東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2021/05/19

「同人誌即売会は、これから継続できるの?」4月25日、緊急事態宣言発令の裏側で何が起きていたのか。東京都へ申し入れを行った即売会主催・議員の4人に話を聞いてみた

東京都へ申し入れを行った即売会主催者・議員の4人にインタビュー

 今、東京都の同人誌即売会は、瀬戸際に立っています。

 東方Projectの新作『東方虹龍洞 ~ Unconnected Marketeers.』は、本来5月4日開催の「COMIC1 BS祭り スペシャル」内イベント「幻想神楽5」にて初頒布が行われる予定でした。ですが、「幻想神楽5」は、4月25日付で東京都に発令された「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言」により延期。5月23日の開催となりました。

※『東方虹龍洞』は5月4日にSteamを含む各ダウンロードサイトで5月13日に各同人ショップにて頒布が始まっています。

 「緊急事態宣言」が発令された4月25日には、博麗神社例大祭でおなじみの東京ビッグサイトにて「SUPER COMIC CITY GYU!!(スパコミ)」が開催される予定でした。ですが、開催直前になって会場側から「会場使用を控えて」という申し出があり、開催は延期に。

 開催日の前日だったということも有り、既に会場では設営が進行していて、当日に頒布予定だった同人誌を載せたトラックは既に走り出している状況。主催者はもちろん、関係する協力会社も大きな被害を受けました。

 この事態を受けて、「幻想神楽5」の開催に協力していた博麗神社例大祭主催の北條と、「SUPER COMIC CITY GYU!!」を主宰する赤ブーブー通信社・代表の赤桐弦は、5月6日に東京都への申し入れを行いました。この申し入れには、この場の仲介を行った東京都議会議員の鈴木晶雅と、大田区議会議員の荻野稔も参加しています。

 東方我楽多叢誌では、申し入れを行った直後の4名にインタビューを敢行。4月25日に行われた緊急事態宣言発令、その裏側で何が起きていたのか、今後の「東京都の同人誌即売会」はどうなるのか、という“わたしたちの気になっていること”を、単刀直入に伺いました。

インタビュアー:斉藤大地
文:西河紅葉
写真:紡

「東京都の施設は貸せません」――4月24日の深夜に届いた通達

写真左から
大田区議会議員 荻野おぎの 稔 (無所属)
東京都議会議員  鈴木 晶雅あきまさ(自由民主党)
博麗神社例大祭主催 北條(博麗神社社務所) 
赤ブーブー通信社 赤桐 弦(ケイ・コーポレーション)

――本日は貴重な時間を設けて下さり、誠にありがとうございます。
 我々は同人を伝えるメディアとして、やはり同人誌即売会の今後というものが非常に気になっております。今回のお話し合いの内容や、今後の即売会の展望を聞ければ幸いです。

 早速ですが、本日(5月6日)の会合はどのような形で進行し、東京都からのどのような回答があったのか、結論はどんな形になったのかをお聞かせ願えますでしょうか。

おぎの:
 本日の会合は鈴木晶雅東京都議会議員にセッティングしていただきまして、先日の急遽のイベント中止の話を中心に、コロナ禍によって同人誌即売会・各種イベントが大変な危機に置かれているということを、東京ビッグサイトの総務部長さん・東京都の商工部部長さん・中小企業課の課長さんに来ていただいて、直接お話をしました。

 東京都の政策や運営を決める立場の方と、ビッグサイトの責任者の方に、本当に切実な現場の皆さんの思いと要望、こういうことをやってほしい、助けてほしいという声を、直接届ける場になりました。そのような方々が現場の声を直接聞く機会というのは、今まで無かったと思います。

