東方の弾幕の「個性」に魅了されたので、全部完璧に避けました――最高峰の東方原作STGの国際大会『Touhou World Cup 2023』日本運営代表、海神氏インタビュー(後編)
『Touhou World Cup 2023』日本運営代表、海神氏インタビュー
前編はこちら
中国から全世界へ、集えルナシューターたちよ――最高峰の東方原作STGの国際大会『Touhou World Cup 2023』日本運営代表、海神氏インタビュー(前編)
今年で4度目の開催となるTouhou World Cup(以下、TWC)。各国から最高峰のシューターたちが集うこの大会ですが、原作STGコミュニティの国境を越えた交流の場にもなっています。
前編では、TWC日本支部の現代表、海神さんに、TWCのこれまでについてお伺いしました。前半では、TWCの歴史や、見逃せないポイントについて。後半では、エンディング画面を写さないための配慮から生まれた、クスっと笑えるエピソードを伺いました。
後編では、TWCのベストバウト、海神さんの思う東方原作の魅力についてお伺いしました。地霊殿4機体LNNというとんでもない実績を持つ海神さんですが、彼をそこまで惹き込んだ「東方の魅力」とは、いったい何なのか?
現在開催中の「TWC2023」の注目して欲しいポイントについても、お聞かせいただきました。すでに5試合が終わったTWC2023ですが、名勝負が勢ぞろい! よりTWCを楽しむために、どんなところに注目して試合を見ればよいのか、そして今年のTWCの見どころについて。引き続き、TWC日本支部の現代表、海神さんにお伺いしました!
文・聞き手:おみず
6被弾は許されない世界
――話を競技シーンへと移したいと思います。まず初めに、これまでのTWCについて、特に印象に残っている試合、ベストバウトについてお聞かせください。
海神:
私が実況をしていた試合になってしまうのですが、TWC2021の東方鬼形獣Score Attack部門になります。そこで叩き出された、Borealisさんによる魔理沙カワウソ119億という本番でのWR。大会の評価基準であるTWC Scoreは滅多に3桁にならないのですが、このときのBorealisさんのTWC Scoreは「147」というあまりに非常識なもの。とても強烈でした。自分の反応や、コメント欄の反応含め凄まじさが伝わる試合だと思います。YouTubeの日本支部アカウントにアーカイブがありますので、ぜひご覧ください!
――TWCScore、という大会独自の評価で勝敗を決めているのですね。現在TWCでは、各作品ごとにLunatic Survival、Lunatic Score Attack、Extra Score Attackの三部門が行われているとのことですが、それぞれどのような競技となっていますか?
海神:
TWCでは大きく分けてSurvival部門とScore Attack部門があります。
1回のクリアごとにTWC Scoreを算出し、制限時間内に最も高いTWC Scoreを記録した人の勝利となります。このTWC Scoreですが、運営内だけではなく選手も交えた話し合いによって決められています。
Lunatic Survival部門はNo Bombでどれだけ被弾せずに出来るかという勝負です。作品によっては森羅結界や季節解放などの弾幕を消せるシステムが存在しますが、そのシステムも一切使用せずに全ての弾幕を避けていきます。
大会の評価基準となるTWC Scoreですが、作品や機体によってNNを達成したときのTWC Scoreが異なります。被弾するごとにTWC Scoreは半分になり、6面までクリアしたときのものが記録になります。時間内に一番高いTWC Scoreを叩き出した選手の勝利となります。
特に輝針城がわかりやすいです。この作品は、すべての作品の中で最も攻略が容易な機体である咲夜A・霊夢Aと、最も攻略が難しい機体の魔理沙Aがそろっている作品になります。難しい機体での攻略の方が価値が高いということで、咲夜A・霊夢AのNNのTWC Scoreは4点なのに対し、魔理沙AのNNのTWC Scoreは150点になってます(笑) なので、魔理沙Aで5ミスに抑えてクリアするとTWC Scoreは約4.7となり、その時点で咲夜A・霊夢Aでは勝ち目がなくなります。
Score Attack部門はその名の通りスコアでの勝負となります。ゲーム上のスコアをTWC Scoreに変換し、よりTWC Scoreが高い人の勝利となります。作品や機体ごとにスコアの出しやすさが変わるので、それに応じた計算方法によってTWC Scoreを算出しています。スコアを伸ばすための動きは機体によって大きく変わるので、そこにも注目しながら試合を見てほしいです。
中学生のルナシューター!?若年層にも広がる原作の輪
――TWCの競技者はどのようにして決まるのでしょうか?
