東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

詳しく読む
リポート
2019/12/05

本当に「中国の東方はアツい」のか? 8月開催「上海THO」1万字現地レポート

第十回上海THO現地に足を運んだ筆者が、中国のファンを見て感じたこと

 

 「今、中国の東方がアツい。」

 ここ数年の東方を追っている人間なら一度は聞いたことがある言葉だろう。
それは画面の向こうのサークルの誰かが言っていたのかもしれないし、
例大祭ですれ違った人の中国語率が上がってきたことから感じたのかもしれないし、
中国イベントに参加したサークルの作品あとがきに書いてあったからかもしれないし、
Twitterに流れてくる尊いイラストの作者プロフィールが中国語だったからかもしれない。

 「でも、すごいって言われても中国は中国じゃん」「日本の東方とは関係ないよ」
 普通ならそう思う。なにせ私達は日本に住んでいる。この文章を書いている私自身、8月の初旬まで、中国の地を踏む数日前まではそう思っていた。
 2019年8月17日、かの地に降り立ちその現場を見てきた私にならはっきり言える。

 「中国の東方は、いま“一番”アツい。」

 行ってきた私だから解る。国や大陸を超えたからって何が違うというのか、彼らは私達と同じ「東方ファン」で、本当に同じ人たちだった。

 私はあの日、あの時、あの現場に立ち会えて、本当に良かったと思っている。

 海の向こうに“ぼくたち”と同じ東方ファンがいて、同じ「東方」というコンテンツに熱狂している。そしてその熱は、私たちがこれまで超えてきた「熱狂と混沌の時代」に匹敵すると言っていい。大陸から吹く熱風は、今間違いなく、海を超えてこの日本にも到達しようとしている。

 この記事を読んでいる貴方、貴方にこそ、その“アツい”ジャンルに自分が居ることを、解ってほしいのだ。

 

 この上海東方レポートでは、2019年8月に行われた上海THO(東方オンリーイベント)の模様をお伝えし、2019年の中国の東方ジャンルがどのような動きを見せているのか、また日本と中国(上海)での同人文化の違いはどこにあるのか、そして「中国の東方は本当にアツいのか」について、とりあげていく。

 この文章は、今中国の東方イベントに全く興味のない、そこの貴方に向けて書かれている。

上海という街、そこで行われる東方イベント

 来たる2019年8月17日、上海国際コンベンション&エキシビジョンセンター(上海跨国采购会展中心)にて「第十届 上海THONLY 东方滴星盏~ほしをしたたるさかずき」 が開催された。上海THO(ToHoOnlyの略)は年に一度開催されており、今年で十年の節目を迎えた。
 中国では各都市で「地方東方オンリーイベント」が開催されており、上海THOはその中でも最大級の規模である。

 

 なぜ首都の北京ではなく上海なのか?

 北京は国家・政治の中心地だが、上海は、経済・流行の最先端の街だ。夜は、所狭しと取り付けられた原色で光るLEDに照らされ、年単位、月単位で常にアップデートされ続ける街(エピソードの一つとして、同行したクルーが一年前に訪れた「パチモノ屋」は、今回訪れた時にはだいぶ正規品の多いショップになっていたそうだ)。上海という街はとにかく速度が異常に早い。

 そこで行われる同人イベントが最大級の規模になっていくことは、自然なことなのかもしれない。

有名な観光地、上海豫園(よえん)。お昼に来ると至って普通の庭園と歴史建造物だが、夜になると綺羅びやかなLEDイルミーネションが行われ、RPGのヤバそうなダンジョンみたいになる。

 中国各地のTHOには、都市それぞれの特色がある。風土や、住む人々の嗜好、開催者の思惑によってイベントの形式が異なる。これは日本でも同じだ(例えば例大祭と紅楼夢の特色が異なるように)。

 上海THOの特徴の一つといえば、第7回より併催している、東方アレンジ音楽の大規模ライブがあげられるだろう。このステージには近年、日本のサークルも召集されている。今年は6サークルがライブに参加した。
 中でもサークル「凋叶棕」は、国内国外問わず初めてライブステージの場に立つと発表し、ファンが騒然としたのも記憶に新しい。筆者自身、凋叶棕のライブ出演があると聞き、この取材に名乗りを上げた人間の一人だ。インターネットで参加告知を見たときは本当に驚いた。(逆に、頑なに日本でライブをしてこなかった凋叶棕が、“上海”で初ライブをするというのは、本当に“らしい”なと思った)