――正に東京ビッグサイトという、東京都と同人誌即売会に関係の深い施設が、今後どう使用されるかついての話があったんですね。

 今回の会合は、一体何が争点で、どこに焦点を合わせた話し合いだったのでしょうか。

鈴木:
 東京都議会議員の鈴木 晶雅です。

 今回、連休を前にイベントを準備していたところに、緊急事態宣言が4月25日に発令されて、前日の24日の深夜に「東京ビッグサイトは貸せません、東京都の施設は貸せません」という話が即売会運営の皆さん方に伝えられた、ということでした。
 これは大変失礼なことで、イベント企画をされている方々だけではなく、そこに関わる様々なお仕事、業種の方が多くの被害を被りました。

 現在のコロナウィルス変異株の状況を考えると、同じ状況がこれからも起こり得ることが残念ながらあるでしょう。その中で、前日に中止を伝えるような対応をしてもらっては本当に困ります。そのようなことがあってはならないと、そういうことを申し入れしました。

 今日の当事者、東京都側からも「その点は本当に申し訳なかった」という話がありました。突然の事態に都の中でも状況が迷走した結果、皆さんに対して迷惑をかけてしまったということがあった訳なんですけれども、今後こういったことが絶対に起こらないように、という申し入れが会合のメインのひとつであったと思います。

――今回のすごく急な中止要請と決定について、国から突然来てしまった要請で、都でもオペレーションが混乱してしまったということがあるのかな、と思うのですが。

おぎの:
 国から来たものを東京都も受けて発令するということで、やはりタイミングが急で。あれこれと一斉に連絡したことが結局は現場の大混乱を招き、しかもそれが前日の深夜の連絡になってしまった。そんなタイミングで言われても現実的に無理だろう、小学校の運動会じゃないんだから、と。

鈴木:
 それに関しては都としても「皆さんに申し訳なかった」という謝罪がありました。

おぎの:
 やっぱり、いろんなオペレーションが混乱して、負担をかけてしまった、その中で中止という決断をしてもらったことは大変感謝しているし申し訳ないと思っている、という言葉を直接部長さんからもいただきました。

――今後は、“前日に中止”のようなことは早々起こらない、思ってよいのでしょうか。

鈴木:
 私としては、あってはならない、と思っています。

――それは、即売会の参加者の皆さんも安心するのかなと思いました。

鈴木:
 それともうひとつ、諸々のイベント中止に伴う補償について、主催者や搬入業者、出展者の被る費用などを中心に、都の支援を実現してもらいたい、というのが要望の大きな点だったと思います。

 さらに大きな点は、都が要請して国が緊急事態宣言を出しているとはいえ、やっぱり都だけではなく、イベントの中止の支援を、国が保証していくべきであろうと。

 ですから「J-LODlive補助金【※】」の全体的なパイを増やしてもらうこと、こういったことを都が積極的に国に要請するべきではないですか、と提案をしました。それに対して都議会自民党としても、しっかり一緒になってやっていきますよと要請をしています。

 先方からも、その点についてはすでに東京都として国に対し要請をしていて、むしろ力を貸してほしい、という話になりました。 

【※】J-LODlive補助金:
今般の新型コロナウイルス感染症のまん延の影響を踏まえ、これにより公演を延期・中止した主催事業者に対して、今後実施するライブ公演の開催及びその収録映像を活用した動画の制作・配信の費用の一部を補助する制度。

https://j-lodlive.jp/

 

「文化の火を絶やさないように」――これから「同人誌即売会」は開いていけるのか

おぎの:
 あとは、本当にイベント関係の方々からの切実な都への要望がありまして。

 今、東京都の貸し施設の利用料って据え置きなんです。コロナ禍でも。例えば10000人入る施設の利用料が1000万円だったとして、今2000人しか収容できなくても、値段は同じ1000万なんです。ペットボトルで言うと、容器はそのまま値段もそのままで、中身が1/3位になっているわけですよね。それは主催者が一方的に損をしている状態です。とはいえ、参加者にその費用を負担させるかといえば、現実的には難しいわけです。

 名古屋や大阪では、施設利用料の一部減免ができているところもあります。ビッグサイトや各施設側がその減免分を負担するのは難しいですから、東京都が負担して、コロナ禍の人数制限に応じた価格設定をできるようにしてほしい、という要望もありました。

