東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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リポート
2021/09/02

僕はこのバンドに、この優しさに、ずっとやられてしまっている。 2021年3月22日開催、ナイフ-Knife- 3rd ONEMAN 『偽りの優しさで飲み込めた錠剤』ライブレポート

2021年3月22日開催、ナイフ-Knife- 3rd ONEMAN 『偽りの優しさで飲み込めた錠剤』ライブレポート

 遡るは3月。3回目の緊急事態宣言がちょうど明けた日、2021年3月22日。あいにくの雨模様を気にすることもなく、秋葉原 TwinBox GARAGEの周りには、本日のライブを心待ちにする人の影があった。

 今日行われるのは、ナイフ-Knife- 3rd ONEMAN 『偽りの優しさで飲み込めた錠剤』

 

「ナイフ-Knife-」といえば、秘封倶楽部を主題としたシリアスな曲とフロントマンBa.ワニさんの愛らしさが生み出すギャップがたまらないサークルだ。

 

このライブレポートを全力で書き上げて、来ることが出来なかったファンのために届けたい。

 TwinBox GARAGEといえば、『東方LIVEBOX』など様々な東方アレンジライブで使われており、東方ライブフリークには馴染み深いハコだ。

 ワニさんは今まで数々のライブでTwinBox GARAGEに立っていて、本人が「TwinBoxのファン」と言うくらいだ。実際、このライブはクラウドファンディング「Twin Box存続支援プロジェクト」でワニさん自身がTwinBoxへ支援を送り、その出資者特典リターンとして開催されたものだったりする。

 

 Twin Boxのステージに立つことは、「ナイフ-Knife-」というサークルの目標でもあった。

 

 実際「ナイフ-Knife-」は、2月開催の「東方LIVEBOX」への出演が決まっていたのだが、COVID-19の影響で公演は中止に。

 そんな、一度白紙となった目標が(クラウドファンディングのリターンという、思いがけない形で)ワンマンライブとして叶うことになったのが今日だ。ワニさんにとっても、ナイフのバンドメンバー、コアラさんにとっても、特別な想いであったに違いない。

 

 エントランスに入ると、さっそく問診票の記入と検温での体調チェックを受ける。ホールは一定の間隔で目印が貼られ、テープで四角く仕切られている。今日のライブはオールスタンディングだが、半指定席状態にすることでソーシャルディスタンスが保たれるようになっているようだ。感染対策は万全を期している。

 

 しかし、そのような対策により、会場のキャパシティは極めて少ない。普段のキャパティシは150人程度だが、今日の定員は多くて40人程度だ。それに、平日開催ということや情勢を受けて涙を飲んだファンも多いだろう。

 

 そんなファンのことを想ったワニさんは、僕にライプレポートの依頼をした。

 

 ライブに来れなかった人にも少しでもライブの雰囲気を届けたい、このライブが記録として長く残って欲しい。そんなワニさんの優しさだった。

 

 今日のライブでは来場者へのプレゼントとして、ブックレットと記念のチョコレート、さらにはサイリウムが用意されていた。これだけでもいたれりつくせりなのに、サイリウムには直筆のサインとメッセージが。ナイフというサークルはどこまでもファンを想っている。

 

 ワニさんの想いに負けないように、このライブレポートを全力で書き上げて、会場に来ることが出来なかったファンのために届けたいと思う。

 

手拍子で迎えるフロア。 これまでの軌跡を束ねて、二人はこの場所に立っている。

 ライブの始まりを今か今かと待っていると、会場が暗転しVo.コアラから、感染対策に配慮して、声出し禁止がアナウンスされた。ならばと、フロアは手拍子でナイフの登場を迎える。

 

 入場のSEと共に、Ba.ワニ、Vo.コアラがステージへとスタンバイ。Ba.ワニはコートにハット姿のスタイル、Vo.コアラは坂道グループを思わせる清楚な制服風の衣装に身を包んでいる。 

 重たいストリングスが特徴のゴシックロックナンバー、『4』でこのライブはスタート。フロアは早速、プレゼントされたサイリウムを使っていく。フロアに後押しされ歌いきったVo.コアラは、感極まって涙する。ワンマンライブを開催できた喜び、カラフルな光でフロアが満ちていること、用意したサイリウムをみんなが使ってくれていること……きっといろんな感情が溢れている。

 

 そんなコアラさんをみて、励ましたい、応援したい、そんな気持ちでいっぱいになったフロアは拍手にその気持ちを乗せる。声出し禁止で声を出せないのが、なんとももどかしい。

 ワニさんはワニさんで、自分の自己紹介もそこそこに、ライブ中サイリウムが壊れてしまった方を気遣い、さらにはワニさん自ら交換しに行く一幕も。なんともアットホームなライブだ。

 

 ライブは”他愛も無い二人の博物誌”のアレンジ『Present』で再開。続く”緑のサナトリウム”アレンジ『did』ではダンサブルにフロアを揺らしライブのギアを上げる。短いMCを挟んで”Dr.レイテンシーの眠れなくなる瞳”のアレンジ『Primula』がプレイされると、フロアの熱量はさらに増していく。

