのスラリとしたパンツスタイルが麗しい。

 その迫力のある声量はまさにライブでしか体感できないもの。大画面で流れる映像の凄みも相まって、これがイノライのステージなのか!と、一瞬でわからされてしまった。

 まだ一サークル目だからか、それとも久々の声出し可能ライブだからか、観客は楽しみ方を模索しているかのように見える。立ち上がる人、座ったまま赤いペンライトを振る人、さまざまだ。

 ラスサビで、UOウルトラオレンジを焚いている方がいた。赤く光るペンライト、その中で一際目立つオレンジ。速く動くペンライト。盛り上がりと連動するコール。これよ、これ。私たちは帰ってきた。

 再び「博麗神社うた祭来てくれてありがとう! 楽しんでいきましょう!」とNachiさんから放たれ、記念すべき一曲目は終了。

 暗転し、Vo.cheluceさんが登場。Nachiさんの黒の装いに対して、白のワンピースのcheluceさん。対になっているのでわかりやすかった。紫の照明とともにスクリーンには永琳が映り、二曲目『月華蝶』がスタート。観客の声はさらに大きくなる。

 それに合わせてcheluceさんが「盛り上がってるか〜!?」と煽る。今日我々は拍手ではなく、声で応えることができる。大きな声で応える。

 生音は強い。低音も高音も身体にダイレクトアタックしてくるのがライブだ。

 雨が降ろうと雪が積もろうと積クロックスを履くことでおなじみ(?)のGt.ギターACTRockさんは、CLUB CITTA’でもクロックス。そんな姿から放たれるギターソロは、そのラフさに反して実に正統派だ。

 Ba.ベースじんぞうさんは、過去のツイートで「クラブチッタのステージに立ちたい」と話していた。その夢を叶えステージに立つ感情は、一体どれほどなのだろう。その指先から奏でる低音は、身体に響く。

 ドラムもそうだ、バスドラムの音が芯から響いて……あれ? もしかしてこの音を私知っている……そうだ! この響きは、COOL&CREATEのDr.ドラムも担当する、中村誠(通称:いい笑顔のまこっちゃん)さんだ!!

 それぞれの音が合わさって、直に攻めてくるのがライブなんだ。生で聴く喜びがここにある。

 熱量を浴びているうちに3曲目『SAVE NO SENSE』。サビ前までは緑、赤、白の照明が、サビでは青い照明がステージを照らし、観客は白、緑、紫のペンライトで応える。

 個人的に、この曲がイノライのステージでもっとも一体感があった。この曲はイノライのライブでは最後に演奏されることの多い定番曲だ。

「Your beats my god!」から始まるパートで、フロアは一斉にジャンプ。ペンライトの振りも揃っていて、オープニングアクトのテンションとは思えない。そんな観客たちを見ながら、バンドメンバーたちが笑顔で演奏している姿に、感動を覚えた。cheluceさんが『信じているの』と歌い上げたシーンは、これまでもこれからも東方がつなぎ、つながれることを願っているのではないかと感じさせた。

 曲が終わると、cheluceさんによるMCタイム。声出しできることに触れ、観客の顔を見て「みんなの顔見えるよー!」と手を振る。

「3年前(のうた祭)は客席でステージを観ていました。ここに立つのが夢でした。立たせてくれてありがとうございます。ありがとう!」cheluceさんが泣かせにかかってくる。こんな話をされたら、「声出しできてよかった」と心から思わされるじゃないか。

 さてさて次は最後の曲。

「次は最後の1曲となります!」とcheluceさんが話すと、観客から「えー!」という声が。驚くcheluceさんが客を煽り、「今来たばっかりー!」という声が割れんばかりに響くと、「好きだー!!」と叫んでいた姿が目に焼き付いている。

「ラスト1曲! まだまだうた祭は止まらないぞ!」と言って、Nachiさんとバトンタッチ。スクリーンには『レプリカは嗤う』という文字が。こいしの姿が見えた観客は大喜びし、即座にこいしカラーにペンライトの色を合わせていた。順応性が高い。

 手を挙げて、私も今まで声出しできなかった分の声を全力で出す。落ちサビ前のたくさんのフラッシュの照明はまるで、それまでの思い出を切り取り、過去のものにしているよう。今度幻想入りするのは「声出しのできないライブ」だ。

 オープニングアクトということもあり、奏でられた楽曲は4曲。私は恥ずかしながら、イノライのライブを観るのは初めてだった。それでも、会場の空気を全て持っていき、一気に虜にさせてくれたパフォーマンスのことは強く印象に残り、今でも鮮明に覚えている。他のサークルより少ない時間だったとは思えなかったほどだ。

 一番手として会場全体の熱量を高め、自分たちの世界へ観客を惹き込みつつステージを後にしたイノライ。

 そのとき、会場にいた誰もが感じた。「我々は帰ってきた。この場所ではみな声を出し、空間になることができる」ということを。

 

セットリスト

1.Monsters
2.月華蝶
3.SAVE NO SENSE
4.レプリカは嗤う

「声出しライブ」が帰ってきた。会場の熱を高め、自分たちの世界へ観客を惹き込んだ最高の一番手、イノライ おわり