東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

詳しく読む
インタビュー
2024/08/09

この学園では「ハズレものを作らない」。将来の夢は◯◯ゲー!?――『Help me, ERINNNNNN!!』制作秘話インタビュー:ダイジェスト

『Help me, ERINNNNNN!!』制作秘話 MV制作者のひとびと氏、編曲者のまろん氏、ビートまりお氏インタビュー:ダイジェスト

 いよいよ1000万再生を突破しそうな勢いのYouTube動画「【東方MV】Help me, ERINNNNNN!!【ビートまりお】」。ほぼ同時に公開されたプロジェクトセカイVer.の再生数も合わせれば、およそ1500万再生に近づくほどだ。

 MVの舞台はどこかの学園、そこには見慣れた東方キャラたちが、制服とカーディガンのイマドキな学生スタイルで通っている。東方の「学園モノ」なんてこれまで何度見たかわからないのに、どこか新しい気がしてしまう。それを証明するかのように、MV公開直後にはたくさんの「学園えーりん」ファンアートがSNSに投稿された

 なぜ、この作品には新しさを感じるのだろう。そもそもこの「えーりん」という楽曲は20年も前に作られたものなのに、どうして古びないと感じるのだろう。

 MVを制作したクリエイター・ひとびと氏がこのMVのアップロードとともにTwitter(X)で公開した動画には、膨大な数の動画カット、綿密な製作工程、そして大量のイラストラフの数々が掲載されており、とんでもない熱量が込められた作品なのは誰の目から見ても明らかだった。この「学園えーりん」はただの東方学園モノではない、巨大な感情が込められているに違いない。

 この令和の『Help me, ERINNNNNN!!』リブートがどのように、そして何故生まれることになったのかをどうしても知りたい。そのために、MV制作者のひとびと氏そして編曲者のまろん氏ビートまりお氏の3名に話をきいてみることにした。

 そこでわかったのは、それぞれ大きく世代が異なる3人に共通する「東方Project」から得た救いそして「ハズレものを作らない」という、この学園設立に至ったひとびと氏の切なる願いだった。

インタビュー・文:西河紅葉
書き起こし協力:KoCyan64(アル雀点五)

※本インタビューは同人誌「Help me, ERINNNNNN!! たすけてえーりん!!の本」掲載の2万5千字インタビューから、一部を抜粋したダイジェスト版です。

 

世代の違う3人の出会い

――本日は、令和に生まれ変わった『Help me, ERINNNNNN!!(以下、えーりんとも表記)』について、MVを作られたひとびとさんを中心に、制作秘話や作品への想いについて伺えればと思います。まずは自己紹介をお願いします。

ひとびと:
 ひとびとと申します。イラストと映像を組み合わせた作品を作るのが好きで、普段は……そんな作品を作っています。よろしくお願いします。……自己紹介のこと、なにも考えてませんでした(笑)

――ありがとうございます。今回のインタビューには、こちらのおふたりもお呼びしております。

まろん:
 IOSYSのまろんです。最近はCOOL&CREATEの便利屋さんをしています。

ビートまりお:
 COOL&CREATEのビートまりおです。最近はまろんくんと一緒に東方Projectでワイワイ楽しませてもらってます。

――まずはひとびとさんに『Help me, ERINNNNNN!!』MV制作のきっかけの話を伺ってもよろしいでしょうか。

ひとびと:
 ぼくは主に「にじさんじ」の二次創作をずっとやっていて、ありがたいことに、たまにお仕事をさせて頂く機会がありまして……。今回の件に近いご縁としては、壱百満天原サロメさんのオリジナル曲『壱百満点☆パクスサロメーナ』のMVを制作させていただいたことが大きなきっかけだったと思います。その楽曲をまろんさんが製作されていたのが、最初の出会いですね。

「壱百満点☆パクスサロメーナ」

歌:壱百満天原サロメ
作編曲:ARM & まろん (IOSYS)
作詞:まろん (IOSYS)

