東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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牛に引かれて長野旅行――東葉旅人の聖地巡礼手引き

東葉旅人の聖地巡礼手引き

 初めまして、もしくはお久しぶりです。聖地巡礼を主な活動にしている東葉旅人です。

 今回は長野県内の『伊弉諾物質』に関係する東方ネタを紹介します。長野と言えば諏訪が思い浮かびますが、秘封倶楽部の二人が実際に訪れた場所なども、引けを取らない聖地巡礼先だと考えています。

 

信州のサナトリウム

『伊弉諾物質』でマエリベリー・ハーン(メリー)が入院していたサナトリウム。その元ネタは信州に存在していた富士見高原療養所ではないかと思われます。すでに療養所としての役割は終えていますが、富士見高原医療福祉センター(富士見高原病院)の内部で「旧富士見高原療養所資料館」として残っています。

 もともとは創立当時からの病棟に資料館がありましたが、残念ながら2012年に解体され、現在の病院内部に展示資料などを移して再開されました。実際に使用されていた設備・備品や、解体された昭和初期からの病棟の再現ミニチュアなどが展示されており、サナトリウム時代の名残を感じさせてくれる場所です。

 入館料は無料ですが、入口に浄財の箱があるのでいくらかは入れたいところです。ただ、コロナ禍になってからは常に臨時休業中ですので、しばらくの間は見学不可能となっています。

 旧富士見高原療養所資料館の近辺は地名に現われているように富士山が望めますが、それ以上に妖怪の山の元ネタである八ヶ岳が良く見えます。特に最寄り駅である富士見駅の陸橋からは、病院の背後に八ヶ岳がそびえているのが確認できます。

 もし自動車での移動が可能で、時間に余裕がある場合におすすめしたいのが「富士見パノラマリゾート」という施設です。

 ゴンドラで登った先にある八ヶ岳展望台からは西側の裾野を含めた八ヶ岳が良く見渡せ、幻想郷にある妖怪の山付近を幻視するには絶好の場所となっています。富士山も遠くに見えますので、『東方儚月抄』小説版で木花咲耶姫が語っていた喧嘩(ふたつの山の高さ比べ)の舞台という側面もあります。

住所・アクセス

旧富士見高原療養所資料館
長野県諏訪郡富士見町落合11100

最寄り駅:
富士見駅(JR中央本線)
出口より約600m 徒歩10分程度

見学の際は病院ロビー受付に声をかける
開館時間 9時~12時 13時~15時(外来診察日・時間内に準ずる)
第1・第4土曜日は午前中のみの開館
休日 第2・第3・第5土曜日 日曜・祭日・年末年始
コロナ禍のため、当面の間は休館中

 

富士見パノラマリゾート
住所 長野県諏訪郡富士見町富士見6666-703

最寄り駅:
富士見駅(JR中央本線)から約3.8km 徒歩48分程度
すずらんの里駅(JR中央本線)から約3.1km 徒歩39分程度

冬期オープン中は富士見駅から無料シャトルバスあり
ゴンドラ営業時間 8:30~16:00 15:30の時期も
ゴンドラ料金は夏期・冬期(登山券)共に往復で1,700円

 

牛に引かれて善光寺参り

『伊弉諾物質』で秘封倶楽部の二人が訪れていた「善光寺」。長野県長野市に存在するこのお寺では、実際に作中で登場している仲見世通り・地震柱・閻魔像を目にすることができ、蓮子やメリーと同じ行動を取ることが可能です。秘封の聖地巡礼という観点においてはこれ以上の場所はそうそうないと思われますので、機会があれば、ぜひとも訪れたい場所です。

 新幹線が発着する長野駅から近いこともあって、本堂に続く「仲見世通り」は観光客がごった返しています。ブックレットには「百年以上は時が止まっているようだ」とあるので、蓮子やメリーの時代もこういった場所は我々が目にするのと同じような光景かもしれません。

 本堂の周りには「地震柱」と呼ばれている柱があります。それぞれの度合いに差はありますが、どれもねじれているため蓮子やメリーが語っている柱の位置は特定できません。ただ、本堂東側の出入り口にある柱は土台から随分とずれていますので、画像に写っているのが対象の地震柱であるかもしれません。

