東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

詳しく読む
リポート
2023/03/02

ねだるな、感じ取れ。石鹸屋ライブ「SEKKENYA LIVE DOJO 2021-2022『アルバム選抜・大体全部やってみた』FINAL」レポート

「SEKKENYA LIVE DOJO 2021-2022『アルバム選抜・大体全部やってみた』FINAL」レポート

 唸る轟音、輝く照明、巻き起こる熱狂。ライブとはそういうものが混ざり合って生まれる現象なのだ。

 ……そんな書き出しがいいなと思っていた。そうすればなんか上手く締められるだろう。はじまるまでは、そう思っていたのである。

 しかしこのライブは、そんな僕の甘い目論見を見事に破壊した。

 ライブとは何か?

 僕はそこに拘泥した。その考えは過ちだったのだ。そんなことは重要ではなかったのだ。

「ライブはこうであるべきだ、ライブとはこういうものだろう」そんな断定や推定などに、意味はなかった。それほどのパワーがあった。

「このライブとは何だったのか?」それはこの記事を書く上で常に頭によぎり、そしてぼくの頭を悩ましたことなのだが、書ききった今ならこう言える。

 まったく優しくないライブ。

 それが、石鹸屋のアルバム選抜ライブファイナルの本質だったと思う。

文/J
編集/西河紅葉
カメラ/るぅく

※本レポートはライブの瞬間と雰囲気を色濃くお伝えするために、写真の枚数多めでお送りいたします。

 

事件の3曲目

 “石鹸屋”が始まった。

 入場曲でおなじみの『LIVE PHANTOM』が生で奏でられる。そして『ボーダーライン』がしっとりと、しかし力強く歌い上げられる。

「パワー」と「技」。若き日の彼らが作った曲と、熟練の彼らが作り上げた2曲が交錯し、作り上げられる”石鹸屋の世界”。すでに会場は石鹸屋の熱と歴史が渦巻いていた。

 しかし、事件が起きたのは3曲目だった。

『鬱陶しい脳内』


 ???????????????????? 『ボーダーライン」』の次に、やる曲か?

 

「境界観測」。それは石鹸屋なりの、秘封倶楽部のストーリーだったはずだ。ある程度のストーリー仕立てになっていたはずだ。

 だから、このファイナルは明確に意図がバラバラな3枚が選ばれている。

 秘封倶楽部という“コンセプト性”の強い「境界観測」
 石鹸屋そのもの、“オリジン性“の強い「Deadman Walking」
 初期東方アレンジとしての“ザ・石鹸屋性”の強い「トウホウパンチライン」

 この3つの属性は、それぞれ交わることがない。なんというか、どれも方向性が違う3枚が選ばれている。

 だから僕は、アルバムごとに色を分けるような、ある程度独立したセットリストを組むと思っていた。だってそれが「ライブ」だと思っていたのだから。

『ボーダーライン』の次の曲、それは境界観測から来るだろうと思っていた。少なくともまぁカオス性の強い『鬱陶しい脳内』『ヘモグロビン』ではないと思っていた。

 陳腐な言葉で言えば型破り、いや、そもそも”型”などないのかもしれない。

 僕が勝手に”型”という思考に染まっていたのだろう。

 脳内が作り出した鬱陶しい”型”は3曲目で跡形もなく崩れ去った。

 

石鹸屋オリジン

 すでにもう何が起こるかわからないライブと化した。

 曲の幅が広い「Deadman Walking」からの曲をこんな形で差し込んでくるライブは、もう予測が不可能だ。

 境界観測風に言えば、もう観測するしかない。いや、このファイナルは観測することが義務だ。石鹸屋が作り出す空間の観測、それがオーディエンスとしての僕の義務だ。そう思い、観測に徹した。

