東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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リポート
2024/09/30

北の果てハルビンへ。マイナス30℃の氷の世界で灼熱の情熱を見た!

北の果てハルビンへ。マイナス30℃の氷の世界で灼熱の情熱を見た!

はじめまして。アキシブ系音楽サークル「フーリンキャットーマーク」の谷高マークです。

2024年の始めに、ひょんなことからハルビンで開催された東方オンリー『东方雪原觅空』に参加してきました。

ハルビンは、中国の省の中で最も北に位置する黒龍江省の省都にあたります。人口は約1000万人の大都市。真冬の気温は日中でも-20℃にもなり、夜は-40℃近くになることも。

街を流れる大河、松花江は全てが凍り、巨大なスノーマンが人間を見下ろしています。ロシアのバロック建築の最高峰聖ソフィア大聖堂。氷点下20℃を越える中でもコスプレを楽しむ女性達。世界で最も有名な氷祭りが行われるのもハルビンです。

ロシアの国境に近いこの都市は、日本から縁遠いものと思われるかもしれませんが、実は直行便で行けます。フライト時間にしてわずか4時間程度。飛行機を降りた先はまさに異世界そのものです。

ハルビンの感想だけで記事が終わってしまうので話を本筋に戻すと、2024年1月に、このハルビンで東方オンリーイベントが開かれました。

そんな、意外と近いながらも普段は思考の外側にある異世界ハルビンでの、東方Projectのイベントの様子をレポートします。

文・写真/谷高マーク(フーリンキャットマーク)

 

まさかのハルビン!?フーリンキャットーマークがハルビン東方オンリーに参加する事になった経緯

フーリンキャットーマークは数奇な巡り合わせで、このハルビンの東方イベント招待を受けてサークル参加をしてきました。日本のサークルでは間違いなく初めての参加でしょう!

経緯をかいつまんで説明すると、去年8月に参加した上海THOでサークルスペースのスタッフをやってくれた、花良花影はならかがけさんと親交を深めたのが始まりです。

彼はとにかくナイスガイで、イベントの2日間とも風見幽香のコスプレで華麗に登場しました。言葉が中々通じないながらもイベントを通じて互いに交流する中で、彼とスタッフの何人かがハルビン出身だという話になったのです。そこで彼は

「あなた達をハルビンに招待したい!」

と私たちに告げました。もちろん、そのときはハルビンなんてどう行くのかもわかっていませんでしたし「乗り換えとか必要じゃないの? え? ロシアと北朝鮮の近く? いくらなんでも無理でしょ!」と思っていましたが、そこから約半年後、本当に招待してくれたのです!

とても嬉しい招待状です。これはもうGo to ハルビンするしかありません!

招待状からも、彼の途方もない情熱が伝わってきました。これは情熱と情熱がぶつかり合った奇跡の邂逅なのです。当サークルは、上海や台湾などのイベントにも参加した経験があるので、海外の東方Projectへ対する熱量は理解しているつもりです。

それら多くのイベントは各国の主要都市である上海、台北、ソウルで開催されています。これを日本に置き換えると東京(例大祭)、大阪(紅楼夢)、名古屋(名華祭)のような位置付けとなります。規模感を考えれば、大都市でのイベントが盛り上がることはある意味自然でもあります。

それに対してハルビンは、立地としては中国の地方都市です。例えるなら地方オンリー。日本で置き換えると……寒さという共通点も含めて、札幌でかつて開催されていた東方神居祭のような感じでしょうか。

筆者は日本の地方オンリーにもたくさん参加していますが、日本でさえ地方と主要都市の即売会ではその雰囲気は大分違います。地方で開催されるオンリーは、基本的に人出はそこまで多くはなく、緩い和やかな雰囲気であることがほとんどです。それを踏まえても、ハルビンで開催される東方オンリーがどんなものなのか、当初はまったく想像ができませんでした。

そして実際にハルビンの東方オンリーに参加してみた筆者が体験したのは、想像を遥かに越えるカオスと異文化が混ざりあった、興味深いものだったのです。

 

フリーダムすぎるハルビンの東方オンリー!会場ではピザやパンケーキを焼きだして、ステージではカラオケやLIVEで大盛りあがり!

