東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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“配信ライブだからこそ”の楽しみがある。このライブがそれを証明した。『東方NEO POP STANDARD』ライブレポート

3/21開催、『東方NEO POP STANDARD』ライブレポート:後編

DJ流のリスペクト ~DJわらび~

DJわらび
https://twitter.com/wrb0301

 即殺されてしまった僕らだが、次はDJタイムだ。ここで一休みと行きたいところだが、今日のDJはそれを許してくれないことは、さっきのプレイでよくわかっている。ここは死んだ体を叩き起こすしかなさそうだ

 スタートは「Where I Fall in Love」。ジャズナンバーからゆっくりと立ち上げていく。すぐに「until-while-from」、「春の湊に」へとスピンしテンポを上げていく。それを「ツキミノ庭ニワ」に受け止めさせる。テンポコントロールが栄えるmixだが、お気づきだろうか。これらの曲をアレンジしたサークルは「Accord on Cords」、「Unity-Gain」、「ついったー東方部」、「東京アクティブNEETs」。すべて、静岡例大祭の前日に行われる予定であった、ジャズイベント”するが卯酉ジャズ祭”の出演サークルだ。

 

 ジャズゾーンから繋ぐのは、「KILLER TUNE」、「MotherGooseを聞きながら」。ロックDJイベントのアンセムを連打し、フロアを一気にROCKIN’ONに変える。

 

 そのフロアにドロップするのは「悪魔に憧れた少女」。聡明な東方アレンジフリークなら、この意味を察してしまうかもしれないけど、答え合わせはもう少し後で。

 

 そこから「その川は遠く」、「ハロームジカ」、「変幻自在」、「ノスタルジア」と続けば………そう、これらをアレンジした「味玉定食」「ウラメンソウル」「群青リボン」「Kurage seek room」「少年ヴィヴィッド」は、静岡例大祭の前日に予定されていた、ロックアレンジライブ”その日幻想郷に迷い込んだ俺たちは”の出演サークルたちだ。

  無念にも中止や延期となってしまったイベントへ向けて、無茶とも言えるDJプレイ、ミックスに挑む。これがDJわらび流のリスペクトであり、エールなんだ。

 

 「流星スピード」から「鳥と桜と嘴と」バトンを渡し、ダンスロックへと舵を切る。「Innocent Eyes」に繋ぐ美しいMIXに、フロアのコメントは懐かしいノリに。

 

 ラストスパートは「Mary Go,Merry Happy」から「I♥Hell」でギアを上げる。手拍子したり、頭を振ったり忙しいフロアとなったところで、「DesireDrive」を、唯一のフルコーラスでドロップ!!フロア中にタオルを回させたところでDJターンを終えた。

 

 改めてセットリストを見てみると、やっぱりとんでもなく無茶なセトリで思わず息が漏れる。

 ジャズからスタートして、ロックにつなぐ。ロックの中でも速度感、ジャンルだってバラバラだ。2つのイベントの出演サークルは9つもある。それを20分という短い出番に収めて、自分の色も表現する。

 な、無茶だろ?でもその無茶をDJわらびは成し遂げた。その熱い想いは、みんなに届いたのだ。

セットリスト

Where I Fall in Love/Accord on Cords
until-while-from/Unity-Gain
春の湊に/ついったー東方部
ツキミノ庭ニワ/東京アクティブNEETs
KILLER TUNE/TaNaBaTa
MotherGooseを聞きながら/MISTY RAIN
悪魔に憧れた少女/味玉定食
その川は遠く/ウラメンソウル
ハロームジカ/群青リボン
変幻自在/Kurage seek room
ノスタルジア/少年ヴィヴィッド
流星スピード/Girl’s short hair
鳥と桜と嘴と/マッカチン企画
Innocent Eyes/FELT
Mary Go,Merry Happy/少女理論観測所
I♥Hell/AbsoЯute Zero
DesireDrive/岸田教団&THE明星ロケッツ

 

