東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

詳しく読む
インタビュー
2020/10/11

『東方ダンマクカグラ』とは、同人スピリッツをソーシャルゲームにぶち込んだ野心作だった!? サークル「AQUASTYLE」インタビュー

『東方ダンマクカグラ』・サークル「AQUASTYLE」インタビュー

 

 2020年10月10日、「東方Project」25年を記念するイベント「東方ダンマク祭」にて、AQUASTYLE、DeNA、株式会社xeenによる共同チーム“アンノウンX”制作のソーシャルゲーム東方ダンマクカグラが発表された。

※画像は開発中のものです。 実際のプレイ画面とは異なる場合があります。

 本作は「東方Project」の世界観とアレンジ楽曲を生かしたリズムゲームだ。本格的なノーツ配置とタッチしたときの音の演出による華やかなプレイのほか、ステージにはタイトル通り “弾幕”の演出が挿入されるのが特徴。まさに「東方Project」ならではの音ゲーに仕上がっているのだ。

 そんなゲームを世に出そうとしているのは、どんな音ゲーを作ってきた人たちなんだ? と感じるだろう。

 本作はなんと同人ゲームサークル「AQUASTYLE」発案のものである。同サークルは2004年から16年以上東方二次創作活動をしており、『不思議の幻想郷』シリーズなどを主に制作している老舗のサークルだ。今回の『東方ダンマクカグラ』はこれまでとまったく違うプロジェクトとなっている。

 『東方ダンマクカグラ』はとても興味深い構図を持つプロジェクトでもある。DeNA・xeenの2社とAQUASTYLEは、いわば“商業の大手会社”と“同人サークル”という対照的な立場同士だ。本来、遠い印象のある両者が、『東方ダンマクカグラ』を開発するなかで、いかに商業と同人のスピリッツが混ざり合うことになったのか? これも本作の見どころのひとつだろう。

 今回、AQUASTYLEのメンバーを中心に、開発のいきさつをうかがった。

文・聞き手/葛西祝

 

きっかけはTwitterにあがった『パズドラ』風の純狐のイラストだった!

――本日10月10日に発表された、『東方ダンマクカグラ』についてうかがうため、皆さんにお集まりいただきました。まずは自己紹介をおねがいします。

JYUNYA氏:
 同人ソフトサークル「AQUASTYLE」の代表をしているJYUNYAと申します! 僕らは「東方Project」で第一回目の例大祭くらいから東方の二次創作を行っていて、ゲームや映像を作っています。ゲームでは『不思議の幻想郷』シリーズの企画とグラフィックを主に担当していました。

たかむら氏:
 同じく「AQUASTYLE」のたかむらと申します。元はプログラマーを担当していましたが、いまはディレクターなどをやっています。『不思議の幻想郷』シリーズ初期のメインプログラマーを担当していました。

粗茶氏:
 粗茶と申します。2007年から同人即売会に、基本的にグッズサークルとして参加していました。

 

――さて『東方ダンマクカグラ』は企画からかなり長いあいだの開発を経て、本日の情報発表まで来たじゃないですか。その気持ちをぜひ。

JYUNYA氏:
 いや~、まずはみなさんにお知らせできて嬉しいですね。でもこの企画は2016年からやってたから今日までマジで長かったなあ……。

たかむら氏:
 本当に長かったね……。AQUASTYLEでこんなに潜伏期間の長いプロジェクトはなかったからね。

JYUNYA氏:
 やっぱりこれまで僕らがやってきた東方二次創作とは概念が全く違うものなので、今日の発表以降、僕らの見られ方含め色々一変するんじゃないかと思ってすごくドキドキしてますね。

――ではあらためまして、『東方ダンマクカグラ』という企画がどこから始まったのかを聞かせていただいてもいいでしょうか。

粗茶氏:
 そもそもは『DANMAKUHEROINES』というイラスト集を出したのが最初です。コンセプトとしては、「「東方Project」のキャラクターを『パズル&ドラゴンズ』風に描いたらどうなるか?」ということから、乃樹坂くしお君と私のふたりで企画したものが始まりでした。