 この前の急な中止について、イベント主催者側はどうすることもできない損害を被っています。そこをなんとかしてほしいという思いはもちろんあります。でもそれは、長期的に見て何でも保証してくださいという話ではありません。細かくてもイベント自体を存続していくこと、火を消さないことがやっぱり一番大事で、その点について東京都もいろいろな協力をしてほしいということを要望しました。

――今は緊急事態宣言下で、これがもっと続くのか、断続的になるのかどうかは予測不能な状態にあります。その中でも、即売会自体の開催はまだ可能である、という風に見込んでいる、ということでしょうか。

鈴木:
 見込んでいるというよりも、私はアフターコロナの時代に、この東京発のサブカルチャー、同人誌やアニメの、文化の炎を消してはならないと思っています。

 そのために我々としても、荻野区議も仰っていた施設利用料の減免要望のような、具体的な要望を提案して、それに対してビッグサイト側もより弾力的に考えましょうよ、といったことを突っ込んで話しました。

 例えば、イベントで実際に借りているホールがあって、その隣のホールは使ってないという状況があったならば、そこも特別に借りれるようにしてほしい。なにも無料で貸してほしいと言ってるわけではないのですから、そういうところも弾力的に対応してください、というのもあるわけですね。

――隣の空いているホールが借りられれば、スペースができて密が避けられるわけですよね。

おぎの:
 誰も感染症対策に協力しないとは言っていないわけです。主催者の皆さんだって、状況が悪転して中止するとか延期せざるを得ない事はあり得ると十分わかっているんだけど、流石に前日深夜に「止めて」と言ったって無理でしょう、という。

 ですから今後はコミュニケーションを取りましょうと。合理的で常識的な範囲でちゃんと計画を決めてもらって、その上で協力の要請をもらえば、みんな協力します。そこをちゃんとやっていこう、という話ですね。今後に向けて。

 

「火を絶やさない仕組みはすでに続けている」――イベント主催者たちがこれまでやってきたこと

北條:
 (都の)ガイドラインでコロナ対策のものが出ていますので、我々イベント主催としては、それに対するきっちりとした対策を今までもやってきました。これからもやっていくつもりです。

 今までどういう取り組みをしてきたかについて、ケイ・コーポレーション(赤桐氏)さんが資料をまとめて、向こうに提出させていただきました。我々は実際、かなり細かい対応をやっていますし、今後もこういう形でやっていけば、少なくともガイドラインを大きく外れたり、そういった形で対応できないということはないです、とお伝えしました。

 鈴木都議もおっしゃったように、文化の火を絶やさないよう続けるための仕組みづくりはすでに続けてきているので、それを少しでも応援してもらえないでしょうか、という要望を出させていただきました。

――一参加者として例大祭に伺わせていただいたときに、かなり丁寧な感染症対策をしていたことを感じました。むしろ一般のイベント会社さんよりもなお気を使ってらっしゃるな、という感触もありました。

北條:
 昨年はビッグサイトで10月にイベントを開催しまして、今年はツインメッセ静岡でイベントを開催しました。
 ツインメッセ静岡の会場側からも「ほかのどのイベントに比べても、来場者さんやスタッフさんのマナーもいいし利用規範をよく守られていました。ぜひまた機会があったら開催していただきたいです」という要望を貰ったくらいなので、そこに対する自負はあります。

――もしよろしければ、感染症対策に関する資料を表に出せる範囲でお見せいただけますでしょうか。

 これが、東京都へ提出した要望書になります。

おぎの:
 直接の要望を意見交換も含めて、ただ紙を渡して終わりじゃなくて、ちゃんと意見交換もさせていただきました。

 各種支援や保証の話は、やってもらうにもちろん越したことありません。ですが、すぐにパッと決まらないでしょう。

 ですから、まずは会場利用の面で、継続的に小さくてもいいから開催できる形を整えてほしい、火を絶やさないでいられる形にしてほしいと。会場がちゃんと使えて、その上で継続的に小さくてもいいから開催させてほしいということを一番大きい話として出しました。

