東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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マミゾウだけじゃない?新潟~佐渡に見る、東方の元ネタ――東葉旅人の聖地巡礼手引き

東葉旅人の聖地巡礼手引き

 初めまして、もしくはお久しぶりです。聖地巡礼を主な活動にしている東葉旅人です。

 今回は3月20日に『ガタケット170』および『博麗神社例大祭in新潟』が開催されますので、新潟県内を中心とした東方ネタを紹介していきます。

 

佐渡の二ッ岩

 新幹線の発着駅があり、例大祭の開催地でもある新潟市から船便が出ている佐渡。東京23区の約1.5倍の面積を持つ広大な島だけあって、さまざまな東方ネタが存在します。その中でも代表的なものが、二ッ岩マミゾウの元ネタである団三郎狸です。

 佐渡タヌキの頭領といわれている団三郎狸は信仰の対象でもあり、佐渡金山から3km程度離れた場所にある「二ッ岩大明神」で祀られています。『東方神霊廟』の設定で地元が佐渡と記され、EXで登場した際の曲名にも「佐渡の二ッ岩」とあるように、マミゾウに関しては出自が明確になっています。ちなみに新潟県佐渡地域振興局のTwitterアカウントでも、『東方Project』の名を出して二ッ岩大明神が紹介されたことがあります。

 団三郎狸は山中に住んでいたとされ、二ッ岩大明神の手前1kmあたりからは細い道になりますが入口付近には駐車場もあります。東方向に数分程度歩くと、前身と思われる旧二ッ岩大明神が残っていますので、そちらも併せて訪れるのをおすすめします。

 車の利用や長距離を歩くのが難しいという人は、相川の街中にある二ッ岩神社が訪れやすいかと思われます。最寄りのバス亭から徒歩2分もかからない距離にあります。少し離れた場所ですが、相川観光案内所で電動自転車を借りることもできますので、そちらを利用すると二ッ岩大明神に向かうのが楽になります。

 2022年2月1日、ユネスコ世界遺産への推薦が決定された「佐渡島の金山」。佐渡観光の代表的な場所のひとつであるこの地も、タヌキと関わりがあると言えます。金山で毛皮が必要なため、島にタヌキが持ち込まれたと伝わっています。

 坑道にはタヌキの巣のように見えることから、そして坑夫の顔が煙で真っ黒になりタヌキのようだったことから、狸穴と呼ばれているものがあります。団三郎狸は佐渡金山で働いていたとも言われているので、本人や部下などの妖怪タヌキも出入りしていたかもしれません。『東方酔蝶華』で描かれているマミゾウを見ると、人間に混じって「早く外に出て酒を飲みてぇ~」などとぼやく姿も似合っていそうです。

 鉱山ではムカデを鉱脈に見立てる風習があり、佐渡金山の安泰と繁栄を祈願して創建された大山祗神社ではムカデの衣装を着た神事も行われています。江戸時代に二度ほど大百足が出たという伝承があるため、相川の街中でも「百足山大権現」として信仰の対象にもなっています。佐渡金山・道遊坑ではトロッコの線路も残っているので、虹龍洞気分を味わうこともできます。

 島内には『東方神霊廟』での異変に際してマミゾウを呼びにいった、封獣ぬえに関係する場所もあります。平安時代に源頼政がぬえを退治したときに放った矢は、佐渡の「矢島」に生えていた竹で製作されたと伝わっています。残念ながら現在は竹が生えていませんが、かつては良質な矢竹の産地として知られていました。『東方星蓮船』のEXで、ぬえが使用したスペルカードである恨弓「源三位頼政の弓」の元ネタとも言える場所です。

 マスコットキャラクターとして佐渡の顔役にもなっている朱鷺も、東方に絡めることができます。『東方香霖堂』第2話で登場していた名称不明の妖怪少女が、その外見的特徴から朱鷺が元ネタなのではと推測され、朱鷺子という通称で呼ばれることがあります。

