東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

詳しく読む
インタビュー
2022/08/31

【特別編】声優、ファイルーズあい インタビュー――チルノとして歌うキャラクターソング『はなまる!さいきょうハイパーチルノ』

ファイルーズあい「東方Project」インタビュー【特別編】

 2019年のデビュー以来、数多くのアニメ作品に出演され、目覚ましい活躍を遂げられている声優のファイルーズあいさん。実は、Twitterで東方について熱く語っている……と、いうのをみなさんご存知でしたか? 

 スマートフォン向けリズムゲーム『東方ダンマクカグラ』では、チルノのCVも担当されているファイルーズあいさん。本日8月31日からは、ファイルーズさんの歌うキャラクターソング『はなまる!さいきょうハイパーチルノ/IOSYS feat. チルノ(CV:ファイルーズあい)がゲーム内に実装されます!

 ファイルーズさんの東方との出会いや、「チルノとして『キャラクターソング』を歌う」ということ、その思いについて語っていただきました。

※この記事は7月に公開されたインタビューに未公開部分を追加して再構成したものになります。

聞き手・文:西河紅葉
聞き手:斉藤大地/紡
写真:えぬに

 

東方Projectと出会った中学生時代

――ファイルーズさんが「東方Project」と出会ったのはいつの頃でしたか。

 

ファイルーズ:
 「東方」の存在を知ったのは、中学1年生の時ですエジプトから日本に帰ってきて、学校で「いま日本で流行っているモノはなに?」と尋ねたら、ニコニコ動画っていうのをみんな観ている、と教えてくれて。

 それで私もニコニコ動画を、まずはランキングページから観始めたんです。その中に「東方」の文字があったのは覚えているんですけど、最初はクリックしませんでした。でもたまたま開いた音MADで……あ、あの、音MADとかって、話しても大丈夫ですか……?

――うちは東方の二次創作メディアなので、大丈夫ですよ(笑)

ファイルーズ:
 とあるキャラクターの音MADを開いたら『U.N.オーエンは彼女なのか?が使われていたんです。あのメロディが耳から離れなくなって、「なんの曲なんだろう?」と調べたら、どうやら「東方Project」という作品で使われている曲であることが分かって。

 そこからすごく興味が湧いて、東方Projectのタグで検索してみて、最初に出てきた曲が……ちょっと待ってくださいね。その曲、今もずっとスマートフォンに入れてて……(スマホ内を探す)

 これです、SYNC.ART’Sさんの『Sweets Time』!!
 何年経ってもずっと好きで、ずっと聴いているんです。当時は「東方アレンジ」という文化も知らなかったから、これは「ゲーム中に流れるテーマソング」だと思っていました。東方って、イラストの絵柄もたくさんあるから、いったいどれが公式なのか分からなかったんです。

 調べるうちに、ZUNさんという方が、ゲームも、音楽も、キャラクターイラストも、ストーリーも、全部おひとりで担当されて作り出している作品ということを知りました。

「東方」を愛するファンたちが、それぞれのアレンジを加えながら作品を作っていること、その自由度が本当に高いこと、どこまでも想像の余地を残してくれている。そんな世界観に、ものすごく惹かれました。

――学生当時、東方のグッズなどは買われていましたか?

ファイルーズ:
 東方のイベントにはあまり行ったことがなかったので、グッズは買っていなかったです。原作ゲームは中野ブロードウェイで買いました。『紅魔郷』と『妖々夢』と『非想天則』を買ったんですが、ゲームが下手すぎて全然クリアできなくって……。どうしてもうまくなりたくて、PlayStation2のコントローラーをパソコンに繋げられるコネクタも買ったりしたんですけど、やっぱり下手で。もう、観て楽しむ方にしようと決めました。

――東方の同人誌などはご覧になっていましたか?