前日入り、会場がデカすぎる

 8月16日。私は取材クルーとして、前日から会場に入ることが出来た。
 現地に到着してまず思ったことは、会場が本当に大きいということ。少なくとも、海外で開かれる“日本のゲーム”の“同人”イベントの大きさではない。 

 中には16,000平方メートルの室内展示ホールがあり、中央にはLEDスクリーンを用いた大きなステージ。ホールの入口には金属探知ゲートが用意され、当日の会場には30人以上の警備員が配置されていた。

 主催に近いスタッフに話を聞くと、この警備員の数は“最低限”の人数なのだそう。雰囲気としては“同人誌即売会”というよりも“展示会”が相応しい。

 この広い会場に、参加サークル数は182スペースしか用意されていない。ざっくりいうと、東京ビッグサイト西1ホールより更に大きい程度の面積に対して、182スペース。コミックマーケットの1/3、1/4程度だろうか?

この真ん中の何もない場所は「通路」。
LEDスクリーン付きステージと、警備員。同人イベントではあまり見たことがない光景。

 これは中国の消防法の関係上、展示会の際は何もないスペースが1/3以上なければならないから、とのこと。そうせざるを得ない理由がある。「中国で同人イベントを行う」にあたって、日本と同じ仕組みでは行えない苦労が感じられる。

 そんな理由があるとは言え、この会場の広さは流石に埋めることは出来ないだろう。と、考えていた私の浅はかさは、翌朝、ものの見事に打ち砕かれることになる。

開幕、彼らにとって「かけがえのないもの」

 8月17日。上海THO、即売会当日。
 早朝から、会場には本当に大勢のファンたちが詰め寄せていた。
 35度近い気温、照りつける日差しの中、ファンたちは入場を今か今かと待ち望んでいる。最前列に並ぶ参加者は、朝4時30分には会場に到着していたそうだ。
 目的は「お目当てのサークルのCDが買いたくて」

 いよいよ会場の扉が開く。
 それぞれのお目当てに押し寄せる人々で、ホールの中は熱気に包まれる。開場して30分としないうちに、それぞれが自分の「好き」を熱くぶつけていた。

 会場で最初に目立ったのは、参加していた日本のサークルに長い列を作る人々。日本のサークルは入り口から向かって左半分に集中していたので、開幕の時間は左半分に大勢の人が集まっていた。

 やはり中国のファンたちにとって、サークル本人から直接手渡しで作品が買えるということは、本当にかけがえのないものだったのだろう。私自身も、初めて例大祭に参加した時、お目当てのサークルさんから欲しかった一冊、一枚を手に入れた、あの瞬間の喜びは忘れられない。キラキラと目の輝かせて「宝物」を受け取る彼らの表情から、あの時の自分と同じ、溢れるものを感じた。

 

 実際、先述したサークル「凋叶棕」は開場30分で持ち込んだ作品が全てなくなってしまい、突発的にサイン会を行うことに(しかも、参加者がみんな自発的に色紙や作品を持ってきている)。結局そのサイン会は、頒布時間より遥かに長い1時間を越えてもまだ列を作り続けていた。

 盛況だったのは凋叶棕だけではない。サークル「東方事変」も持ち込んだ部数全てを完売。サークルに直接に話を聞いたところ、完売したのは、日本海外問わず初めてだったとのこと。

 翌日開催されたライブの主催、ヨウキ(氧気)さんに、中国における東方事変の人気について聞くと「(ある意味で)カルト的な人気がある」と話していた。このように書くと大変本当に申し訳無いのだが、東方事変というサークルは、実力派ロックサークルとして知られてはいても、国内において誰もが知っている超人気サークル、というほど知名度が高い訳ではない。

 だが、中国では「知られている」程度ではなく、「人気がある」サークルであり、だからこそ国内外初の完売につながったのだ。これらは、中国東方ファンの熱量と、国を超える「好きなことについて知りたいという気持ち」の強さがわかる事実なのではないだろうか。