【DANMAKUHEROINES】究極進化!博麗霊夢

 最初に出たのが2015年の冬コミに、フレーバーとしてキャラクター数が大体28から30ぐらいの本として出て、翌年の例大祭で、その時点での全キャラクターを収録した版を出しました。

同人誌『DANMAKUHEROINESα』。『パズル&ドラゴンズ』的な東方キャラのデザインが魅力。

――これはすごいですね! この本をTwitterでたかむらさんが見たんですよね。

たかむら氏:
 はい。2015年11月11日に、粗茶さんが純狐のイラストを描いていたんです。僕も「おっ!『パズドラ』ぽい」と思いましたし、キャラクターのテイストも入った上でクオリティ高いなと。

 その時、ほかに作っているゲームがあったんですけど「すべてをかなぐり捨てて、いますぐこれをゲーム化したい!」っていうのをTwitterに書いたんですよ。それが『DANMAKUHEROINES』の公式に補足されてしまって(笑)。そのあとでSkypeで連絡を取りました。

――たかむらさんの「ゲーム化してぇー!」という発言から企画が動いたんですね。

粗茶氏:
 もともとうちの『DANMAKUHEROINES』に関しては、ソーシャルゲーム風にするというコンセプトで動いていたので、Twitter自体もソーシャルゲームの公式アカウントのように運営する形で進めていました。なので当然、つぶやかれているかを検索して調べますよね。

――Twitterのエゴサーチによって繋がるスピード感、すごく同人っぽいですね。

JYUNYA氏:
 いまおもむろに当時の冊子を見返していたんですけど、やっぱりワクワクしますね(笑)。「なんでこれ実際にゲームにせず妄想企画で終わるんだろう?」と、当時たかむらは感じたんでしょうね。

粗茶氏:
 この企画はそもそも当時の時点で112キャラ分のイラスト、というものすごい物量がある企画で、1人や2人でどうにかなるものではなかったので、直接話せるイラストレーターさん達にお願いしようという話になりました。

 企画の裏の目的として、そういう人たちがポートフォリオで使えるようなイラストを描いてほしいというのがあったんです。そのかわりキャラを好きに選んでかまわない、ただ、描きたいキャラの被りはなしで、という形にしたものもあって、その時点からアートディレクション的なことをやっていました。

 

 

『DANMAKUHEROINES』共同製作者、イラストレーター 乃樹坂くしおさんのコメント

パズルから音ゲーへ。企画はどんなふうに変わっていったか。

――この時点では『パズドラ』が上がっていましたが、いまの音ゲーの形式になるまでにどのような変遷を辿ったのでしょうか。

JYUNYA氏:
 当時、僕とたかむらで企画が分かれていたんです。僕が『不思議の幻想郷TOD -RELOADED-というタイトルをやっていた一方で、たかむらが当時運営していたプロジェクトを他メンバーに譲ったばかりで、ちょうど次に何をやるのかを考えていた時期でした。そのタイミングで「俺、このイラストでゲーム作るわ。オレらで『東方パズドラ』を同人ゲームで作りたい!」って僕にそのまんま来ました(笑)。その話からイラストを見て、「いや、さすがにそういう思想なら、いつもみたくPCじゃなくスマートフォンゲームで作らないとウソでしょ!」と思ったんですね。

 当時はまだスマホの『東方キャノンボール』は出てなかったので、東方スマホ公認二次は認められてなかったんですが、東方の二次創作をコンシューマで展開するPlay,Doujin!【※】が凄い盛り上がっていた時期だったことや、同人ゲームがスマホで作られることが一般化してきたこともあり、いつか東方二次ゲーもコンシューマの次にスマホがOKになる日が来てもおかしくないだろう、っていう思いがけっこうあったんです。