『60’s OLD BLOOD』が奏でられる。

 さっきまで痙攣していたりきららジャンプを見せていたフロントマンが、突如ギターヒーローになる。そんな変幻自在な状況を観測し続ける。

 ときには縦揺れ、ときにはハンズアップ、ときにはしっとりと。何もかもが予測不可能ななかで僕は観測し続ける。勝手に動く体と、観測せねばと働き続ける脳。忙しく移り変わる状況で、本能的に動く体と理性的に働く脳。

 そして、わかったのだ。考えることに意味はない。

 どんな曲が流れようが、どんなセットリストが注がれようが、意味などない。答えもない。形もない。比喩も暗喩もストーリーもバックボーンも、何もない。ただ“石鹸屋”がそこにある。

 なるほど。これが石鹸屋が言葉にしないメッセージなのだ。

 石鹸屋はこのライブで、彼らのすべてをぶつけてきている。

 オーディエンスにできることは、この空間を一緒に作ること。そして彼らのすべてを受け止めること。

 ギャグあり、シリアスあり、エモあり、そしてかき鳴らされる轟音。

 これはまるで「Deadman Walking」の具現化だ。

 さあ立て。居直れ。石鹸屋オリジンが新宿BLAZEに具現化している。オーディエンスを巻き込んで、世界観を叩きつけて、照明に照らされて、轟音に包まれて、石鹸屋オリジンは「ライブ」になっていくのだ。

 僕はこの姿に、このスタンスに15年間囚われ、魅惑され、今もまだあのころと同じように目を輝かせて飛び跳ねる。

 それが石鹸屋。僕がいつまでも追い続けていくであろうサークルなのだ。

 

アンコール:僕たちは「レモン」で育ってきた

 この長い、長いツアーを締めるのは『レモン』だった。

 僕たちは『レモン』で生きてきた。僕たちは『レモン』を聴いて育った。『レモン』は青春の原風景だ。

 この暑苦しい、いささかの爽やかさもきらびやかさもない曲。

決して甘くもないし、まして美味くもないし

 果実のことなのか曲のことなのか、それとも僕の青春のことなのか。そんな暑苦しい『レモン』。

 体は重く、脚はガクガク、喉も潰れかけて、肩は上がらない。でも、なぜかこの前奏を聴くとそんな身体のリミッターが外れてしまう。

『東方妖々夢 ~the maximum moving about~』でもなく『東方萃夢想 ~saigetu~』でもなく『ってゐ!』でもなく、もっと言えば『ハイブリッドバディ』でもなく、最後は『レモン』であること。

 きっとこれには、石鹸屋の想いがある。

 なぜだろう。でもそうだよな。『レモン』だよな。

 僕は、僕たちは、『レモン』で育ってきた。ただその事実だけがこの最後の一曲を納得させる。

 そして僕は叫ぶ。

YE-HE-HE-O!!!

 

ねだるな、感じ取れ

 ライブ。それは不思議なものだ。アコースティックもバンドもDJもなにもかも、一緒くたに飲み込む概念だ。

 僕のなかでのライブの”型”は壊されてしまったが、概念は残る。

 石鹸屋は自身のすべてを出し切り、常にライブで体現する。その音に、そのパワーに、その熱狂にあてられて動かないものはない。心も体も。

 縦揺れでも横揺れでも、ハンズアップでもヘッドバンキングでも、表拍でも裏拍でも、跳躍でもステップでも、コールでも歓声でもなんでも良い。許されるならツーステでもモッシュでも良いんじゃないだろうか。許されるなら。

 要は、ただ感じ取ったままに動けばいい。何もかもを委ねて”今この瞬間”を感じ取れば、それで良い。

 教科書のない「優しくないライブ」。予測不可能な「優しくないライブ」。僕はそこについてはもう深く考えない。感じたままに楽しめばいい。

 

 ステージの上にいる彼らはいつまでも全力だ。

 僕たちにできることは、答えをねだらず、感じ取ることだ。ライブはそれでいいのだ。

 数多くのライブがこの世にあるが、少なくとも石鹸屋のライブであなたが間違うことはない。現地に行ってみればわかるだろう。間違いを作るような”型”は、取り壊されているのだから。