海神:
Twitterで募集をしています。ツイート上にあるフォームサイトのURLから部門を申請して貰い、参加する形となります。人数が多い場合は予選を行います。逆に人数が2人以上いない部門は開催されません。
――続いて、現在の東方原作界隈について教えて下さい。今、日本や海外では東方原作のスコアアタック・NB攻略は盛んなのでしょうか?
海神:
とても盛んです。ただ日本と海外とで比べると少し違うところがあります。だいたいの傾向としては、日本ではLunatic NBがメインの人が多く、海外ではScore Attackをやっている人が多いでしょうか。
それと私自身が感じていることですが、若手シューターが増えているような気がします。これもネット文化が若い層にも広まっているのだと思わざるを得ません。
――東方は若年層にも広がっているのですが、その流れは原作界隈にもあるのですね。TWCの選手にも若い方はいらっしゃるのでしょうか?
海神:
はい、います。誰とは言えないのですが、まだ成人していない方も何人かいらっしゃいます。TWCという大会が若い方にも認知されていてとても嬉しい限りです。
Lunaticシューターだけでなく、東方原作に触れられている若い方が増えてきている実感もあります。Twitterでは、EasyやNormalを初めてクリアしたという報告から、中高生がLunaticをNBしたなんて報告まで、さまざまなものが流れてきますね。原作界隈もまだまだ終わらないぞ、というのをひしひしと感じています。
――なるほど。TWCに憧れて、という方もいらっしゃるかもしれないですね。東方原作を遊び始めた初心者や中級者でも触れられるような、東方原作プレイヤーの交流の場というものはありますか?
海神:
はい、いろいろあります。ニコニコ動画で、東方原作リプレイ鑑賞会(通称:リプ会)というものが、Yu-miyaさんという方の主催で毎週日曜日に開催されております。その名の通り、皆さんのリプレイを鑑賞するものです。
難易度は関係なく、EasyからLunaticまでのあらゆるリプレイを皆さんで鑑賞しています。「頑張ったから皆に見て欲しい」と思うようなリプレイがとれましたら、どなたでも参加してほしいです。また、リプレイが出せなくても、皆とリプレイをみたい、他のプレイを参考にしたいという方も大丈夫です! 気になる方は足を運んでみては如何でしょうか。
ほかにも、TwitterなどのSNS上で小規模な大会が開催されています。最近行われた大会として、らぶかさん・らまらまさんの主催の「中高生東方大会」というものがありました。この大会はその名の通り、中高生を対象にした大会です。この大会は3チームの対抗戦で、運営からのお題をどれだけクリアできるかで勝敗が決まります。十日ほどある開催期間の中でそれぞれの選手にはお題に取り組んでもらい、お題を達成できたらそのときのリプレイを送ってもらう、というものでした。
この大会は難易度不問であり、ノーマルシューターからルナシューターまで幅広い層が参加していました。私もお題を出すのに協力していて、Lunaticの難しいお題を出したのですが、全てのチームでお題の達成者が出たとか……。中高生シューターのレベルの高さに驚かされます。大会をきっかけとして、中高生のコミュニティの交流が活発化した、というのも嬉しいことです。
ここでは2つほど例を取り上げましたが、ほかにも東方原作の大会はさまざまな方の手によって開催されていますし、東方原作の攻略配信を精力的にされている方もいらっしゃいます。気になる方はぜひ探してみてください。
――これから東方原作に初めて触れる初心者や、伸び悩んでいる中級者の方へのアドバイスをお願いします。
海神:
まずは楽しんでもらいたいです。私の場合は「推しに会いたい」という一心でがむしゃらにやっていました。皆さんにも何か強い目的があれば、きっとクリアに繋がるのではないでしょうか。
でも、無理にやることはないです。最初に言った通り、楽しくないなら一旦離れるのも大事だと思います。
弾幕を避けるのは、やっぱり楽しい――原作プレイの魅力
――ここからは海神さんについてお聞きします。海神さんは以前からTWCに競技者として参加されていました。運営に参加されたのはどのような経緯からでしょうか?