 僕が「やるなら、今からスマホで作ってリリースの許可をお願いするか、ガイドラインで許可される時代を待とうよ」と言って、たかむらも「それなら、今作ろう」という話になりました。

【※】Play,Doujin!:Playstation4やPS Vita、Nintendo Switchといったコンソールで同人ゲームを展開するプロジェクト。「SCEJA Press Conference 2014」にて発表され、これまでのゲーム業界の垣根を越える試みが話題となった。 

たかむら氏:
 その流れの前に、いったんエイプリルフール向けに何かやりたいみたいな話があったんです。時期的に、2015年の年末くらいにそういう話をしていました。当時の資料がここにあるんです(と、おもむろに資料を公開する)。

▲たかむら氏が残していた資料の一部。仕様を考えた「たかむらメモ」など

たかむら氏:
 横画面での『パズドラ』を作ろうとしたんです。画面左側にボスがいて、右側に自分たちのパーティーがいて、5×6のパズルを組んでいって、連鎖を作っていくみたいな。

――エイプリルフール向けなのに、既にかなり仕様が出来ているじゃないですか!

たかむら氏:
 概要をある程度ボイスチャットで組み立ててたこともあり、自分のやりたいことやこうなったら面白いんじゃないか?などのアイデアがどんどん出てきたので、書き留めないと流れていってしまうので夢中で書いてました(笑)。

JYUNYA氏:
 そんな感じでエイプリルフールに向けていろいろ作ったりしていたら、いつのまにか『DANMAKUHEROINES』の公式Twitterで「ゲーム化が決定しました!」って流れてきて、「えっ?なにこれ?」と(笑)。

 しかも「AQUASTYLEが制作することになりました!」って書いてあって、「確かにやるっつったけど、今って言ってないし!」と慌てて連絡しましたねえ懐かしい、あのツイート覚えてる人とかいるのかな。

粗茶氏:
 あわてて消しましたね。あの時は(笑)。

JYUNYA氏:
 当時『不思議の幻想郷 TOD- RELOADED-』の発表寸前だったんですよ。PS4とPSVitaの2機種同時かつ初のパッケージ展開で、ゲーム制作もしつつ宣伝PV作ったり商談会自分で回ったり印刷物関係も制作から入稿までまるごと自分でやってて…これ以上タスク増やしたら死ぬなあこれって。だから『DANMAKUHEROINES』の公式に言って、そのときは取り下げてもらったんです。

 そのあと『DANMAKUHEROINES』のポリシーとしては「ゲーム化 “も”予定しております」ってなって、このイラスト集の巻末にも「2016年度内にゲーム化決定! 続報を待て!」と入ってるんです(と、いいながら開いて見せる)。

粗茶氏:
 「2016年度 “内”」だったんですけども……

JYUNYA氏:
 ……なんとそれから4年が経ったっていう(笑)。

――その後、ゲーム化の話や、ゲームデザイン自体はどうなったんですか?

JYUNYA氏:
 それからいつかPlay,Doujin!でもスマートフォンで(『東方Project 』の二次創作が)いつか許可されるかもしれないから、今から作ろうと動いたんですよね。当時『東方キャノンボール』の話はまだ聞こえてくる前でした。

 東方原作の音楽の素晴らしさは勿論のこと、ユーザーの音楽への盛り上がりとかは長年肌で感じてましたし、アーケードの音ゲーに『不思議の幻想郷』で作った東方アレンジ曲を提供したことがあったので、かなり音ゲーに興味があったんですよ。なので『不思議の幻想郷』では出来なかった、音楽サークルさんやイラストレーターさんに大勢参加してもらってみんなで東方の音ゲーが作りたい。それ以上に自分が遊んでみたい!って思いました。

 そんな想いを元にたかむらと「音楽+弾幕シューティング」っていうのを企画したんです。そこから2年くらい、プロトタイプをAQUASTYLE内で作り始めたんですよ。

――いろんな人を巻き込んで音ゲーになっていったかたちですね。当時のプロトタイプ版の開発はいかがでしたか?