ファイルーズ:
 中野にはあったと思うんですが、正直、東方キャラのエッチなのは、あんまり得意じゃなくって……。だって、彼女たちは強いじゃないですか。ほのぼのした感じの本だったら、読みたかったんですけど。

――彼女たちは強い、そのとおりですね。中野ブロードウェイにはよく足を運ばれていたんですか?

ファイルーズ:
 たまにですね。中高生でバイトもしていなかったから、お金もなかったので。東方の楽しみ方は、インターネットで色んな人のイラストを見たりとか、自分でもイラストを書いてみたりとか、でしたね。

――今まさに、多くの東方好きな中高生たちが、その言葉に共感していると思います。「お金ぜんぜんない」「私と同じことしてる」って。

ファイルーズ:
 東方は、自分で作品を投稿するのも簡単にできますし、作品投稿が東方そのものを盛り上げられることがいいですよね。そこから友達が増えたりしたら、すごく楽しいんじゃないかなと思います。

 本当は原作ゲームを遊べたほうがいいですけど、もし遊べなくても、同じ作品を愛する人同士が語り合ったりとか、音楽で一体化できたりするのも、東方の魅力ですよね。

――「東方」が、オタク文化に傾倒していったファイルーズさんの琴線に触れたんですね。中学生当時のマインドセットに合っていた。

ファイルーズ:
 そうですね。それこそ『Sweets Time』のような、ちょっとディストピアっぽい歌詞【※】に惹かれていて――当時の私は、そういう曲を聴きながら夜道を歩くのが好きでした。厨二ですね(笑) 台所で、咲夜みたいなナイフの持ち方をやってみたりとか……やりたくなりません?

林檎と蜂蜜
紅茶のジャムは アプリコット
銀色のティースプーン
壁に放り投げた

早く遊ぼうよ
人形は何にも喋らない
ひとつしか知らない
歌を唄ってみるの

――『Sweets Time』正式歌詞の一部

【※】『Sweets Time』の歌詞には暗喩表現が多く含まれている……と考えたファンたちの間で、上記の歌詞を本来意味する言葉に置き換えた「裏歌詞」というものが非公式に作り出されている。

――やりたくなります。カッコいいですから。

ファイルーズ:
 なりますよね! そういう、日常にあるちょっとした仕草に「東方」を感じたりして、幻想郷にいる彼女たちの真似をしていました。

 東方の女の子たちって、その辺の外界の人間なんかもう目じゃないくらいに、ひとりひとりが相当な強さじゃないですか。どんなに華奢で幼く見えていても、実は500年以上生きてたりとかして。女の子なのに、どの子も守られる側の存在としては描かれていないし、想像できないくらいの強さを持っていることに、すごく惹かれました。それを見て、私も「強くなりたいな」って。

 あと、服装がとにかく個性的で。いわゆる「ZUN帽」って呼ばれている、ナイトキャップみたいな形の帽子とかも、ZUNさんにしか描けないものだよねって思っていました。ZUN帽を被っていたら絶対東方のキャラだって分かるブランド力というか、キャラクターデザインに説得力を感じたんです。

 「とても強い、でもかわいい」という二つが両立している感じが、東方の唯一無二なポイントですよね。

 

学生のころ、どうしても東方アレンジが歌いたくてIOSYSの門を叩こうとした

――ファイルーズさんは『東方ダンマクカグラ(以下、ダンカグ)』で、チルノ役を演じられています。お話を最初に聞いたとき、どう思われましたか?