ギター:小林ヒロト
バイオリン:三輪紫乃
プログラミングサポート:井上 栞
ミックス・マスタリング:Shibayan

動画:ひとびと

ひとびと:
 楽曲を作られたのがIOSYSのみなさんだと聞いたことと、サロメ様も東方Projectが好きだとおっしゃられていた記憶もあり、MVの中にIOSYSさんの要素というか、東方MVのエッセンスを入れなきゃいけない使命感にかられていて。改めてIOSYSさんのYouTubeをたくさん見かえしたりしていました。

まろん:
 ぼくはその前から、自分と同じ「サロメ様のMAD動画を作っているひと」としてひとびとさんを認識してたんです。ぼくがまりおさんの『BEAT-NEW-WORLD』、ひとびとさんが『チルミルチルノ』でそれぞれMADを作ってて。曲選びで「あ、このひとニコニコ世代だ」って、親しみを持ちまして。

まろん:
『壱百満点☆パクスサロメーナ』のMVが公開された2日後くらいに、ひとびとさんからぼくにDMを送ってくださったんです。「もともとIOSYSの楽曲を聴いていたので、今回ご一緒できて本当に光栄でした。また何かご一緒できたら良いですね」と、とても丁寧なDMをもらったのが、最初の会話ですね。

 そもそも、えーりんをリブートして作り直そうという話は、2023年の夏前くらいから出ていたんですよ。

ビートまりお:
 去年の例大祭が終わったあとに俺が突発性難聴になっちゃって、2週間位入院して。そのときになんか「いまやれることをいまのうちに全部やっておこう」って思ったんです。いつ音楽やれなくなっちゃうか、わかんないと思ったから。

 パクスサロメーナのMVからは、ちゃんとIOSYSみっていうか、あの時のニコニコっぽさがあって。このひとに映像をお願いしてみたいなと思いました。東方を通ってるだろうから、絶対やりやすいだろうって感じたから。

――世代が違うのに、みなさん同じくニコニコ動画を通っているというのが興味深いですね。ちなみに、みなさんの年齢を伺ってもいいですか。

ひとびと:
 いま21歳で、今年22になります。

まろん:
 31歳ですね。

ビートまりお:
 17……

――えっ?

ビートまりお:
 43、43です。

 

「みんなは知らないけど、ぼくはこんなかっこいいものを知ってる」――東方との出会い

――ひとびとさんが東方Projectに触れたのはいつごろだったんでしょうか。

ひとびと:
 小学4年生くらいの時に、ニンテンドーDSの「うごくメモ帳(以下、うごメモ)」で東方を観たのをなんとなく記憶してます。うごメモ界隈で有名な『毒舌』ってタイトルが付いた、フランドールとレミリアさんが会話する動画があって。

 そのときに観たのはスマブラのキャラに置き換えたバージョンだったので、東方の動画ですらないんです。でもそのときから知らない間に東方を食らってて、それが最初ですね。

 そこから少し経って、YouTubeとニコニコを同時に履修する時期が始まり、東方二次創作動画とゆっくり実況にのめり込みました。ぼくが動画を作るようになったのは、完全にゆっくり実況がきっかけです。

――そのころからもう自分用のパソコンを持っていたんですか?

ひとびと:
 自分がDSでうごメモでお絵かきとか動画を作っているのを観たうちのお母さんが「こいつにはパソコンを与えたほうが良い」ってなったらしくて。

ビートまりお:
 いいお母さんだ! うごメモ、創作の最初の最初って雰囲気が詰まってるイメージあるなあ。ああいう場所って大事だよね。当時の画とか残ってる?

ひとびと:
 恥ずかしくて出せないですね(笑) あとはニコニコの「Nsen」とかも通ってました。当時“魔窟”って呼ばれてたころです。

 いまでこそ東方を知ってる小学生ってたくさんいると思うんですけど、ぼくの周りでは全然みかけなくて。自分としては東方を「みんなは知らないけど、ぼくはこんなかっこいいもの知ってるけどね」みたいなスタンスでした(笑)

一同:
 (笑)

ひとびと:
 ちょうどカゲロウプロジェクト全盛期で、女子のオタクが給食の時間にカゲプロ曲を流しまくってる時に、ぼくは幽閉サテライトさんの曲流してみたりとか、朝の読書の時間に「東方儚月抄」の小説版持ち込んだりとか(笑) 

――厨二病まっさかりですね! まぶしい!