1月27日早朝。僕らは花良さんの手配したタクシーに乗って、ハルビン東方オンリーの会場へと向かいました。ハルビンの真冬の気温は昼でも氷点下20℃近くになります。日本の雪国と違って空気は非常に乾燥しており、降雪は殆どない。全てが凍っているイメージです。

日本から持ってきた超極暖、ロシアン帽、厚手のソックス、ダウンジャケットを着込んで出陣。これらはハルビン滞在中に獅子奮迅の活躍をしてくれました。極暖は二枚重ねです。

ちなみに、ハルビンでは全ての場所で集中暖房の設備があり、屋内ではとても暖かい為、着込みすぎると暑すぎて汗だくになります。このあたりも寒冷地ならでは。

会場はハルビンの中心部にある大型百貨店の上層部。どうやら結婚式の会場を貸し切っているらしい。結婚式で使うような会場ということもあって、場内の雰囲気は実に独特でした。

広さで言えばサークル数は大体100spくらいの規模感で、正に地方オンリー!という空気感です。

ハルビンの東方オンリーは今回で2回目らしく、まだまだ歴史の浅いイベントだそうです。花良さん曰く、ハルビンのような地方都市だとまだまだ東方イベントで人を集めるのは厳しく、今後もより一層の努力が必要との事。コロナ禍以降、日本の地方オンリーでさえ苦労している節があるので(やっぱり色々苦労しているんだな……)と思いながら会場に入ったら、先ほどの杞憂を微塵も感じさせないほどの熱量と活気に満ち溢れたエネルギーが伝わってきました。

「ハルビンの東方オンリーはとっても賑やか!そしてみんな仲良し!」

確かに会場は小さく全体的な人数は少ない。正確な動員はわからないけど、述べ人数でも多分500人いかないくらいだったんじゃないかな? その様子だけなら小規模オンリーの様相ですが……

「なんかとにかく活気がある!!」

そう。一人一人の熱量が凄いせいか人数以上にめちゃくちゃ活気があるのです! とにかくガヤガヤしてる(笑) そしてみんなとにかく仲がいい!

スタッフやサークルの人達、来場者関係なくみんな「よう!元気?」みたいなノリでめっちゃ仲良さそうに喋ってます。(中国語なので会話の詳細な内容までは把握できませんが、傍目からみて明らかにみんなトモダチ!みたいな空気に満ちていた)

考えてみれば、まだまだ小さいハルビンの東方コミュニティでは、必然的に知った顔に遭遇する確率が高く、自ずと知り合いになっていくのでしょう。それにしてもみんなフレンドリーすぎる……(笑)

これは中国人の国民性も関係してると思います。中国には日本のようなきっちりとした敬語は存在せず、基本的には同じ調子で話すそうなので、それが人と人との距離を近づける要因でもあるのでしょう。

この雰囲気が日本の即売会とは本当に違うのです。日本の場合は良くも悪くもドライで戦利品やお目当てのものを買ったらすぐ帰る人も多く、即売会でソロ参加したらほとんど喋らずに帰路につく人も少なくないはずです。これは別に日本がダメだとか言う話でなく、もう国民性の違いですね。日本人はシャイだし、ガツガツした距離感が苦手な人も多いのでこのノリを逆輸入するというのは現実的ではなさそうです。実際に僕も凄く人見知りだし。

ただ、あの大陸特有のノリは現地に行ってみないと伝わりません。上海での東方オンリーも大変な熱気だったけど、流石に上海ほどの大規模なものになると「全員トモダチ!」みたいな雰囲気は感じなかったので本当にこれはビックリしました。

「俺たちがハルビンの東方を盛り上げてくぜ!」という気概が感じられます。

ハルビンに降り立ったフーリンキャットマーク!

今回、フーリンキャットマークはサークルでの参加となりましたが、なんと、ハルビンの即売会に参加する初の日本のサークルとなりました! 記念すべき瞬間です。

ハルビンでのフーリンキャットマークの知名度なんて皆無に等しいと思っていたら、予想の10倍くらい熱烈に歓迎してくれました(笑)

会場のメッセージボードに、記念としてサークルロゴを書いてもらうメモリアルな場面も! CDもたくさん買っていただいて、サインもたくさん書きました。

今後、日本のサークルでハルビンの東方オンリーに参加するサークルがいるかどうかはわからないけど、その一歩目となる歴史を切り開きました!