海神:
TWC2020の東方神霊廟Lunatic Survival部門の解説が、私の初めてやった仕事です。
もともとSOCさんには色々と話を伺っていたので、私も何か助力したいとは考えていました。SOCさんと通話していたある日、SOCさんに「お、海神さん神霊廟LNNNしてるじゃん。神解説お願いしてもいい?」と言われたのがきっかけです。それ以降、TWC2021からは運営として参加しています。
――海神さんは、いつ頃から東方をプレイされていますか?
海神:
2016年の6月頃だったと思います。自分が大学に入ってから出会ったコンテンツです。
フランドール・スカーレットが推しなのですが、会いに行きたくても紅魔郷のNormalが難しく苦労していた記憶は、今でも鮮明に覚えています(笑)
――紅魔郷はNormalもExtraも難しいですもんね……。具体的に印象に残っているスペルや弾幕はございますか?
海神:
やはり「レッドマジック」「レーヴァテイン」でしょうか。
NormalやExtraクリアができずに、何故かHARDにも少し手を出していたのですが、「HARDの3面よりNormal6面の方が難しいのおかしくないか」と思っていた事を覚えています(笑) レーヴァテインはパターンを作れた時の快感が未だに忘れられません。当時は熱心に研究してましたね。
――続いて、海神さんの一番好きな・得意な東方原作タイトルを教えて下さい。
海神:
好きなのも得意なのも、やはり東方地霊殿ですかね。好きなゲームを極めたいと思うのは私だけではないはず。冒頭にも書きましたが、地霊殿の4機体のLNNを達成できたのは感慨深いです。
ただ、地霊殿を好きになったきっかけを覚えていないのです。弾幕、曲、キャラクター、ストーリーなど全てを含めていつの間にか好きになっていました。
――東方をプレイする前からよくSTGを遊んでいたのでしょうか。もし、他にもスコアを詰めていたタイトルなどがあれば、お教え頂ければ幸いです。
海神:
STG系統で言うと『スターフォックス64』くらいでしょうか。ただこれは楽しくてやっていただけなので、スコアはそんな高くありません。1900程度だったと思います。
よくあるアーケードシューティングゲームの『虫姫さま』や『怒首領蜂』などはやったことないです。
――続いて、東方原作STGの魅力についてお聞かせください。特に「弾幕を避ける楽しさ」とは、どうのようなものなのでしょうか。
海神:
東方原作の魅力は、弾幕の美しさではないでしょうか。他のSTGと比べても東方はまた別格のようなものを感じています。弾幕にも個性があり、キャラクターを象徴するかのような面白い弾幕が見れるところが、東方原作STGならではだと思います。
楽しさ……試行錯誤するところではないでしょうか。
皆さんも初めて東方に触れた時に感じたと思います。「こんなのクリア出来ないよ!」と。ボムの撃ちどころだったり、弾幕を研究してみたり、自分なりに考えてクリアした時の達成感・快感は何事にも変えがたいものです。
クリアするまでの苦労をつらく感じる人も少なからずいると思いますが、私はその期間を含めても「東方の楽しさ」だと思います。
――ありがとうございます。私自身、地霊殿Lunaticを初めてクリアした時のことは鮮明に覚えています。何週間も目指し続けた目標を達成できたときの、試行錯誤が報われた瞬間は格別の喜びでした。是非多くの人に、「弾幕を避ける喜び」の虜になってほしいですね。
開幕戦からベストバウト!?今年のTWCのここがアツい!
