東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2020/10/01

「久し振りにこんなにガチでシリアスな“墨染”を聴いた」二次創作の良さはたくさんの解釈に触れられること――岸田教団&THE明星ロケッツ・岸田×「紅蓮華」作曲者・草野華余子 対談(後編)

「岸田教団&THE明星ロケッツ」岸田✕「紅蓮華」作曲者・草野華余子、アニメソングのこれからを担う“盟友同士”が語る「東方アレンジの魅力」(後編)

 2005年から東方アレンジシーンで活動を始めた岸田教団&THE明星ロケッツ(以下、岸田教団)の総帥・岸田氏。音楽作家としても活躍中で、3年前から東方アレンジサークル・ONSEN PROJECTの参加や、岸田教団のアレンジ作品『MOD』の編曲にも携わるシンガーソングライター・草野華余子氏。そのおふたりの対談が実現。

 最終回となる後編では、さらに『MOD』を深掘り。おふたりのアレンジ論や、草野氏が東方アレンジから学んだ出来事、二次創作の素晴らしさの理由など、クリエイティブでピュアな話に華が咲きました。

岸田(きしだ)
2005年から岸田の個人サークル「岸田教団」として東方ProjectのアレンジCDや、オリジナル楽曲を手がける。2007年東方アレンジライブイベント「フラワリングナイト」への出演のため、岸田教団&THE明星ロケッツを結成させる。作詞・作曲・編曲・エンジニアリング楽曲に関わるすべての工程をほぼ担当している。東方アレンジを主たる活動に置き、メジャーレーベルとも組み、岸田教団&THE明星ロケッツの活動をリーダーとして進めている。

草野華余子(くさの・かよこ)
大阪府出身・東京都在住、シンガーソングライターときどき作詞作曲家。3歳のころからピアノと声楽を始め、中学生のころに出会ったJ-ROCKシーンのバンドサウンドに衝撃を受け、18歳の大学進学を機にバンド活動を始める。バンド解散後、2007年ごろから「カヨコ」として活動を開始。自身の活動に加え、そのメロディの力強さが認められ、LiSAを始めとする数多くのアーティストやアニメ作品への楽曲を提供。2019年から活動名を「カヨコ」から本名の「草野華余子」に改名。

「アレンジだぞ!? 元のメロディを生かさないでどうする!?」ZUNさんの作っているメロディが、キャラクターの表現になっている(岸田)

――対談中編では、岸田さんが草野さんにお声をかけて、『MOD』の制作に取りかかったところまで伺いました。

岸田:
 『MOD』は2019年の夏に出してるので「紅蓮華」のあとなんですけど、「紅蓮華」書いた人を東方アレンジに引っ張ってこようとするの、アホですよね(笑)。

草野:
 またそういうこと言う!(笑) やっぱり私は創作が好きだし、ZUNさんの書かれるメロディもめっちゃ好きだし。そういうこともあってONSEN PROJECTの1st(※『SUI-TEN』。2017年の博麗神社例大祭で頒布)ではけっこうメロディを変えたんですよ。そうするべきだと思ってたんです。

――そっくりそのまま使うことはタブーなのではないか、という感覚でしょうか。

岸田:
 「なんでこんなにメロディ変えてんだよ!」ってめっちゃ叱りましたね(笑)。「アレンジだぞ!? 元のメロディを生かさないでどうする!?」「みんなキャラと音楽が結びついてるし、そもそもZUNさんの作ってるメロディがキャラクターの表現になってるから、そこは外さずに拾っていくべきだ」と話しました。

草野:
 私は最初、音楽からしか東方を知らなくて、音楽だけを見てフラットにアレンジを考えてたんです。もともとあるメロディを細かく変えるより、いったん自分に取り込んだZUNさんのメロディを、弾き語りを介して激情で出したほうが、メロディの勢いが出ると思っていて。

 でもONSEN PROJECTの2nd『ORIENTAL-GIRLFRIEND』では、ichigoさんや岸田さんが「このキャラクターは人気だよ」とか「このフレーズはどこのサークルも曲にしてるから外さないほうがいいよ」と教えてくれて、東方アレンジを作るうえでの力の抜き差しがわかりましたね。