赤桐:
 今回のように「明日のイベントやめてください」って突然言われる状況が、感染症のある今では大いにあり得ると思っています。

 そうなった時に、先の未来に会場を使える、イベントが開催できる未来が見えていれば、たとえ中止になったとしても、あとは僕ら頭下げるだけなんですよね。参加者の人に、本当に申し訳ないって頭下げて、そこから次の開催につなげていく動きが取れます。

 でも、継続する先が見えていなければ、これからまたどうなるんだろう……という不安が拭えません。それは我々もそうだし、いろんな人達がそうで、関わる人みんなが不安を抱えていく世界です。

 半年後、一年後もコロナ禍は続いていると思っています。その中で小さくてもいいので、今日開催できなかったイベントはまた半年後にはできるよ、っていうことが見えていれば、それだけでもだいぶ違うのかなって思っています。

 その体制が、会場さんと一緒に我々の中でちゃんとタッグが組めればいいのかなと。敵はとにかくコロナなので。しっかりみんなで対応できる関係性っていうのを作りたいなと。

 ……それにやっぱり、ペットボトルの1/3しか入ってないのに同じ値段で買ってくださいというのは中々きついです。売上を保証してくれって話ではないので、そこをなんとか、会場利用料の是正だけなんとかしていただければ助かる、っていうのはありますね。

――一般参加者としても、即売会がひとつのきっかけになって創作物が作られてきたということを、この一年でひしひしと肌で感じています。我々がそうなのですから、作家さんはなお実感している状況だと思います。
 同人誌即売会にはやっぱり続いてもらわないと困る、という気持ちでメディアとして居ても立ってもいられなくなり、今回取材させていただきました。内容を聞いて非常に励まされますし、我々も応援をしていく気持ちがより高まりました。

 それでは最後に、この状況でのご意見や、同人文化への応援のメッセージをいただけますでしょうか。

鈴木:
 去年の緊急事態宣言は、皆が本当にこの感染症の怖さを思い知って、世の中が暗くなっているときでした。そのときに、今どんな漫画が読まれているのかとか、どんな小説が読まれているんだろうかというのを荻野区議から教わって、それを読ませていただいて。それが本当に自分の元気につながって、明日の自分の希望につながりましたね。

おぎの:
 あのときは本当にコロナ禍で普通の活動ができないので、私が「若い人の文化を知っていただきたい」ということで、漫画やアニメを鈴木都議に見ていただいたんです。「ふたつのスピカ」とか「見える子ちゃん」とか。
 鈴木都議のご実家は古本屋さんですもんね?

鈴木:
 そうなんです。私は目黒の古本屋の三代目で、業界でもある程度有名な古本屋だったんです。けれど、こういった政治の世界に入ったことで、私が継がなかったために潰してしまった、っていう贖罪もあるかな……。

 漫画やアニメ、同人文化、そういったことを支えていただいている皆さんは、やっぱり東京の文化を作っていくクリエイターだと思っているんですよ。だから僕も本当に応援していきたいと思っています。

 今回の窮状にしても、例えば飲食店の方はとても大変だと思います。飲食店に関わるいろんな業者の方が居て、大変な思いをしている。同じように、ひとつの文化を作り上げていく中では、同様に大勢の方々が努力されているわけです。そこを私どもとしては支えていかなきゃいけないんじゃないかなと。

 今回の要望活動を通じて、私自身、あるいは自民党自体がこういったことに後ろ向きなんじゃないの?と思ってらっしゃるとすれば、決してそんなことはありませんと、お話しておきたいと思います。

――本当に貴重な時間をお取りいただき、誠にありがとうございました。

 

「同人誌即売会は、これから継続できるの?」4月25日、緊急事態宣言発令の裏側で何が起きていたのか。東京都へ申し入れを行った即売会主催・議員の4人に話を聞いてみた おわり