『東方香霖堂』第3話時点では、朱鷺が幻想郷で年々増えつつある様子でしたが、現在は絶滅危惧種に指定されつつも野生復帰が進んでいます。確実に会いたい場合は「トキの森公園」という施設を訪れるとよいですが、島内の自然が多い場所などでも朱鷺を見かけることがあります。このような野生の朱鷺の一部には、我々が住む世界と幻想郷の境目である博麗神社に迷い込んだ経験があるかもしれません。

住所・アクセス

二ッ岩大明神
新潟県佐渡市相川下戸村 

最寄りバス亭:
相川中学校前
バス亭より約1.4km 徒歩18分程度

 

二ッ岩神社
新潟県佐渡市相川下戸村1

最寄りバス亭:
相川下戸
バス亭より約120m 徒歩2分程度

 

佐渡島の金山(史跡 佐渡金山)
新潟県佐渡市下相川1305

営業時間:
4月~10月 8:00~17:30
11月~3月 8:30~17:00
年中無休

入場料:
宗太夫坑コース 900円
道遊坑コース 900円
2坑道周遊コース 1,400円

最寄りバス亭:
佐渡金山前
バス亭より徒歩ですぐ

 

百足山大権現
新潟県佐渡市下相川

最寄りバス亭:
千畳敷入口
バス亭より約160m 徒歩2分程度

 

矢島(矢島体験交流館近く)
新潟県佐渡市小木365-1

最寄りバス亭:
矢島遊園前
バス亭より約500m 徒歩7分程度

 

トキの森公園
新潟県佐渡市新穂長畝383-2

営業時間 8:30~17:00 入場は16:30まで
定休日  毎週月曜日(3月~11月までは無休)
協力費(入場料)は400円

最寄りバス亭:
トキの森公園
バス亭より徒歩ですぐ

 

鬼の故郷

『東方萃夢想』で登場した伊吹萃香の元ネタである酒呑童子。鬼だけではなく、妖怪としても代表的な存在であり、抜群の知名度を誇っています。そんな知名度に比例しているのか、出身地についてはさまざまな説がありますが、その内のひとつとして、新潟県燕市に位置する国上山付近が挙げられます。

 まだ人間だった頃の酒呑童子は外道丸という名で、世にもまれな美形として知られていました。最初は別の寺に稚児として預けられていたようですが、乱暴が激しかったので「国上寺」に預け替えられたといいます。その美しさから大量に恋文が届いて葛籠いっぱいになるほどでしたが、目を通さず熱心に仏道修行に励んでいました。

 ある日、恋い焦がれるあまりに亡くなった者がいたことを伝えられた外道丸は驚き、葛籠を開けると入っていた恋文が白煙となり立ち上りました。その影響で気絶したあとに目覚めると鬼に変じており、そのあとに自らを酒呑童子と名乗るようになったと伝わっています。国上寺の境内に現存している鏡井戸は、鬼になった姿を確認するのに使われたものです。

 恋に関係する伝説があるため、国上山の麓には「酒呑童子神社」が建立され、縁結びの神として祀られてもいます。この酒呑童子神社を含めたさまざまな施設が集まっている「道の駅 国上」まではバスが通っていますが、運行日などの関係で公共交通機関のみでは訪れにくい場所です。国上寺までも神社の脇にある登山口から歩くことになるので、一日に複数の場所を回りたいという人はタクシーやレンタカーなどの利用をおすすめします。

 道の駅の駐車場やバス停付近には、酒呑童子の湯という無料で利用できる足湯があります。酒呑童子をモチーフにした酒も近くの店で通年販売され、毎年9月には越後くがみ山酒呑童子行列も開催されるなど、鬼が親しまれている地域となっています。

『東方茨歌仙』で登場した茨木華扇の元ネタである茨木童子。酒呑童子と関係が深いこの鬼にも新潟が出身地だという説があり、該当する「長岡市軽井沢」は茨木姓の人が多い場所です。現在では残っていませんが、かつては茨木童子の里として祀られている神社が存在し、おにぎりや童子汁などが用意される鬼ぎり祭りも開催されていました。車を利用しないと訪れにくい場所ですが、長岡駅方面から後述の南部神社(猫又権現)へ向かう場合は途中にあるので、寄ってみると名残を感じられるかもしれません。

