東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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リポート
2020/08/04

「『東方』という奇跡のような現実に、あらためて感謝したくなるライブ」 FloweringNight2020 COOL&CREATEライブレポート

FloweringNight2020 COOL&CREATEライブレポート

 7色の照明で照らされたステージに流れるのは「リスペク風神」。5組のトリを飾るのはCOOL&CREATEだ。

 

東方を愛する者だけが生み出せる空間 ー FloweringNightという場所

 バックの巨大プロジェクターにゆっくり射命丸がじょじょにアップになっていくと、同ボイスが「ソーシャルディスタンス~ FloweringNight2020 ラストは~ COOL&CREATE~~~」と高らかと(?)メンバーを一人ずつ呼び込んだ。

 この日のライブメンバーは、主宰であるビートまりお、キーボードの狐夢想、ベースのムー、ドラムのまこっちゃん(いい笑顔)、ギターのテラ、DJのまろんによる6人編成。「ゆっくり楽しんでいってね~ カウントダウンいくよ~~」の声をかき消すようにビートまりおが「コメントも見えてるぞ、盛り上がるぞ!」と叫び、10カウントから「レザマリでもつらくないっ!」でライブをスタートさせる。ビートまりおは手を耳の後ろに当てて「はい!」のコールを求めたり、フロアにマイクを向けると「なんも聴こえてこねーよ!」と言いながら満面の笑みを浮かべた。

 とは言いつつ彼は歌っている最中、隙あらばステージ前に設置されたモニターへ映し出された視聴者のコメントに目をやるなど、コミュニケーションを楽しむ。ビートまりおの斜め後ろに位置するまろんは、しきりにジャンプしたり手を高く挙げるなどして視聴者を煽り続けた。エネルギッシュでフレッシュなステージの空気感に触発されてか、2番手として出演した石鹸屋のhellnianがステージに乱入。1曲目から漂うクライマックスムードに、ラストはいったいどうなってしまうんだろう?と期待が煽られる。

 

 続いて披露されたのは「ラクト・ガール」。のっけからこの2曲、FloweringNightが発足した時期に東方の同人音楽にのめり込んでいった人々にはたまらない流れなのではないだろうか。わたし自身も東方Projectの入り口はまさに「ラクト・ガール」で、ギターロックが好きなわたしに友人が「ちょっとこれ聴いてみてよ」と声を掛け、「なんだこのラフ・メイカーなのにラフ・メイカーじゃない感じ!」と衝撃を受けたのだ。

 同人音楽という概念を知ったのもこの時で、「ラクト・ガール」は「ラフ・メイカー」とパチュリー・ノーレッジのテーマ「ラクトガール」の2曲を融合させていると知り、パロディの域を超えているではないかとかなり衝撃的だった。あのイントロを聴くたびに、友人と「俺が聴くと“ラクト・ガール”は“ラクトガール”だよ」「わたしにとって“ラクト・ガール”は“ラフ・メイカー”だよ」と言いながら大笑いしたことを思い出す。

 東方Projectや東方の同人音楽に興味を掻き立てられたのは、やはり「ラクト・ガール」がオマージュのハイブリッドだったからだとしみじみ思う。パチュリー・ノーレッジが図書館に引きこもっていることと、「ラフ・メイカー」で描かれているストーリーがリンクしているという巧妙さにも唸った。二次創作の高水準のクロスオーバー作品と言っていい。

 それから12年ほどの月日が経ち、久し振りに聴いた「ラクト・ガール」は「ラフ・メイカー」でもなければ「ラクトガール」でもなく、どこを切り取っても「ラクト・ガール」にしか聴こえないという感覚も面白かった。なかでもテラの丁寧なギタープレイが印象に残っている。プロジェクターに映し出されたMVの世界観と現実世界をつなぎとめられたのは、鮮やかでファンタジックに鳴り響く彼のギターあってこそだった。

 

 「エモい話はほかのバンドさんが言ってくれたので、我々にはエモい話はなにもないので、ちゃっちゃか進めましょうか(笑)。思い出の曲です」と前置きをして演奏されたのは「最速最高シャッターガール」。途中で狐夢想がスマホを取り出しビートまりおを撮影してすぐTwitterにアップする微笑ましい一幕や、キーボードとギターのソロ合戦など、メンバー全員が歌唱や演奏を楽しんでいることが存分に伝わってくる。

 