 ここまで演奏された4曲はすべて、ワニさんが以前参加していたサークル「monochrome-coat」や「サリー」の楽曲をカバーしたものだ。

 それはまるで、ワニさんがこれまで刻んできた軌跡を束ねるかのようだった。軌跡を束ねて、 彼はここに今立っている。

 

 5曲目として演奏された『code』は秘封倶楽部を主題としたイメージソング。ここまでに演奏された楽曲もすべて秘封倶楽部の曲のアレンジとなっている。そう、ナイフは秘封アレンジを中心に活動しているサークルだ。秘封オンリーライブ「あの日視た幻想」への出演もしており、秘封倶楽部アレンジファンからの人気も高い。

 

想像を超えるこのバンドの“優しさ”。止まった時代の中でも、新しい歩みを続けるナイフ-Knife-。

 「ヒロシゲ36号 ~ Neo Super-Express」のアレンジである『ワープタイムレター』をキュートに歌い上げると再度MCへ。

 

 MCでは疲れてきたであろうフロアを気遣い、みんなを座らせた。ライブ途中で観客を座らせるのは、指定席のライブではしばしばあることだし、スタンディングでもたまにあったりする。

 

 しかし、ナイフというサークルの優しさはそれだけでは止まらない。

 なんと、フロアにクッションを配布したのだ!

 

 フロアのみんなが配られたクッションに座ると、その光景をみたVo.コアラも思わず笑顔に。このクッションはプレゼントされるようで、持ち帰りに困ることを心配したワニさんは物販で持ち帰り用の袋を頒布し始める。なんといういたれりつくせりなのか。僕はオールスタンディングのライブに来たのではなかったか?

 

 皆が座り、演奏されるのは『Telepathy orchestra mix』。アレンジ元となる曲『テレパシー』は、電子音やストリングスが多く盛り込まれたポップな楽曲。それが、オーケストラアレンジによってより荘厳となっている。優しいバラードのような曲調が火照ったフロアの熱を包み冷ましていく。

 次にプレイされたのは新曲『Line』。COVID-19の影響で即売会等への参加ができず新譜を発表出来ずとも、ナイフは、新曲の制作の歩みを止めずに続けていた。そのうちの1曲がこの楽曲だ。やっと披露できたと言わんばかりに奏でられるこの楽曲は、ナイフでは珍しい明るいポップ調のメロディだ。裏腹に歌詞には苦悩を感じる。この情勢下でのナイフの心情が見え隠れしていると言ったら言い過ぎだろうか。

 バラードタイムが終わりフロアは再びスタンディングへ。Vo.コアラはステージ裏に捌け、ここからはBa.ワニのソロタイム。魔術師メリーのインストアレンジにBa.ワニのベースが唸り、重なり、グルーヴが創られる。

 ソロパートが終わると、『Myway』で、終盤へ向けてライブを加速させる。

 今日のライブでは予めSNSで演奏される曲のリクエストを受け付けていたこの『Myway』や『code』『ワープタイムレター』はSNSでリクエストがあった曲だった。普段のライブではあまり演奏されない曲もあり、ナイフはこの日のためにライブパフォーマンスとして創りあげ、この曲たちを歌い上げた。リクエストに応えたい、ファンの想いに応えたいというワニさんの姿勢が、そこに現れていた。

 

「みんなの声、聞こえています」 僕らは、この距離感、このバンドの人柄の良さに、ずっとやられてしまっている。

 続くナイフのヒットナンバー『媚薬-biyaku-』では両手を挙げ前後に妖しく動かすお決まりのダンスの練習から始まる。いつも通りVo.コアラが手本を見せると、フロアはすでに完璧。

  ここから『錠剤-Jozai-』とナイフの定番曲が続く。

 

 「“本編”最後の曲になります」とVo.コアラが前口上を述べて始まったのは、『未来予報』

 演奏が終わるとナイフの二人はSEと共にステージアウト、と同時に

 

「本日の公演は、ひとまず本編が終了しました。アンコールの掛け声ができないので、もしよろしければ私のアンコールの声に合わせて手拍子でアンコールをお願いします。ちなみにこの音声は私のスマホで録音しています。」

 

 というVo.コアラのアナウンスが流れる。録音されたアンコールの音声がすぐ続き、フロアの反応を伺う。まだまだ聴き足りないフロアは、もちろん大きな手拍子でこれに応えた。

 

 アンコールを受けて、ナイフが再びステージに登場。『心做し』というボーカロイドカバーでアンコールをスタートさせる。ボカロ曲をライブで演奏するのは初となるが、これもファンからのリクエストだ。アンコールはすべてリクエストされた曲で構成されており、ファンの希望にたくさん応じてあげたいナイフの優しさが感じられる。

 

 『願い事ライナー』では、声出し禁止の中、みんな心の中でシンガロングを叫ぶ。Vo.コアラが「みんなの声、聞こえています」と言う。声に出せないシンガロングは、確かにフロアに響いていた。

