東方M-1ぐらんぷりインタービュー
東方M-1ぐらんぷりのインタービュー記事

紹介
Q : まずは自己紹介からはじめましょう。お名前、東方M-1ぐらんぷりで何をするか読者に教えて頂けませんか?
らんてぃ:らんてぃです。動画やイラスト制作以外のほぼすべてを受け持っており、脚本、演出、台本作成をはじめ、収録、音楽制作、音響効果など、作品全体の制作進行を担当しています。
Q : 東方を知ったきっかけはなんですか?東方の好きなところはなんですか?
らんてぃ:友人が『東方妖々夢』を遊んでいるのを見たことが、東方Projectを知ったきっかけです。ZUNさんが生み出すキャラクターや世界観、音楽の魅力に触れ、今も変わらず強く惹かれ続けています。

Q : 好きなキャラは誰ですか?なぜそのキャラがすきなのですか?
らんてぃ:寅丸星です。『東方星蓮船』ゲーム内で初めて登場した彼女を見た瞬間、あまりの可愛さに一目惚れしました。
東方M-1ぐらんぷりの製作について
Q : 東方ProjectでM-1ぐらんぷりのパロディを作ったきっかけは何ですか?
らんてぃ:『東方求聞史紀』を読んでいた際、スカーレット姉妹のページを眺めているときに、ふとアイデアがひらめいたのがきっかけです。

Q : 最初の2回はドラマCDで、第3回から映像になりましたが、媒体が変わって、脚本の書き方や構成にどれくらい影響がありましたか?
らんてぃ:映像作品になったことで、演出は明確に映像を前提としたものへ変わりました。また、音声作品の頃は状況説明としてキャラクター自身に名前を言わせる必要がありましたが、映像ではそれが不要になり、脚本や構成をより自然に組み立てられるようになりました。
Q : 媒体の制約でネタを諦めたことはありますか?
らんてぃ:舞台を大きく動き回るようなネタやダンスを前提とした表現は、実現可能ではあっても制作時やコストが非常にかかります。特にアニメーションを担当している沌Xさんへの負担が大きくなりすぎるため、アイデア段階で断念したものはいくつもあります。
Q : 東方M-1は幅広いネタを扱っていますが、台本を書くときにはどのような調べ物をされているのですか?
らんてぃ:台本を書く際は、まず漫才脚本の山田貴正さんが出してくれるネタやアイデアを題材にしています。そこから、それらを東方の世界観や各キャラクターに当てはめていく段階で、設定に関わる部分は徹底的に調べ直します。キャラクターの解釈や作中設定と矛盾しないか、またそのボケをそのキャラクターに言わせて本当に成立するかを一つずつ慎重に検討したうえで、台本に落とし込んでいます。

Q : 漫才を書く時、特にお気に入りのコンビはありますか? 特に書きにくいコンビはありますか?
らんてぃ:新しく組んだコンビや、ボケ倒しやすい完成されたコンビは、書いていて特に楽しいです。一方で、特定のコンビが難しいと感じることはあまりありませんが、同じコンビで三本目以降のネタになるとハードルは一気に上がります。特にチャンピオン大会では、過去の積み重ねを踏まえたうえで新しさも求められるため、構成、内容ともに非常に難易度が高くなります。

Q : 音響監督として、キャラクターの声のイメージはどうやって決めていますか?
らんてぃ:各キャラクターの声については、まず自分の中に主観的なイメージとして「こう聞こえてほしい」という声がはっきりとあります。そのイメージに合う声の声優さん自体は、比較的すぐに見つかることが多いです。ただし、漫才という演技の性質上、セリフ回しや間の取り方ができる方と、そうでない方がいるのも事実です。最終的には、頭の中の声のイメージと一致していて、なおかつ漫才演技が成立する方を起用することになるため、そこにはどうしても運の要素も絡んできます。
Q : 原作でのキャラクター像と、ファンの間で広まっている解釈とのバランスは、どのように取っていますか? 常に同じ基準を保っていますか?それともネタの内容によって変えていますか?
らんてぃ: 基本的な方針として、最初に決めたキャラクター設定や解釈のルール、基準は一貫して守るようにしています。原作を出発点に自分なりの考察を行い、その時点で構築したキャラクター像を安易に変えることはありません。
二次創作とのバランスについては、当サークルは『風神録』以降、結果的に先行して作品を発表する立場になることが多く、一般的な二次創作イメージが定着する前に作品が世に出るケースが少なくありません。
そのため、流行している解釈に合わせるのではなく、原作準拠で独自に考察したイメージをキャラクターに落とし込む、という基準を基本としています。
結果として、数年後にファンの間で定着したイメージと一致することもあれば、そうでない場合もあります。ただし、その後に原作側でキャラクター像や設定が十分に補足、明示された場合には、その情報を踏まえて表現を調整することはあります。
つまり、基準そのものは一貫していますが、原作から新たに示された情報があった場合のみ、例外として寄せる、という考え方です。
Q : 東方M-1に登場するコンビはどうやって決めるですか? 審査員の点数はどうやって決めるですか?
らんてぃ:出場するコンビについては、まず原作設定の中で無理のないカップリングを基本に考えています。ただ、それだけに偏らないよう、あえて原作上ほとんど関わりのないキャラクター同士を組ませることもあります。

