東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

詳しく読む
インタビュー
2024/06/13

埼玉県警がゆっくり解説!? 埼玉県警本部サイバー局に突撃インタビューしてきました

埼玉県警本部サイバー局に突撃インタビューしてきました

「ゆっくりしていってね!!!」でおなじみのお饅頭の東方キャラ(他IPやオリジナルキャラ含む)と、SoftTalkや棒読みちゃんをはじめとする合成音声とを組み合わせた解説動画、通称「ゆっくり解説」。

 現在YouTubeで「#ゆっくり解説」とタグ検索すると、39万本の動画・1.5万件のチャンネルがヒットするなど、YouTube界屈指の巨大コンテンツの一角を成している人気ジャンルです。

 そんなゆっくり解説で昨夏、あるチャンネルから1本の動画が投稿されました。

 それがこちら(↓)の動画。

▲【ゆっくり解説】~埼玉県警サイバー局の発足~【サイバー局①】
https://youtu.be/-7O8OT6vNkg?feature=shared

 そう、予想もしなかった埼玉県警の公式チャンネルからの動画投稿でした。

 これまでにも公的な機関によるゆっくり解説動画の投稿は少なからず存在しましたが、県警による投稿はこれが初めて

 なぜ「県警」という、ある意味“お堅い”“厳しい”機関が、今回ゆっくり解説動画を投稿するに至ったのでしょうか

 そんな疑問を解消するべく、我々編集部は実際に投稿を行ったサイバー局サイバー対策課がある埼玉県警察本部へ直接乗り込み、詳しく話を伺ってきました。

文/土露団子
聞き手・編集/西河紅葉

 

ゆっくり解説動画がいちばん良い

――この度は突然インタビューに応じていただき、ありがとうございます。早速ですが、『埼玉県警サイバー局』とはそもそもどういった機関なのか教えてください

サイバー局サイバー対策課:
 正式名称は「埼玉県警察本部生活安全部サイバー局サイバー対策課」と言います。サイバー局はサイバー空間(※広義としてのインターネット空間)において市民の生活安全を守るためにサイバー犯罪の取り締まりや被害防止活動など、様々な取り組みを行う部局になります。
 サイバー局内には、犯罪による被害の防止を担う「サイバー対策課」と、事件の捜査を行う「サイバー捜査課」の2つの部署に分かれています。ですので、今回のような「ゆっくり解説」の動画投稿は、前者の「サイバー対策課」が担当しています。

――サイバー対策課では今回のような動画投稿以外にも、犯罪被害の抑止につながる啓発活動を行っているのでしょうか?

サイバー局サイバー対策課:
 我々サイバー対策課では、サイバー犯罪の未然防止・広報啓発の一環として、様々な対策活動を行っています。特にここ最近においては官民の連携に力を入れており、市民の安全はもちろん、埼玉県内にある中小企業と共に対策を強化しています。
 一方で会社や団体だけではなく、個人に対しても街中や催事会場などで注意喚起を促してきまして、今回のゆっくり解説動画の投稿も、そういった草の根的な啓発活動の1つになります。

――これまでにも、サイバー対策課による動画投稿は行っていたのでしょうか?

サイバー局サイバー対策課:
 サイバー対策課の前身となるサイバー犯罪対策課などからも、ゆっくり解説ではないですが、サイバー犯罪やサイバー攻撃対策啓発映像としていくつかの動画をYouTubeに投稿・公開を行っていましたが【※】、サイバー局となり、新たな切り口として「ゆっくり解説」の動画を作成しました。

https://www.youtube.com/watch?v=KEZAom5JNRU 
【※】その一例:サイバー攻撃対策啓発映像~標的型メール攻撃編~

――一般の人がイメージする警察の動画というと、このような“お堅い”ものですよね。なぜ今回「ゆっくり解説」という形で動画投稿を行ったのでしょうか?

サイバー局サイバー対策課:
「県警」と聞くと何となく“お堅い”と思われるかもしれませんが、先ほど申し上げた通り、サイバー局は埼玉県警察本部内でも比較的新しい部署になります。
 我々はこれまでの前例に基づいてではなく、より柔軟にいま自分たちが届けたい情報を誰に対してどのように届けるのかベストかというところから議論した上で、最終的にゆっくり解説動画が一番良いだろうという結論に至り、投稿を行いました。

――ゆっくり解説動画を投稿することに、上層部や他部署からの反発はなかったのでしょうか?