ビートまりお:
 東方は、いつの時代もあまのじゃくが愛するコンテンツだからね!

――小学生ごろから始めた動画作りは、そのあと中学・高校と進学していく間も続いていたんですか?

ひとびと:
 続けてました。ひとりでもくもくと作ってましたね。中学から高校の途中くらいまで、自分の趣味を同級生と語り合うことができなくて。友だちもほとんどいない時期とかも有りました。ボカロやカゲプロの話、ゲームの話とかはついていけたんですけど、周りのみんなは誰も東方もニコニコもあまり知らなかったから、自分からそんな話を振ってもな……と、口を閉ざす機会が多くて。

――……いま、両隣のインターネットと東方に人生を救われた経験を持つふたりが、親のようなやさしい目でひとびとさんを見つめています。

一同:
(笑)

ひとびと:
 わりとそういう寂しい気持ちも持ちながら生きてきて……ニコニコにVTuberが入ってきたあたりで、友だちと「にじさんじ」の話題で盛り上がれるようになって、そこから友だちがふえた気がします。同級生のみんなと「せーの」で一緒にはじめられるコンテンツに、やっと「にじさんじ」で出会えたって感じでした。

 

血と汗と涙を注ぎ込むしかない

――東方で好きなキャラクターは誰ですか?

ひとびと:
 このHNを名乗る前のアカウントでは、アイコンをずっと霊夢さんにしていました。ひとびと時代も初期のころは霊夢さんのままでしたね。たぶん、ゆっくりで最初に見たのが霊夢さんだからかなあ……。

――好きな原曲はなんですか?

ひとびと:
千年幻想郷 ~ History of the Moonオリエンタルダークフライトです。

――オリエンタルダークフライト!? 渋いですね!

ひとびと:
 東方の原曲は全部好きだし、聴けば聴くほど全部良いなってなるんですけど、なんか繰り返し再生しちゃうのはその2曲かもしれないですね。『オリエンタルダークフライト』はなんかわかんないんですけど、サビがやたら刺さっちゃって、ずっと好きです。

――ちなみに、原作に最初に触れたタイミングっていつごろでした?

ひとびと:
 やっぱり、東方を通る時に原作に触れないのは嘘だろう、と思って触ってはいます。ただ、最初に入ったのが紅魔郷だったのが運の尽きと言うか……全然できなくて。Easyでも5面まで行けないんですよ。本当にシューティングゲームが下手で、こりゃ駄目だ……と一度諦めてしまいました。

 そこからえーりんMVの話をもらって、恥ずかしながらぼくが永夜抄をまだ未プレイだったので、これはもうやるしかない!と、買って死ぬ気でプレイしました。いちおうクリアまでたどり着いてます。……最高でしたね。演出が良くて、曲も良くて。ゲームから感じ取ったさまざまなシーンを動画に組み込めました。

ビートまりお:
 原作プレイしてえらい。

まろん:
 えらいぞ。

ひとびと:
 このままMV制作を続けていって、いつかのタイミングで「東方」のなにかを作ってみたいな、とは思っていたんです。そうしたら、最初に携わることになったのがまさかの『Help me, ERINNNNNN!!』という……。

 小学校のころからまりおさんのライブ映像をみて育ってきた人間としては「作るからには、半端なものでは駄目だ」という、ものすごいプレッシャーを感じていました。いまのアカウントでは東方が大好きなことをあまり表にはしてなかったですし、そもそもそんな人間が受け入れてもらえるのか、下手なもの作ったらタコ殴りにされるんじゃないか……って震えてましたね。

――いきなり最初の依頼がえーりんのMVなのは、確かに大きすぎますね。

ひとびと:
 だからもう本当に、がんばるしかないと思って。汚いですけど、血と汗と涙を注ぎ込むしかないと思ったんですよ。曲の持つパワーと歴史に負けないMVにしようと思いました。

 

「ハズレものをつくらない」――学園えーりんの理念

――なぜ、今回のMVの舞台を「学園」にしようと思ったんですか?

