東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2021/12/10

北の大地のキタキツネが、冬空に弾幕を打ち上げる―東方をイメージした花火大会『北方氷雪華』運営インタビュー

北方氷雪華 インタビュー

 東方の弾幕をイメージした花火大会『北方氷雪華ほっぽうひょうせつか』。

 花火を弾幕に見立てて打ち上げるその試みは、北の大地・北海道で立ち上がった。

 そして、花火大会のキービジュアルには、既存の東方キャラクターではないオリジナルキャラクター・蒼泉あおいずみむくげが描かれていた。

 ひとりぼっちのキタキツネが、北の大地で花火を打ち上げるに至った経緯を、『北方氷雪華』を主催する『きよさと青年花火大会実行委員会』広報・塩澤氏に、お話を伺った。

聞き手・文/紡

 

弾幕を花火に見立てるような

――まず、『北方氷雪華』の主催である、きよさと青年花火大会実行委員会についてお聞かせください。

塩澤:
 実行委員会は、役場や農家の若い人たちで構成されています。メンバーは7名ですね。清里町はだいたい5年に1回といった頻度で花火大会を開催していて、ひさびさに今年やりたいよねと発足したのが、きよさと青年花火大会実行委員会です。

 花火大会自体は、今までも冬に開催していて、近隣市町村から見ても、この季節に開催するのは珍しいのかなと思います。清里町は基幹産業が農業の町なので、冬は場所が自由に使えるという点もあります。

――今回は東方を題材にした花火大会ということで、こうした試みは初めてですよね。

塩澤:
 そうですね。ネットメディア会社の中継が入ることや、曲と花火のタイミングについて花火師の方と打ち合わせを重ねるなど、今回ならではといった要素は多いです。

 特に、リアルタイムで花火に音を合わせるのが上手くできるか、それが難しいですね。現地の花火の音も配信に入れるべきかどうかなど、悩む点も多いです。

――準備もですが、当日もやはり大変な点は多そうですよね。

塩澤:
「試し打ち」のようなことも、花火だとなかなかできないので……。

 実行委員会メンバーのうち2名は、前回の花火大会の経験者でもあるので、花火の手配などの面は非常に心強かったです。準備期間も忙しかったですが、やはり当日が一番大変だろうな、とは思いますね。

――あらゆる点で、初挑戦の多い企画なんですね。どういった経緯で、東方を題材にしようとしたのでしょうか。

塩澤:
 はじめは花火をやろうという話から始まったのですが、今年はコロナ禍の影響で、近隣市町村の方を集めるのも難しい。それなら、オンラインで放送しようという話になりました。

 そこで、オンラインで放送するのであれば、音楽などを用いた演出もできると思い、広報担当として呼ばれた私が、東方でやろうと提案したんです。

 昔から、花火を見てたら「弾幕っぽいな」と思うことがありました。東方でも、弾幕を花火に見立てる比喩表現は『The Grimoire of Usami 秘封倶楽部異界撮影記録』で描写されていましたよね。折角の機会なのでやってみようとなったのが、『北方氷雪華』のスタートです。

――塩澤さんからの提案だったんですね。ちなみに、メンバーの皆さんは東方についてはご存じでしたか。

塩澤:
 さすがに全員とはいきませんでしたが、半数は知っていましたね。地元の方にも、原作のプレイ動画などを見せて説明しました。スペルカードの映像を見せて、「こういう演出がやりたいんだ」と話をして、理解してもらおうと。

 もっとも現地で見る分には、東方を知らなくても普段通りの花火大会として楽しめるようになっていると思います。

 

蒼泉むくげは清里町のモチーフを取り入れたキャラクター

――塩澤さんのお話が出たので、続けてお聞きしたいと思います。塩澤さんの東方との出会いは、いつごろからになりますか。

塩澤:
 高校生のころに、携帯でニコニコ動画を視聴できるようになったんです。そこで見た『めたるぎあまりお』(※)という動画に永琳が登場していて、「このキャラクターなんだ?」と気になって、調べてみたのが始まりでした。

※めたるぎあまりお
佐藤キマリ氏による紙芝居MAD作品。ゲーム『メタルギアソリッド』のパロディとなっており、医師・パラメディックの代理キャラを永琳が演じている。

 東方では藍が大好きで、ゆかたろさんや、いくくたかのんさんのゆからん本もよく読んでいました。

――あげていただいた作家さんからも、八雲家推しであることが伝わってきます。氷雪華のイメージキャラクターである蒼泉むくげも、狐キャラですよね。ビジュアルを担当されている政長さんもゆからん(紫×藍)本をよく描かれる方なので、非常にキャラクターにマッチしていると感じます。

塩澤:
 政長さんの絵も大好きで、今回ご依頼させていただいたところ、快くお引き受けいただきました。

蒼泉 むくげ(北方氷雪華より引用)

――今回、東方を題材にするにあたって、通常の二次創作ではないオリジナルキャラクターを起用していますよね。それこそ、狐キャラであれば八雲藍を起用することもできたと思うんですが、そこであえて、蒼泉むくげというオリジナルキャラクターを発案するに至ったきっかけとはなんでしょうか。