 

多種多様なステージパフォーマンスと東方愛溢れるハルビンの東方サークル

サークルスペースの横ではこのようにステージが併設されていて、『東方非想天則』の対戦や、カラオケライブ、アコーディオンの生演奏など賑やかな催しが行われていました。

中国のサークルは日本のサークルと変わらず、多くのグッズやCDなど東方愛に溢れた創作物で彩られています。ここに関しては国境を越えても共通しているのが嬉しい限りです。

オーブンレンジが会場に持ち込まれ、サークルスペースでピザが焼かれて皆に振舞われていました。ステージに運ばれたピザで盛り上がる会場。なんであんなに盛り上がっていたのかまったく分からないけど、とにかくカオスな光景でした(笑)

ちなみにこのイベントの開催時間は10時~16時でしたが、スタートも非常にふわっとしていて16時以降もステージで誰かがカラオケしてたりとめちゃくちゃアバウトでした。日本では考えられないですよね。

昼休憩や中休憩の時間が設けられていたのも印象的。昼休憩では会場のテーブルに座って皆でランチの時間となり、その間は即売会も中断となっていました。

こんな調子で様々な催しがずっと行われていました。全部は紹介しきれず抜粋になったけど、楽しそうな雰囲気が伝わっていたら嬉しいです。

会場にいる間も沢山の中国の方が挨拶に来てくれて中には中国蘇州の東方イベントを企画しているという方とも話しました。「今度南京で東方イベントをやるのでそちらにも来て下さい!」みたいな誘いもいただきました。フーリンキャットーマークはレアな都市のイベントに参加する方向性で行くのか?(笑)

 

ハルビンで生まれた絆、そして日本の東方、同人文化に今足りないもの

このように、とにかく熱烈的な歓迎を受けてイベントは終わりを迎えました。なお、フーリンキャットマークとしては3泊4日の行程でハルビンに行っているので、この日の夜も前日も次の日も、もうこれでもかってくらいの歓迎をしていただいて美味しい物も沢山食べて、いろんな名所にも連れて行ってもらいました。(詳細はフーリンキャットマークブログを見てね)

つまるところ、日本人の代名詞であるはずの「O・MO・TE・NA・SHI」を日本人がする以上に受けたのです。

余談ですが、当サークルのボーカリスト・鳴紗はこのおもてなしにいたく感激して、すっかりハルビンの虜になっています。

ここでフーリンキャットマークのサークル主・谷高は思いました。

「なんて清々しい気持ちだ! まるでルパン三世カリオストロの城のラストの銭形警部とおじいさんの会話のシーンのような気持ちだ!」と。

まあ例えはいいとして、なんでこんなに僕らがこんな清々しい気持ちになったのかというと、彼らの楽しんでいる様子やハルビンというまだまだ小さな異国の東方コミュニティが、こんなにも熱気に満ち溢れていたことを目の当たりにしたからです。

そして何より、彼らが一点の曇もなく東方Projectが好きで、しかもその発祥である日本、ZUNさん、そして多種多様な創作物を作り上げてきた日本の同人文化への深いリスペクトを感じたからです。

それはかつて日本という国がまだ未成熟だったこと、古代中国に倣って遣隋使、遣唐使として海を渡り謙虚な心を持って中国の進んだ文明を取り入れた歴史と似ているような気がします。(多分)

彼らはこんな辺境の地で見事日本の同人文化を自分達の色に昇華させ今正に花開こうとしている…そんな希望を僕らは垣間見たからなのではないか!?

それが上海や台北などの主要都市だけでなく、ハルビンにまで伝播しているんだという事実を目の当たりにしたからではないか?

僕は本当にこのハルビン滞在を通して感銘を受け、東方我楽多叢誌に寄稿ができないかと持ちかけました。僕がハルビンの地で感じた情熱を少しでも日本の東方ファン、サークル側の人達にも知って欲しいと思ったからです!

上述したように、フーリンキャットーマークは日本の多くの地方オンリーにも参加しています。ですが、コロナ禍以降はかつてより活気が少なくなっていると実感します。地方は現実問題として動員、参加サークル数ともに厳しく、それが結果的に活気のなさに繋がっている。これは参加している自分が肌で感じているので間違いないと思います。

中国みたいに「ミンナトモダチ!」な空気を作れという単純な話ではありませんが、あの一体感は正直とても羨ましいと思ってしまった。地方イベントにどうお客さんを呼ぶかって話になると、やっぱりその場所でしか得られない要素こそが、そこに行く理由になるのでしょう。

独自の催しだったり、ライブスペースも積極的に開催して地方にもどんどん活気を取り戻して欲しい……! じゃないとやっぱり参加者は例大祭と紅楼夢行けばいいし、足りない分は通販でいいじゃん、となる。

そんなん面白くないじゃあないか! 即売会はハレの日なんだよ! 祭りなんだよ!