ひとびと:
 最初は幻想郷を舞台にした大団円的な、The・東方って感じの映像を考えてました。ちょっとメタ的に、まりおさんがこの曲を作っていく過程も入れたいな……とか、曲の歴史に寄り添えるものにしようと考えていたんです。このテーマに行き着くのにも時間がかかって、本当にこれでいいのか、もう一周二周考えはじめて。「あれ。これって懐かしいで終わらせちゃって良いのかな?」って思ったころに……。

ビートまりお:
 ちょうどプロセカから東方コラボの話をもらったんだよね。

ひとびと:
 プロセカに収録されることが決まって、だったらなおさら、この曲を初めて聴くひとにフィーチャーしないといけないんじゃないか、って。だとすると、歴史を話し出すのはちょっと野暮ったい気がして。

 歴史はもうすでに楽曲が十二分に持っているんだから、MVでわざわざやらなくたって、もともと好きだったひとたちは応えてくれる。それならもっとシンプルに、若いティーンエイジャーが共感できる内容にしたい。この方針ならプロセカとも相性がいいよねと。

 それともうひとつ、幻想郷のことを一旦切り離そうと思ったんです。幻想郷って、東方ってバックグラウンドをMVの中に真に表現しようとすると、どうしてもやりきれないし説明しきれませんから、初見のひとたちでもパッと見てわかる、軽く楽しめるものにしたいと思ったんです。それって、やっぱり「学園」だよねと。

 学園パロディで行ってみたら面白いし、みんなとっつきやすいはず……という、悩みの末に生まれたネタでした。

――そもそもの話で言うと、COOL&CREATEってサークルは、最初から「東方キャラクターの歌」を作ってないし、歌ってないんですよね。東方というゲームを遊んでいる、楽しんでいるひと視点の歌ばかりを歌っている。

ビートまりお:
 IOSYSはずっとキャラソン一筋って感じだけど、クークリはメタい方向が多い。

――『Help me, ERINNNNNN!!』自体、何を助けてほしいのかさっぱりわからない。

一同:
 確かに(笑)

――だから、ひとびとさんがたどり着いた「一旦幻想郷を切り離す」という判断は、むしろCOOL&CREATEに最も寄り添った答えなのかもしれないな、と感じました。MVを作るにあたって、一番大事にしていたことってなんですか?

ひとびと:
 そうですね……「ハズレもの」をつくらない、ですかね。ちょっと恥ずかしいんですけど、観たひとが「これって俺のためのものじゃないな」って思わないようにしたい、というか。古参も新参も、ちょっと知ってるひとも知らないひとも、プロセカから入ったひともYouTubeでたまたま観たひとも、とりあえず観てもなんとなく理解できるような内容にしたいと思っていました。

――ひとびとさんのその思いと、学園モノがうまくマッチングしたのかもしれないですね。

ひとびと:
 ちょっときれいなこと言ってみましたけど、正直なところは、ぼくがただただ学園モノっていうか、あのころのニコニコ動画をやりたかっただけなのかもしれないですね。

――みんなが着ている制服や衣装は、すべてひとびとさんのデザインですか?

ひとびと:
 そうですね。永琳のアイドル衣装も、何となく自分の中でこんな感じかなっていうのがあって。あんまり悩んでないですね。動かすこと前提だったので、シンプルめにしてます。

――個人的にいいなと思ったのは、そのシンプルさのお陰で、このMVのファンアート……いわゆる「学園えーりん」的なイラストがたくさん投稿されたことなんですよね。MVに登場していない東方キャラが、このセーラーにカーディガンの衣装を着ている絵を見かけた時に「あ、これはとんでもないブームになるぞ」と感じました。

ひとびと:
 ぼくはただ、描いてみて違和感ない形にしたってだけだったんですが、結果的によかったです。白衣着てる保健室のえーりん先生も、セーラーの輝夜も全然悩まなかったと言うか。着崩し方とかでキャラの性格も出せたので。魔理沙、本当はカーディガンを腰に巻かせたかったですね。

