東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2023/10/18

東方小説投稿サイトの管理人は、界隈黎明期の生き証人だった。東方創想話管理人marvs氏ロングインタビュー(前編)

東方創想話管理人marvs氏ロングインタビュー(前編)

 『東方創想話とうほうそうそうわ』というサイトが、去る2023年7月5日に開設20周年を迎えました。

 東方創想話は、東方Projectの二次創作を専門としたSS【※】投稿サイトです。その歴史は非常に古く、東方妖々夢(製品版)が頒布されるおよそ一ヶ月前に開設したとされています。

 今回は、その東方創想話を東方周辺コミュニティの黎明期から運営し続けてきたCoolier(クーリエ)管理人・marvsマーブスをお迎えし、当時のコミュニティや東方創想話の歴史などについて語っていただきました。

【※】ショートストーリーの略。本来は短い小説を指す語だが、ここでは小説作品全般を指す。

文・聞き手/サク_ウマ
編集/土露団子

「東方創想話の主役は、投稿している人たち」

――まずは自己紹介をお願いします。

marvs: 
東方創想話という東方Project二次創作専門のSS投稿サイトを管理運営しています、marvsと申します。

――marvsさんはどのような経緯で東方と出会ったのですか?

marvs:
 2002年に東方紅魔郷が出た時、渡辺製作所【※】のなりたさんという方が自身のサイトで東方紅魔郷を紹介していたんですね。僕はそれを見たのがきっかけで入ったんです


【※】渡辺製作所:現サークル「フランスパン」。代表作は『MELTY BLOOD』『UNDER NIGHT IN-BIRTH』。かつて渡辺製作所は、自身のサークルで同人ソフトを紹介する活動をしていた。画像は駿河屋サイトより引用。

――そこから東方創想話を開設するまでに至った経緯はどのようなものだったのでしょうか?

marvs:
 当時、インターネット上のコミュニティっていうのは2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)が中心で、そこにPC用のシューティングを扱うスレッドが存在していたんです。だけど、東方が出て名が知られていくにつれて、スレッドが東方の話ばっかりになってしまって。そうなってくると、東方の話がしたい人たちと他の話もしたい人たちで、対立しちゃうわけです。そんな経緯から、2003年の3月に東方関連専用のスレッドが独立したんです。

 僕は当時、東方の初代スレからいたんですけど、専用のスレッドが立つと活動する人が増えて、スレ専用のアップローダー【※】が必要だって声が大きくなってきたんです。毎回違うところを自分で探して使うんじゃなくて、そのスレだけが使える専用のものが欲しいよねって

【※】スレ専用のアップローダー:当時の掲示板は画像をアップロードする機能がなかったため、外部のアップローダーと呼ばれるサイトに画像を上げ、そのリンクを掲示板に貼り付けていた。

 その頃、僕は東方と関係なく、「Coolier(クーリエ)」っていう名前の個人サイトを作っていたんです。ただ、特になんのコンテンツもなかったので、自分のコンテンツとしてアップローダーを作ればいいんじゃないかって考えたんですね。それで2003年の3月にできたのが「東方うpろだ」です。

 その次に作ったのが、「お絵かき掲示板」なんですね。当時は上海アリス幻樂団のサイトにもお絵かき掲示板があった【※】んですけど、アップローダーの次の流れで「東方専用のお絵かき掲示板あったらいいよね」っていう話になって。そしたらお絵かき掲示板も僕が一緒に作ればいいじゃんって。まあ僕が勝手にそう思っただけなんですけど(笑)。これが5月末ごろの話。

【※】上海アリス幻樂団のサイトのお絵かき掲示板は、現在では閉鎖されており見られなくなっている

 で、ここからようやく創想話の話でして。アップローダーを作って、お絵かき掲示板を作って、その次にSS専用の掲示板【※】とかないのかな、って思ったんですよ。探してみたら、ちょうどぴったりのものが無料で公開されてるのを見つけたんですね。それが「アンソロジー」っていう文章投稿フォームのCGI【※】だったんです。そのCGIで文章専用・SS専用の掲示板を作ったのが2003年7月5日。アップローダー、お絵かき掲示板、創想話っていう3つのものを東方スレ用に作ったのが全部の始まりですね。

