東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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20年やってきた今だから話せる、東方創想話に込められた想いとは……? 東方創想話管理人marvs氏ロングインタビュー(中編)

東方創想話管理人marvs氏ロングインタビュー(中編)

 『東方創想話とうほうそうそうわ』というサイトが、去る2023年7月5日に開設20周年を迎えました。

 東方創想話は、東方Projectの二次創作を専門としたSS【※】投稿サイトです。その歴史は非常に古く、東方妖々夢(製品版)が頒布されるおよそ一ヶ月前に開設したとされています。

 今回は、その東方創想話を東方周辺コミュニティの黎明期から運営し続けてきたCoolier(クーリエ)管理人・marvsマーブスをお迎えし、当時のコミュニティや東方創想話の歴史などについて語っていただきました。

【※】ショートストーリーの略。本来は短い小説を指す語だが、ここでは小説作品全般を指す。

文・聞き手/サク_ウマ
編集/土露団子

「自分だけが残っちゃったな、みたいな」

marvs:
 今回のインタビューにあたって、手元のローカルに置いてある東方専用リンク集を久しぶりに見てみたんですが、大半のリンクが切れているんですよね、悲しいことに。
東方創想話とほぼ同時期のサイトに『ほんのひなんじょ』と『東方蒐集所』っていう所があって【※】、どちらも2ちゃんねるの東方専用スレッドでして、それらが東方に関係するニュースサイトの中心だったんです。創成期、windows版の東方が出てからの一年ぐらいは、だいたいこの辺のサイトが中心として回っていた感じでした。
 こういったサイトで活動していた人たちの中で今でも活動している方はゼロではありませんが、それでも自分だけが残っちゃったなみたいな感じは若干あります。老人会的な昔語りですが【※】(笑)

【※】『ほんのひなんじょ』:東方辞典や各東方HPの更新情報が掲載されていた。『東方蒐集所』:東方関連のAAがまとめられていた。(どちらも現在リンク切れ)

【※】のちに日本のSNSの黎明期を支えることになるmixiのサービスが開始されたタイミングでもあった2004年の初頭では、marvs氏を含めた東方好き数十人が、夜な夜な『雀風荘』というオンライン麻雀ゲームのチャット欄にこぞって集まっていたとか。

――老人会というか、そこまでいくと考古学の領分ですよね。

marvs:
 もう当時の話なんて話す機会がないんですよね、懐古的な話題になってしまうんで(笑) だからたまに話す機会があると、僕たちの世代はみんな嬉々として語りたくなってしまうんです

――東方も、今と昔で雰囲気が違うことがわかって、興味深いです。

marvs:
 そうですね。いいか悪いかは別として、今の東方の雰囲気は……と言っても、私の言う「今」の範囲は、10年ぐらいになってしまうんですが(笑) 02年から04年ぐらいの最初期と比べると、明らかに空気が違うと思いますしね。
 ちょうど『東方香霖堂【※】』が始まって話題になったのが2003~4年ぐらいなんですよね。「商業で東方のZUNさん本人書下ろしの小説が毎月毎号雑誌に載るらしい!」「主人公は男だってよ!」「男なの!?」と、若干騒ぎになった記憶はあります。「幻想郷に男いたんだ」からはじまって「男を許容するのか」「でも原作者のキャラクターだぞ?」「原作者なんて関係ねぇ!」、みたいな感じで。
 ですから、空気という意味でも今と全然違うと思います。

【※】東方Project書籍作品としては開始時期が最も古い作品でもある『東方香霖堂 ~ Curiosities of Lotus Asia.』。時おり他キャラクターの一人称視点が挿入されることもあるが、基本的には主人公である森近霖之助の一人称視点でストーリーが語られる。画像はKADOKAWAWebサイトより引用。

 

東方創想話における得点機能実装の歴史

marvs:
 一応、当時からつけていた更新履歴があって、そこから何年の何月に何があって何をしたみたいなのを、東方創想話に関するところだけ抜粋して持ってきました。ここに載っていない重要なポイントもあるんですが、とりあえず残していた年表はこんな感じです。

▲全ての更新履歴の情報は旧Coolierのトップページに、2003年から2016年までの13年間にわたって記載されている。

 まずは「2004年1月24日……妄想人さまの全面協力により東方創想話を改造しました」。
 この方は『東方妄想録』っていう名前のサイトで絵を描いていらっしゃる方だったんですが、CGIとかに明るい方でして、ちょっと無理を言って創想話の改造をお願いしていたんですね。何を改造したのかっていうと、創想話にRateレート【※】が追加されたのがこの時なんですよ。

