東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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リポート
2023/06/07

「あらゆる世代が東方の世界観を一緒に楽しみ、創り上げる場所」――第二十回博麗神社例大祭現地レポート

第二十回博麗神社例大祭現地レポート

 今回で第二十回目という記念すべき回を迎えた、博麗神社例大祭。
 高校生のころに東方Projectにハマり、大学時代から例大祭に一般参加するようになった記者が、久しぶりに「宴」の現場に潜入しました。

 思えば「東方」自体を知ったのは高校一年生のころ、同級生がノートパソコンで「永夜抄」をプレイしているのを見たのが最初だったと思います。時をほぼ同じくして「ニコニコ動画」で東方音楽アレンジやファンメイド動画の投稿が大流行するようになり、インターネットを通じて東方Projectの魅力に取り憑かれるようになりました。大学進学とともに上京してからは、例大祭に直接足を運び、原作はもちろん、お気に入りのサークルの新譜を手に取るのが楽しみになっていました。

 そんな私ですが、当時の例大祭の記憶を呼び起こしてみると、自分と同じように中学高校時代に東方にハマった大学生や、シューティングゲームや同人音楽が好きで東方も楽しんでいるような、年齢層が上の社会人が参加者のほとんどを占めていました。

 ところが、風の噂によると、最近の例大祭には小中学生も参加しているらしいのです。

 そんな噂の真相を確かめるため、第二十回博麗神社例大祭に足を運びました。

文・写真/るぅく

 

雨模様のなか、ビッグサイトに集う参加者たち

 午前8時。小雨が降るなか、会場である東京ビッグサイトに到着しました。

 すでにサークル参加者だけでなく一般参加者も続々と展示場に歩みを進めてきており、東ホールのガレリアは湿気の高さもあって、温室のような状態に。コロナ禍でスカスカのイベント会場に慣れきった身に、「いつものイベントが帰ってきたんだ……! 」という実感が染み込みます。

 それにしても例大祭ってこんなに混むイベントだったっけ? と思いながらも、入り口で取材受付を済ませ、東ホールに足を踏み入れました。

 高校時代に耳にタコができるほど聴いたアレンジサークル、大学時代にひたすら買い集めたあの絵師さんのサークル……東ホールの壁を飾る面々は、年月を経てもなお愛されるクリエイターたちの同窓会のようでした。

 

そして“マーケット”は開かれた――やっぱりZUNさんから直接作品を受け取りたい

 会場とともに万雷の拍手がビッグサイトに鳴り響き、まもなくして黒い人だかりが通路を埋め尽くすようになりました。イベントをイベントで例えるのは良くないとわかりつつも「コミケぐらい混んでる! なんだこれ!」と、驚きを禁じえません。

 一通り会場の雰囲気を確かめたあと、この例大祭の中心地ともいうべき「上海アリス幻樂団」のブースを覗きに行くと、すでに東ホールの空きスペースを埋めるように、ぎっしりと人が並んでいました。それもそのはず、今回の例大祭では新作『東方獣王園』の体験版が頒布されると予告されていたからです。

 開場からまだ時間も経っていないにも関わらず、300人近くは待っていたでしょうか。その熱気に押され、思わず自分も並んでしまいました。

 しかし上海アリス幻樂団も慣れたもの、なんといっても最古参です。列はみるみるうちに捌けていき、あっという間にZUNさんが目の前に。緊張で震える手で代金を渡し、引き換えにCD-ROMを受け取りました。

 やはり「神主から直接作品を受け取る」というのは、リアルの場でしか得られない、ほかの何物にも代えがたいワクワク感があります。

 その後も「神主列」は伸び続け、ついには屋外に並ぶようになったらしいと聞いて、外に出てみました。小雨の降りしきるなか、最後尾からは先頭の様子が見えなくなるまで列が伸びています。12時すぎには、ZUNさんのTwitterで完売の報告がなされ、原作の変わらぬ人気を再確認させてくれました。

 

初参加サークルを探る

 上海アリス幻樂団への「参拝」を終えて、サークルの区画を見て回ることにしました。

 昼過ぎになり、人の流れも落ち着いたかと思いきや、どの通路も人と人の肩が触れ合うほどの混みように驚かされます。サークルのほうに目を向けると、心なしか初めて聞くサークル名ばかり。確かに、事前にTwitterなどのSNSを調べた際、今回の例大祭が初参加だというサークルが結構多かったのです。今回の現地取材では、そういったサークルさんにお話を聞くことができました。

 