 そこからさらに自分でも調べていって、「なるほど、ここのテーマが大事なんだな」「ここはリフレインしたほうがファンの方々は喜んでくれるんだな」というのがだんだんわかってきて。『MOD』の「幽雅に咲かせ墨染の桜」(※以下、墨染)とかはその結果できたアレンジです。「フォールオブフォール」のアレンジも気に入ってますね。わりとそのまま原曲のメロディを使いました。

岸田:
 うん、「フォールオブフォール」良かったよ。もともと「このまま華余子が触ったらそのままいい感じにまとまるだろうな」と思ってたし。

草野:
 「nameless story」(※2020年1月にリリースされた岸田教団のシングルの表題曲)の制作もそうだったんですけど、岸田さんから「この枠のなかで暴れてくれ」というオーダーが来るんです。そのときに「どういう空の色?」とか「楽曲の主人公の年齢は?」みたいなことを聞くんです。「女子中学生の青春ならこの音程かな」と決めていったり。

――対談前編で話してくださった、草野さんなりの制作のメソッドですね。

草野:
 だから『MOD』もそういうふうに作っていって。やりやすかったですね。

岸田:
 僕はメロディができてから歌詞を書くんですけど、「墨染」のメロディが華余子からきた瞬間に、「ああー……この幽々子もエモいな。ふわふわしてるやつじゃなくて、シリアスなほうのエモやな」と思って。西行寺幽々子の捉え方だけでも何パターンもあるから、どう解釈するかは人によって違う。

草野:
 そうそう、エモくて女性性がある。いちばんメスらしい部分をフィーチャーしました(笑)。「キャラクターの捉え方が人によって違うことで、二次創作作品にも変化が出る」というのも、岸田さんから聞いてなるほどと思ったんですよね。

岸田:
 東方のキャラクターは、最初に出てきたときはカリスマなのに、後々出てくるとそれまでのキャラが覆されたりするのもよくあることで(笑)。そのなかでも幽々子は最初カリスマ性が高くてシリアスなんですよね。(草野のアレンジは)原作のメロディのそういう部分をよく拾ってて、その感じが出てるなと思ったんです。だから歌詞の内容もそういうものになりました。「やべえ、久し振りにこんなにガチでシリアスな“墨染”だぞ?」って。

草野:
 シリアスなものは少ないんだ?

岸田:
 昔はシリアスなものが多かったんだけど、後々の原作で出てくる幽々子がゆるふわになったことでやわらかい解釈が増えていって。だから久しぶりに伝統的な幽々子を見たというか(笑)。元のアレンジと違うのがいちばんわかりやすいこともあって、「墨染」を『MOD』の1曲目に置きましたね。

草野:
 「幽雅に咲かせ、墨染の桜 ~ Border of Life」のアレンジを頼まれて、いろんな人の「墨染」のアレンジを聴いていくなかで「これが主流っぽいから、じゃあ私はここからちょっとずらそう」と思って。その結果クラシカルになっていったんです。テンションコードをつけまくったり、クラシック的な転調を入れてみたり、1回では認識できないギミックとかを入れてみて、風情のある感じにしてみました。「岸田さん気付くかな~気付かないかな~」なんて思いながら、文通みたいなやり取りを福岡と東京でして制作していきましたね。

ふたりで制作することでお互いの特色の割合を変えてグラデーションを作っている(草野)

――ONSEN PROJECTのコンセプトはichigoさん発信ですか?