 内部は撮影禁止のため画像を載せることはできませんが、本堂外陣(無料で入れる)には赤い顔をした「閻魔像」があります。

 蓮子やメリーには酔っ払いのオヤジにしか見えなかったこの像は、善光寺の見所のひとつで、本堂の外にある授与品所でも似た姿が見られます。また、本堂内陣(有料区域)の入口にある大鏡は、閻魔が使用する浄頗梨の鏡(四季映姫・ヤマザナドゥのスペルカード名にもなっている)を表象しているとのことです。

『伊弉諾物質』に収録されている「牛に引かれて善光寺参り」という曲名。信心の薄い老婆が近くの川で布をさらしていると、牛が現われ布を角にかけて走り出したので、追いかけたら善光寺の境内にたどり着いたという伝説が元になっています。そのためか、善光寺境内の入口にある案内所には牛の銅像が安置されています。また、この話は善光寺から約40km離れた布引観音(布引山釈尊寺)の縁起としても伝わっています。

 善光寺に行く際には長野駅からバスを利用するのが便利ですが、長野電鉄に乗るという選択肢もあります。

『東方緋想天』で八雲紫がスペルカードとしてスキマから出している車両は、この長野電鉄で使用されている3500系の車両が元ネタだといわれています。残念ながら3500系は残り少なく、2022年4月1日以降は当面の間使用しないと発表され、再開時期も未定です。使用再開時期については長野電鉄のホームページで掲載予定ですので、興味がある人は注視しておくのをおすすめします。

住所・アクセス

善光寺
長野県長野市長野元善町491

最寄り駅:
長野駅(北陸新幹線)
善光寺口より大門まで約1.5km 徒歩19分程度
大門付近までバスで7分

 

布引観音(布引山釈尊寺)
長野県小諸市大久保2250

最寄り駅:
滋野駅(しなの鉄道線)
出口より約3.6km 徒歩45分程度
小諸駅(しなの鉄道線)
出口より約4km 徒歩50分程度

 

戸隠の伊弉諾物質

『伊弉諾物質』のブックレットで蓮子が話していた「天手力男命がぶん投げたという天の岩戸」。遠い神代の昔に天の岩戸が飛来して、現在の姿になったといわれているのが戸隠山です。その麓には、天手力男命が祀られている「戸隠神社奥社」が存在しています。戸隠山は上級者でも途中で断念する可能性があるほど難易度の高い山のため、蓮子やメリーが行こうとしたのは、社殿付近から戸隠山を仰ぎ見ることができる奥社なのかもしれません。

 冬期は雪が積もり、5月の始め頃になっても残雪がありますので、訪れる時期によっては気をつけてください。その場合は社殿の入口や授与所が閉まっていますが参拝自体は可能で、隣の九頭龍社も含めて中社で御朱印の受付をしています。

 奥社入口から社殿までの中間には随神門があり、そこから南西方向に約1.5km(徒歩20分程度)の距離を進むと鏡池があります。天気が良ければ戸隠連峰の形がはっきり見え、池が凍結しない時期で風が吹かなければ、鏡という名前のように水面に映し出されます。また、後で紹介する公明院の近くでも険しい山の形が一望できます。秘封倶楽部のふたりが興味を持った伊弉諾物質の姿を眺めたい時は、このふたつの場所をおすすめします。

「戸隠神社宝光社」にも東方の元ネタがあり、入口である鳥居は『東方輝針城』CDレーベルの背景に使われています。見比べてみると分かりますが、鳥居の額束の部分や後方にある狛犬や燈籠などが一致しており、ほぼ間違いないと思われます。

『伊弉諾物質』ブックレットの後書きでZUN氏が食べたがっていた「戸隠そば」。奥社や宝光社の近くにも店はありますが、選択肢の多さでは「戸隠神社中社」に軍配が上がります。中社は『東方永夜抄』で登場した八意永琳の元ネタと思われる天八意思兼命が祀られていますので、戸隠を訪れる際はそちらも参拝したいところです。

住所・アクセス

戸隠神社奥社
長野県長野市戸隠3506付近に駐車場やバス停あり

長野駅(北陸新幹線)からアルピコ交通のバスである【70】ループ橋経由戸隠線で68~73分
戸隠神社中社から約1.9km 徒歩24分程度

 

戸隠神社宝光社
長野県長野市戸隠2110

長野駅(北陸新幹線)からアルピコ交通のバスである【70】ループ橋経由戸隠線で57~62分
戸隠神社中社まで神道を通り徒歩20分程度

 