ファイルーズ:
 私たち世代はチルノで育っていると言っても、過言ではないですよね。「みんなー!チルノのさんすう教室始まるよー」って。東方を知らない子でも知っている曲じゃないですか。それで育ってきたので、最初に伺ったときは「私がチルノに?!」と純粋に驚きました。もう本当に、夢のような気持ちでした。

 私、専門学生の頃にどうしても「私、東方の曲が歌いたい!」と思って、東方音楽サークルさん……IOSYS【※】さんがボーカル募集していないか、調べたことがあるんです。歌いたいと言いつつも、当時は歌に自信がなかったので「なんかセリフっぽいのだったらできるのにな」と思ったりとか。でも、将来声優でデビューした時に、もしかしたらそれでご迷惑をおかけしてしまうかも……と思って踏みとどまったんですけど。

【※】IOSYS北海道札幌市に拠点を置く同人音楽サークル・音楽制作チーム。
ニコニコ動画で『魔理沙は大変なものを盗んでいきました』が大ヒットして以降、
『チルノのパーフェクトさんすう教室』『スカーレット警察のゲットーパトロール24時』などなど、数々の東方アレンジを世に送り続けている。
近年はアニメ「THE IDOLM@STER」「ゆるゆり」や、VTuber「宝鐘マリン」「月ノ美兎」「BOOGEY VOXX」への楽曲提供など、ボーダレスな活動を現在も続けている。

ファイルーズあいさんが歌う『はなまる!さいきょうハイパーチルノ』も、IOSYSが制作している。

――もし申し込んでいたら、すこし歴史が変わっていたかもしれないですね。

ファイルーズ:
 かもしれないです。東方のキャラクターの声をやりたいって、ずっと思って生きてきたので。本当に幻想郷入りできてうれしかったです。声だけ幻想郷入りできました。

――チルノを演じる上で、気にかけていることはありますか?

ファイルーズ:
 やっぱり、世間にはIOSYSさんのチルノが広まっているじゃないですか、大人気なので。

 私自身もその印象が強かったので、引っ張られすぎないようにというのを念頭に置きました。『ダンカグ』のチルノなわけですから、そのオリジナリティをいれつつ、みんなが思い浮かべるチルノになるべく近いようなイメージにしたいと考えています。その塩梅が少し難しかったですね。

――ファイルーズさんの考える、チルノの魅力を伺いたいです。

ファイルーズ:
 チルノって、常に考え方が主観的なんです。最初に見た印象がずっと強いが故に、ずっと決めつけてかかったりするタイプだと思うんです。

 けれども、『ダンカグ』のエピソードだと、意外と周りの妖精たちの小さな変化に気づいていたりするんですよ。だから「あ、意外とちゃんと見てるんだな。天才と馬鹿は紙一重って、こういうことか」と思ったりして。チルノは、ただバカなだけじゃないというところが魅力だと思っています。

 あと、自分をしっかり持っているし、あれだけ「あたいは天才!」と言い切れる、その自信やパッションは、現代人が必要としているものなんじゃないかと。自己肯定感、絶対高めた方がいいじゃないですか。自信過剰になるのは危ういですけどね。今の世界の私たちは、チルノぐらいのメンタルを持っていた方が、心は健康なんじゃないかと思います。

――確かに。チルノには現代人が学ぶべきところがありますね。

ファイルーズ:
 周りにバカって言われたら、「バカはあなた」「あたいの天才さが分からないあなたの方がバカ」って言い返してやりましょう。

 

チルノとして歌うキャラソン『はなまる!さいきょうハイパーチルノ』

――ファイルーズさんがダンカグで歌われた、チルノのキャラクターソング『はなまる!さいきょうハイパーチルノ』についてお伺いさせてください。

ファイルーズ:
 いっぱいありますけど、やっぱり『キャプテン・ムラサのケツアンカー』。あれでコールしたくなりますよね。カラオケだと歌詞がソフトになってますけど。

 あとは、色々あるなあ……やっぱり『チルノのパーフェクトさんすう教室』もそうだし、あとは『お空のニュークリアフュージョン道場』とか。あれ、一緒に動きたくなりますよね。歌詞が本当に意味が分からないですけど、不思議とキャラクターがアホかわいく見えて楽しい気持ちになる、素敵な曲です。

――ファイルーズさんが思う、IOSYSさんの魅力はなんでしょうか?

