東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2023/06/08

中国から全世界へ、集えルナシューターたちよ――最高峰の東方原作STGの国際大会『Touhou World Cup 2023』日本運営代表、海神氏インタビュー(前編)

『Touhou World Cup 2023』日本運営代表、海神氏インタビュー

 さあ、それぞれの“東方力”を武器に、魅力的に戦い、希望のお面チームの勝利を奪い合え!

 2023年5月27日より、東方原作STGシューティングゲームの最高峰の国際大会である『Touhou World Cup 2023』が開催されています。

 東方原作STGの最高難易度である「Lunatic」を軽々クリアするような、「狂おしい」腕前を持ったプレイヤーが集うこの大会。日本国内だけでなく、中国の、そしてヨーロッパの猛者たちが、短い制限時間の中で最高のパフォーマンスを目指して競い合います。

 今年で4度目の開催となるTouhou World Cup(以下、TWC)ですが、原作STGコミュニティの国境を越えた交流の場になっているんだとか。実は、日本のみならず世界中で東方原作STGは遊ばれているのです。そもそもTWCの開催のきっかけは日本じゃなかった!? 大会での試合も非常にアツいのですが、運営の裏話からも目が離せない! 

 前編では、晴れやかな弾幕シューターの祭典『Touhou World Cup』の深い歴史、そして運営を続ける中で生まれたシューターたちの国際交流について。続いて後半では、大会の見逃せないポイント、そしてシューターたちをここまで魅了する「東方原作の魅力」とは、いったい何なのか。東方原作コミュニティのアツい現状について、TWC日本支部の現代表、海神わだつみさんにお話を伺いました!

文・聞き手:おみず

 

国別から、3チームの対抗戦へ

――この度インタビューをさせていただく海神さんの自己紹介をお願いします!

海神:
 海神です。地霊殿が大好きでほぼ地霊殿しかやっていません。原作はかなり遊んでいて、地霊殿Lunatic NNノーノ―【※】4機体達成、神霊廟Lunatic NNノートランスなどを達成しています。TWCについては2021年から運営に参加し、今年は代表として運営を率いています。

 このような機会を頂き恐縮です。よろしくお願いします。

【※】NN:No Miss No Bomb. 一度のプレイで、一度の被弾もせず、ボムもまったく使わずに、すべての弾幕を完璧に避けること。こんなプレイができるのはSTGの妖怪だけです(褒め言葉)。

――まず初めに、Touhou World Cupはいったいどのようなイベントなのでしょうか?

海神:
 Touhou World Cupとは、年に一度行われる、東方原作STGの非公式の国際大会です。

 現在のTWCは3チームの対抗戦となっています。ビジュアルにもありますように、今年は秦こころをモチーフとした大会です。チーム名はそれぞれ「霊」「蓮」「和」ですね。各チームから選ばれた3人の選手が、オンライン上で同時に並走する形でそれぞれの試合を行います。今年は開幕戦が5月27日に行われ、最終戦は7月末を予定しています。

 試合についてですが、紅魔郷から虹龍洞までの各作品ごとに、Lunatic Survival、Lunatic Score Attack、Extra Score Attackの三部門の試合が開催されています。Lunatic SurvivalはLunaticをNBノーボム【※】で戦う部門、Score Attackはその名の通りスコアで戦う部門です。

【※】NB:No Bomb. ボムを使わずにクリアする縛りプレイの一種。Normal NBはHardクリアと同じくらい難しいと言われるように、ボムを縛ることで難易度は大きく上がります。

――今年は秦こころをテーマとした大会になっているのですね。テーマとなるキャラクター、そしてそれぞれのチーム名はどのようにして決まったのでしょうか?

海神:
 毎年テーマを誰にするか、チーム名をどうするかについて、運営内で会議をしています。私は全力で村紗水蜜を推したのですが却下されました(笑)

 秦こころというと代表的なのはお面ですが、チーム名をどうするか本当に悩みました。お面にするか、感情にするかなど散々悩んだ末、東方心綺楼のストーリーに沿って、チーム名を宗教にちなんだものにしようと考えました。ただ、実在する宗教の名前をそのまま使用すると問題が発生しますので、「博麗霊夢」「聖白蓮」「豊聡耳神子」の3人からとって、チーム名を作成しました。

――そのような経緯で今年のチーム名が決まったのですね。去年以前のテーマとなったキャラクターは誰だったのでしょうか?

昨年開催されたTWC2022のメインビジュアル。古明地こいしをモチーフとする大会でした

海神:
 去年はこいしがテーマでした。それに合わせて日程を調整し、大会の開催日は5月14日、第一試合は地霊殿Extra Score Attack部門になりました。その試合には選手として参加したのですが、悔しくもこいしに会うことが叶わず、結果を残すことができませんでした(笑) 去年は毎週末2試合ずつの進行で、最後のエキシビジョンマッチが7月中旬という日程でした。

 一昨年までは、実はテーマとなるキャラクターはおらず、3地域の国別対抗戦となっていました。日本・中国・西欧の3地域でそれぞれ代表を募り、地域の間で競い合うといったものです。今とルールはほとんど変わらず、国籍別でチームが組まれていた形になります。

 国別対抗戦から3チーム対抗戦になったのは、プレイ人口の偏りが原因ですね。日本のゲームということもあり、最も東方のプレイ人口が多いのは日本です。そのため国別対抗戦では、海外の参加者がいないせいで開催されない部門ができてしまいました。もっとさまざまな部門の試合を届けたいという思いから、現在では国籍に関係のない3チームで対抗戦を行う、という形になっています。

 そのような変更の甲斐あって、TWC2023では、花映塚Extra Score Attackと虹龍洞Lunatic Score Attackの2部門について、初めて開催することができました。

