東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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リポート
2020/07/29

「豚乙女は僕たちにワクワクを魅せてくれる、これまでも。これからも。」 FloweringNight2020豚乙女ライブレポート

FloweringNight2020豚乙女ライブレポート

 

 FloweringNight。

 僕にとってそれは他の東方ライブたちとは違う、特別な意味を持っている。何しろ自分の人生を変えたライブなんだ。

 友人に誘われて行ったFloweringNight2012。それが僕にとって初めてのライブだった。右も左もわからない、ライブのことを何も知らない、そんな僕が覚えているのは、とってもまぶしくて綺羅びやかな音、臨界した熱量で包まれたフロア。

 

 「待チ人ハ来ズ」で2000人のシンガロングに圧倒されたこと。「明星ロケット」で知らないやつと肩を組んで踊ったこと。「Unknown Girl」でフロアの前の方に吸い寄せられて感極まって号泣したこと。それ以降ライブの魅力に取り憑かれた僕は、東方ライブに通い詰めることになる。そこからもう8年経ったけど、今でもその景色は覚えてる。それくらい自分にとって大切なライブなんだ。

 

 そして、みんなにとっても特別なライブということを、7年ぶりの復活が発表された時に、無観客で行うことが発表された時に、みんなの熱量で感じることができた。

 

 みんな待っていたんだ。7年ぶりの開花宣言を。

 

 ライブ当日、”開場時間”とも言える開演30分前にはクラブチッタのキャパと同じ1000人を超える人が各配信サイトに集まっていた。

 思い思いのコメントの中に、韓国語や英語、スペイン語など世界中の言葉が混ざる。FloweringNightが世界中の東方ファンから待ち望まれていることがこんな瞬間からも見て取れる。各配信サイトの累計入場者数は6000人を超えていた。6000人、かつて同人ライブとして最大規模だった幕張メッセでのFloweringNight2009を超える規模だ。

 

 さあ、いよいよライブの時間だ。

 

 もちろんライブの始まりはこの言葉じゃなきゃいけない。13年前から変わらないあの言葉。

 

 7年ぶりに、万感を込めて叫ぼう

 

““幽雅に咲かせFloweringNight””

 

 

 

豚乙女のこれまでとこれから

 

 「幻想のサテライト」のイントロが流れステージに明かりが灯る。舞台の左手からBa.コンプ、Vo.ランコ、Pa.ランコの姉が板付きでスタンバイ。豚乙女のライブでは定番となったスタートで会場の熱量を一気に上げる。Vo.ランコはカメラ越しにマイクを向け「声聞かせて!」とコメントのみんなをアジテーションする。

 

 このライブはニコニコ生放送、YouTube Live、Periscopeと3つの媒体で配信されている。リアルライブのように1箇所に集まているわけでもなく、見ている媒体も違っているけれど、それでも同じ時間をみんなで共有している。そんな現象を表すように「響縁」がプレイ。休みなく「ソリッド」が続くとライブの勢いは最高速に。いつの間にかフロアには1万人を超える観客が詰めかけていた。

 

 

 続く曲は「待チ人ハ来ズ」。ライブでは2番でのシンガロングがお決まりだが、配信ライブでは難しい。

 それでもVo.ランコはマイクをみんなに向ける。それは、カメラ/画面の向こうから声が返ってくることを信じているから。Vo.ランコの思いに応えるようにコメントでシンガロングが返ってきた。今は、コメントという形で。いつかまた、“一緒に”シンガロングできるように。

 

 

 MCではBa.コンプは豚乙女に起きた変化を語る。

 スタート時からのメンバーであるPf.パプリカが今年をもって脱退することが決まっており、ライブにも出演しないことが発表されていた。期せずしてFloweringNight2020が新たな出発の場となったことへの寂しさと喜びを噛み締める。

 

 

 

 

 次の曲「迷い子の目覚め」へ。2011年と初期の曲ながらライブでやるのは今回が初めてとなる。この曲は幻想に迷い込んだ人と幻想から覚めてしまった人の歌。そしてそんなみんなが歌でつながっているという歌。

 

 

 続く「春の雪」。ラストのサビで、Vo.ランコは慟哭する。

冷た過ぎる春の雪 何を終わらせ始める

積もることも叶わずに頬を伝った涙

 これは、Pf.パプリカへの豚乙女なりのエールだ。それでも、彼らにだって、別れの寂しさは拭えていないのだろう。矛盾するようで、確かに共存する相反する感情を詠うセットが、僕たちの胸を確実に射抜いていく。

 

 

 「囲い無き世は一期の月影」は、豚乙女が初参加したFloweringNight2011でも歌われたナンバーだ。その時は歌詞カード通りに歌われたこの曲を、彼らは今こう歌う。

“フラワリ”の夜には 唄謡い

 それは彼らがこの9年間歩んできた数多のライブアクトによって出来上がってきたもの。「渋谷の」「うた祭りの」「上海の」……“満月”の代わりに当てはめられた言葉は、豚乙女の道標とも言えるもの。サビで、画面はタオル回しの意味を込められた“@”のコメントで埋まる。その場に居られなくても、タオルだって回せる。僕たちは、どこでだってなんでだって1つになれる。

 

 

 そして続く最後の曲「オカルティックドリーマー」。新曲となるこの曲はライブで披露されるのは初めてだ。“オカルティックドリーマー”とはまさしく東方に関わる人たちのことで、もちろんこのライブをみているみんなも含まれるであろう。

弾けそうなワクワクなんてないって言い切れなくて

「ありえない」と思う心 そんなものすぐ捨てちゃって

 豚乙女はこれまでたくさんのワクワクを僕たちに魅せてくれた。これからも同じくらい、いや今まで以上のワクワクを魅せていくのだろう。豚乙女は止まらない。今日のステージでそれは確信になった。

 

 

 ここ半年で、ライブというもののあり方、生活までもが大きく変わった。たった半年前、僕は上海でライブレポートを書いていたのに、今では国内のライブに参加することだって難しい。もともと音楽というものは変わりやすいものだし、バンドやサークルのあり方は常に変化する。”大切なお知らせ”があるたびに、僕らファンはドキドキして心を乱されるものだ。

 

 でも変わらないものもある。それは例えば、豚乙女が豚乙女であること。メジャーデビューしようとも、メンバーが変わろうとも、豚乙女は豚乙女だ。他のバンドやサークル、イベントにも同じようなことが言える。そして、「不変」は「停滞」ではないということも、僕は思い知った。彼らはそれぞれの不断の努力によって変わらないように、動き続けているんだ。

 

 FloweringNightも同じだ。FloweringNight2013からライブを取り巻く環境は大きく変わったけど、FloweringNight2020として変わらずに復活した。今日出演しているサークルはどれも10年以上の時を東方と共に歩んでいる。そして、これからも歩んでいく。

 永い時が経っても変わらずに復活したということ、その意味を、今日の出演者たちはそのライブアクトによって教えてくれるに違いない。

 

セットリスト

1.幻想のサテライト
2.響縁
3.ソリッド
4.待チ人ハ来ズ
5.迷い子の目覚め
6.春の雪
7.囲い無き世は一期の月影
8.オカルティックドリーマー

 

文:えふび~
撮影:羽柴実里、紡

「豚乙女は僕たちにワクワクを魅せてくれる、これまでも。これからも。」 FloweringNight2020豚乙女ライブレポート おわり