自分流の爪痕を残した ~サンライズハイスクール~

Dr.こうちょー 
https://twitter.com/kocho_sunhigh

Vo.そう
https://twitter.com/soh_sunrise

Gt.こうき
https://twitter.com/GT0215Puyo

Ba.ち様
https://twitter.com/chi21sama

Key.みえちゃん
https://twitter.com/keiu2525

 DJタイムが終わると、次の出番のサークルを予想するコメントがたくさん。待ちきれないのか、森羅万象を期待する人が多い。これは、暗転したステージの上で待機する彼らにとっては逆境だ。サンライズハイスクール。次の出番は、彼らなのだから。

 そんな逆境を吹き飛ばすためにサンハイが繰り出すのは、

「ショートコント。『嘘月』」
「どーもー!King Gnuです!聴いてください。プリテンダー」

 サンハイはKing Gnuみたいにインテリっぽい感じじゃなくて、キャラが濃すぎるし、鳴り出したこの曲「嘘月」はプリテンダーみたいに優しい曲じゃなくてゴリゴリのハードロックだし。そもそもプリテンダーはOfficial髭男dismの曲だしと、何一つあっていない。おいおい大丈夫かよ。

 

 正直言うと、Vo.そうとはリア友だ。東方とは全く関係ないとこで知り合った仲だ。ライブレポートを書く、という公平が求められる立場だけども、個人的にサンハイを応援している。

 だから、サンハイがこの逆境を覆せるかどうか、このスタートの仕方でいけるのか、心配に見守っていた。

 

 そんな僕の心配を他所に、フロアはサンハイを暖かく迎えた。コメント欄は「サンライズハイスクール」の文字で溢れる。

 通常、たくさんのバンドが集まるライブでは、自分の目当てのバンドだけ観て帰るというのも珍しくない。一方、東方ライブではみんな、出演している全部のサークルをめいっぱい楽しむのが常。それは元々の楽曲を、みんなが共有しているから。東方アレンジファンの暖かさ、東方で遊ぶ能力はピカイチだ。

 

 ギターソロではマネキンのGt.トウヤが体を大回転させる。おいおい、それにしてもこいつら、フロアを信頼しきっていやがる。フロアはボロボロになったGt.トウヤをいたわるコメントであふれる。みんな優しいな。

 

 会場をサンハイワールドにしたところで、「メリーナイトメア」。エレクトロコアに近いハードなナンバーだ。ブレイクダウンでは重いギターに合わせてスクワット。Vo.そうがフロアを挑発して2ステップを誘うと、画面の前のライブキッズ達の血が騒ぐ。

 

 「YLiA」、「dead,dead,dance」ではバンドメンバー個々の魅力が発揮される。

 サンハイは単なる色物サークルじゃない。ボーカルは生まれながらのイケメンだし、5弦ベースを弾きこなすセーラー姿はフロア中を痺れさせるし、筋肉にあふれるギターはまさにロックを体現してる。ジャージに身を包んだキーボードの時折感じるアンニュイ感がたまんないし、白塗りのドラムは見た目に反して実直にリズムを刻む。

 

 

 ラストは突然のお便りから始まる「SUMMER GAME」。ダンサブルなナンバーにフロアの手が挙がる。手拍子の絵文字を使った「????クラップ」の嵐で盛り上がりは更に加速、ギターソロにつなげる。

 ソロパートでGt.こうきは、なんとギターを置き(!?)上裸になり、ポージングをスタート。マジにバッキバキにビルドアップされた筋肉を披露する。これには思わずフロアも「仕上がってるね!」「固定資産税かかりそうだな!」と掛け声を贈る。バーリトゥード(なんでもあり)なステージに、フロアも大盛りあがりだ。

 

 曲前のMCでDr.こうちょーは「壁(サークル)に挟まれるのはキツい!!伝説と伝説に挟まれて、ファイヤー/ポッポ/サンダーみたいになってる」とこぼす。前門の石鹸屋、後門の森羅万象。どちらも文句なしの伝説だ。しかしどうだ、サンライズハイスクールは逃げ腰ではない。サンライズハイスクール流のライブを全力でぶつけ、現に1000人を超えるフロアを沸かせている。

 