 

 そう、ライブは怖くもないし難しくもない。ただし、優しくもない。

 大事なのは感じることだ。音と光とパワーにあてられて、ただただ感性に身を委ねればいい。

 このツアーに、このファイナルに来た人にはわかるだろう。

 「ねだるな、感じ取れ」

 

セットリスト

LIVE PHANTOM
ボーダーライン
鬱陶しい脳内
ONE
飛び立つ雛は土の中
終わる現実と、遥か後方の
弾丸般若
     ヘモグロビン ←必見
60’S OLD BLOOD
デカルトの向こう側へ
ありふれた匿名のダイアリー
月と星の蓮台野へ
                かげろう ←あえてなにも言葉はないです
D-89
怒りの拳骨スマッシャーUNZAN
化かせ八百八狸囃子
スピアソング

アンコール
デッドマンウォーキング
レモン

 

公演情報 石鹸屋LIVE DOJO YABURI VS 岸田教団&THE明星ロケッツ

対バン相手
岸田教団&THE明星ロケッツ

特設サイト
https://www.sekkenya.com/vs2023

現地チケット一般販売はこちらから(3月4日10時販売スタート)
◆イープラス
https://eplus.jp/sf/detail/3805130001-P0030001

◆ローチケ
https://l-tike.com/order/?gLcode=71543

場所

柏PALOOZA
〒277-0005 千葉県柏市柏3-2-22 林ビル 2F
http://www.kashiwa-palooza.com/pc/index2.html

日程

2023年4月15日(土)open/start 17:30/18:00

チケット

前売¥3,500(+ドリンク代) / 当日¥4,000(+ドリンク代)

配信

Twitcastingにて、配信予定 ¥2,500(予定)

 

東方アレンジライブレポートのご依頼、受け付けます!

東方我楽多叢誌では、東方アレンジライブイベントのレポート依頼を受け付けております!

「私の主催するライブの、レポートをお願いしたい!」「このご時世でライブに来れない人たちにも熱気を届けてほしい!」といったライブ主催の方がおられましたら、ぜひ我楽多叢誌にご一報ください。東方我楽多叢誌音楽ライターズが、ライブの熱気を文章でお伝えいたします! 今回のレポートのように、配信ライブでもご相談承ります。

※ご依頼はライブ主催者や、ライブ関係者の方よりお願いいたします。

レポート依頼を希望される方は、ぜひ東方我楽多叢誌メールフォームよりご連絡ください!

↓メールフォームはコチラ↓

https://forms.gle/wyV6NwgRiehhhBaf9

東方音楽歴、協力者募集!

https://www.toho-ongakureki.com/

Webサイト「東方音楽歴」では、一緒に「イベント新譜クロスフェードまとめ」「東方音楽イベントカレンダー」の作成に協力してくださる方を募集しています。 東方アレンジの新曲情報や、日本全国の東方音楽イベント情報をまとめたりするのに興味がある方、すでに個人でまとめているので協力できるかもしれないという方がおられましたら、ぜひ東方音楽歴にご一報ください。

また、東方我楽多叢誌などで掲載しているライブレポートの執筆、取材に興味がある方も大歓迎です。東方アレンジが大好きな方、お待ちしております!

協力していただける方は、ぜひ東方音楽歴のメールフォームや東方我楽多叢誌メールフォームよりご連絡ください!

メールフォームはコチラ

東方音楽歴:https://www.toho-ongakureki.com/contact

東方我楽多叢誌:https://forms.gle/wyV6NwgRiehhhBaf9

ねだるな、感じ取れ。石鹸屋ライブ「SEKKENYA LIVE DOJO 2021-2022『アルバム選抜・大体全部やってみた』FINAL」レポート おわり