 リクエストをするのはファンだけとは限らない。Ba.ワニ(!)からのリクエストはなんとX JAPANの『紅』。言わずとしれたヘヴィメタルの伝説的楽曲だ。その難度からVo.コアラは一度リクエストを断っていたが、最後はBa.ワニの熱意に根負けしたようだ。「クレナイだーー!!!」という伝説の叫びで曲は始まる。暴力的なハイトーンや唸るベースがフロアを駆け抜ける。

 

 紅を演奏し終えた2人は疲労困憊ながらも最後の力を振りしぼりライブのフィナーレへと突入する。アンコール最後の曲は『Story』。楽しさと悲しさ、希望と不安がないまぜになった曲だ。ナイフが想う秘封倶楽部というものをありったけフロアにぶつける。フロアもそれに呼応して声に出せなくとも気持ちをぶつけ返す。ライブでのコミュニケーションがそこに確かに存在した。曲を終え、想定していたプログラムはすべて終了し、今日のライブは幕を閉じた。

 

 かと、思った。

 

 しかしフロアの熱気はそれを許さない。

 

 もう少し、あと少しだけ。そんな気持ちを乗せ、終演後も拍手が鳴り止まない。

 

 その気持ちに応え、ナイフがみたびの登場。筋書きにないダブルアンコールが始まった。

 

 ライブタイトルにもなっている『錠剤-Jozai-』をプレイ。演奏を終え、ナイフの二人が何度も何度も「ありがとうございます」と感謝の気持ちを言葉にしながらステージを後にする。

 Ba.ワニは曲間のMCで、ファンのことを「親戚であり家族のようなもの」とはなした。それ自体は、バンドとファンの関係を表すとしてよく言われる言葉だ。

 しかし、彼はきっと、本当に親戚、家族だと思っているんだと思う。ワニさんの優しさは家族に向けるそれと同じで、その距離感を大切にしているのかもしれない。僕自身も、レポートの冒頭からずっと「ワニさん」と呼んでしまっているくらい、その距離感、このバンドの人柄の良さに、ずっとやられてしまっている。

 

 ”距離感”を大切にするナイフにとって、今日のようなファンの顔を間近で見れるリアルライブは、待望だっただろう。

 

 ステージに立つ二人の気持ちを受け取ったフロアは万雷の拍手でそれに応える。その音は終演後もいつまでも鳴り止まなかった。それはきっと、次に”家族”が再開するまで鳴り続けているのだ。

ナイフ-Knife- 3rd ONE-MAN偽りの優しさで飲み込めた錠剤 ~9割秘封限定LIVE~ 
セットリスト

 

開場アナウンス

OP SE -Drama-

1. 4 (monochrome-coat cover) /G Free

2. Present (monochrome-coat 十六夜物語 cover) /他愛も無い二人の博物誌

3. did (サリー cover) /緑のサナトリウム

4. Primula (monochrome-coat / リリックホリック歌劇団cover) /Dr.レイテンシーの眠れなくなる瞳

5. code /イメージソング

6. ワープタイムレター (monochrome-coat cover) /ヒロシゲ36号~Neo Super-Express

  ~BGM~ クッションの配布

7. Telepathy orchestra mix /Image song

8. Line (ナイフ新曲)

9. Bass solo -INST- 魔術師メリー

10. Myway (monochrome-coat cover) /広有射怪鳥事~Till When?

11. 媚薬-biyaku- / 緑のサナトリウム Image song

12. 錠剤-Jozai- /イザナギオブジェクト

13. 未来予報 (サリー cover) /宇宙に浮かぶ幻想郷

 

SE~ Encore announce

 

アンコール1

14. 心做し-Knife cover ver.- (蝶々P様・VOCALOID曲 cover)

15. 願いごとライナー /ヒロシゲ36号~Neo Super-Express

16. 紅 (X JAPAN cover)

17. Story /Image song

END SE

 

アンコール2

18. 錠剤-Jozai- /イザナギオブジェクト

END SE -Telepathy Orgel-

 

「ナイフ-Knife-」今後の出演・活動情報

●2021年11月27日

東方混舞〜秋の野外SP〜』ナイフ-Knife-ライブ出演

開催地:大阪服部緑地 野外音楽堂

詳細:twipla.jp/events/477753

 

●2022年開催(9月20日の延期振替)

秘封シンポジウム』 ナイフ-Knife-ライブ出演予定

詳細:twitter.com/anohimitagensou

 

●鈴奈幻想絵巻様

『喫茶・鈴奈庵』内企画ボーカルアレンジ楽曲「シークレットカフェ」をナイフ-Knife-が制作中です。

※開催日程は公式情報をお待ちください。

 

僕はこのバンドに、この優しさに、ずっとやられてしまっている。 2021年3月22日開催、ナイフ-Knife- 3rd ONEMAN 『偽りの優しさで飲み込めた錠剤』ライブレポート おわり