東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2022/04/28

ライトな層からコアな層まで~みんなで作る『大・東方Project展』― 大日本印刷株式会社(DNP)の企画担当者にインタビュー

『大・東方Project展』企画担当者にインタビュー

 開催を前日に控えた『大・東方Project展』。東方紅魔郷二十周年を記念して開催される本イベントは、大日本印刷株式会社が主催を務める意外性からも話題を呼んだ。

 VR画廊やXR技術によるキャラガイド、紅魔館のジオラマ展示など、さまざまな企画が展開される展示会となっている。

『大・東方Project展』は、どのように企画されたのか。本インタビューでは、大日本印刷株式会社(以下:DNP)・企画担当の池田氏、広報の野田氏にお話を伺った。

聞き手・文:紡

 

次男は「『東方Project』か『五等分の花嫁』」なら見てみたい」と言った

――この度開催となりました『大・東方Project展』につきまして、お話をお伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。早速ですが、イベント開催の経緯についてお聞かせください。

池田:
 今回の企画について、実は私の家庭から始まっておりまして。

――ご家庭から、ですか。

池田:
 そうなんです。我が家には子供が3人いまして、次男が中学2年生になります。仕事柄、若年層のトレンドがビジネスに結びつくこともあり、次男に「お金を出して行くとしたら、どの作品の企画展がいいか」と聞いてみたんです。

 そこで返ってきた答えが「『東方Project』か『五等分の花嫁』」でした。その時点では、私は東方についてほぼ何も知らない状態だったんです。そこで東方について調べてみたところ、非常に興味が湧いてきました。

「これはいけるんじゃないか」とZUNさんにお話を持っていったところ、快くお引き受けいただいて、企画がスタートしました。

――きっかけが息子さんからだったのは意外でした。

池田:
 実は、次男は東方のファンなんですよ。昨年も『博麗神社秋季例大祭』に一緒に参加しました。会場には家族連れも含めた若い世代が多い事に気づきまして、そういった層は、たとえばYouTubeでゆっくり実況を見ている子たちなんですね。

 動画に登場する、丸まってるかわいい女の子たちは誰だろうと深掘りしていく子たちもいて……うちの次男もそのひとりです。そこから東方の二次創作ですとか、原作のキャラクターに惹かれていった経緯があると聞いております。そういった流れは非常に面白いなと思いましたね。

――今の世代はYouTubeから入るのが定番というか、一番多く通る道とは聞きますね。息子さんとは、どんな音楽が好きやキャラクターが好きといったお話はされますか?

池田:
 一番好きなキャラクターは十六夜咲夜と言っていましたね。十六夜咲夜のキャラクター像もいろいろあると思うんですけど、その中でもかっこいい、クールなところに惹かれているようです。

 音楽に関しては幅広く聴いているようで、少女フラクタルや幽閉サテライト、暁Recordsに石鹸屋といったサークルさんの音楽をよく聴いていますね。

 

ZUNさんが作ってきた歴史を知る機会のひとつになれば

池田:
『大・東方Project展』は、私のように東方を知ったばかりの人間だけで企画を考えても、以前から東方に親しんでいるファンが喜ぶ展示にはならないと思ったんです。ではどうするのかとなったときに、東方のファンである息子の視点で、何があったら喜ぶのかとヒアリングしました。息子は東方全体でいえば、比較的ライトなファンにあたると思います。ライトファンは、企画に対して何を欲しているのか。その点を重要視しました。

 ライトなファンは、東方の二十数年の歴史といった部分はあまり知らないんですよね。展示によって、ZUNさんが作ってきた歴史を知る機会のひとつになれば幸いです。

 会場の東京アニメセンターについても触れておきます。“アニメ”センターという冠はついているんですけども、アニメコンテンツだけを取り上げる施設というわけではないんですね。今回の東方のようなゲームですとか、あるいは漫画に関しても、国内外に向けて認知を図っていくといったコンセプトの施設となっています。アニメでなければいけないルールはないんですよ。

――企画におけるメインターゲットの層がご家族にいらっしゃるのは心強いですね。

池田:
 長男が今は中学校3年生なんですけど、昔ゆっくりを使って実況動画を作っていたんですよ。今回のXRキャラガイドでもゆっくりを使った音声ガイドがありますが、その音声も息子が作っているんです。もう、家内制手工業みたいになっていますね。