<サークル名>空ノ箱庭さん

▲こいし・フラン中心のイラスト本や、アクスタなどのグッズも頒布していました

<サークル参加してみた理由>

「前回の例大祭では一般参加していて、面白かったから今回出ようと思いました」

 こいフラ本を主に頒布されていた、そらに(@srn_111)さんによるサークル。圧倒的可愛さのあまり、自分も新刊を買わせていただきました。

 

<サークル名>LEASHさん

▲秘封倶楽部の出会いを描いた漫画本とピアノアレンジCD、ペーパー本を頒布していました

<サークル参加してみた理由>

「秘封が好きで……私は前回の例大祭に一般参加して、今回出てみようと思いました。」

 絵はのあり(@Noaririri_555)さん、アレンジは左側 麻那実(@mana5525)さんがそれぞれ担当されているサークル。漫画本のほうは開場わずか30分で完売という快挙に、秘封倶楽部の根強い人気を感じさせてくれました。

 

<サークル名>ギャラクティック・リボルバーさん

▲ネクロファンタジアを中心としたアレンジCDを頒布

<サークル参加してみた理由>

「去年の博麗神社うた祭で、サークル『少女理論観測所』のテラさんに目の前で『次は君の番だ』って言われたんです。それを聞いてから、サークルを立ち上げて編曲を始めました」

 初参加にも関わらずレベルの高いアレンジCDを出すサークルがあるらしいぞ、とTwitterではちょっとした話題になっていたこのサークルですが、まさかそんなドラマチックな理由があったとは知らず仰天しました。

 確かに、昨年開催された『博麗神社うた祭』では、出演サークル「少女理論観測所」主宰のテラさんがそのような発言をしていたのです。

今日、少女理論観測所はCLUB CITTA’の舞台に立つ。その一線級のパフォーマンスは、彼らがこのステージのヒーローである証明だった

 観客のひとりに過ぎなかった人間が、舞台に立ち観客を魅了する存在になり、そしてそれを見たファンが、創作の舞台に飛び込んで、新たなファンを作っていく。そんな連鎖が生まれる現場を目の当たりにし、ちょっとした感動を覚えました。

 

▲会場に掲示されていた参加者アンケート。初参加が思いのほか多くて驚愕

 昨年から大幅に増え、1,800サークル以上が参加した今回の例大祭。直接的な理由としては、最近まで敷かれていた各種規制が緩和され、さらにスペース数は昨年の3割増しに拡張されたことにより、サークル参加の敷居が大きく下がったことが挙げられます。

 また、本誌でこれまで取り上げてきたように、東方アレンジサークルによる対面でのライブイベントも積極的に催されるようになり、ファンが憧れの存在を目にし、そこから自身もサークルになるというケースもけっして少なくないのではと、記者が実際に取材を重ねるなかで感じました。

 ジャンルこそ違えど、記者自身もサークル参加したい、「机の向こう側」に行きたいと思うようになったのは、大学時代に数々の東方アレンジサークルに触れてきたからこそだと考えています。

 

企業ブース・体験展示視察

 一般的な即売会なら人もまばらになってこようという時間帯になりましたが、会場はまだまだ活気にあふれていました。文字通り老若男女が、思い思いの戦利品を抱えて歩き回っています。

 一通りサークルを周った記者は、企業ブース・体験展示のスペースを見に行くことにしました。同人イベントといえばもちろん、各サークルによる即売会ブースが華ですが、例大祭では東方にまつわる企業ブースや、体験展示の出店も目玉となっています。本記事では、そのうちのいくつかをご紹介します。

▲可愛らしい「ふもふもぬいぐるみ」がひときわ目立つギフトさんのコーナー。これだけの東方キャラを揃えてくれているのはうれしい

 

執事眼鏡さん

 執事眼鏡さんのブースを覗いてみました。

 キャラクターの持つイメージをしっかりとデザインに練り込みつつも、メガネ本来のクオリティには妥協を許さない「東方MEGANE」シリーズを作り続けている「執事眼鏡eyemirror」さん。取材撮影の間も、ひっきりなしにお客さんが訪れ、続々と試着コーナーに入っていくのを目にしました。

▲会場で限定販売された「東方MEGANE十周年記念モデル -神依木-」。パーツには、入手に困難を極めたという、樹齢数百年を誇る伊勢神宮の御神木を用いている

 

Rare-worksさん「東方大剣体験」

東方大剣体験

 巨大な剣のレプリカが会場でもひときわ目立っていた、Rare-works(レアワークス)さんの「東方大剣体験」。

 東方キャラのコスプレをしながら大剣を振りかざしている参加者の方もおり、その圧倒的サイズ感に誰もが驚いていました。

 