【※】SS専用の掲示板:スレッドに3-5行程度の短い小説を書き込む、ないしテキストファイルを張り付けることで、小説を投稿する文化が掲示板には存在する。ただしこれには一つのスレを一人で占有するのは難しい、テキストファイルをダウンロードしてわざわざ読むのは手間がかかるなどの問題点があった。
【※】CGI:Common Gateway Interfaceの略。Webブラウザ上でアプリを動かすシステム(プログラム)の一種。インターネットでホームページの自作が盛んだった頃は、掲示板・チャット・アップローダーなど、機能に応じたCGIプログラムが無料で配布されており、それらを好きに改造してサーバー上にアップロードして自分のホームページ上で動かしたりしていた。

――ここまで聞くと、特にトラブルもなく手慣れた様子で作り上げたように感じますが……過去にそういったプログラミングの経験などがあったのですか?

marvs:
 全くないんです、それが。

――全くないんですか!?

marvs:
 実際のところ、やろうと思えば誰でも出来たことなんですよ。元となったスクリプトは全部、無料で公開されているものだったんで。だから、仮に僕がCoolierで何も作っていなかったとして、この世に東方専門のお絵かき掲示板やアップローダーが存在しなかったかっていったら、絶対そんなことないんですよね。誰かがやっていたはずなんです。創想話だけは、ちょっと違う形だったかもしれないですけど。

 今回、インタビューとかいって僕が代表面してますけど、正直言うと僕が特別に何かしたことは全くないんですよね。アップローダーもお絵かき掲示板も創想話も、投稿している人が主役だから。あくまで自分はサイトの運営管理をやってるだけの傍観者なんです。昔から東方の世界にいるから、当時こんなことがあって……みたいな歴史のお話はできるんですけど。

 だからあんまり偉そうに語れるようなことは、この創想話も含めて特にないですし、あっちゃいけないと思っているんです。

――偶然タイミングが合って、そこにいたから、と。

marvs:
 たまたま2002年のあの時そこにいたからっていう、この一言で終わっちゃうんですよ。だから、渡辺製作所さんが書いた記事とかがもしなかったとしたら、そもそも僕が2002年にインターネット回線を引いてなかったとしたら、もう全部なかったことになってますね。

 

コラム:当時のインターネット回線事情

「東方ボーカルの走りの方にいるタイトルなんじゃないかな」

――marvsさんは創想話や掲示板以外で何か作られてはいましたか?

marvs:
 作っていたというか、ある意味Coolierの中で一番有名かもしれない「ゆかりんファンタジア
という曲があります。

――妙に聞き覚えがあるタイトルなのですが……すみません、あまり古い曲に詳しくなくて。

marvs:
 これは何なんだろうなぁ……(笑)。当時、八雲紫が特別好きな絵描きさんが一人いて、その人が八雲紫のBGMに合わせて歌詞を書いたんですよ。それで、曲があって歌詞があったら、じゃあこれ歌えるじゃん、本当に歌ったら面白いんじゃない? ……っていう悪ふざけが形になったのが「ゆかりんファンタジア.mp3」なんですよね

――歌詞がまず出てきたんですね。

marvs:
 そうですね。もともと歌詞だけがあって、2ちゃんねるのスレッドとかに、コピペとして貼られていたんです。そこから実際に歌うにあたってGP-LNさんとakさんという方に録音とかその辺の作業をお願いして。実際に秋葉原のどっかのスタジオ的な所を借りて、僕と含めて5人ぐらいで、こめかみに青筋たてながら歌ったのが『ゆかりんファンタジア』なんです。

 ちなみにマスタリングの時にちょっと文句言われました。みんなバラバラで揃えようがないんだけどって(笑)。僕は素人なんですいませんっていって謝って。それで、それをわざわざコミケに出して【※】、MP3はネットで公開して、それを聴いて激怒したたにたけしさんていう人が……。

─── 何で激怒するんですか(笑)

marvs:
 大好きな八雲紫でこんな頭のおかしい電波みたいに歌いやがって、と。それで怒り心頭で動画を作ってニコニコ動画に投稿したのが「ゆかりんファンタジア☆カオスフルだったかな。

──あぁ、あの罪袋【※】の!

marvs:
 そうそう。最近は東方だけじゃなく、よそのR-18作品にも出張してる、あの「罪袋」はこの動画が発祥なんですよ。

──そうすると大変恐縮ですが、marvsさんは罪袋の中の人のひとり……ということですか?

marvs:
 僕ひとりだけじゃないですけど……(笑)。「ゆかりんファンタジア」を生み出してしまった関係者という意味では「罪袋」の中の人のひとりではあるかもしれないです。