サイバー局サイバー対策課:
 いえ、特にありませんでしたね。もし仮にあったら、そもそも投稿できていなかったかもしれませんが(笑)
 初めての試みでしたから、ゆっくり解説動画を作るために、ゆっくり解説動画の作り方が解説されているゆっくり解説動画をたくさん視聴して勉強しました。

――まさにゆっくり解説動画の本領発揮といったところですね。

 

基本的に自分たちが撮影した自前の写真を使用しています

――今回投稿されたゆっくり解説動画ですが、改めてあの動画はどのようにして作られたのでしょうか?

サイバー局サイバー対策課:
 そうですね、基本的に全てフリーのものを活用して動画を作成しました。また動画内での写真素材につきましては、基本的に自分たちが撮影した自前の写真を使用しています

――あの素材は、県警のみなさんが撮影された写真だったのですか?

サイバー局サイバー対策課:
 はい、一部の素材はお借りしていますが、大半はサイバー対策課の職員が撮影をしたものです

――そ、それはなかなかにハードな制作でしたね……。ちなみに動画を作成するにあたって、他に苦労したことなどはあったりしたのでしょうか?

サイバー局サイバー対策課:
 まず前提として埼玉県警の公式チャンネルからの投稿になりますので、埼玉県民にゆかりのあるものを会話劇に交えながらストーリーを展開させるのが難しかったですね【※】
 あと、動画視聴後に「この動画って本当に警察が投稿したの?」と視聴者に思ってもらえるよう、ゆっくり解説動画の世界観を崩さないように注意を払っていました。ひとつあたりの動画時間を短く区切る、テロップのフォントは読みやすいものを選ぶ、1回見ただけで内容が頭に入るようにわかりやすい説明をする、といった部分は特に意識して作成しましたね。

【※】第5話では「彩の国」でおなじみの彩湖が紹介されるなど、埼玉県民には馴染み深いスポットが動画内に多数登場している

――どうりで、他のゆっくり動画解説と比較しても遜色違わない出来栄えだったのですね。ようやく腑に落ちました。

 

好意的な反応があって、それがとてもありがたかった

――さて、そんな苦労を重ねて作成・投稿された動画を振り返って、改めて率直な感想を教えてください。

サイバー局サイバー対策課:
 これは動画を作成した後に気づいたことなのですが、講演形式でその場で説明しようとすると、どうしても言い忘れてしまったり、時間の都合で言い逃してしまったりすることが少なくないんです。ですが、動画であればこちらが言いたいことをコンパクトにぎゅっとまとめられるのはとても良いな、と。
 また、講演形式の場合は終わったあとにフィードバックをいただく機会というのはそれほど多くありません。動画ですと、SNSに感想を書いていただけたりします。これは大きな違いでした。
 ゆっくり動画解説を始めたての頃は、ゆっくりをセリフに合わせて口を開けたり飛び跳ねたりする動きをさせるのが難しかったのですが、回数をこなす内にそういったことにも慣れてきて自然にできるようになると、自分でも成長を感じられてとても嬉しい気持ちになりますね。

――そういった嬉しい気持ちが、動画にも表れていたように感じます。動画投稿後の周りの反応とかはいかがでしたか?

サイバー局サイバー対策課:
 X(Twitter)で拡散された際に、「警察でゆっくりを投稿するのか、すげぇな」といった意的な反応があって、それがとてもありがたかったですね
 あと、このゆっくり動画を県内の施設の大きなスクリーンで流すこともあったのですが、その際に「あ、ゆっくりだ!」と子どもが指差して楽しそうに反応していたのも、嬉しかったです。先ほどもお伝えした通り、そういったフィードバックをいただけることは、職業柄あまりないので(笑)

――そういったプラスの感想を受け取るとモチベーションの1つに繋がるというのは、同人作家も警察官もそう変わらないのかもしれませんね。

 

自分の身近なところに犯罪がある

――最近の東方ファンは若年層が急激に増えています。動画でも様々な注意喚起を行っていましたが、サイバー局として特に注意してほしいことはありますか?

サイバー局サイバー対策課:
 そうですね、今の若年層の方たちはスマホを用いたSNSでの交流が盛んで、交流する相手の顔を見たこともなければ、その相手の本名すら知らないというケースも少なくないと思います。
 そういったネット空間では、普段生活を送っていたら間違いなく接点を持つことができなかったであろう人同士でも繋がりを持ててしまう、というのは良い面もあれば当然、悪い面もあります。画面の向こう側の人を安易に信じてしまうと、簡単に犯罪に巻き込まれてしまうので注意を払うことが大事ですね。

――SNS上でのトラブルは、人と人との揉事もそうですし、最近では闇バイトや特殊詐欺といった組織的な犯罪も多いと聞きます。最近でもX(Twitter)での現金やグッズのプレゼント企画が特殊詐欺に使われているケースがあるなどして【※1,2】、関係各所から注意喚起が出されていますよね【※3】