JYUNYA氏:
 プロト版に関して「同人サークル」らしく、パッと考えたものをすぐ作って、即フィードバックしてとりあえず僕らだけで考えてた「音ゲー+弾幕STG」の部分に間してはけっこう想定通りに作れていましたね。その時点ではスマホゲームの作り方を勉強しながら作って、詰まったらまた勉強して…。いつもどおり最後まで自分たちで作ろうと思ってやってたんですよ。

 ところが動くには動くし遊べはしたんですが、1つ機能を実装するのに膨大な勉強と試行錯誤を繰り返したり、トラブルも大きな問題から細かな問題まで多々爆発し…。自分らのiPhoneで動くのに人の端末では動かないとか重すぎるとか、あとはやっぱり通信の問題とかソーシャル要素に関して技術が皆無だったり、他にも色々問題が山積みになって、「これは困ったな……」と。

 企画してから数年経ってここから先、どういうふうに展開しようかと考えました。「自分だけが遊んでネタで終わり」にしては、『DANMAKUHEROINES』の絵も凄いし、音楽サークルさんも楽曲提供してくれることになったのに、もったいないと思ったんです。

――ちょっと手に負えないくらいになってしまったんですね。

JYUNYA氏:
 そこから周辺の人達にこういうの作ってるんですよねぇと見せて歩いたり、ツテで協力してくれるプロの開発会社とか紹介してくれないかとか相談して回っては見たんですよ。でも東方二次創作となると、制作や東方に対する認識の違いや条件が合うことがなく結局流れちゃったんですよね。

 それからしばらくして。最初に相談した方の主催で「昔のオタ話をする飲み会」があり、「何で人生を踏み外したか」とかをテーマにギャ◯クシーエンジェルや美少女ゲームなどの話を延々とするだけのよくわからない謎飲み会があったんです(笑)。その席にDeNAの方々がいたんですが、在学中に東方に死ぬほどハマって留年しそうになった話や東方をどうやってオタ友に伝播させたかとか「東方ハマりあるある」で凄い盛り上がったんですよね。「DeNA社内でも東方好きいっぱい居ますよ」って話も聞きつつ、その日は一切ダンマクヒロインズの話をせず解散してしまったので、後日「そういやDeNAさんってスマホゲー作る会社だったなぁ」と思い出し改めて説明の機会を作りプレゼンした所「よくぞ声を掛けてくれた!」という嬉しい反応をもらえて。

 

DeNAとタッグを組むことに。商業に持ち込んだ同人スピリッツとは?

――なるほど、意外な経緯でDeNAさんと組むかたちになったんですね。DeNAさんも東方好きがけっこういるというお話を聞くんですが、実際どうでしょうか?

JYUNYA氏:
 そもそも粗茶さんを始めとした生粋の東方ファンから始まった企画だから、当然その魂を受け継ぐ開発も東方好きで当たり前だろうっていうのがあります。

 正直、僕らも「東方Project」を一々説明しなければならない方と一緒に制作するのは難しいかなという思いがありました。メンバー集めは東方が好きで、スマートフォン開発に明るく、一緒に東方の二次創作で界隈を盛り上げたいと思ってくれる人を集めることに重きを置きました。

 結果として集まったメンバーはみんな学生のころに少なからず「東方Project」に触れていて、『東方永夜抄』から入ったとか『東方花映塚』で友人と競ってたとか、原作でなくとも東方のアレンジボーカルを聞きまくってたとか二次創作ゲームをプレイしてたとか、誰一人として「東方Project」を知らない人がいなかったんです。 最終的にこのプロジェクトは、DeNAの社内で「『東方Project』ならぜひやりたい!」って募集をかけて集まったメンバーで始まったらしいんですよね。

たかむら氏:
 その後、開発が始まってから暫くして、DeNAさんの中には「社内を探すと(東方好きが)けっこういる」っていうことがわかったんです。隠れキリシタンのような感じで。「あれ、この人同人誌即売会で見たことあるぞ……DeNAの人だったの!?」みたいな(笑)。

――『東方ダンマクカグラ』における同人出身の方の関わりはいかがでしたか?