 この動画はニコニコ動画で、確か七桁再生されてるのかな……めちゃくちゃバズって。もともと東方ジャンル、東方のボーカルアレンジっていうのが本格的に出始めたのが、2005年より後の話だったと思うんで。ゆかりんファンタジアは2005年の8月。その当時のボーカルものっていえば、多分ビートまりおさんとIOSYSさんぐらいしか、なかったんじゃないかな。


【※】「ゆかりんファンタジア」が収録されたCDジャケット絵。現在でもCoolierのサイトから楽曲音源をダウンロードすることができる。


【※】「ゆかりんファンタジア☆カオスフル」にて初登場した罪袋。こういった話を聞いたうえで改めて視聴すると、紫の怒り心頭っぷりも頷けます。

──リリース日が2005年の8月15日ですね、確かに。

marvs:
 当時は「東方⑨大電波ソングみたいな括りでよく名前が上がってました。ほかが「最終鬼畜全部声とか、あとIOSYSのごっすんごっすんとか。

──「魔理沙は大変なものを盗んでいきましたですね。

marvs:
 あの辺とかと並んで「ゆかりんファンタジア」が出てきていたんです。たぶん、東方ボーカルっていう意味でも結構走りの方にいるタイトルなんじゃないかなあとはもう一つ、こっちはもうサイトの話ですらない、同人サークルとしてのCoolierの活動の話になっちゃうんですけど、お絵かき掲示板で活動されてた人たちに寄稿してもらって、東方の合同本を3冊出したんです。皆さん名前や連絡先を載せて活動してる人たちばっかりじゃないですから、なかなか難しかったんですけど。

――みんなで創る東方の合同本企画【※】というものですね。参加者の欄にZUNさんの名前がありますが……もしかしてこれって、ZUNさんも参加されていたんですか??

marvs:
 そうですね、3冊出して、3冊ともご参加いただきました。

【※】クレジットには「みんなで創る東方の合同本企画 代表MARVS」とともに、[SPECIAL GUEST]としてZUNさんの名前も。

――原作者が参加した合同誌……かなりすごい話のように思えますが。

marvs:
 これには元があって、2003年12月頃に『妖紅綺想』っていうタイトルの東方の合同本が出たんですが、それを受けて2ちゃんねるがちょっと荒れたんです

――何があったんですか?

marvs:
 作家陣の人選、「この人東方で活動してたっけ」みたいな感じだったんですよ。この話大丈夫かな(笑)。そういうのがあって、「合同本だったら、東方だったらこの人選の方がいいだろ」みたいな話が出て。またそこで、僕がそれを見て「じゃあ自分たちで合同本作ってやろうか」と思い立ったんです。同人サークルとしての活動をしてたわけじゃないんで、ちょっと話題に出した程度のつもりが、思いのほか周りの皆さんの食いつきが良くて。それで本当にやったのが『博麗祭事記』という同人誌の合同本三部作です。

――ページを拝見したのですが、ZUNさんもさることながら、榎宮祐さんや葉庭さんのような、今も現役で活躍する著名な方々が参加なさっているんですね。

marvs:
(この本のこと、)あちらは覚えてらっしゃるかな……。イベント当日、出来た本を持って榎宮祐さんのスペースに行ったんですけど、本人はおられなくて。気軽に行ける位置ではなかったんです、僕と相手のサークルの位置が西館東館で真反対だったから。だから、本人と会えずじまいで。

 結局、お隣のサークルさんの人にお願いして、今不在のこちらのサークルの人が戻ってきたらこの本を渡してくださいってお願いして戻ったっていう。頼まれた方もちょっと「えぇ……」って感じで申し訳なかった。

――突然でびっくりしますよね。

marvs:
 メールで数回やりとりして原稿いただいて、それぐらいしか連絡をしてなかったので。だからせっかく今でも活動されてるような方で名前が載っていますけど、覚えてらっしゃるかちょっと心配ですよね(笑)

――きっと覚えてると思いますよ。自分の参加した作品ですし、その上B5版で436ページっていう、なかなかの厚さの本ですから。

marvs:
 当時はしばらく抜かれなかったですね、さすがに。合同本とはいえ一冊でこのページ数はそうそうないので。確か2010年代の何かの合同本に抜かれたと思うんですけど。ルーミア合同【※】だっけ、500ページとかあるような本が出てきて、あぁとうとう抜かれたなぁと思ったのがちょっと記憶にあります。


【※】インタビュー終了後に編集部で調査したところ、ルーミア合同誌「るーみゃっくわーるど」と判明。B5のオフセット合同誌で500ページ(巻頭カラー16ページ)。画像は駿河屋サイトより引用。

 

 (次回中編へと続く)

 

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