ビートまりお:
 YouTubeのコメント欄で「(輝夜を指して)この黒髪ロングの美少女キャラはどなたですか?」って言ってる海外ニキがいてさ、良かったよね(笑)

 昔、輝夜でニートネタって流行ったじゃない? 昔はそういうネガティブなイジりが多かったけど、今回の曲はポジティブに寄せたいなって思ってたので、ちょうどよかった。

 

ビートまりおが一生体験できない視点

――次は、MVを実際に見ていきながら、それぞれ細かなところを振り返ってほしいです。

ビートまりお:
 あまねさんとも話してたけど、こんなにたくさん「腕をふる」動作だけでアニメーションを考えられるの、本当にすごいと思ったよ。

ひとびと:
雑学を教えてくれるこいしちゃんbot」がこのシーンに反応してくれてましたね。

 

ビートまりお:
 この「216」って数字って……?

ひとびと:
 これは、2023年の東方人気投票で投票できるキャラクターの数(人妖部門)ですね。この学校にはだいたいみんなが通ってるんだよっていう。

一同:
 ああ~、なるほど!!

ビートまりお:
 勝手に216さんのことかと思ってたわ(笑)

――このMVにおける発明ってさまざまあるんですけど、一番はこれだと思いますよ。「この人がえーりん」。天才だと思いました。

ひとびと:
 そうなんですね? なんとなく説明で置いてみただけだったんですけど。

ビートまりお:
(輝夜と永琳を指して)どっちがえーりんなのか実はみんな知らないから。東方を知らないひと。

ビートまりお:
 ……あ、このシーン観て。ここ、わかる?

――……あ、ここって参加者の視点になってるんですね! 言われるまで気づきませんでした。

ひとびと:
 これは絶対入れようと思ってました。それこそ「Help me, ERINNNNNN!!」を聴いてきたひとたちは、みんなまりおさんのライブに行きたくて、みんなこの場所で腕振りたかったよね、だから絶対入れなきゃって一人称視点をどうしても入れたくて、ここは。

ビートまりお:
 俺は一生、この視点は体験できないのよ。だからこのMVで見れて、すごくうれしかった。

まろん:
 ぼくはもともと参加者側だったこともあって「ああ、ぼくはもうこの視点では体験できない場所にいるんだ」っていう寂しい感情もあります。それは光栄なことなんですけど、青春を捧げた懐かしいあの場所に戻りたい気持ちもあるし。だから、いまこの画面上で楽しめるのがうれしくて。

 

インターネットの誰かの二次創作を、歌って繋いでいるだけ――えーりんが流行ったわけ

――まりおさん的に、どうしてここまで「Help me, ERINNNNNN!!」って流行ったんだと思いますか?

ビートまりお:
 えー、なんでだろ……わかんないなあ……。ずっと昔から言ってるけど、この曲って俺が作った二次創作じゃなくて、インターネットの誰かが作ったネタに乗っかってるものなのよ。

 昔の東方スレの誰かが「『竹取飛翔 ~ Lunatic Princess』のここ、えーりんえーりんって聞こえるよね」って言い出して、それにまた誰かがジョルジュ長岡の「おっぱい!おっぱい!」のAAを当てて、それを俺が一個の曲にしたっていうだけだから。

 俺が一人で生み出したわけじゃなくて、インターネットの誰かがつないだ東方二次創作を、俺は歌ってつなぎ続けてるだけ。

――まさしくネットミームから作られた音楽なわけですよね。

まろん:
 えーりんって「合いの手があるから完成する曲」じゃないですか。ビートまりおが歌うけど、客席の「俺ら」にも歌うパートがあるから。自分がライブに居てもいい、役割が与えられている曲なんですよね。

――アイドルソングの合いの手とも少し違う、それがなければ楽曲自体が成立しないパートですね。

まろん:
 まさしく「俺ら」のパートなんです。おれたちの出番。

ビートまりお:
 コール&レスポンス、って言葉を知らなかったときは「俺らパート」って呼んでたもんね、そこ。

 なんか一度、自分の逆張りオタクが発動して、ライブのセットリストからえーりんを抜いたことがあったの。めちゃくちゃ不評だったもんね。やっぱみんなが求めているものを外しちゃダメだと思った。

まろん:
 俺らのパートを奪ったからだ!!!

