東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2024/10/10

コスプレ表現が生み出す幻想郷の世界 幻想郷システム 五味氏・静丘氏インタビュー

幻想郷システム 五味氏・静丘氏インタビュー

手の動作に応じて弾幕が放たれる。まるで自分が弾幕を撃っているかのような体験を可能とするのが幻想郷システムだ。

骨格からポーズを検出して、リアルタイムで背景に様々なエフェクトを映し出す幻想郷システムは、チーム・EdelWorksPrjエーデルワークスプロジェクトによって制作された。

EdelWorksPrj
https://www.edelworksprj.jp/home

テクノロジーによるものづくりを追及する彼らの原動力はどこにあるのか。EdelWorksPrjの五味氏、静丘氏に話を伺った。

聞き手/紡
写真/るぅく

 

コスプレ表現が生み出す幻想郷の世界

五味:
EdelWorksPrj代表の五味ごみと申します。

EdelWorksPrj代表 五味氏

プロジェクトを立ちあげて、リーダーとしてひとつの作品をいろんな人たちと作っていく制作サイドの取りまとめをする役割です。

また、石川県で物作りのコスプレメーカーやテクノロジーをテーマとしたイベントやワークショップの開催、コミュニティのマネージャーとして活動しています。

静丘:
静丘しずおかと申します。

EdelWorksPrj 静丘氏

プロジェクトを作品にしていくにあたって、撮影や映像をどうするか、メディアにどうやって載せていくか、コスプレイヤーさんのキャスティングをどうするかといった、企画周りの手伝いをしています。

――EdelWorksPrjはかなり大所帯のサークルですよね。

五味:
EdelWorksPrjは「物作りを長く継続して楽しんでいきたい」「新しい技術に興味があって、新しい表現をしたい」といった面々が集まってできたサークルです。

主にコスプレ造形を中心として、表現に関わる分野にテクノロジーを応用して、二次元のキャラクターを目の前に連れてくるようなコスプレ制作であったり、幻想郷システムなどの「コスプレをより技術で楽しめる」ような作品作りを進めています。

EdelWorksPrj メンバー紹介ページ
https://www.edelworksprj.jp/member

こちらの紹介ページに記載のあるメンバーが中心となりつつ、プロジェクト毎に外部メンバーを交えて活動しています。

メンバーはそれぞれ活動拠点や動ける時間が異なることもあり、基本はオンラインベースでやり取りをしています。個別にメンバーを紹介していきますね。

静丘とは以前から「テクノロジーとコスプレ」をテーマとして活動しています。静丘はコスプレイヤーやカメラマン、衣装制作といったコスプレと関わる人たちと技術を繋げる役割を担ってもらっています。

エンジニアのうこさんは、幻想郷システムにおける骨格検出のAI処理を担当しています。ウェブ技術を用いたアーティスト寄りの活動をされている方です。

現役アニメーターのメガブーさんには、幻想郷システムのスクリーン設営など現場の監督をしてもらっています。

映像系のCGデザイナーをされているmon7さんは、幻想郷システムでは3Dの背景やエフェクト類を手がけています。

サイバーお札などで知られるDaiさんは、3Dプリンターの黎明期から小道具を作成していました。幻想郷システムではその経験を活かして小道具作成で参加されています。

ハードウェアエンジニアの長船さんは基板製作のスペシャリストです。主に電飾関連を手伝ってもらっています。

それぞれ、近いようで重なっていない技術を持ったメンバーで構成されています。

――こうした各分野に特化した方々はどのようにして集まったのですか。

五味:
私自身が技術系のイベントをやっているので、そこに参加してくれた人に声をかけたりもしますし、作品制作を通じてサークルメンバーになることもあります。

静丘:
最初はこじんまりと活動していましたが、作品が注目されるようになったことで一緒に活動したいと言ってくれる人も増えてきて、現在にいたります。

――初期の活動というお話ですと、EdelWorksPrjはもともと音楽サークルなんですよね。

静丘:
五味とは同じ学校の同期だったんですよ。彼とバンドをやっていた流れから、同人音楽サークルとしてのEdelSoundsを立ち上げました。

EdelSounds
https://sites.google.com/site/edelsounds/

サークル活動を続けるなかでコスプレを目にする機会も増えてきて、「二次元を三次元に持ってくる」コスプレ活動に感動を覚えたんです。そこから技術者として、コスプレの面白さを伝える手伝いをしたいと思うようになったんですね。

どこか遠い存在でもあるコスプレをもっと身近なものとして、キャラクターがいるような感動をいろんな人が体験できるものにしたい。その思いから五味とともに電飾天子や電飾聖を制作し、それ以降はコスプレに関連するサークル活動にシフトしていきました。

五味:
「コスプレ表現が生み出す幻想郷の世界がそこにあるような空気」を再現するための取り組みとして、幻想郷システムという名前もこのときに決めました。

 

幻想郷システムができるまで

――大所帯で制作されている幻想郷システムですが、メンバー紹介からもわかる通り複数の技術が組み合わされていますよね。開発にあたって、スタート地点のようなものはあるのでしょうか。