気合の入った痛車コーナー

 会場いたるところに中高生や親子連れの姿を見ることができた今回の例大祭ですが、もちろん長年のファンたちも黙っているわけではありません。

 痛車コーナーでは、大人たちが「こういうキャラ愛の表現方法もあるんだぜ」と言わんばかりに自慢の痛車を披露していました。

▲どれも魅力的な痛車ばかりでしたが、今年は東方妖々夢20周年ということで妖夢の痛車をピックアップ。かわいい妖夢のイラストだけでなく、ナンバープレートにも注目です

 

ハイレベルな東方コスプレ

 コスプレコーナーに足を向けると、年齢層も幅広く大賑わいの様相。ここもまた、例大祭の華ですね。

・星名はるさん(@hoshinaharu)フランドール・スカーレット

▲特徴のある羽根を可愛く表現。小悪魔的な表情もフランらしさがよく出ていました

 

・桜川雅さん(@myb_skrkw)射命丸文

▲笑顔の素敵な鴉天狗の少女。羽根の光沢が本物そっくりで驚きました

 

・琴葉凪さん(@mekannnagi)四季映姫・ヤマザナドゥ

▲細部まで作り込まれた衣装、きりっとした表情が映姫らしさを引き立てています

 

・千凛さくらさん(@chirin_sakura)西行寺幽々子

▲作中で幽々子が弾幕とともに展開する、御所車の巨大扇子を再現。迫力満点でした

 

・なまこさん(@namakoxo)サイバーパンクにとり(河城にとり)

※リュック製作者:五味さん(@GomiHgy)、ものづくりの鳥さん(@senbankou21)、Daiさん(@Dai_Herreria)との合同制作

 

▲リュックのエネルギーチューブの発光や、遠隔操作でアームを動かす超かっこいいギミックを実演してもらいました

 

想像の3倍盛り上がっていた、東方ステーション

 コスプレコーナーで撮影している最中、企業ブースの奥のほうから歌声(というか大合唱)が聞こえてきてあまりに気になったので見に行くことに。

 すると、人がまばらにしかいなかったはずの東ホールの一角を観客が埋め尽くしているではありませんか。どうやらここが、当日生放送の特設ステージになっていたようです。

 そのなかでも、自分の好きな東方アレンジ曲をステージ上でワンコーラス歌える「東方ステーションpresents 東方カラオケ歌ってみたステージ」は、参加型企画としてひときわ熱い注目を浴びていました。

 その場にいる誰もがこぞって手を挙げ、運良く選ばれた参加者はそれぞれのガチ推し曲を熱唱。なかにはCOOL&CREATE「最終鬼畜全部声」を歌おうとする猛者も……。

 そんななか、本物(?)のビートまりお氏と、石鹸屋の秀三氏、hellnian氏が現れ、「ってゐ! ~えいえんてゐVer~」を披露します。しかも、サビに差し掛かろうというタイミングで舞台袖からふらっとZUNさんが現れたではありませんか。参加者がどよめくなか、ZUNさんがビートまりおさんに振られて「ってゐ!」の代わりに「ZUN!」のコールを叫びまくるという、東方ファンにとっては嬉しすぎるサプライズを披露してくれました。

 

ひさびさに例大祭にやってきてどう思ったか

 あっという間に時間が過ぎ、盛況のなか第二十回博麗神社例大祭は幕を閉じました。

「若い人、なんなら小中学生もいる」という噂は本当で、楽しみ方も、推しサークルの新譜を手に入れるために奔走する人、お絵かきコーナーで友達とイラストを描く人、保護者同伴でコスプレに挑戦する人とさまざまでした。

 サークルに目を向けると、老舗サークルだけでなく、彼らをきっかけに創作の世界に飛び込んできた若手によるサークルも数多く誕生していました。それは世代交代とはまた違う、お互いのリスペクトに基づく、共存共栄関係を生んでいるのではと感じます。

 久々に参加した例大祭。当時と今で大きく異なると感じたのは、かつては「同人という限られた層のなかでの大きな即売会」でしたが、今や「あらゆる世代が東方の世界観を一緒に楽しみ、創り上げる場所」に変化したように感じました。娯楽が多様化し、同世代ですら共通の趣味を見出しにくくなっている近年において、このような場は稀少なのではないでしょうか。願わくはこの場が永く続いてほしいと思いながら、現地レポートを締めくくりたいと思います。

 

「あらゆる世代が東方の世界観を一緒に楽しみ、創り上げる場所」――第二十回博麗神社例大祭現地レポート おわり