草野:
 まずichigoさんから「大人のアレンジがやりたい」「岸田教団と差別化したい」という要望を受けて。わたしがもともとアーティスト活動のなかでアコースティックギターを何本も重ねてパーカッシブにして、1から10までを自分で作る『カクメイゼンヤ』や『カッコ悪い自分と生きていく』というアコースティックアルバムを作っていたので、この感じをichigoさんと作るものに当て込んでいこうと思ったんです。
 アコースティックギターでエド・シーランっぽいアプローチをしている東方サークルはほとんどなかったので、こういうのをやってみたら面白いんじゃないかなって。

岸田:
 その結果なんとも言えないCDができあがったと(笑)。

草野:
 いまの岸田さんのセリフ、「寝る前に聴きやすいCD」って書き換えといてください(笑)。

――(笑)。岸田さんとの制作は、草野さんにとっても知見が広がるものになっているのでしょうか。

草野:
 わたしはすべてにおいて色彩を持たせてしまったり、こねくり回してしまうけど、岸田さんはいい意味で無骨だったり、殺伐としているところもあるというか。岸田さんのそういう「敢えての引き算」は、メロディに生かすようになってきました。

岸田:
 コンクリート打ちっぱなしの壁をおしゃれとするか否かってところだよな。俺はほっとくとコンクリート打ちっぱなしの家しか作らない(笑)。

草野:
 わたしは「壁紙貼らないと!」と思っちゃう(笑)。

岸田:
 華余子さんはいつもきれいに神経質に作るから(笑)。

草野:
 だから最近は勇気を持って、不親切にするようにしたりして(笑)。

――お互いの得意分野が刺激になっていると。

草野:
 実は今、私がメインで作っている曲と、岸田さんがメインで作っている曲の制作を同時進行させてるんですよ。前者はかなりクラシカルでJ-POPに寄っているんですけど、そういう曲をふたりで作ると、ふたりとも偏差値がぐんと上がるんです。でも岸田さんメインだとぐんと気持ちいいくらいバカになる(笑)。

岸田:
 ストン! と偏差値が落ちますね(笑)。

草野:
 勢い! 暴力性! パワー! みたいなね(笑)。だから岸田さんの要素をわたしがもらって制作するというよりは、ふたりで制作することでお互いの特色の割合を変えてグラデーションを作っているというか。

岸田:
 割合を変えるだけでバリエーションが生まれるからね。

草野:
 それで最後にはやぴ~さん(岸田教団&THE明星ロケッツ・Guitar)が、うちらの持っていないような爆弾を二人で作った家に仕掛けてくれる。その家の爆発を見てみんなで泣きながら「うわあ~! 綺麗やなあ……!」って言う(笑)。だから3人揃うとだいたい曲ができあがるんです。

岸田:
 やっぱり、ひとりでもじゅうぶんやれるやつらが3人揃うとヤバいっすね。

草野:
 わたしは音程、岸田さんはリズム、はやぴ~さんは表現力。みんな得意なことが違うし、3人で音楽の三大要素が賄えている。だからうまく回るんですよね。

岸田:
 音符の問題点を表現力でカバーすることもできるし、演奏するとなるとグルーヴの問題が出てくるから俺が出ていく。しょぼい音符で表現が薄くても、ノリが良くてかっこいい感じにも仕上げられる(笑)。全員の持っているものを持ち寄って、なんとなくバン!と出すと、すごくいいものになることが多い。

――岸田さんと草野さんがタッグを組むようになって、たった2年とは思えない結束力ですね。

岸田:
 まあ過去にいろいろやってきてるやつらの集まりでもあるので当然と言えば当然なんですけどね(笑)。

草野:
 東方に関してはわたしはまだまだ新人なので、これからもっと勉強します!

二次創作の良さはたくさんの解釈や受け手が考える方向性が見えること――東方アレンジをリスナーとしても、ソングライターとしても、アレンジャーとしても楽しめている(草野)

――ちなみに草野さんが東方アレンジ曲でお好きなものというと?