たかむら氏:
 粗茶さんがもともと『DANMAKUHEROINES』のイラスト集で一緒にやっていたイラストレーターの方々のうち、一部がそのまま加わっています。カードイラストや楽曲バナーイラストもAQUASTYLE作品でお世話になっている作家さんや現役の東方二次作家の方々はもちろん、以前東方の二次創作をやっていた方々にも描いて頂いてます。

JYUNYA氏:
 音楽サークルさん関係は、スタートアップ時に真っ先に「豚乙女」のコンプさんに相談をして各サークルのご紹介や様々な知恵を拝借させて頂きました。やはり音楽ゲームということで僕らの知らない作法や仕切りに関して非常に助けられましたね。

 

――『東方ダンマクカグラ』はスマートフォンの商業のものですけど、半分は同人の血が流れています。本作における “同人らしさ”というものが存在すると思うのですが、それってなんでしょうか。

JYUNYA氏:
 なんだろうね? ……「このゲームを作るも遊ぶもオレが楽しめるかどうか?」かなやっぱ。

――そういうこと言うと怒られますよ(笑)!

JYUNYA氏:
 (慌てながら)でもそうじゃない!? DeNAさんに怒られるかもしれないけど作ってるとやっぱり意見が激突するの、真っ当すぎる意見がいっぱい来てさ! その際に「反論に足るエビデンスを出せ」って言われると「いや俺がそれ好きなんでそれ以上の理由ないです」って返すなんて、こんなやり取り普通の会社同士の開発じゃ中々ないでしょ!(笑)

たかむら氏:
 一応補足しておきますが、ちゃんとお互い決めた役務や制作方針に則って、清く正しく美しくやり取りを進めて順調に制作はしています(笑)。ただ、こと東方に関する意見や自分たちが企画した部分で衝突した場合にそういう感情を隠さずぶつけ合う感じです。DeNAさんも最近は慣れてきて、ぶつかりながら作っている状態をお互い楽しめているのかと思ってます。

――「東方Project」では二次創作の作り手ごとにキャラの解釈違いで揉めることがありますけど、シナリオの監修でもそういう解釈違いはありませんでしたか。

JYUNYA氏:
 あるあるあるある! 毎回すげーあるよ!(急に早口)

 まず上がってきたシナリオやテキストに対して、いちいち同人誌の感想みたいに返すあたりがやっぱ同人っぽいなあと(笑)。「あの話は尊くて良かった!」とか「でもこのキャラの心情や設定を考えたらこういう行動はしないはずじゃん!!」とかワイワイ言ってすごく面白いですよ。みんな東方好きだから、解釈の違いがあって盛り上がる。テキスト監修会をやったあと、毎回思うのは「これ例大祭が終わったあとのオフ会」状態だなと。

 テキストはゲームシナリオ制作を生業としている複数のライターさんにお願いしているのですが、以前、とあるテキストの出来が特に素敵で、その担当ライターさんに感想を伝えたら「ありがとうございます、この依頼を機に世界に『けねもこ派』をさらに増やそうと画策してます」と言い出して「やっぱり堅気じゃねーじゃん!」ってツッコんだりとか。やっぱりどこにでも東方好きって居るんだなあって実感しましたね。

――イラストも同人ならではのこだわりはありますか?