 

中国国内だけでなく、世界規模の大会を開きたい

――そもそも、どのような経緯でこのイベントは開催されるようになったのでしょうか。

海神:
 発端は中国になります。中国では、毎年夏と冬に東方原作STGコミュニティ内で行われる大きな大会があったそうなのですが、Ceroさんという方が「他の国も巻き込んで、もっと大きな規模で開催したい」と考えたのがTWC開催のきっかけです。

 初開催のTWC2020は、Ceroさんが日本のトッププレイヤーであるSOCさんと、西欧圏のとあるシューターに話を持ちかけ、そこから中国のコミュニティとそのふたりが主体となって開催されました。

――なるほど、TWCは中国コミュニティに起源を持つのですね。続いて、国際大会として成長していく過程についてお伺いしたいです。運営の中で、国を超えた交流もあったのでしょうか?

TWC2021のエンディング。さまざまな国籍の運営、選手が参加しています

海神:
 先程述べた通り、きっかけは中国のシューターCeroさんでした。ですが、いきなり中国コミュニティから参加者を募っても、選手・運営共になかなか集まらなかったようです。

 こと、運営に関しては私も関わりが無かったので分かりませんが、日本の選手に関してはSOCさんが殆ど人集めをしていました。昔から東方をやっていて顔が広かったということもあり、SOCさんに誘われて参戦した日本の選手は沢山おられました。TWC2020は国対抗のチーム戦だったのですが、日本チームは参加者のいない部門がほぼ無かったほどです。西欧の運営も同様にアンテナを広げ、選手を募っていたようです。

――ありがとうございます。初回のTWC2020ではSOCさん主導で運営されていたのですね。海神さんはTWCの日本支部の現代表、とのことですが、運営の中でどのような変化があったのでしょうか?

海神:
 初開催のTWC2020はほぼSOCさんだけで運営を回していたようなものになります。選手の国籍が多様なこともあり、運営のまとめ役であるSOCさんに大きな負担がかかっていました。

 そこで、日本・中国・西欧、それぞれの地域で運営を分担する運びとなりました。このときTWC2021日本運営に手を上げたのが……6名だったでしょうか。このメンバーは今も中心となって運営を続けています。

 日本支部としては2021年当時から、各地域の運営と連携をとり、日本語訳サイトの作成、日本選手のスケジュール調整や連絡を主な活動として行ってきました。そして今年は新たに、TWCを日本でさらに盛り上げられるように、「Touhou World Cup 日本支部」のTwitterアカウントを開設しました。これにより、アンケートや告知ツイートがより多くの人に届く形になったと思います。

――なるほど、そのような形で日本支部というものが誕生したのですね。TWCの運営を通じて、他の地域の方と交流することはあったのでしょうか?

海神:
 TWCの運営に参加する以前は、私の場合、海外のシューターと関わる機会はあまり無かったです。しかし、TWCを通してお互いの交流が深まり、話す機会が増えたように思います。TWCが終わる頃にはすっかり意気投合し、シューターへのインタビューをお互いに行ったことがとても印象に残っています。

――相互にインタビューを行った、というのは面白いですね! TWCの試合を受けての内容になると思いますが、どのようなことを話されたのでしょうか?

海神:
 3年以上前のことなので、詳しくは覚えてないです。「好きなキャラは?」や「好きな弾幕は?」みたいなよくある質問から、「東方の打開をする時の普段の生活は?」「TWCの試合中何を考えていたか?」のような踏み込んだ質問までしていました。

 TWCの試合中どんなことを考えていたのかという質問について、私自身の例にはなってしまうのですが、TWC2020の地霊殿Lunatic Survival部門のことが強く印象に残っています。試合自体には緊張していなかったのですが、一つ不安に思っていたことがあったのです。エンディング隠しに「5ムラサ」の画像を用意していたのですが、それが会場にウケるかなって……(笑) 

海神さんのエンディング隠し「5ムラサ」。コメントも大盛り上がりでした。個性的なエンディング隠しもTWCの見どころです

 東方原作のエンディングはインターネット上にアップロードしてはならないので、選手は完走後、エンディングを写さないようにするための画像を用意することになっています。これもTWCの見どころのひとつですね。私は星蓮船の村紗の立ち絵を並べた「5ムラサ」の画像を用意したのですが、スベらないかが本当に心配で。試合中もそのことばかり考えていたのですが、いざエンディング隠しで画像を張ると、配信は大盛り上がりしていました。特に中国の方にウケて、これがきっかけでBilibili動画を通じて中国の方からインタビューを受けました(笑)

 もちろんただふざけていただけではなくて、この試合では、にとり装備の魔理沙Cで2ミスを出して優勝、という結果を残すことができました。

 このような感じで、日本主催で中国の方のインタビューをしたり、逆に中国の方に招かれたり、と交流を行っていました。

――エンディング隠しの画像から交流が深まるなんて、大変面白いエピソードですね。ぜひ皆さんも、エンディング隠しになごみながら、大会を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 前編はここまで。後編では、TWCのベストバウトや、現在開催中のTWC2023の見どころについて伺います。

 Touhou World Cup 2023は5月27日より開催中です。現在第5試合まで行われています。6月10日の午後2時より、第6試合星蓮船Lunatic Score Attack部門が開催される予定です。7月末まで開催されるTWC2023はまだまだ始まったばかり。ぜひ、トップシューターたちのアツい試合をその目で見届けてください!

中国から全世界へ、集えルナシューターたちよ――最高峰の東方原作STGの国際大会『Touhou World Cup 2023』日本運営代表、海神氏インタビュー(前編) おわり

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