【※】クーリエのHPに記載されているレートについての説明文。総得点数・評価数とはまた異なる、高い評価をどれだけ多く受けているかの指標になる数値。一般に高いほど評価が高水準にまとまっているとされる。

――それまではレートの機能がなかったんですか!?

marvs:
 なかったんですよ、もともと。僕がお願いしたわけでもなくて、たぶん得点っていう評価があるのを見て思いついたんだと思うんです。
 レートの計算式っていうのはずっと創想話・クーリエのトップページにも載ってるんですけど、その計算式を考えたのがこの妄想人っていう方でしてこれは追加された時から今もずっと残っています

――では、この得点という機能自体も妄想人さんという方が手伝った時に生まれたのですか?

marvs:
 そこは、『アンソロジー【※】』にもとからそういう機能があったんです。「創想話には得点評価がなんであるの?」っていうのは「もともとあったから」なんですよね。この年表に載ってないことの中で、最重要なのがその得点に関することなんです。
 得点評価って今は10点から最高100点と10点刻みで得点が入れられるようになってるんですけど、開設当時はデフォルトをそのまま使っていたので、得点が10点刻みで最高が50点、最低-30点まであったんですよ。

【※】前編にも登場した、初期の東方創想話に使われていたSS投稿機能付きCGI

――そんな点数配分だったんですか!? (驚)

marvs:
 恐ろしい得点配分だったんです。当時から「マイナス点ってどうなんだろう」という声はありました。最高点を下手に動かしてしまうと、前と今でその得点を見る基準が変わってしまうので。
 でもやっぱり「気に入らない作者・作品には-30点」みたいな調子で、悪い使い方をされてしまうんですよね。それはさすがにっていうので、今の範囲になったんです。ただ、そうしたのがレート機能の実装より前だったか後ろだったのか、僕ももう覚えてないんですよね。

コラム:コメントの有り無しで評価点が分かれている理由

「特別何か劇的な変化っていうのはないんです」

marvs:
 次、「2005年1月20日カテゴリー『プチ東方創想話ミニ』を新設しました」。
 創想話は、投稿する作品の長さについては特に触れていないんです。ただ、あんまり短かったりすると叩かれて、マイナス30点が入ってしまったりしていたんです。それで特に長さを気にせず、ついでに得点制も取っ払って、創想話のサブとして設置したのが、このプチ東方創想話ミニだったんですが、創想話の方で短い作品が投稿されたりすると、「ミニでやれ」みたいなコメントがつくようになったんです。

――あらら……。

marvs:
 名前がプチだのミニだのついてるから、短いもの専用みたいじゃないですか。長さについてどうこう制限を設けてるわけじゃないのに、この名前はどうなんでしょうっていう指摘があったんですね。確かにと思って2010年に『東方創想話ジェネリック』に改名したっていう流れですね

――そして今に続く、と。ここまで東方創想話の略歴を語っていただいたわけですが、管理人として「この時期で明確に創想話の雰囲気が変わったな」みたいな経験はありましたか?

marvs:
 創想話に限っていうと、特にないんです。
 東方全体でいうと、ファン層の入れ替わりとか商業展開とか色々あって、創想話の周辺の空気が目まぐるしく変わっていきましたし、さっきのスクリプトとか点数の幅が変わったっていうことはあったんですが、内容とか投稿される作品とかその辺に関しては、特別何か劇的な変化っていうのはないんですよ。東方作品の傾向とかに目を向けていけば、変化はあるのかもしれないんですけれど。
 ただ、創想話独自の空気っていうのはあると思うんです。2004年に小説家になろう【※】さんとかも入ってきて、2010年にpixiv(ピクシブ)の方でもSSを投稿できるようになって、東方のSSを投稿する場所の選択肢が創想話以外にも色々増えていきましたが、サイトごとの雰囲気ってあるんですよ。創想話だとやたらコメントが厳しいとか続き物に厳しいとか、あとオリキャラが出てくる作品にも厳しい、みたいな。
 人が昔よりは減ってきてるので、多少緩くはなっているんですが、今でもやっぱり、この作品は創想話に出せるけど、これはちょっと違う所に出して、みたいに使い分けているSS書きの方はいるみたいですね。

【※】実は小説家になろうでも東方Projectの二次創作小説を投稿できる。なろう二次創作ガイドライン→https://syosetu.com/site/ff/
最初の頃は「にじファン」と呼ばれる二次創作専門の派生サイトがあったらしいが、2012年ごろに閉鎖されたとのこと。