粗茶氏:
 キャラクターによって、やはり描かれている物量が二次創作でキャラによって開きがありますね。『東方紅魔郷』~『東方永夜抄』あたりまでは、過去に沢山の方が二次創作しているので、わりとキャラの服装が自由。その中でどれを取るのか、どのラインを『東方ダンマクカグラ』における “正”とするのかけっこう悩むところがありました。

 たとえば紅魔館メンバーだと、キャラの瞳の色が作品によって違う。咲夜だと青だったり、灰色だったり、赤だったりするんですけど、それをどうするのか? あとは服も、二次創作では常にフリルがついているが、原作にはついていない。どうしよう? とか。
 逆に近年出たキャラクターは、むしろ原作に忠実な服装の二次創作イラストが増えてきて、ファンもZUNさんの絵がストレートにイラスト化されているものの方が、肌感覚にあうことが増えてきたと感じています。

 原作を重視して、そのとおりに再現することも可能なんですけど、それだとちょっとソーシャルゲームのイラストとしては装飾が控えめな印象になることが多いんです。

――そこで二次創作の部分をちょっと大事にするかたちですね。

粗茶氏:
 はい、それを入れてます。

――自分たちのこだわりや、ユーザーに対する配慮も「東方Project」は受け止めてくれるところがあるから、原作に忠実ということだけじゃないこともやっているんですね、

JYUNYA氏:
 デザインも同人らしくチーム内で解釈違いがあって……まあ “おっぱい論争”はよくやりましたね(笑)。

一同:
 ワハハハハハハハハハ!(爆笑)

JYUNYA氏:
 「粗茶さん! なんで勝手に乳でかくしたの!?」っていったら「いや、でかいはずです」っていう(笑)。「そんなはずではないです!」みたいな。

粗茶氏:
 (慌てながら)それはちょっと違う……!(苦笑) 私じゃなくて、作画担当のおっぱいへのこだわりが強いんですよね。

JYUNYA氏:
 っていうかね、いろいろあってね! 「◯◯は◯◯の設定でこういう性格とキャラ性能だから、もっとスマート体型でちっちゃくない?」とか「いや、ならこの解釈でデカいでしょ!」とかやりあってて。確定設定なんか本来ないんですが、各々が10何年もやってきた、積み重なった自分の中にある「東方Project」の常識がありすぎるんですよね。

――普通のIP、作品での監修であればキャラの設定は決まっているじゃないですか。「東方Project」は決まっていないところが多い中、設定をすり合わせていく作業は、DeNAさんも奇妙な作業だったんじゃないですか。

JYUNYA氏:
 「立ち絵を作るにあたって、身長を決めてもらえますか」って言われて、「(東方キャラの)しっ、身長ぉお~!?」ってなって。幾つかざっくりとZUNさんから明かされているキャラも居ますけど、その情報が明かされたのも妖々夢辺りまでだし、その後も原作の格闘ゲームのドット絵から算出したり公式書籍の漫画とかで測るしかないレベルで。またそれも作品によって解釈が各々違うから厳密に「このキャラは高い……このキャラは低い……」とか、改めて自分たちで解釈するのが難しかったですね。

――これもまた同人ならでは……というか、東方ならではですね(笑)。決まっていない設定がたくさんあって、ある意味では二次創作者にまかされたままスマートフォンのゲームを仕立てていくって感じですよね。

粗茶氏:
 それこそ「うちの幻想郷ではこう!」の持ち寄りになるんで。

JYUNYA氏:
 ただAQUASTYLEとしても、ずっと「東方Project」の二次創作ゲームを作ってきたので、各々の東方の解釈がありつつも、「それもありだよね」って許される各々の幻想郷のラインを大事にしたいと思ってやっています。

――「各々の幻想郷」というのは本当によく言われますね。『東方ダンマクカグラ』もそれが大事にされているということですね。このあたり同人らしい、というより東方らしいですね。東方らしい問題が開発中に出て、それを解決していくというか。

JYUNYA氏:
 この話は載せられるかわかんないですけど……、DeNAさんは我々に「東方の解釈は任せます」って言ってきたんですよ。お互いに開発の領域が分かれているから、紳士協定で。