例大祭ブースも出展していた。その奥に日本サークルの机が集まっているのだが、人が多すぎて近づけない。この距離から写真を撮るのが精一杯。

 会場に続々入ってくるファン、彼らは一様に若い。高校生から大学生が中心で、男女比9:1の割合で男性が多め。あくまで私個人が見た印象だが、黒髪が多く、メガネをかけ、比較的短髪の………非常に親近感の持てるファンたちが多かった。

 中国に東方が広く知れ渡るようになったのは2008年頃。既に10年以上が経過し、世代的には一度入れ替わりが起きている。会場で参加者に話を聞くと、この2、3年で東方を知ったという層が多かった(主にbilibili動画で)。東方についてはじめて知った頃は中学生でイベントには行けなかった、高校生や大学生になりようやく今年始めて来ることが出来た、という人もいた。

 2002~2006年辺りの、東方Projectが「PCで遊べるとても良質なシューティング」としての知名度が強かった、いわゆる黎明期の時代から、ニコニコ動画の登場により二次創作、特に音楽から興味を惹かれて”新参”がどんどん増えていく。という、かつての日本の東方ファンの増え方の流れと、今の中国の流れはとても近いものがある。

 彼らは皆、上海近辺に住んで居るのだろうか? いや違う。数人の参加者に話を聞くと、蘇州市(上海の隣の市、といっても中国は広いので日本なら県1つまたぐ程度の距離)、杭州市(蘇州より更に遠い)、済南市(東京~大阪間よりさらに遠い)から来ている人も居た。コレはまさに、例大祭に遠路はるばるやってくる、日本全国の東方ファンたちの熱意と同じだ。一年に一度しか無い、自分の大好きな東方に溢れたこのイベントに全てをかけ、若い彼らはこの上海THOに足を運んだのだ。

即売会で見たことがない光景、ある光景

 上海THOにあるのは即売会だけではない。
 まずはゲーム展示ブース。これは今年初めて開催された催しで、中国のゲームサークルだけでなく日本のゲームサークル、ゲームパブリッシャーも招待され、日本からは7本のゲームタイトルが展示、その場で試遊を行うことができた。

 先日Steamでアーリーアクセスが公開された「幻想郷萃夜祭」は、このイベントで初のプレイアブルを展示。開発者のお茶煮さんがTwitterに上げている開発中動画を、中国のファンたちも見ていたようで、4つある試遊台は開場直後から埋まりっぱなしだった。彼らもまた、このタイトルの完成を今か今かと待ちわびていたのだろう。試遊は全く途切れることがなく、1人のプレイを5、6人のギャラリーが囲んで見つめている。15分のプレイ時間が決まっているにもかかわらず、1機やられると後ろから「俺に代わって」とコントローラーを譲り合う、さながら往年のゲームセンターのような光景が繰り広げられていた。

「幻想郷萃夜祭」「幻走スカイドリフト」「3rd eye」の試遊ブース。常にずっと人だかりができていて、開催終了までずっとこんな感じだった。

 他には各地方のTHO、東方オンリーイベントが集まってブースを出していた。出展していた地方THOの数は、なんと20近く。上海THOがすでに10年目という事実にも驚いたが、すでに中国ではこれほどたくさんの東方イベントが行われているのだ。

 各ブースには開催時のポスターが貼られており、それぞれの地方の有名史跡に東方キャラクターが訪れているイラストはまさに、日本の地方イベントと同じ!「中国の東方は、もう大きな都市圏だけで起こっているムーブメントではない」と感じることができた。

 

 そして、大型LEDを備えた大ステージ。

 ここでは東方原作のスコアアタック大会など、例大祭でも行われている内容から、「東方を題材にした漫才大会」など、日本国内では聞いたことがない異色の催し物が開かれたりしていた(残念ながら言語がわからないので満喫はできなかったが)。

 盛り上がっていたのはクイズ大会だ。ステージ横のブースでテスト形式の予選が行われ、優秀成績者はステージ上での決勝大会に参加できる。問題はスクリーンに表示され、漢字なのである程度意味は把握できるのだが、そもそも問題が非常に難しい!日本語で書いてあっても、これはちゃんと答えられないのでは…。

