東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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リポート
2024/04/02

幻想郷と技術の融合を、新しい東方世代に――大・東方Project展2023『幻想郷システム』運用レポート

大・東方Project展2023『幻想郷システム』レポート

 はじめまして。五味と申します。同人サークル「EdelWorksPrj」で用務員兼代表をやっており、幻想郷システムのプロジェクトリーダーをしています。

 大・東方Project展2023(以下、大東方展)では、多くの方に幻想郷システムを楽しんでいただき、本当にありがとうございました。来場者の皆様、イベントスタッフ、運営の皆様に深く感謝申し上げます。まさかサークルメンバーで開発を続けていた作品を、このような大きな公認のイベントで常設展示させていただくことになるとは、夢にも思っていませんでした。”幻想郷システム“という名称でそのまま出展させていただいたことも、大変感謝しております。

 この記事では、そんな幻想郷システムがどのような形で動いているのかの紹介と、実際に大規模イベントで初めて運用してみてわかったこと大東方展の会場での反応などをまとめた、備忘録のような記事になります。少々マニアックかもしれませんが、私たちの活動に興味を持っていただけたら、大変うれしいです

文・写真/五味

 

幻想郷システムとは

 幻想郷システムは、コスプレとその撮影をもっと楽しめるように有志チームで製作しているメディア作品です。スクリーンの前に⽴って体験者が⼿を上げたり前に出したりすると、そのポーズに合わせてビームや魔法陣などのエフェクトがスクリーンにリアルタイムに映し出され、アニメやゲームのキャラクターになりきる体験ができます。

 AIを使ってWebカメラの映像から⼈の⾻格を推測しているので、私服でも、コスプレ⾐装でも、武器などの⼩道具があっても、影響なくポーズを検出することが可能なのも特徴です。

 エフェクトについては⾊を変えたり、好きなタイミングで出したり、途中で⽌めてじっくり写真撮影を楽しむモードも搭載しているので、体験するだけでなくコスプレ撮影にもピッタリな、機能満載のシステムとなっています。

 以前から様々なイベントで展示しておりましたが、このたび大東方展に常設展示することとなり、また今回は東方妖々夢を中心としたイベントということで、墨染の桜をイメージした背景や弾幕エフェクトを用意するなど、さまざまなチューニングを行いました。

墨染の桜の背景。3Dでリアルタイムに描画しています。

 

大東方展向けにチューニングした幻想郷システム

 幻想郷システムは、会場の明るさやスクリーンの形状に合わせて骨格検出やエフェクト位置の調整が必要です。またビームや雷、炎といったエフェクトをどのポーズを取ったときにどんな色で出すかの設定に加えて、体験される方に説明するためのオペレーターも必要となります。

 今までのイベントではサークルメンバーで運用してきたので問題はなかったのですが、大東方展では1ヶ月以上にわたって、毎日現地スタッフさんで運用しないといけません。そのためには、体験したい方の待ち時間をできる限り減らしつつ、原画ブースまで行列が伸びないように工夫する必要がありました。

 そこで体験時間をおおよそ2分程度と定めたうえで、体験する方が楽しむことができるよう、機能や流れをシンプルにしました。iPadでキャラクターを選択すると、キャラクターに応じたエフェクトの設定を簡易的にできるようにしたのも、その工夫のひとつです。

iPadでキャラクターを選択し、エフェクトの設定をスムーズにできるようにしました。

 動作テストをしっかりと行うことはもちろん、電源を入れたらシステムが起動してそのまま運用できるようにしたり、運用マニュアルを整備するなど、できる限り現場のオペレーションがスムーズに行えるよう、入念に準備しました。

 もうひとつ、気持ちを盛り上げる小道具として白楼剣とミニ八卦炉の2つを用意しました。特にミニ八卦炉は、マスタースパークを放っている感じが出るように、イベント向けに電飾機能を組み込んだものを数台用意しています。

会場でとても好評だった八卦炉。ボタンを押すと光って震えます。

 

現場に出ないとわからないことばかり!