住所・アクセス

国上寺
新潟県燕市国上1407

最寄り駅:
分水駅(JR越後線)
出入口から駐車場まで約7km
燕三条駅(上越新幹線)
出入口から駐車場まで約17km

 

酒呑童子神社(道の駅 国上)
新潟県燕市国上5866

最寄り駅:
弥彦駅(JR弥彦線)
出入口から駐車場まで約4.3km
弥彦・燕広域循環バス「やひこ号」(土日祝日は運休)てまりの湯行きに乗って23分程度

 

猫の妖怪たち

『東方妖々夢』で登場した橙。その種族は尻尾が2本あることから猫又(化け猫)だと言えます。そんな猫又が象徴になっているのが、長岡市にある「南部神社」です。養蚕の神である天香具土命を祀っています。

 この神社では狛犬に加えて、猫の石像が社殿前に鎮座しています。猫はかいこや繭をかじるネズミ除けの存在として活躍しますので、養蚕農家などに信仰されているこの神社に奉納されたと思われます。

 南部神社は「猫又権現」とも呼ばれており、授与される御札のひとつにも猫が描かれています。

 徒歩では厳しい距離にありますが、この御札は「道の駅 R290とちお」の観光インフォメーションで取り扱っています。道の駅で営業しているレストランなどでは、新潟(栃尾)名物の栃尾揚げをメインにした定食を食べられます。式を使う式も満足の美味しさなので、車で移動している場合は寄ってみるのをおすすめします。

『東方地霊殿』で登場した火焔猫燐の種族である火車。南魚沼市にある「雲洞庵」という寺には、この火車を退治した逸話が残っています。火車は猫の妖怪だとされていることが多いですが、雲洞庵では化けネズミと伝わっています。建物の内部ですので画像は載せていませんが、開山堂にはネズミ足の前机というものがあります。これは退治したあとに火車が姿を変えたものだといいます。

 また、それとは別の火車を退治した逸話も残っています。葬儀の際、黒雲に乗って襲いかかってきた火車を鉄如意で打倒したという逸話です。そのときに返り血を浴びたという「火車降伏の袈裟」と「怪獣(火車)の頭骨」が宝物館で展示されています。難関として知られる『東方地霊殿』5面が突破できないという人は、この雲洞庵で参拝すると上手くいくかもしれません。

住所・アクセス

南部神社(猫又権現)
新潟県長岡市森上1062

最寄り駅:
長岡駅(JR越後線)
出入口から約22km

 

道の駅 R290とちお
新潟県長岡市栃尾宮沢1764

営業時間 10:00~18:00
定休日  年末年始
南部神社(猫又権現)から約11km

 

雲洞庵
新潟県南魚沼市雲洞660

拝観時間
4月中旬~11月 9:00~17:00
12月~4月中旬 10:00~15:30
定休日 毎週水曜
拝観料 300円

最寄り駅:
塩沢駅(JR上越線)
出入口から約4.7km
隣の六日町駅観光案内所でレンタサイクルあり

 

神代からの翡翠文化

『東方風神録』EXで洩矢諏訪子が使用するスペルカードの源符「厭い川の翡翠」。これは、糸魚川市の「小滝川ヒスイ峡」などで発見される翡翠が元ネタだと思われます。小滝川は長野県の白馬から日本海まで流れる姫川の支流で、姫川は氾濫を繰り返すことからいとわれており、糸魚川いといがわという地名の語源になったという説があります。

 糸魚川の翡翠文化は、日本のみならず世界で最古のものだという調査結果が出ています。「フォッサマグナミュージアム」という施設では、長らく忘れ去られていた日本の翡翠産地を再発見する切欠になった原石などが多数展示され、分かりやすく解説がされています。

