弾幕ごっこを3Dで表現するために――minusTインタビュー
minusTインタビュー
動画制作者・minusT。
彼の作る動画は極めて高い完成度と美麗な弾幕表現で多くのユーザーから視聴されている。原作では平面=2Dとして描かれている弾幕を3Dに置き換えるにあたって、彼はどのような創作を行っているのか。
そこには、弾幕の美しさを表現したいという氏の映像への美学があった。
聞き手/西河紅葉
翻訳/Chlorine
文/紡
動画を作ることになって初めて3Dソフトに触りました
――本日はインタビューよろしくおねがいします。まずは、minusTさんが東方を知った最初のきっかけを教えていただけますか。
minusT:
東方を知ったきっかけは萃夢想でした。動画サイトのプレイ動画を見て、調べてみたら原作はシューティングゲームだとわかって。シューティングゲームは前から好きだったので、それで原作をプレイするようになりました。東方以前だとグラディウスシリーズや雷電が好きでしたね。
――そこから自分でも東方の動画作品を作ってみようと思ったきっかけは何だったんでしょうか。
minusT:
動画を作る前から絵は趣味で描いてたんですが、そのときからニコニコ動画がちょっと盛り上がって、東方の色んな二次創作の映像作品が投稿されるようになりました。それを見ていたら「自分も動画を作ってみたい」と思うようになったんです。
最初は、アニメ的な2Dでの動画を作ってみようかなとか思っていたんです。でも、それだと時間がかかりそうなので、もっと効率的に作るためには3Dでやったほうがいいかなと考えました。3Dについてはそれまで何も知らなかったので、動画を作ることになって初めて3Dソフトに触りました。
――それは驚きました。もともと3Dの知識があって、そこから東方を知っていったものだとばかり……。
minusTさんが8年前に投稿された「レミリアと霊夢の弾幕ごっこ」、この動画のキャプションには「霊夢とレミリアの弾幕ごっこを描きたくて、3Dを始めました」とありますが、これが文字通り最初の投稿で、動画作りの動機だったのですね。
minusT:
そうです。弾幕ごっこが見たかったので作ってみました。
――minusTさんは1作目からBlender(※1)を使っておられます。8年前には既にMMD(※2)も有りましたが、その中でBlenderというソフトを選ばれたのは、8年前の当時としては画期的でした。当時の日本ではまだ馴染みのないソフトでしたので。
(※1)Blender
3DCGソフトウェア。モデリングからアニメーションまで多彩な機能が搭載されており、動作が軽量、かつライセンスが無料ということもあって普及が進んでいる。(※2)MMD
正式名称はMikuMikuDance。樋口優氏が制作した3DCGソフトウェア。
minusT:
韓国でもBlenderを使う人はほとんど居らず、YouTubeやニコニコ動画の解説動画を見て勉強しました。Blender以外にも3Dツールはあるんですけど、価格が高いこともあって気軽に触れづらかった。Blenderだけがフリーウェアだったんです。
ただ、BlenderはUIが難解で、その勉強に何年か費やすことになりました。 当時に比べると今のBlenderは本当にUIが良くなったというか……(笑)。今から3Dを始めるなら、ほかのツールを勉強するのと似たような感覚でできると思います。
実はMMDもダウンロードして使ってみたんです。アニメーション作成は簡単だったんですが、MMDはモデリングツールではありません。
自分が作りたいものを作るためにはモデリングをする必要がある。だから、MMDではなくBlenderを選ぶことになったんです。
東方原作をプレイするような感覚を映像で表現したい
――Blenderを使えば自分の作りたい弾幕が作れる、だからBlenderを選んだんですね。独立独歩というか、インディーズ精神に溢れています。
ニコニコ動画に投稿される3D動画といえばMMD動画のイメージが強く、初めてminusTさんの動画を見たとき「何だこれは!?」となったのを覚えています。先程のお話しにもありましたが、Blenderを使えるようになるまでどれぐらいかかったんですか?