 さて、これまで準備を行って迎えた本番ですが、実際イベントが始まると色々なトラブルに見舞われました。

 イベントが始まったばかりの頃は、現場の方との情報伝達に行き違いがあり、プロジェクター側でなくPC側に映像が映ってスクリーンに背景が投影されないといった想定外の現象が起こり、現場に急行したり、電話で指示を出して調整を行いました。

 また電飾八卦炉ですが、情熱を込めてマスタースパークを発射したら、ケースから中の電飾が飛び出す現象も起きました。電飾八卦炉は数台準備していたので、「壊れてもこれで安心!」と思っていたのですが、設計を見直すこととなり、途中から強度を上げたものに差し替えました。

会期中に電飾八卦炉の蓋や内部構造の堅牢性を強化。強化後は破損しませんでした。

 内覧会で憧れのZUNさんに遊んでいただく機会があったのですが、撮影時間の都合で説明なくそのまま触っていただいたところ、「うまく反応しないなぁ……」とZUNさんに思うように楽しんでもらえず、「このまま大東方展に展示して大丈夫なんだろうか…」と気を落とすようなこともありました。

 ただ、落ち着いて考えると「遊び方の説明がないと楽しめない」というのは、海外など様々な場所で色んな方に楽しんでもらえる作品を今後目指すにあたって、その状況ではまずいと感じました。それに気づかせてくれたZUNさんには感謝です。

 ほかにも、サークルメンバーのDaiさんと制作した「サイバーおふだ」を販売する方向で検討を進めていたのですが、この場がサークル主体の即売会ではなく大日本印刷さんが主催するイベントということもあり、万が一のことを考えて断念。

 コミュニティや任意団体主催のイベントで同人サークルとしての作品の頒布ではなく、会社として販売・運営する場合、その責任の担保と品質保証は当然重要となります。ですが、逆にそんな同人と会社の境界のなかで、うまくバランスをとってこのイベントが開催されているのは、すごいことだと感じました。

 

楽しむ子どもたちを見て、考えたこと

 今回特に私が驚いたのは、小中高校生の来場者の多さです。当初30~40代あたりの方が多いのかなと思っていましたが、その世代の方々と同じくらいの割合で小中高校生が来られていました。

 私はオープンから数日間、体験方法のレクチャー係をしていたのですが、親子連れの方々が何百組も来られて、「令和にもなって東方を楽しんでる子たちがこんなにもいるのか!」とびっくりしました。

 また今回の私たちは、電飾八卦炉や白楼剣を作る電飾造形ワークショップも担当しました。プロの造形屋からは造形を、プログラマーからは電飾のプログラミングを学び、自分たちで小道具を作るという実践タイプのワークショップです。

造形と電飾を学び、小道具を制作するワークショップにも多くの子たちが参加しました。

 マイコンボードやLEDなどを含めて持ち帰ることができるようにしていたため、参加するにあたってそこそこ金額がかかるワークショップでしたが、多くの方たちが集まり、みなやる気を持って参加されていました。

 実際に自分で八卦炉や白楼剣を形にした時や、プログラムでその武器を光らせた時、純粋に驚き、喜んでいたのがとても嬉しかったです。

▲自分で作った刀を自分のプログラムで光らせ、作る楽しさを感じる参加者たち

 中には引きこもりに近い状態だったにもかかわらず、このイベントなら行きたいという子が来てものづくりを楽しみ、ワークショップ後にはその親御さんからとても感謝される一幕もあり、東方という作品が世代を超えて心の拠り所になっているのを感じました。

 そんな作品を楽しむ新しい世代が増えている一方で、例えば幻想郷システムをお子さんが楽しんでいる間に親御さんと話をしていると「子どもの連れ添いで来ました」「よくわからないのですが子どもが好きで」といった、東方という作品をあまり理解されていない親御さんも多く見受けられました。

 今後そういった方々に対し、東方の何が素晴らしく、なぜここまで同人作品が多いのかなどをわかりやすく伝えていったほうが、新しい世代の子たちが楽しむための一助となるようにも思いました。

 

さいごに

 そんなわけで、大東方展に出展させていただき、様々なことを感じました。老若男女それぞれが自分の幻想郷を持って良いという東方という作品・世界観の懐の広さが、新しい世代にも愛される要因の一つになっているのだろうと、改めて感じました。

 私たちの幻想郷システムも、検出率の改善やステージ・エフェクトの追加をはじめ、今後もっとたくさんの方が楽しんでもらえるよう、アップデートしていきます。この東方という作品、ひいては東方のコミュニティがこれからも長く愛されることを願います。

 

 最後に宣伝ですが、7/13,14に北千住で開催される「コスナビ写真展Legacy2024」で幻想郷システムの体験展示を行います。様々なコスプレの写真や衣装などが展示されるイベントですので、ぜひお越しください。幻想郷システムは、今後も様々なイベントで運用予定です。

 またEdelWorksPrjとしての活動としては、今年の春と秋の博麗神社例大祭で、新作の電飾コスプレ作品での参加を予定しています。

 個人的なイベント告知ですが、6/22,23に金沢駅地下広場でものづくりイベント「NT金沢」を開催します。日々ものづくりを楽しまれている方が作品を展示します。ぜひ旅行がてらお越しくださいませ。

 

幻想郷と技術の融合を、新しい東方世代に――大・東方Project展2023『幻想郷システム』運用レポート おわり