東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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「いつか声が出せる日まで、私たちはタオルを振り回す!豚乙女が奏でる変わらぬステージに愛を込めて【5】」超東方LIVEステージ2022 豚乙女 ライブレポート

超東方LIVEステージ2022 豚乙女 ライブレポート

 森羅万象、DiGiTAL WiNG、Alstroemeria Recordsとクラブサウンドを主軸とした面々に次いで、鮮やかなギターが光るTaNaBaTaへ。そしてついにトリ前、豚乙女の出番となった。

 遡るほど2週間ほど前の4月9日、久し振りのワンマンライブを盛況のうちに終えた豚乙女ではあるが、有人観客での東方サークル混合ライブは久し振りだ。こちらも否が応にも期待が膨らむ。

 

文:ohka
撮影:紡

いつか声が出せる日まで、私たちはタオルを振り回す!豚乙女が奏でる変わらぬステージに愛を込めて

 ライブイベントの常として、各出演者によるアクトの転換にはまとまった時間が必要になる。

 一般的なライブイベントでは出演者にゆかりのある楽曲がBGMとして流れることが多いが、今回は“超東方LIVEステージ2022”だ。ZUNさんたちMC陣(たっぷりとZUNビールを召し上がっておられる)の軽妙なトークで15分ほどの転換をつなぐことになる。

 バンドイベントの転換では音出し(各楽器の音響調整やチューニング)が行われるため、トークが多少聞き取りづらいこともあるが、粛々と準備は進む。……もちろん、トークは賑やかそのものだが。

 

 そして時は満ちて、準備完了。いよいよ『超東方LIVEステージ2022』における、豚乙女の幕が上がる。

 スタートは秘封倶楽部楽曲の定番「天空のグリニッジ」を原曲とする「幻想のサテライト」だ!

 ステージライトが閃く。

 満を持してステージに躍り出たランコは、「夜の帳に浮かぶ星が!」と叫ぶ。

 

 多くの演者にとって昨今のイベントは、とてもやりづらい。

 起立可能とはいえ、全席指定、発声禁止。バラード中心のアクターならともかく、豚乙女のような「殺気」を極めたサークルには、極めて厳しい状況だ。

 

 しかし、それでも、お客さんがステージに詰めかけているように見えるのはなぜだろう。

 皆、自身のスペースから動いておらず、スペースの拠り所である椅子も動いてはいない。

 それでも見えるのだ、前に詰めよるファンが。気持ちで、事を成しているのだ。そんなファンにひとりずつ声をかけるように、ランコがステージを左端から右端へ駆け抜ける。隅から隅まで、ファンをひとりも残さないかのように。

 やっと、豚乙女のライブが帰ってきたのだ!と思った瞬間だった。

 それでも、少し心配してしまったのも、また事実だ。豚乙女のファンなら、重要なメンバーが新たな道を歩み始めたことをご存じだろう。

 しかし、そんなものは杞憂だった。

 豚乙女は、私たちをぶん殴ってくれた。こんなご時世で、つらい盟友との別れを経たあとでも。今までと同じ膂力りょりょくで!

 

 セットは、直近の定番曲「ソリッド」から、往年の名曲「響縁」へ。

 声は出せないが、オーディエンスとともにお決まりの合唱である「縁の円がほら、出来上がり!」がどこからか聴こえるような気がしてしまう。

 それは、豚乙女が長年のアクトで積み重ねたファンとの強い絆の声だ。豚乙女メンバーも、ファンも、既に新しい道を歩み始めている証拠なのだ。

 アップテンポな新定番曲「オカルティックドリーマー」を経て、いよいよゲスト、いとうかなこさんを迎えての東方曲「ロストワードクロニカル」へ。

 アニソン・ゲーソンファンなら誰でも知っている、「シュタインズ・ゲート」で我々の心を奪った最強のボーカリスト。そんな同氏が、ライブで東方楽曲を歌った。

 曲はもちろん、東方LostWordから「ロストワードクロニカル」。

 東方ボーカルサークルのなかでも力強い歌唱力で知られるランコ、同じくアニソン界隈で強い歌声を求めるアニオタを叩きのめしてきた、いとうかなこさん。その両氏が、東方でも屈指の難易度を誇ると言われる東方永夜抄ラストワードの楽曲「東方妖怪小町」を歌うのだ。

 人では敵わぬ妖怪や神々を、霊夢たち主人公が、なぎ倒していく。

 そんな曲にふさわしい、おふたりではないか!

 そして最後の曲、定番中の定番、「囲い無き世は一期の月影」へと続く。

 繰り返しになるが、今、ライブにおいて観客は制限が多い。いつもなら出来ることが出来ず、コールアンドレスポンスという当然の権利も失われている。

 

 いつか、思うさま叫べる日が来るだろう。

 それまで私達は、サークルと楽曲への愛を、違う形で表さなければならない。

 そしてこの曲は、すでにその答えを持っている。……そう、タオルを回すのだ!

 ランコさんが、ランコの姉さんが、お客さんが。言われるまでもなく、タオルを回す!

 この不自由なご時世、物言えぬ今。期せずして、古くからある豚乙女とファンの言葉を介さないつながりが、ファンが求めてやまないサークルへの愛を、ご時世を越えて雄弁に語るのだ。

 イベントの時間は短く、これで今回の豚乙女は幕引きとなった。

 豚乙女に限らず、今回のイベントはお互いに守るべきルールが多かった。筆者の贔屓目かもしれないが、ランコさんは静かに、深く、長く、長く。ZUNさんに、現地のファンの我々に、ネット前のファンの皆様に、お辞儀をして退出したのだ。

 このご時世を乗り越えて熱い気持ちを伝えたサークルが、余さず受け取ったファンの皆さまが、次世代のイベントを作り上げていくと筆者は信じて止まない。

 

セットリスト

1.幻想のサテライト

2.ソリッド

3.オカルティックドリーマー

4.ロストワードクロニカル

5.囲い無き世は一期の月影

「いつか声が出せる日まで、私たちはタオルを振り回す!豚乙女が奏でる変わらぬステージに愛を込めて【5】」超東方LIVEステージ2022 豚乙女 ライブレポート おわり