 サンハイ流は止まらない。ぱっとバックの音が止まり、Hungry TigerのVo.まにたそがおもむろに舞台袖から現れる。「えっ!お姉さん、めっちゃかわいいじゃないですか、彼氏とかいる?」ナンパするVo.そう、その様子をそう君の彼女(という設定)のBa.ち様と、まにたその彼氏(という設定)のGt.こうきに見つかり、一触即発の修羅場に。訪れる無音。なんかよくわからないうちにいつの間にかはにーぽけっとがステージイン。
 「ミュージック、カモン!!」曲が再開。ラストのサビを全員で盛り上げたのだった。

TOUHOU ROCK FESでも共演したみんなで大騒ぎ。CD版ではガヤとしても参加している。

 何を言っているのかわからないと思うが、俺だって何を見ていたのかわかっていない。ただ一つ、確実に見ていたのは、”伝説”に臆することなく、爪痕を残したカッコいい東方アレンジサークルの姿だ。 

 サンライズハイスクール。みんな、覚えておいてくれ。これが後に伝説になるサークルの名だ。

 

 

セットリスト

1.嘘月
2.メリーナイトメア
3.YLiA
4.dead,dead,dance
5.SUMMER GAME

 

 

“同”じ時間にたくさんの“人”と”音”を“楽”しむ。なんて最高なんだ ~森羅万象~

Key.kaztora
https://twitter.com/Kaztora_

Vo.あやぽんず
https://twitter.com/ayaponzu111

Vo.あよ
https://twitter.com/ayopi_maru

 長かったライブも残すところ1サークル。フロアには最後のサークルを呼ぶ声でいっぱいだ。

 

 可憐な二人のシルエット。そして、キーボードが一人。おどろおどろしい音楽から始まるのは「デンデラパーティーナイト」。

 Vo.あやぽんずとVo.あよがリードボーカルとコーラス、そしてユニゾンをハイテンポで交代しながら歌い上げていく。

 2人とも顔出しが出来ないので、マスクをつけている。しかし、その声量はマスク越しとは思えないほど、伸びやかで迫力がある。配信でどのくらい伝わったかわからないが、とにかく2人のボーカリストとしての力量を感じるパワーだった。

 「デンデラパーティーナイト」は2019年の秋にリリースされた新しい曲だ。ライブでは今日が初披露となる。

 新曲を初めてライブで披露すること、それは特別な意味を持つことがある。 

 

 Key.kaztoraが「配信ライブになったことでセットリストを変えて、初披露の曲を入れた」とオープニングトークで語っていた。

 今日のために入れた曲。それはきっと特別な意味を持っている。リアルでのライブができなかった悔しさか、配信に来てくれた人への感謝か、あるいは全部がないまぜになった感情か。その想いをフロアは受け止め盛り上がりに変えていく。

 

 Vo.あやぽんずのソロとなって次の曲「回転」。キュートなメロディーに合わせてフロアのタオルがぐるぐる大回転する。時折はさまるVo.あやぽんずの「にゃー!」がとても可愛い。可愛さが止まらない。

 

 間奏ではついにネコミミをつけてステージを駆け回る。こんなあざと可愛いパフォーマンスが許されるのだろうか。可愛いからいいのだ!

 その証拠に現地のフロアでは、(やすさんを筆頭に)はにーぽけっとがおおはしゃぎ。可愛いは正義。そんな金言を思い出す。

 ちなみに「回転」はA-Oneの春の新作でカバーされている。やすさんはA-Oneの所属でもあることを考えると、もしかしてただ自分の好きな曲をカバーしたのでは?そんな邪推もしてしまう。

 

 「純情アルメリア」でフロアの空気は一変。「回転とのギャップがすごいんじゃー」というVo.あやぽんずの言葉どおりだ。魂魄妖夢の可憐な、しかし情愛を含んだ感情を歌うこの曲は、大人な雰囲気を漂わせる。「回転」が橙のカラッとした前向きさ、子供のような元気さを感じさせるのと比べると、対象的だ。

 

 森羅万象の魅力の一つにMV(ミュージックビデオ)がある。過去のライブでも、バックスクリーンにMVを映していて、映像と生の音楽が合わさった、森羅万象ならではのステージを披露していた。 

 今日のライブでは、映像を流していない。しかし、森羅万象のライブのパワーは決して下がっていない。2人のボーカルの迫力とKey.kaztoraの演奏がそれを教えてくれる。