一同:
(笑)

――「俺ら」の流れで聞きますが、令和のえーりんには「おっぱい!おっぱい!」が残ってるじゃないですか。これについて詳しく聞かせてもらえませんか。

ビートまりお:
 これは、結構迷った。配信ライブとかで「すみません、おっぱいは無しにしてもらったほうがうれしいです」みたいなのがわりとあって。音源からも一度外そうかなってなった。

――「おっぱいは無しにしてもらったほうがうれしい」わけないじゃないですか!!

ビートまりお:
 消したほうが時代に即してるかもしれないけど、でも元のジョルジュ長岡は「おっぱい!おっぱい!」なわけで。

 それに、俺自身が健全で綺麗で大人しいだけのものってあんまり得意じゃなくて。昔のバラエティのお色気シーンとかで、お茶の間がなんかふわ~って変な空気になるやつ、結局ああいうものの方がフックになってなんとなく覚えちゃうみたいなの、あると思ってるから。小学生もね。

ひとびと:
 そのシーン、MVではちゃんと謝ってます。

一同:
(笑)

――でもこの「ごめんなさい」って看板、いまの子たちにとってはすごいありがたいと言うか、「このシーンの見方はこれであってますよ」って教えてもらえるの、安心すると思いますよ。

ビートまりお:
 クークリの昔のライブだと、俺がおっぱい!って叫んで、あまねさんがすごく申し訳無さそうな顔をする……この一連がセットになって成立しているパートだったからね。本来。

ひとびと:
 よく考えたら、ぼくの小学生時代もこの「おっぱい!」パートで画面見ないで明後日の方向を向いてた記憶があります(笑)

 

「学園えーりん」の世界を、10代の君たちの創作で広げてほしい

――改めてひとびとさんにお訊きしたいのは、東方二次創作をやってみてどうでしたか?というところです。

ひとびと:
 本当に……実家に帰ってきた、って気持ちです。昔はずっと東方のキャラしか描いてなかった時期もあったし、そっからいま別ジャンルをメインに活動していて、また東方にもどってきてもいいのかな?って気持ちは、作りながらずっと抱えてました。でもこうしてまた戻ってこれて。いい場所だなって。

ビートまりお:
 東方って、かつてオタクにとっての本当に中心だった時代があったわけじゃない。インターネットの中心であり、即売会の中心であったコンテンツなんで、そりゃこんなにも長く広く、いろんな界隈のひとに愛されて当然だよなって改めて思いましたね。

ひとびと:
 東方で学園モノなんて、絶対たくさん石投げられると思ったんですよ。でも全然なかったし、むしろ東方以外でつながりがあるひとから、反応をいっぱいもらったりして。

 なんか東方って、クリスマスとかお正月とか、そういう感じだなって思ってます。祭事だし行事なんだけど、なんかいつの間にか通ってる、ずっと見守ってくれる存在だなって思ってます。

ビートまりお:
 だからこそ、この「学園えーりん」の世界に大きくなってほしいと思ってます。これは俺たちの手じゃなくて、みんなの手で大きくしてほしい。三次創作って意味で。

 40代の俺と、30代のまろんくんと、20代のひとびとさんで作ったこの学園を、10代の君たちの創作で一緒に盛り上げてもらえたら、って思ってますね。

――最後に、このあたらしい「学園えーりん」の世界でやりたいことはありますか。

ひとびと:
 シンプルに、この世界の二次創作……三次創作かな? が、ガッツリ増えたら本当にうれしいだろうなって思ってます。イラストとか動画とか、いまでもたくさん書いてくださってるひとがいて、とてもうれしいです。あとは……学園えーりんのコスプレ合わせ、見たいですね!