minusT:
慣れるまでは……3年ほどかかりました。勉強を始めたのは2008年からです。そこから1作目の「レミリアと霊夢の弾幕ごっこ」を作り始めたのが2011年、動画の作業時間は1年ですね。
ただ、最初から3Dの弾幕動画を作ろうとしていたわけではありません。Blenderの勉強を始めたあとに弾幕ごっこの動画を作りたくなって、そこからです。
シューティングゲームが好きなせいか、映像としてはオープニングやボスが登場する際のシーンで、3D的な奥行きを再現したようなものが好きなんです。そうしたこともあり、東方原作をプレイするような感覚を表現する映像が作りたいとは当初から考えていました。
そうして、Blenderの勉強を始めてから3年経ったとき、東方のアレンジ楽曲を聴いていたらレミリアのスペルカードが3Dで見えるシーンが頭に浮かんできたんです。3Dによる弾幕の美しさを表現できたら……と、レミリアと霊夢の弾幕ごっこを作ることにしました。
そのときインスピレーションを受けた曲が、実際に動画で使用している曲なんです。曲のイメージに合うように動画を作ろうと思ったので、タイトルは「弾幕ごっこ」ですけど、バトル的な感じで弾幕ごっこを表現することにしました。その上で原作のストーリーを大事にして、キャラクターがどのように動くのかと考えながら作りました。弾幕ごっこだけではなく、その前後のシーンにあるストーリーを表現したかったんです。
弾幕ごっこだけで終わったら動画的にエンディングが無いまま終わってしまうので、弾幕ごっこの前後に演出を加えたほうがと思い、そこで動画として完成して今の形になりました。
――minusTさんはその点をすごく大事にされていますよね。
「レミリアと霊夢の弾幕ごっこ」では、決着後にレミリアと霊夢が会話するシーンがあります。僕はそのシーンがとても好きで、それまでは原作に沿った展開が、最後に少しだけminusTさんの「こうあってほしいな」という“二次創作性”を詰めているように感じたんです。
ほかの作品に目を向けると、2年前に公開された「Brambly Boundaries」で個人的に良いなと感じたのが早苗のシーンなんですよね。道中で中ボスとして出てきて、一度霊夢に倒されて再び立ち上がるじゃないですか。あのシーンがすごい好きで。「Brambly Boundaries」はキャラクターの心情の描写が特に強いように思いました。あの辺りは制作時に意識されてのものですか。
minusT:
こいしは弾幕「ごっこ」をする感じのイメージで作って、早苗、というか守矢神社の面々は地霊殿のストーリー的に異変の元凶のような立ち位置じゃないですか。それで、早苗はごっこというよりちょっとシリアスに戦うイメージにして、こいしと対比になる感じで作りました。
――こいしは霊夢と会話、コミュニケーションをするシーンが多いですよね。スペルカードを攻略したらこいしが霊夢に語りかけて、霊夢がそれに返して、また次のスペルカードが宣言される。早苗のシリアスさとの対比がよく現れています。
東方Projectの原作STGはどれくらい遊ばれますか。
minusT:
ノーコンティニューでクリアできるのはNormalくらいです。唯一、妖々夢だけはLunaticをクリアしました。
――妖々夢といえば3作目となる「霊夢と幽々子の弾幕ごっこ」で、桜符「完全なる墨染の桜」から「反魂蝶」の間の取り方や、「反魂蝶」がスペルブレイクして霊夢が弾幕をぼーっと見るシーン、あれらが実にプレイヤーの心理状態と噛み合っていて、今Lunaticをクリアしたと聞いて得心がいきました。
minusT:
妖々夢を最初にプレイしたときのスペルカードを見ていた感覚や、幽々子とのボス戦が終わったと思ってたらまだ終わってないという、その気持ちを表現してみました。
――弾幕を追いかけるような表現をはじめとしたカメラワークに関しては、既存の作品から受けた影響などはありますか。
minusT:
SFが好きで、アニメやゲームのSF作品は見たりプレイしたりしています。映像としてもアニメでのスピードのある動きは好きで、弾幕を再現すると同時にスピード感を感じられる映像を作りたいと思っていますが、それを実現させるためのカメラワークは本当に難しいです。
好きなSF作品として名前を挙げるなら「パシフィック・リム」や「楽園追放」です。メカギミック、かつ動きのある作品が好きですね。