草野:
 『MOD』の「ネクロファンタジア」めちゃくちゃ聴いてますね。

岸田:
 原曲の「ネクロファンタジア」がそもそも名曲だからね。まじでメロがいい。やっぱり東方でいちばんの名曲を考えると、「ネクロファンタジア」か「亡き王女の為のセプテット」かってなるもんなあ。

草野:
 いろんなサークルさんの「ネクロファンタジア」アレンジを聴いたんですけど、やっぱりみなさん原曲のメロディを生かしてらっしゃって。もともとの楽曲の強さが、みなさんのアレンジに出てますよね。
 あ、最近あのサークルさん毎日聴いてます。岸田さんが教えてくれた白トカゲくんの――。

岸田:
 ああ、鉄腕トカゲ探知機! もっと売れてもいいんじゃねえかと話題のね。俺と(TaNaBaTaの)あにーさんすげえ好きで。

草野:
 この間Twitterそっとフォローしました(笑)。でも最近全然新曲出してくれない!(笑)

――(笑)。草野さんが東方の背景をちゃんと理解なさったうえでアレンジを考えてらっしゃることがわかりました。

草野:
 二次創作の良さって、ひとつの作品に対してのたくさんの解釈や、受け手が考える方向性が見えることだと思うんです。「あ、ほかの人はこのキャラクターをこんなふうに解釈してるんだ」と知ることができて、音楽二次創作なら「この人自身にこういうルーツがあるからこういうアレンジになったのかな?」と想像もできる。

 今も東方をきっかけに聴き始めたサークルさんを、「どんなオリジナル作るんだろう?」と調べることで新しい才能にも出会えて。リスナーとしても、ソングライターとしても、アレンジャーとしても楽しめてます。素晴らしいなと、オタクで良かったなと思いますね。子供のころからキャリー引いてコミケに行って、薄くてたっかい本たくさん買って帰って――。

岸田:
 そんな人が「紅蓮華」書いてるんだから驚きですよね!(笑)

草野:
 だからもういいって!(笑) 岸田さんが東京に来たタイミングで、ebaくんやUNISON SQUARE GARDENの田淵(智也)さん、PENGUIN RESEARCHの堀江晶太くんとか、いろんな作家仲間を誘って飲み会を開くんですけど、作編曲家さんってわたしを含めてめっちゃしゃべる人が多いんですよ。

――たしかに。過去に音楽作家さんにインタビューをしてきましたが、その傾向はかなりありますね。

草野:
 だから「そんな人たちと岸田さんを会わせたらどうなるんだろう?」と思って。そしたら朝の5時に唯一しゃべってるのは岸田さんで(笑)。

一同:
 あはははは!

草野:
 内容があるから聞いてておもしろいんですけど……「この人息継ぎしてんか!?」って勢いでしゃべるから(笑)。今日の対談もそうなると思ってましたよ(笑)。

岸田:
 東方のメディアがとうとうできたということで、どこまでも優しくなろうとサービス精神旺盛になった結果ですね(笑)。俺のキャリアは同人から始まってるから、二次創作をやりたくて音楽をやり続けてるんで。今もできるだけ歌メロ書きたくないし(笑)。

草野:
 でも岸田さんは奇跡的なほどのメロディのホームランを打つことがあって。それがわたし的には「Hack on the world」と「天鏡のアルデラミン」。あと「Code:Thinker」とか。本人にはいいメロディを書けたという自覚がなかったから、今後より一層そういう曲が書けるように、なぜこれが書けたのかということを自己分析していってほしいです(笑)。

岸田:
 あははは!

草野:
 この年齢になってくると聴いたことのないジャンルもほとんどなくなってくるけど、東方の音楽二次創作は聴いたことのないジャンルの音楽をいったん身体に入れて出すという行為がすごく新鮮だったんです。今後自分が作編曲家として提供する楽曲や、アーティスト活動の楽曲にも、東方シーンの影響が出てくる気がしてますね。この前『FloweringNight2020』の映像を観ながら全部解説してくれたんですよ(笑)。

――わあ、それはおもしろそうですね。ライブ映像の副音声にしてほしいくらい(笑)。

草野:
 対バン相手のことについてもいろいろ話してくれて、また東方シーンのことを知れて、より一層「東方がんばろ!」と思いました。――この歴史のことをこの対談で話したかったんだけど!?(笑)

岸田:
 はははは! そういう話も追い追いしていきたいですね(笑)。

「久し振りにこんなにガチでシリアスな“墨染”を聴いた」二次創作の良さはたくさんの解釈に触れられること――岸田教団&THE明星ロケッツ・岸田×「紅蓮華」作曲者・草野華余子 対談(後編) おわり