 ……そのはずなんですけど、DeNAさんのなかにひそんでいた東方ファンたちが我慢できずに、「こっちの方が私の東方に近い」「いや、俺が思うに……!」ってそれぞれ言ってしまうことがあったりとか(笑)。「この◯◯はこういう動きはしないんじゃないですか」とか。「うわぁー! めんどくせぇー!でも言わずにはいられないよねぇ、わかるよそれは!」と(笑)。

――「このキャラのこの解釈を聞いたことあるぞ! ……まさかあのサークルの方ですか?」とかそういうことが起こるんですね(笑)。

JYUNYA氏:
 急に東方ファンとして突撃してくるという(笑)。東方の解釈はAQUASTYLEに任せてもらいつつも、それはそれとして東方ファンとしてのDeNAの制作メンバーさんもいるから、解釈違いの論争に参加してくることがままあります。めんどくさいと思いつつ、このチーム最高だなって思えますね。結局最後はAQUASTYLEを信じて東方の解釈などは任せてくれますし、想いをぶつけつつお互い敬意を払えてる関係は良いですよねえ。

 

「それぞれの幻想郷」を描くこだわり

――みなさんそれぞれの幻想郷があると思うんですが、『東方ダンマクカグラ』のここに私の幻想郷を入れさせていただいた、というこだわりを教えてください。

たかむら氏:
 自分の幻想郷観を入れたというよりも……(考え込む)。「これ」っていう風に(幻想郷観)をなるべく固定させないっていうのはすごく大事にしました。

――DeNAさんもそうだし、AQUASTYLEさんもそうだし、ファンたちだってそうだし、みんなの幻想郷であるゲームだから、なるべく広く解釈が一致しているものにしたんですね。

たかむら氏:
 「それぞれが持つ自分の幻想郷を体現するゲームにしたい」となったときに、やっぱり「これはあなたの幻想郷ですよ、原作の幻想郷ではないですよ」という、いいわけというか立て付けがしやすかったのもあります。

 そういうことをやっているなかで、僕のなかでも「幻想郷の形を特定の誰かのものにしない」というのは大事な設定になっていきました。DeNAさんと話す時もそうですし、各担当者に話す時もそうでした。「決まったかたちのない、新しい幻想郷」というポリシーで進めておりました。

JYUNYA氏:
 『東方ダンマクカグラ』自体がひとりひとりの幻想郷を作るっていうテーマとなっているので、それはしっかり踏襲されているかなと思います。

 といいながらも、僕はデザイン面を見ているんですけど……やっぱり僕の見ている部分に関しては「僕の幻想郷」を入れたがりますね。そこは(笑)。どうしても「不思議の幻想郷」っぽくなっちゃいますね。そこはなるべく抑えているんですけど、長年ずーっとそれでやってきたから。だから自分のこうしたいっていう「東方Project」は出しつつも、染め上げないようには気を付けています。

――粗茶さんのこだわりの部分はいかがですか?

粗茶氏:
 私の担当している部門のイラストについての基本的なスタンスとしてとして、「100点じゃなくて、80点を出すイラスト」っていうのを目指しているんです。 

 100点のイラストというのは、誰かにとっては100点なんですけど、他の誰かにとっては10点、20点ということになる可能性があるんですよ。でも80点のイラストであれば、みんなの80点を狙えるんです。
 そういうところがあるので、あまり解釈を尖らせないということが重要だと思っています。特に私の担当している部門は作家の色を出す事よりも「誰にとってもそのキャラであると認識してもらえる」ことを重要視した方がよいと考えています。

 これは私自身の作家としての矜持と通じるところなのですが、ダンマクカグラでは「これは○○さんの霊夢だ!」と言われる必要はないんです。

――みんなの集合的無意識としてのキャラを、描きとるような感じでしょうか。

粗茶氏:
 そうですね。「昔見た、この素敵な霊夢は粗茶さんの絵だったんですね」というのが私にとって最高の誉め言葉です。

 

『東方ダンマクカグラ』にはどんなふうになってほしいか

――今後『東方ダンマクカグラ』はどのようなゲームになってほしいですか?