――今は動画制作をする若い世代も増えてきたと聞きますが、こうして実例を聞くと驚きますね。
『大・東方Project展』はDNP様が主催を務めています。そうなると、やはり展示されている印刷物はアピールポイントなのかなと思うのですが、いかがでしょうか。

池田:
 印刷技術という点についてお答えをしますと、会場に展示されている36点の二次創作イラストは、それぞれプリモアートやアクリルアート、変わり種として刺しゅうアートといった弊社の印刷技術を用いて印刷しています。

 たとえばプリモアートという高精彩印刷は、10色のインキを使用することで、作家の皆さんが手掛けた色に限りなく近い印刷物を再現する技術です。刺しゅうアートは文字通り、本当に刺しゅうでできています。白い糸で刺しゅうをしてから、昇華転写と呼ばれる技術であとから色を印刷する方法ですね。こうした、大日本印刷ならではの印刷技術を駆使して展示をご用意しています。

 一方で、XRによるガイドといった、印刷技術とはまた異なる領域の展示物もテーマのひとつとして掲げています。

野田:
 DNPでは、バーチャルへの取り組みも始めております。バーチャルでの鑑賞体験から、リアルでの作品購入に結びつくといった、バーチャルとリアルを行き来することで、皆さまの体験の付加価値を高めるためのXR事業を推進しています。

『大・東方Project展』の会場となる東京アニメセンターは、そのためのショーケースのような役割を担っている側面もありますね。

池田:
 入場特典として配布しておりますVR画廊も、現実の展示ではなかなかできないような豪華な画廊をバーチャルで見せることができます。そこで気に入った絵があれば、通販サイトから注文もできる。

 この一連の流れは、今後さまざまなコンテンツで応用が利きますので、モデルケースとしてどう成り立つのか、今回の展示で確かめたいところです。

 

みんなで作る東方

――会場では、紅魔館のジオラマも展示されてますよね。

池田:
 去年の夏に『アニメーション 呪術廻戦展』という展示を開催しまして、そこで一番注目されたのが五条悟の等身大フィギュアでした。五条悟が領域展開をするような演出まで作り込んでお見せしたところ、それが評判となって多くの方に認知いただけた事例があったんですね。

 そうした前例もあり、今回の展示においてもコアとなる展示物が必要だと考えました。そこで、やはり紅魔郷二十周年という節目の年にも当たりますので、それなら紅魔館を作れないかなと思ったんですね。

 では、どうやってジオラマを作ろうかとなったときに、昔仕事でご一緒した情景師アラーキーさんにご連絡をしたところ、快く引き受けていただきました。アラーキーさんがやってくれるなら、とんでもない作品が出来あがるだろうとお願いした流れです。また、展示に関しては、一部を除いて撮影OKとしております。

――展示イベントでほぼすべての展示が撮影OKというのは珍しいですよね。

池田:
 ほとんどのコンテンツIPは、権利を護る方向にいきがちですよね。でも、東方はその逆というか、むしろ公に二次創作を認めている珍しいコンテンツなのではないかと思っています。

 それこそが、さまざまなユーザーにリーチする要因のひとつになっていると感じますね。『大・東方Project展』においても、護るよりは開放するコンセプトで企画を調整しています。

――開催に際して、事前にイラストコンテストも開催されていましたよね。

池田:
 イラストコンテストについては、息子と昨年の『博麗神社秋季例大祭』に参加したときの経験が盛り込まれています。例大祭は実際に参加してみると家族連れであったり、若年層の参加者が多く見受けられたりと、新鮮な驚きがありました。

 そこで実感できたこととして、今の東方のファン層は大きくふたつに分かれていると私は理解しました。まさに自分の息子のような、原作はよく知らないし、例大祭などのイベントにも頻繁に足を運べないけれど、東方のことは知っていて好きだというライトなファン層と、一方で、原作も遊んでいて、即売会などのイベントにも積極的に足を運ぶコアなファン層です。