【※1】X(Twitter)で「東方 プレゼント」と検索すると、多数のアカウントがヒットする


https://www3.nhk.or.jp/news/special/net-koukoku/article/article_17.html
【※2】現金プレゼントによる特殊詐欺が行われた事例(「追跡!謎の“現金プレゼント”」NHK NEWS WEBより引用)

【※3】警視庁からの呼びかけ

サイバー局サイバー対策課:
 SNSでこういった犯罪に巻き込まれると、自分のアカウントを乗っ取られるだけでなく、赤の他人によってなりすまされ、自分のアカウントが犯罪のツール集めにも使われてしまいます。そして犯罪が露見すると、今度はなりすました人ではなく、乗っ取られた自分に対して、被害に遭った人から誹謗中傷が入るケースもしばしば見受けられます。被害者から見れば、その人がなりすまされていたかどうかまでは分かりませんからね。本当は自分も被害者であるはずなのに、SNS上では加害者扱いされてしまうのです

――想像するだけでゾッとしますね。他に若年層に向けてこれから気をつけていただきたいことはありますでしょうか?

サイバー局サイバー対策課:
 成人したばかりの方たちに特に気をつけていただきたいのが、動画でも紹介したフィッシング詐欺ですね。全国で令和5年中の、銀行を騙ったフィッシング詐欺でインターネットバンキングの不正送金が80億円以上、またクレジットカード会社を装ったフィッシング詐欺でクレジットカードの不正利用が500億円以上の被害となっています。
 被害額に加えて、他機関への影響が広範囲にわたるので、我々サイバー局としてはこの被害を一刻も早く食い止めたいと考えています。県内での講演や街頭でのキャンペーンを行ったり、今回のようなゆっくり解説動画を作成するなどして、啓発活動に力を入れています。

――犯罪を他人事として捉えるのではなく、自分事として捉えることで、被害者にならないようにすることが大事というわけですね。

サイバー局サイバー対策課:
 そういうことです。自分の身近なところに犯罪があるという意識で行動することが、犯罪に巻き込まれないようにするための大事な一歩です。

 

今後もフレキシブルに対応をしていきたい

――サイバーセキュリティアワード2023にて、埼玉県警のゆっくり解説動画がWeb・コンテンツ部門で優秀賞を獲得したと伺いました。率直な感想を伺いたいです。

サイバー局サイバー対策課:
 表彰されたことは非常に嬉しいですね。今後も積極的な啓発活動につなげていきたいと考えています。

▲サイバーセキュリティアワード2023にて、埼玉県警のゆっくり解説動画がWeb・コンテンツ部門で優秀賞を獲得したことをSNSで報じた際の様子。また、このニュースは新聞各社でも報じられました。
https://www.yomiuri.co.jp/local/saitama/news/20240315-OYTNT50259/
(「埼玉県警のサイバー犯罪防止動画「ゆっくり解説」で再生増…「セキュリティーアワード」優秀賞に」読売新聞より引用)

――ゆっくり解説動画もそうですが、本編を切り抜く形でショート動画もYouTubeに投稿されていました。今後もまた投稿する予定はありますでしょうか?

サイバー局サイバー対策課:
 もちろんあります。今後もフレキシブルに対応をしていきたいですね。

――最後に、東方ファンならびにこの記事を読む人に向けて一言お願いします。

サイバー局サイバー対策課:
「サイバー犯罪は身近なものである」ということを、動画を通して改めて意識してほしいです。皆さんには動画を参考にしながら、被害に遭わないように今後も気をつけていただきたい。
 我々としても引き続き、堅苦しくなりすぎず、難しいことを丸くしながら啓発活動を続けていきます

――本日はありがとうございました。

 

インタビューを終えて

 いかがでしたでしょうか?

 警察官という“お堅い”“厳しい”相手であったにもかかわらず、結果として非常に“ゆるい”インタビューとなりました。

 埼玉県警サイバー局サイバー対策課の今後の活動は「引き続きyoutubeやXをはじめとするSNSに力を入れて継続していく方針」とのこと。また「XやYouTubeのコメントは閉じているが、Xの引用ポストなどは感想含めてコメントには概ね目を通しているので、動画を拡散時に一言あると今後の励みになる」といったコメントもいただくことができました。この記事をきっかけに動画を見たら、そっと感想を添えて拡散すると良いかもしれませんね

 昨年に続いて今年もイベント盛りだくさんの東方Projectですが、トラブルや犯罪に巻き込まれないよう、この記事を読んだ皆さんはぜひ注意してくださいね

 それでは、今後もよい東方ライフを。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

埼玉県警がゆっくり解説!? 埼玉県警本部サイバー局に突撃インタビューしてきました おわり