戸隠神社中社
長野県長野市戸隠3515

長野駅(北陸新幹線)からアルピコ交通のバスである【70】ループ橋経由戸隠線で64~71分

 

伊弉諾物質と大天狗

 伊弉諾物質である戸隠山の隣には飯縄山があり、その南峰には日本八大天狗に数えられている飯縄三郎天狗(飯縄大権現)が祀られている「飯縄神社奥宮」が存在します。『東方虹龍洞』で登場した飯綱丸龍はその名前や各種設定から、この地の大天狗が元ネタだと思われます。伊弉諾物質(龍珠)を利用した異変に深く関わっている大天狗の古巣が、同じく伊弉諾物質である戸隠山のすぐ隣というのは意味ありげなものに感じられます。

 飯縄神社奥宮(南峰)から徒歩10分程度で到着する飯縄山の山頂には、無限にある食べられる砂が存在したといわれています。この砂は「天狗の麦飯」と呼ばれていて、龍のアビリティカード「大天狗の麦飯」の元ネタになっていると思われます。

 南側の登山路を利用すると、山頂まで休憩を含めて2時間30分もあれば到達できるはずです。登山路の難易度は高くはないので、健康な人が体調管理をしっかりできている状態ならば、初心者(筆者もそうです)でも登頂は不可能ではありません。義務教育の遠足で登山経験があるというのならば、挑戦をしてみてはいかがでしょうか。

 飯縄神社奥宮は山の頂上付近にあるため、登山を避けたいという人には里宮をおすすめします。山頂の食べられる砂が保食神(皇足穂命)の霊徳とされ、明治6年(1873年)に皇足穂命神社の社号を与えられていますが、現在でも「飯縄神社里宮」という名が通用している神社です。

 飯縄山を見渡したい場合は、「むれ温泉 天狗の館」という施設もある霊仙寺湖が絶好の場所となります。乗り換えや本数の関係で公共交通機関では訪れにくいですが、車で移動するならば比較的近くで便利な立地となっています。

 館内外には天狗要素のデザインが採用されており、天狗社会のビジネス的な雰囲気が感じられます。虹龍洞アビリティカードの元ネタになっている天狗の麦飯をモチーフにした定食なども併設の食堂で提供されているので、登山後に汗を流したり食事休憩をする場所としても適しています。

 飯縄山は戸隠神社中社付近からも登山道があり、戸隠側でも飯縄信仰が目に見える形で存在します。特に中社と奥社入口の中間地点にある「公明院」では、精巧な作りの飯縄大権現像が5つも並んでいるのでおすすめです。こういった像を見るとわかりやすいですが、飯縄大権現は剣や縄を持ち白い狐に乗った鴉天狗としての姿で表現されていることが多いです。

 ほかにも中社社殿の隣にある宝物館では木造の像が展示され、奥社の杉並木途中では飯縄大権現を祀る社が建てられています。

住所・アクセス

飯縄山入口
長野県長野市上ケ屋2471の付近に飯縄山登山者駐車場

長野駅(北陸新幹線)からアルピコ交通のバスである【70】ループ橋経由戸隠線に乗車
最寄りバス亭の飯縄登山口まで47分程度

 

飯縄神社里宮
長野県長野市富田380

長野駅(北陸新幹線)からアルピコ交通のバスである【73】県道戸隠線に乗車
最寄りバス亭の坂額まで27分程度
下車後約2.2km 徒歩28分程度
徒歩1分程度の場所に駐車場あり

 

むれ温泉 天狗の館
長野県上水内郡飯綱町川上2755-345

飯縄登山口から9.6km
牟礼駅(北しなの線)からiバスコネクトという予約制のバスもある
営業時間 10:00~21:00
定休日  毎月第3火曜日(祝日の場合は翌日)
入館料  600円

 

後書き

 本記事をご覧いただきありがとうございました!

『伊弉諾物質』のブックレットにもあるように、善光寺では日本最古の仏像が祀られています。その仏像に関係する催しとして、七年に一度の盛儀である「善光寺御開帳」が行われます。2022年4月3日から6月29日までと長期間に渡っていますので、それにあわせて今回紹介した場所を巡ってみてはいかがでしょうか。

 次回の記事では、山梨県の聖地を紹介していきますのでよろしくお願いします。

牛に引かれて長野旅行――東葉旅人の聖地巡礼手引き おわり

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