たかむら氏:
 もともと『DANMAKUHEROINES』のイラスト集からゲーム化しようというところを考えていたのもありますが、ソーシャルゲームはゲーム単体で完成しない、というのも肝に入れてやっているんですね。

 どこで完成するのかというと、皆さんの前に出たとき、SNS上に出たりすることによって完成するわけですよ。

 Twitterなどで、スクリーンショットを上げて誰かの目に留まることで、何らかのムーブメントを起こして完成するものだと思います。ですので、SNSなどで毎日語られ、東方のことを知らない人の目にも留まるようなゲームになってほしいです。

――最後に、これからプレイするユーザーさんに向けてひとことよろしくお願いします。

JYUNYA氏:
 「東方Project」はZUNさんありきのものなので、当然、原作ファンとしてこれからも東方とZUNさんを応援したいなって気持ちを持ちつつ、このタイトルはこのタイトルで、二次創作として最高の形で提供し、最大限ユーザーに楽しんでもらいたいですね。

 これだけの大きな規模のプロジェクトは『不思議の幻想郷』ではやれなかったことなので、今も昔も「東方Project」を様々な形で触れてた人が、『東方ダンマクカグラ』によって、東方の話が盛り上がって、東方の熱が再びまたは今以上に盛り上がればすごく嬉しいなと思います。 

粗茶氏:
 改めて言う事でもありませんが「東方Project」という最高の原作ありきの世界、その周りに積み重ねられた二次創作の裾野は奥が深すぎて、一朝一夕で全てを理解できる様な物ではない事は皆さんご存知のとおりだと思います。

 『東方ダンマクカグラ』はそんな二次創作の奥地から始まった企画でありながら、様々な方の協力を得て人が入りやすい「ソーシャルゲーム」という媒体を選択できました。これはとても運があり、良い事だと思っています。

 タイトルに「カグラ(神楽)」と入っているように、『ダンマクカグラ』は「お祭り」です。お祭りには普段からいる人も、昔そこに居た人も、普段居ない人も、来た事がない人も。みんなが気軽に遊びに行けるものです。地元のお祭りに行く様な感覚で気軽に遊んでもらいたいなと思っています。

たかむら氏:
 今回の『東方ダンマクカグラ』も、東方の輪を広げたい、世界を広げたいというコンセプトで制作を進めています。以前東方が好きだった方たちも、今も第一線の東方ファンの方たちも、友達に対して広めるとかSNSで広めていくというところも含め、このゲームを通じて「東方Project」の沼にハマってくれる人を増やしてくれるといいなあと思っております。

 贅沢を言うと沼にハマるだけでなく、ぼくらみたいに同人活動をはじめてもらいたいと思っています。同人誌でもいいし、音楽でもいいし、ゲームでもいいし。あっ、イラストや音楽でいいものが作れましたらぜひ教えて下さい!『東方ダンマクカグラ』にもご協力お願いします(笑)。

――いいオチですね(笑)。本日はありがとうございました。

 

 

 『東方ダンマクカグラ』はソーシャルゲームとしてリリースされるが、すべてのきっかけはTwitterに上がった同人のイラストだった、という一連の流れが、今回のインタビューでよくわかったのではないだろうか。

 ソーシャルゲームというプロジェクトのなかに、同人サークルとしてのこだわりが見られるほか、東方ファンそれぞれが持つ「幻想郷」のイメージにもはまるように作られているという。そこには「商業のなかに同人イズムを込めた」というよりは、商業と同人の境界は(とくに「東方Project」では)もしかしたらすでにあいまいかも知れないと思わされる。

 すでに「東方Project」の二次創作ゲームが家庭用ゲーム機にも進出してしばらく経つが、『東方ダンマクカグラ』によって、さらに同人と商業の垣根も薄くなっていくのかもしれない。

 

『東方ダンマクカグラ』とは、同人スピリッツをソーシャルゲームにぶち込んだ野心作だった!? サークル「AQUASTYLE」インタビュー おわり