優勝コンビの決定については、最近はすべて自己採点で行っています。公平さを意識すればするほど客観性の扱いが難しくなり、毎年もっとも頭を悩ませる工程の一つになっています。
Q : コンビ名とエントリーナンバーはどうやって決めますか?
らんてぃ:コンビ名は、頭を空っぽにして一組につき十個ほど殴り書きし、そこから絞り込むようにしています。あまり凝りすぎず、時間をかけないことを意識しています。エントリーナンバーは、そのキャラクターの特徴を表した四、五文字程度の言葉を並べ、独自に作った暗号表に当てはめて決めています。

東方M-1ぐらんぷりのイラストについて
こちらの部分の質問は、東方M-1ぐらんぷりのキャライラスト担当沌xに答えてもらいました。
Q : 東方M-1の公式作画担当に携わるようになった経緯を教えていただけますか?
沌x:「ニコニコ動画」というサイトで、東方M-1ぐらんぷりの音声が投稿されていて絵をつけた動画なら、更にこの面白さが伝わるのではないかと思って描いていました。「ニコニコ動画」は、とてもフリーダムで、みんなが好き勝手に動画を作り、みんなで楽しんでいた時期がありました。
Q : 絵柄やアニメーションのスタイルが何度も変わってきましたが、そのたびに作業の進め方や考え方はどう変わりましたか?
沌x:絵柄はなるべく、その時代に合わせたものにしようと、試行錯誤して迷走している形跡もあります。初期は「Adobe Flash」を使用して作っていたのですが、「Adobe Flash」が終了してしまったのでこれを機にもっと自然で滑らかな動きができるか、もっと作業効率がよくなるように考え始めました。
Q : アニメーションに関して、普段どんな指示をいただくのですか?解釈に任される部分はどうやって表現していますか?
沌x:基本的に台本に動きの指示(手を振る等)があり、任意の解釈では、その時期に流行しているネタや、とにかく一目でみんながわかる動きをつけようとしています。
Q : 漫才に付けたギャグやアニメーションで、特にお気に入りのカットはありますか?
沌x:第2回東方M-1ぐらんぷりR「ぱちゅみりん」の「パチェッパラッパー」です。

Q : 東方のキャラのデザインは原作でもよく変わったり、毎回変わる要素もあります。アニメションの素材を作る時一番最新のデザインに合わせるですか?目の色みたいいつも変わる部分や原作では隠れているので不明な部分ならどうやってデザインを決めるですか?
沌x:基本的に最新のデザインを取り入れています。不明な部分は二次創作で一番広まっているもの、みんなで共有できているものにしています。

Q : 作りたかったがなんらかの原因で諦めたカットはありますか?
沌x:ほぼ全て受け入れてもらえたので、特にありません。
その他の項目
Q : 東方M-1の制作はどんな流れで進むのですか?大体完成までどのくらいかかりますか?
らんてぃ:制作は、まず全体の大まかな構想を立て、どの東方原作タイトルを軸にするかを決めるところから始まります。その後、収録スタジオの手配と並行してコンビ案を複数作り、最終的に五組に絞ったうえで、担当声優さんへの交渉を行います。声優さんのスケジュールに応じて組み合わせを調整しながら、参加メンバーを確定させます。
コンビが決まった段階で、山田貴正さんから提供されている漫才脚本の中から各組に合う題材を選び、実際の漫才台本を作成します。台本は、仮音声を自分で録音しては修正する作業を何度も繰り返し、完成度を高めていきます。その後、本収録を行い、音声の仮組、映像制作、MA作業を経て完成となります。
構想から完成までは、通常およそ半年ほどかかります。
沌x:制作の流れは、台本が出来てキャラの立ち絵を制作、仮音声で動きをつけた素材を用意、本音声でタイミングをあわせます。完成時間は2~3ヶ月です。
Q: 東方M-1はほぼ20年続いていますが、長く関わる中で作品への考え方や向き合い方に変化はありましたか?
らんてぃ:初期の頃は、作り手と視聴者の年齢や感性が近かったこともあり、ネタの題材やパロディ元について深く考えすぎることなく、単純に「面白そうだ」と思ったものを次々と詰め込んでいました。