一同:
 それは見たい!

ひとびと:
 東方を好きになりたい、でも幻想郷全部を追っかけるのはちょっと重い……って思ってる子がいたら、それは一旦ちょっと横に置いといて、まずは「学園えーりん」から好きになってくれたらうれしいです。

まろん:
 いまの世の中って、音楽や文化がすごい速度で消費されてしまう世界だと思ってます。賞味期限がすごく短くて。だから、この「学園えーりん」の世界観がもっと広がったり、みんなに二次創作してもらって、どんどん世界を広げてほしいです。そして、楽曲自体をもっともっと長く楽しんでもらえたらいいなと思ってますね。噛めば噛むほど味が出るような。

ビートまりお:
 エロゲー! 学園えーりんのエロゲーを作りたいです!

一同:
(笑)

ビートまりお:
 ちゃんとエロゲーが作りたい! 主人公は前髪が長い、眼が隠れてる男キャラで。……あ、劇場版アニメもやりたい! やりたいです!!

――エロゲーと劇場版アニメの企画が同時に立つプロジェクト、なかなかないと思いますよ。
 ぼく自身も、今日のインタビューでこの「学園えーりん」の世界がより広がってほしいと強く思いました。いろんな学生さんやOB/OGのみなさんにも加わっていただいて、この学園生活を謳歌していってほしいですね。本日はインタビューありがとうございました。

※本記事はダイジェスト版です。
同人誌「Help me, ERINNNNNN!! たすけてえーりん!!の本」収録の完全版インタビューでは『Help me,ERINNNNNN!!』リブートの裏側や、これからの東方アレンジについて、そして「えーりん」をアンセムとしてもう一度甦らせるという重圧と覚悟などなど……この記事には載せきれなかったさらなるの裏側について盛りだくさんでお届け! こちらもぜひチェックしてみて下さい。

学園えーりん本!始めました!!「Help me, ERINNNNNN!! たすけてえーりん!!の本」

特設サイト
http://cool-create.cc/cd/ccds01/

えーりんと共に歩んで20年!
腕を振り続けた歴史を詰め込んだ本が遂に爆誕!
えーりん尽くしの、完全保存版メモリアルブック!

4コマあり!ゲストあり!校歌あり?
えーりんMVの設定資料&絵コンテも詰め込んで!
真心こめたフルカラー62ページ!!

たすけてえーりん!これからもよろしく!

 

サークル名 COOL&CREATE

頒布イベント コミックマーケット104

頒布日時 2024年8月12日(月・祝)

会場 東京ビッグサイト 東6ホール ス-16ab

価格

イベント1,000円
ショップ1,300円(+税)
学園えーりんセット2,000円

BOOTHで購入

通常版 / 学園えーりんセット

同人ショップ

アニメイト メロンブックス アキバホビー

 

「東方我楽多ステーション」で#学園えーりんワンドロ やります!

Discordサーバー「東方我楽多ステーション」5月1日18時オープン!

参加される方は下のURLをタップしてください

 本インタビューの掲載を記念して、Discordサーバー「東方我楽多ステーション(通称:がらさば)」で毎週土曜日に実施している「ワンドロの土曜」のお題を「学園えーりん」といたします!

がらさば「ワンドロの土曜」 

実施日時:8月10日(土)20:00~21:00

お題:学園えーりん

『Help me,ERINNNNNN!!』のMVに登場しているキャラでも、登場していないキャラに制服+ブレザーを着せてもOKです。キャラクターじゃなく、教室や保健室など、学園えーりんにありそうなものを妄想して書くのももちろん大丈夫。

 今回のワンドロはがらさばだけでなく、X(Twitter)上でも「#学園えーりんワンドロ」をつけて行います! 8月10日20時になったらぜひ、がらさばとXの両方にハッシュタグ

#学園えーりんワンドロ #東方がらさばワンドロ

をつけて投稿してくださいね!!

この学園では「ハズレものを作らない」。将来の夢は◯◯ゲー!?――『Help me, ERINNNNNN!!』制作秘話インタビュー:ダイジェスト おわり