【コラム】中国プレイヤーはゲームパッドを使わない

ぼくもかいものがしたい

 お昼を過ぎた頃、上海THOも中腹を超え、会場にはバッグいっぱいに詰めた“戦利品”を持った人々に溢れ、戦いを終えて会場の橋に座る“戦士”たち。日本の即売会と変わらない光景に、密かに安心感を覚える。

 こんな姿を見て、私もそこに並んでいるものが欲しくなってしまった。同じ人間になりたくなってしまった。スペースで「1部ください」がやりたい。だが、私は中国語をしゃべれない。コミュニケーションのための言語を持っていない……それでも、やるしかない!

 だって目の前の本が欲しいから!

 

エクスキューズミー!アイムジャパニーズ!
 ディス!(欲しい物に指をさす)

 ディス!(欲しい物に指をさす)
 ディス!(欲しい物に指をさす)プリーズ!!!

(ちなみにこの時、取材同行の通訳さんは居ない。休憩時間なので)

 学生時代にほんのり習っていた中国語日常会話を一切忘れ、英語圏でも通じないであろう雑なコミュニケーション……果たして通じるのだろうか?

 

「あ、日本語大丈夫ですよ」

 

 忘れていた。そもそも此処は東方の即売会会場で、東方は日本のコンテンツ。海外のコンテンツをわざわざ選んで履修するオタクは、そもそも”強い”に決まっていた………。

 ただ、頼れるもののない異国の地で日本語が通じたということに、ホッと安堵を抱いた自分も居た。

 

 実際、上海THOの会場では、5~6割の確率で日本語が通じた。特にスタッフさんは、かなりの確率で簡単な日本語会話が可能で、非常に驚かされた。

 サークルの誰か1人は日本語が理解できる人がいる、というケースが度々あり、わからない場合であっても、みんな親切に対応して下さるので、やり取りに関してほとんど困ることはなかった。

 それなら上海の街中でも日本語が通じるのか…というとそういう訳ではない。上海の街中では、日本語はおろか、英語も一切通じない。即売会の雰囲気で話しかけるととても痛い目を見るので注意して欲しい。

 その分、上海の場において「日本が通じる場所」であるTHOの会場は、非常に貴重な場所だ。ホッとすることが出来る。異国でも、故郷に居るような気持ちになれる。

 そう、中国に行ったとしても、東方という同じ「好き」で繋がった相手には、彼らは優しい。”同人”のホームグラウンドは、海を超えている。

現地の同人サークルから購入したもの、の一部。中国では音楽CD、グッズが多く、同人誌はあまり多くない。比較的イラスト本が多かったが、中には漫画と小説が同居し複数の作者で描かれた「合同誌」的なものも有った、というか合同誌の方がむしろ多い印象だった。

【コラム】中国でお買い物するにあたって

同じ人たちが、中国にもいる

 例のだだっ広い通路に人の山ができているかと思えば、一般参加者がバイオリンやトランペットなどを持ち込んで「野良演奏会」をしていた。大きな人だかりができていたが、通路がとにかく広いので、他の参加者やスペースなどにはほとんど支障がない。

 その向かい側では「Bad Apple!! feat.nomico」に合わせて、ヲタ芸を打つ法被を来た集団。法被を来ていない人も何人か混ざっていたので、もしかしたら飛び入り参加だったんじゃないか?

 そして自由発生的に起きるコスプレの撮影。コスプレ広場なんてものはない。とにかく会場が広いので、どこでも撮影が発生する。彼らはフランクにコスプレイヤーに写真撮影を求め、コスプレイヤーもまた楽しげに撮影に応じる。その異性にも話しかけられるフランクさ、日本のオタクはあまり持ち合わせて居ないものなので、ちょっと悔しい。

ゲリラ演奏会の様子。自然発生的に楽器を持った人々が集まり原曲のセッションをする様、周囲で湧き上がる歓声はまさに「騒霊」だった。

 会場に居る警備員の数はたしかに多く、物々しさのようなものは感じるかもしれない。だが、自由度は実は高かったりする。会場の広さがこういった寛容さを生み出しているのは、とても興味深い。