 北陸新幹線が通る糸魚川駅前にも、原石が展示されているヒスイロードが設けられていて、遠くまで移動しなくても気軽に厭い川の翡翠を楽しめます。駅から出てすぐの場所にあるヒスイ王国館では、糸魚川産の翡翠を使った勾玉や小石の詰め合わせなど、さまざまな価格帯の商品が販売されているので、その気になれば諏訪子の弾幕も再現できます。

 翡翠のスペルカードを使用しているのは諏訪子ですが、姫川流域は八坂神奈子にも関係があります。かつて糸魚川市付近を治めていた奴奈川姫は、神奈子の元ネタである建御名方命の母親で、長野県小谷村にある大網古宮諏訪社で産んだと伝わっています。そのため、ヒスイロードの日本海側には親子の像も設置されています。

 建御名方命は諏訪に行く際に姫川を遡ったとも伝わっています。『東方Project』の原作者であるZUN氏の故郷(白馬)には、その姫川の源流があります。そのあたりを考えると、『東方風神録』は生まれるべくして生まれたのかもしれません。

住所・アクセス

小滝川ヒスイ峡
新潟県糸魚川市小滝

最寄り駅:
小滝駅(JR大糸線)
出入口から約5km

 

フォッサマグナミュージアム
新潟県糸魚川市一ノ宮1313

営業時間 9:00~17:00 入場は16:30まで
休館日  年中無休(年末年始と12月~翌年2月の月曜・祝日の翌日は休み)
入場料  500円

最寄り駅:
糸魚川駅(北陸新幹線)
出入口から約3.4km
路線バス「美山公園・博物館線」で約10分

 

古宮諏訪社(大網古宮諏訪社)
長野県北安曇郡小谷村北小谷9322

最寄り駅:
平岩駅(JR大糸線)
出入口から約2.6km

 

姫川源流自然探勝園
長野県北安曇郡白馬村神城

最寄り駅:
南神城駅(JR大糸線)
出入口から約1kmで自然探勝園入口
その後、徒歩10分程度で姫川源流付近

 

香霖堂?

 燕市吉田下町には、『東方香霖堂』で森近霖之助が営んでいる店を想起させる「香林堂」という建物が存在します。敷地内には明治時代に造られた洋館など様々な建物が並んでおり、香林堂は家庭薬の製造販売会社としての名前です。現在は住居として使用されているため内部は非公開ですが、道路に面していますので外観は自由に見学が可能です。

 香林堂は旧今井孫市邸として「歴史遺産 日本の洋館〈第1巻〉明治篇(1)」で紹介されています。この書籍には東方の背景元ネタが複数掲載されているため、香霖堂に対して何らかの影響を与えている可能性があるかもしれません。時間帯が合えば新潟駅から越後線を利用して、乗り換え無しで最寄りの吉田駅まで到着できます。徒歩圏内の距離にありますので、比較的気軽に訪れることが可能でおすすめです。

住所・アクセス

香林堂(旧今井孫市邸)
新潟県燕市吉田下町3-6の向かい付近

最寄り駅:
吉田駅(JR越後線)
出入口から約700m 徒歩9分程度

 

後書き

 本記事をご覧いただきありがとうございました!

 最初に紹介をしている佐渡ですが、離島ということもあって訪れにくい印象もあるかもしれません。しかし、船便は往復ともに毎日5便あり、新潟駅から乗船場までも直通のバスで15分程度なので、その気になれば日帰りで楽しむことも可能です。明確な東方ネタがある以外にも、風光明媚で食事も美味しいなど魅力的な場所ですので、時間と体力に余裕があれば足を運んでみてください。

 次回の記事では『伊弉諾物質』に関係している長野県の聖地をテーマにしていきます。秘封倶楽部のふたりが実際に訪れた場所などを紹介しますので、よろしくお願いします。

マミゾウだけじゃない?新潟~佐渡に見る、東方の元ネタ――東葉旅人の聖地巡礼手引き おわり

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