しかし、制作を始めて十年を過ぎたあたりから、視聴者層が広がり、老若男女問わず伝わりやすいネタを意識して選ぶようになりました。
最近では、コンプライアンス面への配慮や、特にセンシティブな題材、ナンセンスな表現については、以前より慎重に検討する時間が増えたと感じています。ただし、考え方そのものが丸くなったという意識はありません。時代や空気に合わせて表現の仕方を調整しているだけで、根本的なスタンスは今も変わっていないと思っています。
沌x:初期は趣味の延長として、自分の好きなものを自由に描いていました。次第に観ている人へが不快感など感じさせないよう配慮をしていきました。
Q : YouTubeで東方M-1を公開されて海外の方々にも届くようになりましたが、それはどのような影響を与えましたか?
らんてぃ:正直に言うと、YouTubeでの公開や海外の視聴者が増えたことによって、制作スタイルそのものが変わったことはありません。日本のアニメやゲーム、同人作品が世界中で愛されているのは、作り手が「日本のファンを本気で楽しませよう」として作った結果、その熱量が国境を越えて伝わったからだと考えています。いわゆる「グローバル向け」に調整された作品は、かえって魅力が薄れてしまうことも多いと感じています。海外の視聴者が求めているのは、日本人が楽しんでいる、そのままの日本独自のエンタメ、つまり漫才そのものだと信じています。だからこそ、私は今も日本の視聴者が一番笑えるものを作ることに集中しています。それが結果的に、海外の方にも楽しんでもらえる一番の近道だと思っています。
ただ一つ変わった点として、作中に英語のセリフが出てくる場合は、たとえ声優さんがネイティブの方であっても、あえて日本語発音の英語で演技してもらうよう指示するようになりました。
沌x:長くやればやるほど飽きてこられるのがコンテンツの宿命と思っていましたが、広いネットでまだまだ新規のリスナーが現れることに驚き、更に創作意欲が湧いています。
Q : 東方M-1ぐらんぷりの製作にどんなソフト・サイトを使っていますか?以外な物も使用しますか?
らんてぃ:制作で最も頻繁に使っているソフトは、音声編集と楽曲制作で使用しているCubaseと、映像編集に使っているAdobe Premiere Proです。特に意外なツールを多用しているわけではなく、制作の中核はこの二つのソフトで完結しています。

沌x:現在使用しているソフトは「Live 2D」「Adobe Premiere」「Adobe Photoshop」です。
Q : 制作中に直面する最大の課題は何ですか?
らんてぃ:得点や順位に対する説得力をどのように担保するかという点です。あわせて、スケジュールや予算面の制約も常に悩ましい問題としてあります。理想としては、ファーストラウンドの五組について、信頼できる約二百人規模のコミュニティにネタを評価してもらい、その結果を踏まえたうえで順位を決める形です。最終決戦についても同様の方法が望ましいと感じています。現状では実現が難しい方法ですが、いずれ一度は試してみたい構想です。
沌x:締切です。
Q : 東方M-1ぐらんぷりの製作において一番大きな制限はなんですか?
らんてぃ:長年シリーズを制作していると、声優さんに関わる制限が常につきまといます。声優さんご本人の個人的な事情などにより、特定の時期には起用できないこともあります。そのため最近では、先に出演可能な声優さんを確定させたうえで、そこからコンビを決める、という進め方になる場合もあります。
特にEXシリーズではその傾向が顕著で、必ずしも好きな組み合わせを自由に組めるわけではありません。これは長く続けているシリーズならではの、避けて通れない制限だと感じています。
沌x:制作期間です。大勢の声優さんが参加してるので、本音声ができあがってくる頃が終盤で発音やニュアンスが思っていたのと違う時に、修正する時間が予想できません。
Q : 東方M-1ぐらんぷりを作る前に漫才と関わったことありますか?
らんてぃ:かなり昔のことになりますが、ごく短い期間、実際に漫才をやっていた経験があります。
沌x:ありません。ただ一人のファンとして漫才は大好きで、よく観ています。
Q : 一番気に入りのグランプリはどちらですか?シリーズ未体験の人にはどちらのグランプリがおすすめですか?
らんてぃ:特に思い入れがあるのは、第5回東方M-1ぐらんぷりです。この回は、シリーズで初めて16:9の画面比率を採用し、秋葉原UDXシアターで一般のお客さんを入れて上映した作品でもあり、個人的にも強く印象に残っています。
シリーズをまだ観たことがない方に勧めるなら、第1回東方M-1ぐらんぷりRがおすすめです。作品の雰囲気や基本的な構造が分かりやすく、入口として適している回だと思います。
沌x:一番のお気に入りは、「第5回東方M-1ぐらんぷり」です。シリーズ未体験の人には「第2回東方M-1ぐらんぷりR」がネタ的に、わかりやすいかもしれません。