――その空気感が出てきたのはいつ頃からのことなんでしょうか。

marvs:
 2ちゃんねるからだんだん創想話が離れてって、独自のSSの投稿場所として確立したのが00年代の後半ぐらいのことですね。なので、その頃からじゃないかなと。

「創想話のために書いて投稿してくれた作品のことを一番に考えたい」

marvs:
 これも雰囲気の話と少し関係しているのですが、創想話の数少ない明文化したルールとして「投稿する作品は創想話が初出、つまり初めて世に出すのが創想話な物に限る」というものがあるんですね。
 なぜかっていうと、まず創想話に投稿される方っていうのは創想話に投稿するために作品を書いているっていう人が多いんです。そういう所によそで公開済みの作品を投稿して、もともとのファンとかが100点ぽんぽんと入れて高得点を取ったとして、それらが同じように比べられるのは違うんじゃないかと。やっぱり管理人としては、創想話のために書いて投稿してくれた作品のことを一番に考えたいんですよね。
 だから、よそで公開した作品を創想話に持ってくる時は、作者自身が手を加えましたって胸を張って言えるレベルで何かしらの変更点を加えた上で出してください、っていうのは皆さんにお願いしています。そんなきっちりしてるわけじゃなくて、例えば創想話に投稿した1秒後に違うサイトとかに載せてても、そこまではうるさくは言わないんですけど(笑)
 ちなみにそれ以外の理由として、よその作品を自分のだと偽ったり、宣伝したい善意な第三者が勝手に創想話に持ってきたりっていう事案があったんです。あとは作者を詐称して削除依頼を出してくる人もいて。最初、僕がそれに気付かずに削除しちゃったら、本当の作者本人から「なんで消したんですか?」って来ちゃって。そこで初めて偽物だったと発覚したんです。
 創想話にはアカウントシステムがないので、なりすましの判断が付きにくいんですよね。だからそういうトラブルもあって、創想話初出の作品に限らせてもらってますっていうのは、改めて皆さんに周知をお願いしたい感じですね。

▲レート同様、クーリエのHPに記載されている諸注意。作品を投稿する前に必ず目を通しましょう。

――なりすましトラブルって実際にあったんですね。「できてしまうから初出作品じゃないと駄目」っていう話は聞いたことがありましたが……。

marvs:
 本当にあったんですよ。やる人いるんだ、みたいな。当時も本当にそんなことをする人がいるんだって感じで。もめちゃったっていうか、僕も削除しちゃったからあれなんですけど。
 もし今から外部公開済みの作品OKですよってやったとしても、それで続々と他の場所で公開済みの名作が創想話に来ることもないですしね。今更っていうのもありますし、今までの理念とかも崩れちゃうので、なくなる日までは、その辺が解禁されることもないかなって感じです。

――他にもmarvsさんの中で定まっているルールや方針などはありますか?

marvs:
 表立って規約とかで書いてるわけではないんですけれど、自分で全部見きれないから、何かトラブルがあったら報告してもらえると助かりますね。ただその際に、例えば「これは規約違反だから削除してください」みたいに言ってくる方もいて。連絡してくれる人たちは絶対に思っていないんですけど、それに対して「確かにこれは規約違反だから削除しました」っていう体を取ってしまうと、管理人が一利用者の声に従って動いたっていうことになってしまって良くないんですよね。
 だから、あったことだけをそのまま報告してもらいたいです。これは規約違反だとか、じゃあ削除するか注意に留めるかアクセス規制までかけるかっていう判断は、全部僕が決めますから。
 ただ、こういう創想話のルールっていくつかサイトには載せてるんですけど、あんまり線引きをきっちりしていないんですよね。そこを線引きしてしまうと、その通りにやんなきゃいけなくなるので。それでその辺を曖昧にしてるんです。

――それは創想話を作った時からの方針なんですか?それとも運営していく中で自然と生まれてきたものなんですか?

marvs:
 どっちかっていうと後者ですかね。もともと必要なかったんですよ。人が増えていくにつれトラブルが起こるようになって、だんだん固まっていったルールですね。これも、あんまり大っぴらに喋っちゃうと意味ないんですけど、さすがにもう20年やってますから、今更その辺は喋っちゃって良いかなとは思うんで、今回話すことにしました(笑)

 

 (次回後編へと続く)

 

20年やってきた今だから話せる、東方創想話に込められた想いとは……? 東方創想話管理人marvs氏ロングインタビュー(中編) おわり