ファイルーズ:
 IOSYSさん独自の幻想郷がありますよね。IOSYSさんのアレンジには、一種のキャラ崩壊が起きているような曲も多いじゃないですか。でも「IOSYSさんの家の子たちはそうだよね」って思わせてしまう、不思議な説得力があるなと思います。PVも多くて見ていて飽きませんし、そのブランド力の構築がすごいなと思います。

 チルノのキャラクターソングの資料をいただいたとき、最初に歌詞カードを見ず、先に曲だけ聴いたんですね。その時点でもう「IOSYSさんっぽいなー」と思ってて(笑) 改めて歌詞の資料に書いてある編曲欄を見たら「やっぱりIOSYSさん!えー!」と本当に驚いて。あのIOSYSさんの曲を私が歌えるんだって、すっごく感動しました。

――新曲『はなまる!さいきょうハイパーチルノ』はどんな曲なのか、教えてください。

ファイルーズ:
 『おてんば恋娘』のメロディーがすごく好きなんです。『はなまる!さいきょうハイパーチルノ』は、原曲のメロディをストレートに使わず、アレンジの仕方が絶妙で、それでいて原曲に寄せすぎずオリジナリティを貫くっていうところも、すごく素敵でした。

 最初は静かに始まって、これは静かな曲なんだな〜と思わせてから、いきなりバイブスがぶち上がるのが、チルノの性格そのもので大変面白いです。あとは、曲中のセリフやコールもすごく多いので、チルノが妖精の子たちを氷の湖の上に集めて「コールしてね!」ってはべらせながら、気持ちよく歌ってる情景が浮かびました。本当に素敵な曲です。

――東方で「キャラクターソング」というのは、あまりない珍しい概念です。「チルノとして歌う」上で、考えていたことはありますか。

ファイルーズ:
 実は、キー的に出すのが難しい部分があったので、歌うときはなるべく音程を重視しようと思っていました。でも途中で「チルノだったらそんなこと無視して『あたいの歌いたいように歌う!』だろうな」と考え直して、最終的にはチルノらしさを優先して歌いました。

 本当に賑やかで、チルノらしさが詰まった、すごく魅力的な曲に仕上がっています。もし元気がないときとか、チルノに会いたいなって思ったときには、是非思い出して聴いてくれるとうれしいです。

――今、東方が好きな中高生の女の子たちに、一言いただけますか。

ファイルーズ:
 やっぱり私も、最初は東方がどんなものか分からなくて、何から触れていいのか、右も左も分かりませんでした。でも、何から入ったっていいと思うんですよ。

 自分が好きだなと思うキャラクターを調べてみて、たくさん絵を描いたり、そのキャラの音楽を聴いたり、カラオケで歌ったりして、色んな楽しみ方でそのキャラクターを愛してみてください。きっとその愛情の深さが、同じ原作の別のキャラクターや、別の原作への興味にもつながって、どんどんどんどん広がっていくので、色んなキャラクターを好きになって、東方を楽しんでくださいね。

 

8月31日より収録!『はなまる!さいきょうハイパーチルノ』

「東方ダンマクカグラ」公式Twitterより

スマートフォン向けリズムゲーム『東方ダンマクカグラ』に、ファイルーズあいさんが歌う『はなまる!さいきょうハイパーチルノ』が収録!

同時配信のイベント「チルノvs.チルノ!? 暴走悪夢を捕まえろ!」では、イベントエピソードにふたりのチルノが登場します。どちらもファイルーズあいさんが演じます。ぜひボイス付きでお楽しみ下さい!

 

ファイルーズあいさんが「東方Project」についてさらにアツく語っている一万字インタビューは、こちらから!

【独占】ファイルーズあい「東方Project」一万字超えインタビュー

【特別編】声優、ファイルーズあい インタビュー――チルノとして歌うキャラクターソング『はなまる!さいきょうハイパーチルノ』 おわり