最後の一言
Q : 様々な質問を回答して下さってありがとうございました。では、読者たちに最後の一言頂けませんか?
らんてぃ:まずは、長年作品を見続けてくださっているファンの皆さん、そしてHouさんたちをはじめとする翻訳チームの方々に、心より感謝いたします。
『東方M-1ぐらんぷり』は、東方Projectという世界観に強く惹かれ、「自分たちが本当に面白いと思える、架空の漫才コンクールを作りたい」という思いから始まった作品です。
原作を生み出し続けているZUNさんの創作と、二次創作に対する懐の深さがあってこそ、この舞台は成立しています。その土台の上で、私たちは自由に発想し、笑いとして成立するものを追求してきました。
前段でも少し触れた「東方M-1ぐらんぷりの点数はどのように決めているのですか」という質問について、ここではもう少し踏み込んで説明したいと思います。
その答えはシンプルで、点数も順位も、最終的な優勝者も、すべて主観的な判断によるものです。
「このネタは、おそらくこれくらいの面白さだろう」という感覚をもとに点数をつけ、最終決戦に進むコンビを選び、最後は記名投票によって優勝コンビを決めます。その一連すべてが主観に基づいています。
ただし、制作の中で常に意識しているのは、「客観的に見た人はどう感じるだろうか」という予測です。
この予測を成立させることは年々難しくなっており、制作工程の中でも最もハードルの高い要素の一つになっています。
本来、漫才は目の前にいるお客さんに向けて披露する芸です。
ウケたのか、滑ったのかはその場で即座に分かり、その反応を受けて、即興で構成を切り替えたり、テンポを変えたり、アドリブを入れたりしながら場の空気を調整していきます。
そういう意味で漫才は、非常に「瞬間芸」に近い表現です。
ところが東方M-1ぐらんぷりは、まったく異なる構造をしています。
客の反応、つまり笑い声や間合いそのものが台本の一部であり、制作段階であらかじめ組み込まれています。
しかし、その笑いが実際に視聴者に届いているのか、画面の向こう側で本当に笑っているのかは、作り手には全く分かりません。
つまり東方M-1は、「このボケはウケるはずだ」「この流れなら納得されるだろう」という仮説を一つずつ積み重ねて作られています。
構造としては、生の漫才というよりも、コメディ映画やギャグ漫画の作り方に近いものがあります。
ギャグ漫画であれば、近年はネットに投稿すれば早ければ一日以内に反応が返ってきます。
一方、コメディ映画の場合は、脚本やコンテを書いている段階では、それが本当に面白いかどうか分からないまま制作が進み、観客の反応を知るのは完成や上映からずっと後になります。
『東方M-1ぐらんぷり』も全く同じです。
優勝者、ファーストラウンドの点数、その点数の根拠となる漫才の出来、つかみの一言がどのように受け取られるのか、各ギャグに対する笑いの大きさは適切なのか。
それらすべては仮説のもとに作られています。制作時点では、実際の答えは何一つ分からないまま進めています。
例えるなら、姿の見えない相手に、目隠しをしたままキャッチボールをしているようなものです。
ボールを投げた感触はあるものの、返ってきたのかどうかはすぐには分からない。
しかも、その反応が返ってくるのは、すべて投げ終えたずっと後になります。
さらに、そのような状況の中で、Houさんたち翻訳チームは、「このボケはなぜジョークとして成立しているのか?」「それを英語に置き換えるとどう伝わるのか?」という点を一つずつ検証しながら翻訳作業を行っています。
これは、目隠しをしたままキャッチボールをしている試合を、同じく目隠しをしたアナウンサーが予測で実況しようとしているようなものだとも言えます。
作り手自身も手応えを確信できないものを、別の言語に置き換えていく。この作品構造そのものの特殊さが、翻訳をより難解なものにしている要素の一つであろうと考えています。
そのような暗中模索の流れの中で作品を発表し続ける中、これまでに寄せられた一つ一つの貴重な感想や反応は、次の作品を作るための大きな支えになっています。
制作は今後も続けていく予定ですので、まずは今年の最新作『第20回東方M-1ぐらんぷり』をお楽しみください。
来年もまた、ご期待いただければ幸いです。

沌x:改めて『東方Project』という素晴らしい作品と、それを愛する様々なファンに関われた人生に感謝しています。いつも温かい応援、アドバイスに支えられています。最初の頃は不安もあったけど、みんなが愛してくれたからここまで続けてこれました。本当にありがとうございます!
第20回東方M-1グランプリはあ~るの~との公式YouTubeチャンネルにて配信中!
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東方M-1ぐらんぷりインタービュー おわり