――今年のTWC2023についてお尋ねします。大会は5月27日より開催中ですね。以降のスケジュールについて、そしてTWCの楽しみ方についてお伺いします。No Bomb部門とScore Attack部門があると思いますが、特に注目すべきポイントはどこになるのでしょうか?
海神:
スケジュールはこちらになります。
皆様、大変長らくお待たせ致しました! TWC2023の全試合スケジュール表、そして各選手のチーム分けについてお知らせ致します!! 今年はチーム霊・蓮・和の三チームで得点を競います! 本戦開幕となる第一試合は、5/27(土) 21:00から紺珠伝Lunaticノーボムをお届け! ではTWC2023をお楽しみください! pic.twitter.com/4g9V18YCqO
— Touhou World Cup 日本支部 (@TWC_JP) May 24, 2023
続いて試合の見所ですが、どちらの部門にも共通しているところが2つあります。「難所を越えられるかどうか」と「ノーミスで進行している時の後半面」です。
基本的に5、6面は難所が多いです。しかしそれだけでなく、作品によっては1面からかなり難しい弾幕を相手にする場面や、高度なスコア稼ぎを行う場面が存在します。これらについては可能な限り配信内で解説するつもりですので、是非解説を聞いてそこに注目してみて下さい。
その上で、後半面に注目して欲しいです。ノーミスで後半面に突入した選手の、思わず固唾をのむ緊張感が伝わってくると思います。
――今年のTWCにおける見どころについてお願いします。
海神:
長らく参加されている選手の練度、ライバル関係にある選手の戦い、あるいは新しい部門の開催。1位であり続ける最強の選手が今年も優勝をもぎ取れるのか、ダークホースが現れるのか、新しい部門に挑む選手がいったいどのような動きを見せるのか。そんなTWCならではの物語に注目してほしいと思っています。
――最後に、TWC2023を観戦するファンの皆さんにメッセージをお願いします。
海神:
今年も熱くて楽しいTWCになると思います!
開幕戦、紺珠伝Lunatic NB部門から非常に熱い試合となりました。紺珠伝は弾幕が難しく、5被弾以内でクリアするということそのものが非常に難しいです。王者SNTさんの、5凸NNからの5被弾でのクリア、というとんでもないプレイから始まったこの試合。対戦相手のGolden Strawberryさんは巻き返すことができるのか、勝敗ははたしてどちらの手に!? 手に汗握るアツい戦い、ぜひアーカイブからご覧ください!!
今後もこのようなアツい試合が沢山見られることでしょう。ぜひ、希望の面がどのチームの手に渡るのか、その目で見届けてください!
選手たちの雄姿をご覧あれ!TWC2023は5月27日より開催中
前編にもあったように、Touhou World Cup 2023は5月27日より開催中です。現在第5試合まで行われています。
明日6月10日の午後2時より、第6試合が開催される予定です。第6試合は星蓮船Lunatic Score Attack、スコアタ界の超人たちが集う注目の試合となっています。続いて第7試合は風神録Lunatic Scrvivalが開催されます。若い選手によるハイレベルな試合、いったいどんな物語が生まれるのでしょうか。どちらの試合からも目が離せません!
7月末まで開催されるTWC2023はまだまだ始まったばかり。トップシューターのアツい祭典を、ぜひご覧ください!
皆様、大変長らくお待たせ致しました! TWC2023の全試合スケジュール表、そして各選手のチーム分けについてお知らせ致します!! 今年はチーム霊・蓮・和の三チームで得点を競います! 本戦開幕となる第一試合は、5/27(土) 21:00から紺珠伝Lunaticノーボムをお届け! ではTWC2023をお楽しみください! pic.twitter.com/4g9V18YCqO
— Touhou World Cup 日本支部 (@TWC_JP) May 24, 2023
編註
記事内の用語について誤りがありましたため、該当箇所を修正しました。
現在は修正済となっています。
東方の弾幕の「個性」に魅了されたので、全部完璧に避けました――最高峰の東方原作STGの国際大会『Touhou World Cup 2023』日本運営代表、海神氏インタビュー(後編) おわり