塩澤:
 考え方としては、ニコニコ動画などに昔からあった「オリジナル弾幕」をやってみたい気持ちに近いかもしれません。楽曲に東方風自作曲(※)を用いているのも、同じ理由からです。

※東方風自作曲
ZUN氏が作る音楽の特徴、および楽器を取り入れたオリジナル楽曲を指す。北方氷雪華においても、オリジナルテーマとして東方風自作曲が採用されている。

 むくげちゃんは、清里町のモチーフを反映させたキャラクターになっています。”蒼泉”が神の子池の青い透明な色を、”むくげ”が清里町の町花を、それぞれ表しています。

神の子池(清里町 HPから引用)
ムクゲ(清里町 HPから引用)

――「蒼泉むくげ」いい名前ですよね。東方の原作には、明確に北海道を題材としたものは2021年現在ありません。そこで、弾幕を見せたいけど、その相手が周りにいない、ひとりぼっちの花火大会という氷雪華のストーリーが、上手くリンクしているなと感じました。

小さい小さいキタキツネの神様。

農家から害獣と間違われて石を投げられつつ、東や西の華やかな噂を小耳に挟んで羨ましがる毎日。

彼女には家族も仲間も友達もいないが一丁前にかまってちゃんではある。

ある冬の朝、こんな状況に耐え切れず自己顕示欲が爆発し、東の方の噂を見様見真似で弾幕ごっこなるものをしてみることにしてみた。

 

一人ぼっちで。

 

北方氷雪華 蒼泉むくげのキャラクター設定より引用)

塩澤:
 そういったイメージもあります。あるいは、現実にいるキタキツネ=むくげちゃんが、僕らが東方で遊んでいるのを風の噂で聞き齧り、そのようなものがあるのかと思い立った。そんなイメージもありますね。ここは、花火を見ていただく方の解釈にお任せしたい、好きに考えてほしいところでもあります。

 

花火を楽しみつつ、清里町にも興味を持ってくれたら嬉しい

――北方氷雪華のアカウントでは、清里町の魅力も発信しておられますよね。

北方氷雪華より引用

塩澤:
 コロナ禍も徐々に収束の兆しが見えていますし、来年以降には清里町にも訪れてもらえたら嬉しいです。ただ、現在はまだ厳しい情勢下でもありますので、現地へのご来場は控えていただくよう、お願いいたします。

 清里町は夏に避暑で訪れるのもいいですが、あえて冬に来るのもいいですよ。スノーシューを履いて、雪の積る神の子池を見にいく観光プランもあるんです。

――今後も、こうした企画は続けていきたいですか。

塩澤:
 そういう思いもあります。これは勝手な妄想ですが、ひとりぼっちのむくげが弾幕ごっこをするのが今回の背景なので、次があるなら、隣町である斜里町のカントリーサインにもなっているシマフクロウを登場させてみたいですね。予算の都合などもあるので、現実的には難しいですが(笑)。

――今回の花火大会をオンラインでやるにあたって、町興し的な気持ちはありましたか。

塩澤:
 そこまでなかったです。出発点は「なんか面白いことやりたいよね」くらいの気持ちだったので。町民の皆さんも含めて、まずは花火を楽しんでほしいと。

 とはいえ、この機会に清里町を知っていただけるのであれば嬉しいですね。花火を楽しんで、かつ清里町にも興味を持ってくれたら幸いです。

――ありがとうございました。最後に、北方氷雪華の魅力をお聞かせください。

塩澤:
 花火に加えて、オリジナルの楽曲も楽しんでほしいです。演出に関しても、打ち上げ口の振り分けなどで工夫があるので、花火自体も楽しんでいただけると思います。打ちあがる花火を見て「この花火、東方の弾幕っぽいな」と見立てていただければ嬉しいですね。

 花火は2部構成となっていて、前半では道中から始まり、中ボスとしてむくげちゃんが登場、一度は撃破されて終了。後半では、再度の道中を経て、ボスとして再びむくげちゃんが登場といった流れになっています。オープニング、エンディングの演出もありますので、ひとつのストーリーとして、ご覧いただける花火大会になっています。映像は後日アーカイブでも公開されますので、当日に視聴できない方も、後日にぜひご覧ください。

 北海道の夜空は星座もくっきり見えるので、当日は、それこそキービジュアルのような星空を背景に花火が見えるかもしれません。

 

北方氷雪華

放送チャンネル:
https://youtube.com/c/%E9%81%93%E6%9D%B1%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93
※当日の放送は、道東テレビ様のチャンネルよりご覧いただけます。

公式サイト:https://kiyosatohoppouhyou.wixsite.com/mukuge-chan

開催日:12月11日(土)開場18時/開演19時予定
※悪天候順延 予備日:12月12日(日)

Twitter:https://twitter.com/aoizumi_mukuge
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCaVT6ZrpISGX6MOleM5H0sA
グッズ販売:https://hoppouhyousetuka.booth.pm

主催:きよさと青年花火大会実行委員会

北の大地のキタキツネが、冬空に弾幕を打ち上げる―東方をイメージした花火大会『北方氷雪華』運営インタビュー おわり