五味:
最初はプロジェクションマッピングですね。「人の動きに対して背景が変わる」技術が始まりとなっています。

前身となるシステム制作では、当初は武器などの装飾品に赤外線LEDを取り付けて、その武器を振ったときの軌跡がスクリーンに投影される仕組みでした。この仕組みの欠点としては、赤外線LEDが見えてしまうことによる見映えの悪さと、他の作品への転用が難しかったことがあげられます。

解決策として、ちょうどそのころに出てきたモーションキャプチャーの技術を導入しました。この技術で、カメラの映像をAIに送り、映像データからAIがモーションキャプチャーを作成、その情報を参照することで特定のポーズに反応したエフェクトを出すことがリアルタイムで可能となりました。

導入当初は検出精度も遅かったのですが、今ではソフトやマシンスペックの向上もあり、より滑らかに動きます。

――モーションキャプチャーと言えばゲーム制作などでも幅広く用いられていますよね。

静丘:
私たちがモーションキャプチャーでこだわっているのは、身体の各位置にマーカーを設置するトラッキング型を採用していない点にあります。カメラひとつでいろんな場所で体験してもらいたいことから、映像による骨格検出を採用しています。

五味:
続く技術としては3Dエフェクトと背景ですね。
特にエフェクトは炎や雷など、キャラクターに応じた多彩なバリエーションを用意しています。

静丘:
背景もエフェクトに連動していて、たとえばビームを撃った周囲の背景に明るさが反映されることで、より没入感が高まるようになっているんです。

 

現実世界でマスパを撃ちたい

五味:
二次元のものを三次元に持ってくるにあたって、電飾などはそれこそ写真加工でも表現できるわけですよね。ですが、私たちは常に目の前でコスプレが動くことを意識しています。
後から動画で見るのではなく、リアルタイムでビームを撃てる体験を共有できることが重要だと思っています。

八卦炉や御札といった小道具の数々。八卦炉は幻想郷システムでも実際に手に持ちながらマスタースパークを撃つことができた

静丘:
キャッチコピーは「あなたもマスパを撃てる」なんですよ。幻想郷システムを体験したいから『大・東方Project展』に来たと言ってくれた人もいて嬉しかったですね。

――『大・東方Project展』でも昨年、今年と若い子たちを中心に好評だったとお聞きしました。やはりみんなマスタースパークを撃ちたがっていましたか。

五味:
それがですね、男の子はマスパよりも(妖夢の)刀でしたね(笑)女の子はマスパが多かったかな。

静丘:
男の子は刀人気だったね。

五味:
『大・東方Project展』の展示を通して実感したんですが、幻想郷システムの楽しみ方には目の前で体験として楽しむことと、そこで撮った動画をコンテンツとして楽しむこと、このふたつの側面があることがわかってきました。

静丘:
SNSで動画をあげて楽しむのも、体験としてセットになっているなと感じます。

 

コスプレ表現とのコラボ

――幻想郷システムに限らず、電飾天子やサイバーパンクにとりなど、コスプレアレンジでも数多く活動されていますよね。

五味:
幻想郷システムの解説本を去年の例大祭で出したときに、せっかくだから売り子さんにコスプレしてもらうとなって、「じゃあ新しい衣装作ろうぜ!」となってできたのがサイバーパンクにとりでした。

「幻想郷システム」メイキング写真集
https://booth.pm/ja/items/4790302

静丘:
あれはすごいスケジュールだったね(笑)

五味:
このときに「私たちはこういう幻想郷を表現したい」といったコンセプトを作った上で、企画に関わっていただくコスプレイヤーさんの世界観に沿った作品を作るスタイルがすごく上手くいくことがわかってきました。

静丘:
コスプレとこうした技術の組み合わせをやっているのは世界で我々だけだという自負はあります。

五味:
今後の予定についても話しておくと、秋季例大祭では2人の比那名居天子やフランドール・スカーレットの写真集が出る予定です。
フランドールスカーレットの羽根もサイバーパンクにとりと同様可動できるようにしていて、今後はこうしたモーター駆動を組み込んだ作品を増やしていきたいですね。電飾と駆動、そこに音の要素も盛り込みたい。二次元のキャラクターの解像度をより高めて三次元に出力したいと考えています。

比那名居天子のエプロン用アクリルパーツ。電飾によって鮮やかに光輝く

静丘:
モーターの制御も組み込むと新たなノウハウが必要になってくるよね。

――ものづくりに対する姿勢が常にチャレンジングですよね。

五味:
チャレンジという話だと、来年は海外展開もしてみたいですね。海外のコスプレにもチーム制作の土壌があるので、そこに乗り込んで一緒に何かやってみたい、一緒にその先を作ってみたいと思ってます。

幻想郷システムも今後さらに多くの人に楽しんでもらいたいので、より精度や表現力を高めていきたいですね。

 

出展情報

10月20日に開催される『第十一回博麗神社秋季例大祭』にEdelWorksPrjが参加されます。

秋季例大祭では、多数のロケ写真やメイキングが収録された比那名居天子写真集が頒布されるとのことです。

当日はスペース【か-24ab】まで是非お越しください。

コスプレ表現が生み出す幻想郷の世界 幻想郷システム 五味氏・静丘氏インタビュー おわり

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