一方で、例大祭と紅楼夢のような大きなイベントでも、向こうから学ぶものは沢山あるはずです。お目当てのものを買ったら終わり?さっさと帰っちゃう? 新しいサークルの発掘? えー面倒くさいな。

そんなん面白くないじゃあないか! 即売会はハレの日なんだよ! 祭りなんだよ!(2回目)

界隈全体が盛り上がる為には参加者側、サークル側双方の情熱が必要です。どっちかが欠けていてもいけません。

すごくぶっちゃけた話を言うと東方界隈、音楽島に関して言えば中堅サークル、島中サークルは厳しいです。自分の表現したい東方を表現してそれが一番楽しいんだからそれでいいだけど、結局

金かかるじゃん!!

悲しいけどこれは真理で、せめてペイできるくらい健全な循環を多くのサークルが達成できないとモチベも資金も続きませんよね。当たり前だけど。

そして今の日本の東方同人はうーん、ちょっとCOOL過ぎるかな? もっと! もっと情熱を取り戻して欲しい気持ちなんですよ! みんなに!

全く知らない所への探究心。手探りの探究心。ディグる心、開拓する心、界隈を盛り上げていこうとする心。あれ? これって多分2010年代初期の日本の東方イベントでも感じてたはずの物だぞ?

これはにしかわさんの上海THOの記事でも見解が述べられてましたね。

本当に「中国の東方はアツい」のか? 8月開催「上海THO」1万字現地レポート

第十回上海THO現地に足を運んだ筆者が、中国のファンを見て感じたこと

博麗神主と中国ファンとの「一期一会」。ZUNさんって、本当にすごい人なんだ。上海WePlay、上海アリス幻樂団上陸レポート

上海アリス幻樂団、上海(中国)初上陸レポート

そう、中国の今は日本の正に東方黎明期の空気感、あのワクワク感。それが遥か北の氷の大地にまで根付こうとしているのです。

これは本当に衝撃的です。フーリンキャットマークのことなんてなんにも知らないハルビンの人たちが次々とCDを手にとってくれているのを見て、このワクワク感や好奇心を今の日本のみんなが取り戻したら、これは絶対にみんなハッピーになるなと。

そして僕ら日本のサークルは海外のイベントに「招待」されて行くことも多いわけですが、とんでもない。そんな驕り高ぶった気持ちで行ってはいけない。

彼らから多くの事を学び、交流を深め、そして友人になる。それがとても重要な事だと痛感しました。これは上海THOオンリーでも感じていた事なのですが、今回のハルビンで確信しました。

最後会場のみんなで合唱をした様子です。中国ではすごい有名な東方ボカロの曲らしい。この一体感は本当にうらやましい。

日本でもそんな取り組みが全然ないわけじゃないですよ! フーリンキャットマークも出させて頂いた

昨年9月の「東方ステーション~in所沢」ああいう草の根で東方文化を広げるような動きが凄く重要だなと思ってます。

あつまれ!東方ステーション2023 in ところざわサクラタウン

あのイベントの一体感やコンセプトは素晴らしいと思います。ハルビンは即売会にああいうアミューズメント的要素が加わったイベントって感じかな。

話が脱線気味だけど、巡りめぐって全部のことはつながっていて、彼らから学ぶことは全て自分たちに還元できると思っています。彼らの精神、謙虚な心、向上心、探究心。

そして僕らはこの絆を一過性のものにしたくないと思っていて、5月の例大祭に「ハルビン東方同好会」の名前で彼らを日本に招待してサークル参加のエスコートをしました!

やはり日本の例大祭は世界一の東方オンリー! 5000近いサークルが参加する規模の東方オンリーは例大祭だけ!

ぜひハルビンのみんなに日本のことをもっと知ってほしいし、東方二次創作の本場の空気感も感じ取ってほしい。そして相互交流を進めていけば、この先も世界規模でもっと面白いことが起こせるんじゃないかな?

そんな可能性を感じた、今回のハルビン滞在でした。

長くなりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます!

日本の皆さんも海外の東方イベントに参加して、見聞を広めてみてはいかがでしょうか。

まあハードルはそれなりに高いけど、向こうにしか出展できないサークルもいるだろうし、そういったものに触れると一気に世界が広がりますよ。

蘇州の東方イベントを開催しているZakeさん曰く、現在、中国国内では大小合わせて約30近い東方同人イベントが開催されているそうです。

いずれはそれらのイベントにもたくさんの日本人が参加して、その空気感を肌で感じてほしいと強く感じます。

この記事を読んで興味を持ってくれた人が、たとえ数人でも海外の東方同人イベントに参加してみたいと思ってくれたら幸いです!

北の果てハルビンへ。マイナス30℃の氷の世界で灼熱の情熱を見た! おわり