――メカギミックだと「Subterranean Stars」では箒や八卦炉といったパーツには随所にminusTさんの趣味が見受けられました。
また、スイングバイやトカマクといった動画内の要素からはSF好きな面が感じられます。
minusT:
動画を作る前からそれぞれのデザインは考えていたのですが、それらは「原作の地霊殿のサポートシステムをどうやって表現するか」を考えた結果生まれたものでした。
アリス・パチュリー・にとりのサポートを同時に表現したいんですけど、にとりだったら機械的なものを作ってくれるんじゃないかなと思って。そしてお空は原作でスペルカードを使うときに「Caution!」の演出がありますけど、それをホログラム的なものにしたら、うまく表現できるんじゃないかと。
お空のキャラクターを構成するもののひとつに核融合があり、そういった面からSF的な要素を膨らませていって動画作りに反映しました。
3D弾幕を見て、それが原作のどの弾幕なのか分かるようにイメージする
――「Subterranean Stars」でも顕著ですが、原作の平面上で表現される2Dの弾幕を3Dに起こすことが、minusTさんは非常に巧みだと感じます。この、2Dを3Dに変換して表現する過程はどのようにされているのでしょうか。
minusT:
3D弾幕を見て、それが原作のどの弾幕なのか分かるようにイメージするのを、一番のポイントとして考えてます。3Dでとりあえず弾幕だけを作ってみて、簡単なカメラワークで見たときに弾幕として成立して見えるかどうかをテストして作ってます。
弾幕って複雑に見えますけど、基本的には簡単な動きが集まって複雑な模様になるので、2Dでの動きを数学的に3Dにするとそれっぽく見えると思います。
――これは同じような動画を作りたい人にとっては参考になる回答ですね。キャラクターのモデルについては、どれくらいの時間をかけて作られていますか。
minusT:
「Subterranean Stars」を例にすると、最初にモデリングしたのはお空で、1~2ヶ月ぐらいかかってまず最初のモデルを作ります。そこから残りのキャラクターを手がける際には始めに作ったモデルから変形しての作成なので、ちょっと早くなって1ヶ月程度です。動画を作っていたらBlenderの勉強になって、新しい機能を使ったり、もっといいモデルを作りたくなります。なので、新しい動画を作るときには前のモデルでは満足できなくなって、その度に新しく作るようになりますね。
――動画からは離れますけど、イラストはいつごろから描かれているんですか。動画制作より以前からと仰っていましたよね。
minusT:
子供のころから趣味で好きなゲームのキャラクターを描いてたりしていたんですけど、東方を知ってからはそれまで以上に描くようになりました。ペンタブを買ってデジタルで絵を描き始めたのもそのころからです。
それからは同人誌も出すようになって、例大祭にも行きました。初めて例大祭に参加したときはそのスケールに驚きました!話には聞いていましたが、東方好きがこんなに集まっているということが新鮮なショックというか。
――例大祭では印象に残るようなエピソードなどありましたか。
minusT:
「動画見てます」と言ってくださる方が多くて有り難い気持ちでした。面白かったのは中国とアメリカだったかな……日本国外から来た参加者の方と日本語で話したことですね。
――中国とアメリカの東方ファンがminusTさんのスペースに来て日本語で東方の話をしていたと。すごくいい話ですね。ちょっと今はイベントに来るのが難しいですけど、情勢が落ち着いたら、また例大祭にもいらしてほしいです。
最後になりますが、現在制作中の「Eternal Night」について、どんな作品かお聞かせください。
minusT:
「Eternal Night」は永夜抄のストーリーに沿う形で作っています。永夜抄は原作のボリュームも大きいので、動画でもパートで分けることになりました。今までは6面とExステージだけを作っていましたけど、今回はキャラもステージも多いので、現在作っているPart1は4面をテーマにして、あとから6面やExも作りたいと思っています。
minusT氏の弾幕表現は現在進行形で進化している。その最新作となる「Eternal Night」では、かつて永夜抄で目にした弾幕の感動が再び甦ることだろう。
憧れの弾幕を3Dで表現したいという彼の創作に、今後も注目していきたい。
弾幕ごっこを3Dで表現するために――minusTインタビュー おわり