 「人間が大好きなこわれた妖怪の唄」のセンチメンタルかつロマンチックな大人のムードで空間を彩ると、ビートまりおは「この曲はPVが出来たことで完成した。二次創作っていいものだなと感じた」という旨を発する。原作に敬意を持ったうえで二次創作だからこその面白さを追求している人物だからこその言葉の重みだった。

 

 ビートまりおはヤングチームであるムー、まろん、テラを紹介すると、テラに対して「(フラワリへの)想いを語っていいよ」と促す。するとテラは中学生の頃にFloweringNightやCOOL&CREATE、石鹸屋のライブをこのCLUB CITTA’に観客として観に来ていたエピソードを明かし、それがきっかけでエンターテインメントの世界に入ろうと決めたこと、東方アレンジをやりたいと思ったことを語った。

 「その13年後に、このCLUB CITTA’に、FloweringNightで、COOL&CREATEのギターとしてステージに立つって……なんだかわけのわからない状況で泣いちゃった」と率直な気持ちを吐露するテラ。それを受けてビートまりおも「10年続けてくると、聴いてきてくれた人たちがこの場所にやってくるんだなと思う」「ZUNさんが新作を作り続ける限り東方はあるので、中高生のみなさんも10年後にこのチッタのステージに上がりに来てください。我々もちゃんと元気に待ってます!」とカメラの向こうへと力強く呼びかけた。

 この日のステージにはいつでも東方風神録がプレイできるようにパソコンが用意されており、その理由はビートまりおの原作を大事にしたいという想いであり、原作に対する感謝から来るものだった。「まろんくんが次の曲の間にクリアしますんで」という言葉どおり、次の曲である「Thank you 感謝!」でまろんは風神録をプレイ。風神録が生まれた感謝を綴ったアレンジ楽曲で、東方で育った青年が、COOL&CREATEのステージで風神録をプレイしているという状況も非常に感慨深い。そんなエモさをユニークなフィルターで包むところも、COOL&CREATEの美学なのだろう。

 

 真摯な感謝の気持ちを歌唱に込めたビートまりおは、コール&レスポンスなどを多く取り入れたキラーチューン「Help me ERINNNNNN!!」を歌うにあたって「せめてコメントだけでもたくさん頼む!」と視聴者に呼びかける。コメントは「( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!」の嵐で、ステージの背景にはFloweringNight2009のCOOL&CREATEの映像が映し出され、時代も空間も超えた熱狂が巻き起こっていた。

 

 コール&レスポンスパートからスマートにソロ回しにつないだそのままの勢いで、舞台袖でビールを飲みながらライブを観ていた石鹸屋の秀三を呼び寄せると、そのあとにhellnianもZUN氏もステージに招き入れ、予想外の展開でどんどん熱を高めていく。この自由度、まさに同人シーンの象徴だ。だが原作者をここまで巻き込めるのは、どこを見回しても後にも先にもビートまりおくらいだろう。

 「今日のライブは最高でした!」と上機嫌なZUN氏に「素晴らしい神主だ!」と歌唱で返すビートまりお。楽曲の終盤には豚乙女のランコもステージに現れ、加速をつけたままラストの「最終鬼畜Flowering Night」になだれ込む。各々が自由にステージで振る舞っていたかと思いきや、ビートまりおはステージから降りてフロアでhellnianと肩を組んで絶唱するシーンも。モニターの向こうの視聴者をチッタに呼び寄せるような、東方を愛する者だけが生み出せる空間が出来上がっていた。

 ビートまりおがZUN氏にマイクを渡し、ZUN氏の「せーの!」の掛け声で出演者たちがジャンプをしてフィニッシュ。一見はちゃめちゃでありつつも、東方Projectという全方位コンテンツと、その二次創作シーンの関係の良さが見える、非常に健全なステージだったように思う。ここに集まった人々が出会ったのも、このライブの視聴者として参加したことも、そしてFloweringNightという場所が生まれたことも、神主がいなければ成し得なかった。そんな奇跡のような現実に、あらためて感謝したくなるライブだった。

 

セットリスト

1. レザマリでもつらくないっ!
2. ラクト・ガール

3. 最速最高シャッターガール
4. 人間が大好きなこわれた妖怪の唄

5. Thank you 感謝!
6. Help me ERINNNNNN!!
7. 最終鬼畜Flowering Night

文:沖 さやこ
撮影:羽柴実里、紡

 

 

「『東方』という奇跡のような現実に、あらためて感謝したくなるライブ」 FloweringNight2020 COOL&CREATEライブレポート おわり