 そして、誰も帰らない。とにかく帰らない。来場者のほとんどが、閉場時間近くまでずっとこの会場にとどまり続けていた。この東方ファンしか居ない空間を「骨の髄まで楽しんでやろう」という気持ち。

 僕はこの風景を知っている。“東方イベント、閉場時間まで来場者ほとんど帰らないがち”というあるあるネタは、なんと日本だけではなく中国でも同じだった。

 

 そう、同じ。ぼくらとかれらは、どうやら同じらしい。

 東方Projectってやつが好きな人達が集まれば、どうやら何処でも似たようなことが起きるみたいだ。だれも閉場時間まで帰らないし、東方の知識でマウントを取ってみたくなるし、好きなサークルさんの新刊が手に入れられたら涙が出るほど嬉しい。

 生まれた場所も見てきたものも違うかもしれない。けど、その場にいる彼らは、僕と同じ「東方Project」が大好きな人達だ。

 

 東方の初期も、コミケを除けば東方のイベントは「例大祭しか無い」という時期があり、そこに向かってファンが全力を注いでいた時があった。その時の熱量と同じものを透かし見て、かつて黎明期の東方を知る人達は「昔の例大祭みたい」と、中国のファンたちを見て思うのだろうか。

 だってそりゃあそうだろう。そこに自分の好きな全てがあって、そこに自分の好きなものを好きな人達が沢山いる。上海の人口は約2400万人(東京都より多い)、中国の人口なら約14億だ。あの会場にいた数千人の中国東方ファンが、自分の“好き”に、“同人”に、インターネットではなく“現実”で出会えるということが、どれほど「かけがえのないこと」か。

 

 彼らは本当に東方が好きなのだ。好きで、好きで、だからこの上海THOに来る。それはぼくだって、例大祭や紅楼夢に向かうぼくらだって同じだ。君が初めてイベントにいった時、「この場所には、クラスで僕しか知らない東方のことを知っている人たちがこんなに大勢いるんだ」という事実を噛み締めたんじゃないか?

 「中国の東方ファン」ではなく、もはやただの「東方ファン」と呼び替えても良い。だってぼくらと同じなんだから。同じ人達が同じコンテンツに、滅茶苦茶な熱を上げている。好きという思いは、住んでいる場所とか、空間とか、環境とか、そういうものをほんの一瞬だけ超えられるのかも知れない。
 たまたま、かれらはぼくらと同じものが好きだったというだけだ。同じ東方Projectが好きな人間、「同人」だ。


「中国の東方は、いま“一番”アツい。」

 冒頭で私はこのように書いた。現地に降り立ったとき私はそう思った。だが、この文章を書き終えるに際して改めて、こう言い換えたい。

 

「東方Projectは、いま一番アツい。」

 

 

 東方の熱さはまだ続く。

 12月7-8日、上海で東方のイベントが再度開かれる。

 毎年上海で開かれるインディーズゲーム展示会「Weplay」に、東方エリアが展開される。それは、ゲーム展示会の中で「東方の同人即売会」をやってしまおうという企画であり、展示会の中に「サークルスペース」が配置される。中国のゲームショウでだ。

http://www.weplaymore.com/blog/project-weplay-zun?categoryId=16301

 

 そしてなんとそこに、ZUNさんも参加する。「上海アリス幻樂団」の主催が、上海に降り立つ。

 そこで、ZUNさんもスペースとして参加し、なんと東方の原作を中国のファンに手売りするという。中国の東方ファンにとって、ZUNさんが中国のイベントに来るのは悲願中の悲願だ。そこで東方原作を受け取り、今にも泣き崩れそうな中国の限界東方オタクを、私は見たい。学生の時、初めてZUNさんから手渡しで地霊殿体験版を受け取れた瞬間の、あの時の「ぼく」を、私はもう一度見たい。

 

 Weplay現地のレポートも、後日この我楽多叢誌にて公開したい。東方好きの「同人」について、今後も刻銘に記録できればと思っている。

本当に「中国の東方はアツい」のか? 8月開催「上海THO」1万字現地レポート おわり