 例大祭には、そのどちらの層も参加していることが肌で感じ取れました。そんな場であるからこそ、ユーザーが参加する企画のひとつとしてイラストコンテストが脈々と続いていると思ったんですね。

 若い世代が自ら描いたイラストが会場に展示される。そこに熱を感じました。例大祭のイラストコンテストからは、”みんなで作る東方”とでも呼ぶべき熱量があり、そうした即売会まで足を運ぶコアなファン層にも届いてほしいという思いを込めて、『大・東方Project展』でもイラストコンテストを開催いたしました。

――クラウドファンディングについてもお伺いします。こうしたイベントにおいてクラウドファンディングの形式は少し珍しいですよね。

池田:
 このCAMPFIREのクラウドファンディングは、アニメセンターにおいても初めての取り組みになります。実は、アニメセンターが入っている渋谷のモディ2階に、CAMPFIREさんの店舗があるんですね。アニメセンターとは同じフロアにありまして、お隣さんなんですよ。

 そうした縁もあり、何か面白いことはできないでしょうかといった話が出てくる中で、ZUNさんにご相談したところ、これもまた快く引き受けていただけた経緯がございます。

――そういった経緯があったんですね。会場については、地方在住のユーザーからは関東以外でもやってほしいといった声も見受けられます。今後、関東以外での開催予定はあるのでしょうか。

池田:
 まだ確定はしていませんが、各地域のHMVミュージアムや名古屋パルコと交渉中です。それが決まれば、全国3~4か所で巡回展をやることも可能かもしれません。

編註:
インタビュー後、名古屋PARCOでの巡回展が決定しました。
https://tokyoanimecenter.jp/information/20220422-1/

――展示内容についてもいくつかお伺いしてきましたが、池田さんから特に見てほしい部分などはありますか。

池田:
 今回、展示にご協力いただいた15の音楽サークル様がいらっしゃいまして、それらサークルのCDジャケットを5~600枚使った展示スペースは視覚的にもインパクトのあるものとなっています。

 また、目玉のひとつとしまして、YAMAHAのディスクラビアという自動演奏ピアノを展示しています。そのピアノは演奏を記録して、それを再生することができるピアノなんですよ。

 その自動再生のための演奏を、ピアニストのまらしぃさんが実際に弾いてくれました。内覧会でまらしぃさんの弾いた演奏が、そのままピアノから流れるようになっています。会場にお越しの方にはぜひ聴いていただきたいです。

――最後となりますが、展示を楽しみにしている東方ファンの皆さまに、メッセージをいただければと思います。

池田:
『大・東方Project展』はライトファンをコアなコミュニティへ橋渡しすることを目的として掲げています。

 このイベントに参加してくださる方が、より東方に興味を持って、例大祭やコミケにも参加する流れを作ることができればと思っています。

 これは私の妄想なんですけど、仮に幻想郷が二次創作界隈のメタファーだとすれば、二次創作活動までは至らないファンやDNPのような営利企業は人間界に属する、と私は考えています。ZUNさんは原作者として、また博麗神主としてその間をつなぐ役割を担っているように思います。誰しもが幻想郷に入り込める機会を創出されている。ですので、DNPも私も今はまだ人間界の外様というポジションですが、回を重ねて東方ファンの信頼を得ることで、二つの世界を結びつける役割を担っていきたいですね。この企画展もそうですが、何かを作ることって、単純に楽しいですから。

 そのような目的はありますが、コアファンにもお楽しみいただけると思いますので、ぜひ足をお運びください!

 

『大・東方Project展』イベント概要

イベント:『大・東方Project展』
主催:大日本印刷株式会社(DNP)

開催日程 : 2022年4月2日(土)~5月22日(日) 11:00~20:00(展示最終入場19:30)
会場 : 東京アニメセンター in DNP PLAZA SHIBUYA (東京都渋谷区神南1丁目21-3 渋谷MODI 2F)
入場料 : 1,500円(税込)
WebサイトURL : https://tokyoanimecenter.jp/event/dai_touhouten/
Twitter公式アカウント : https://twitter.com/dai_touhouten

ライトな層からコアな層まで~みんなで作る『大・東方Project展』― 大日本印刷株式会社(DNP)の企画担当者にインタビュー おわり