 

 ボーカルをVo.あよに交代して「無意識レクイエム」。個人的にこの曲は、すごく特殊な曲だと思う。私が思うに、東方アレンジ、特にポップスに近いジャンルでは、キャラクターが歌っているような歌詞が多い。それは何も東方アレンジに限らず、メジャーシーンの曲だってそうだ。
 しかし、この曲は決して”古明地こいし”や”メリーさん”が歌っていない。この曲のボーカルは語り部だ。どのキャラクターでもない。そうなると難しいのが、歌う際の感情の表現だ。シンプルにキャラクターの感情をトレースするわけにはいかない。そんな難しい歌をVo.あよは表現しきる。

 

 Vo.あよの表現力は「私が蝶になったはなし」でも際立つ。この曲は屠自古が語りかけるような優しい曲調で、「無意識レクイエム」とはギャップという言葉では収まらないほど曲調が違う。しかし、Vo.あよはこれにものともしない。ボーカル陣の表現力の高さ、そしてアレンジャーkaztoraが創る曲の幅の広さも森羅万象の魅力の一つだ。

 5時間もの長丁場もあっというま。次の曲が最後となる。フロアには「えー!!」と惜しむコメントがあふれる。それだけではない、静岡ROXYのフロアからも「えー!!」の大合唱。

 

 それは出演しているサークルもこのライブを心から楽しんでいて、まだまだ足りない!と思っている証。

 

 感極まったKey.kaztoraを「泣ーけ、泣ーけ」と煽るVo.あやぽんず。なんだかこのやり取りが、とっても森羅万象っぽくて愛らしい。

 

 

 そして、最後の曲は

 

「「Vamp!紅魔!」」

 

 みんなお待ちかね。「悪戯センセーション」だ!!!

 

 この記事を読んでくれているみんなは既に知っているだろうが、「悪戯センセーション」はyoutubeで700万再生を越えた。これはサークルが直接アップロードしている東方アレンジPVとしてトップ。まさに時代を代表する一曲。今日のこの特別なライブにふさわしい曲だ。

 

 この曲はスカーレット姉妹の歌い合いが魅力の一つ。それはライブでも同じ。Vo.あやぽんずとVo.あよが掛け合うパートはまさにスカーレット姉妹がその場にいるような最高のパフォーマンスだった。たまらねえな。

 

 最高のパフォーマンスに応えるように、フロアも全部出し切る。この4時間近い今までのライブにずっとついてきた彼らにとって、”@”でタオルを回したり「どっか~ん」のコールを完璧にこなすことなんて朝飯前だ。

 

 気づけば、今日最大の1600人を超す人がこのライブに萃まっていた。 

 

 たくさんの人と同じ音楽を同じ時間に楽しむ。なんて最高なんだ。

セットリスト

1.デンデラパーティーナイト
2.回転
3.純情アルメリア
4.無意識レクイエム
5.私が蝶になったはなし
6.悪戯センセーション

 

配信ライブでもライブの楽しさは変わらない ~Ending~

 このすばらしいライブの余韻を味わっているのだろうか。ライブが終わっても、まだ100人を超す人が残っている。

 ライブの形式はリアルから配信に変わったけど、今日、僕たちはこの日でしか見れない特別なライブを体験した。それは、あやぽんずが「今でしか見れない最高の景色」と表現した通りだ。

 

 今、世界中が大変な状況になっていて、普段どおりライブを楽しむこともままならない。そんな中なんとかしてみんなに音楽を届けようとする人達が居た。そうやってできたものが今日の配信ライブだった。

 

 出演するサークルも不安で一杯だったに違いない。全員が手探りの状態だった。

 

 しかし配信ライブでも、音楽の、ライブの楽しさは変わらなかった。むしろ”配信ライブだからこそ”の楽しみがあった。

 

 東方NEO POP STANDARDはそれを証明したのだ。

 

 

文:えふび~
撮影:羽柴実里
SupportWriting:にしかわ

 

“配信ライブだからこそ”の楽しみがある。このライブがそれを証明した。『東方NEO POP STANDARD』ライブレポート おわり