「今の目標は、幻想郷みたいな世界を自分で作ること」気鋭のゲームクリエイターEIKIの挑戦と、戦友えぅの矜持「EIKIが世界一のクリエイターになるまで付き合う」
Swicth&PC版『幻走スカイドリフト』発売記念インタビュー【第3回】
Nintendo Switch版『幻走スカイドリフト』について
──では改めて、昨日発売となったNintendo Switch版『幻走スカイドリフト』について詳しく伺います。そもそもコンソール版を作ることになった経緯は?
EIKI:
僕が独立した時に、ちょうどUntiesという新しいインディーゲームパブリッシングの枠組みができるタイミングで、「独立されたのなら一緒にやりましょう」と声をかけていただきました。僕としても『幻走スカイドリフト』はファンが多く、幅広く展開したい作品だったし、「これは新しくコースを作る口実にもなるな」と思って(笑)お任せすることにしました。当時はすでに東方の作品が次々とコンシューマで出て、世界規模で盛り上がる流れもできていたので、そこにうまく乗れればなという思いもありました。
──東方作品が世界で受けているという実感はあった?
EIKI:
東方のイベントに出るとアメリカやヨーロッパ、中国で流行っているようだという話を耳にしますし、『幻走スカイドリフト』の最新情報をSNSで出したら、さっそく海外の方からリプライが来たり、肌感覚としてもありました。
──コンシューマへの移植自体はスムーズに行えたのでしょうか。
EIKI:
もともとUnityで作っていたのでそのまま移植したんですけど、開発当初のUnityからバージョンが3つくらい変わっていたせいで、現行バージョンでまともに動くまで何か月かかかりましたね。UIやネットワークまわりを作り直したおかげでクロスプラットフォームでの対戦もできるようになりましたし、いまとなっては結構万全な状態で作れました。
──今回のリリースはSteam版とNintendo Switch版ですが。
EIKI:
PS4版も近いうちに対応していきたいと思います。
──改めて、スカイドリフトのレースゲームとしての売りを教えてください。
EIKI:
うーん……なんだろう。やっぱりチェンジですね。操作キャラがチェンジする要素は『マリオカート ダブルダッシュ!!』(2003年/ゲームキューブ)にもあったんですけど、車体性能が変わるわけではなかった。『幻走スカイドリフト』のチェンジは、所持アイテムが変わるのはもちろんだし、ドライビングの性能も変わります。さらにチェンジすることで一定時間加速するギミックがあるので、レース中に暇な展開がないんです。
──ただのキャラ見せ要素ではない、と。
EIKI:
直線だったらキャラチェンジして、カーブだったらちゃんとドリフトして……っていう操作が、うまい具合に緩急になっています。キャラチェンジ要素が結果的に爽快感に繋がっているし、全体的に東方らしい雰囲気をちゃんとレーシングゲームに落とし込めたかなと思っています。
──コースデザインでもそのあたりは意識して?
EIKI:
はい、そこは『マリオカート』で培ったところもあるんですけど、いろんなタイプのコースを自分なりに分析して「面白いコースだけを作ろう」という気概で、自分だけでやりました。
──各コースの舞台設定や演出面にも強いこだわりを感じます。
EIKI:
『幻走スカイドリフト』では、幻想郷のいろんな景色を3D化しようという目的が大前提としてありました。人里についても黄昏フロンティアさんの作品で初めてどういう感じなのかわかったくらいなので、うちはさらにそれを突き詰めてみようと。コースの一角を、黄昏フロンティアさんの作品の中で背景として出たところとして、じゃあコース全体はどうなっているのかという発想で作りました。だから、曲がり角の垣の向こうにも町並みが続いていて、プレイヤーはあくまでその一部分をコースとして走っている……という感覚を大事にしています。
──Nintendo Switch版で追加された新ステージについてお伺いします。白玉楼ステージの、映像とBGMがシンクロした演出は素晴らしかったですね。
EIKI:
そうですね。あそこは全コース中一番演出に気合を入れました。あのステージだけこれまでのPVに1回も出していないんですよ。キャンペーンモードで初めて出てくるので、ぜひ自身のプレイで体験していただけると嬉しいですね。
──その他には?
EIKI:
月面ステージでは宇宙空間から月に着地するシーンで、このゲームのウリのひとつである“浮遊感”を存分に楽しめます。結構長い距離を飛んだ末にどこに着地するかによって以降の展開が変わるとか、今までのレーシングゲームにはあまりなかった要素だと思います。新規追加ステージは6つですけど、どれもシチュエーション的に一癖二癖あって、起伏にとんだコース設計を心掛けたものになっています。あとは追加ステージとして、既存コースの素材と曲を使ったアナザーステージを用意しています。元ステージと全然違う“裏面”のようなもので、たとえば紅魔館ステージだったら、図書館の本棚がループしてうねっているみたいな、プレイヤーの心に残り、レース展開がより面白くなりやすい特徴をつけています。
──ストーリーデモのセリフも、新規追加ステージを含めてEIKIさんおひとりで?
EIKI:
そうですね。ストーリーはおまけ的な要素が強いんですけど、一応僕自身が設定厨なので、全部のテキストの妥当性を確認した上で書いています。とくに“月”は幻想郷には特別な存在なので、東方がこれまでに月をどのように扱ってきたかをあらゆる作品や漫画でチェックして独自研究した内容をストーリーに落とし込んでいます……と設定厨アピールをしておきます(笑)。
えぅ:
俺も東方好きの設定厨なので、そういう部分はデバッグで生かされています。あるシーンで違和感のあるセリフがあって、流れとしては間違っていないんだけど「このキャラがこんな口調でしゃべるのはおかしい」と。EIKIに調べてもらったら、テキストの表示順序がズレていたバグだということが判明しました。
──まさに設定厨ならではのエピソードですね(笑)。東方二次創作ももちろんですが、大学時代からこうやって高いクオリティと精度の作品をハイペースで作ってきて、制作のモチベーションが落ちた時はないんですか?
EIKI:
ないですね。ゲームはモチベーションで作ってはいないので。ゲーム作成中毒なんです(笑)。
えぅ:
そういえば別の取材でも言ってたね。「ゲームを作るのは楽しいと思ったことはないけど、やめている自分は想像できない」って。
EIKI:
ZUNさんが以前言っていた「ゲームを作る人生が楽しい。でもゲームを作ること自体が楽しいかは別」と近いかもしれません。
えぅ:
傍で見ていてもなんでこんな苦しいことをやっているんだろうと思うし。
──でも、なぜ“ゲーム”なんでしょうね。
EIKI:
そこにゲームがあるからですかね。違うかな(笑)。
──小さい時に家で禁止されていた経験の反動とか。
EIKI:
それもあるんですけど……僕はいまのデジタルゲームだけをゲームと捉えていなくて、娯楽全般のひとつだと思っています。スマホゲームもコンシューマもおなじゲームだし、もっと広い意味での形にもこだわっていません。ゲームって、生活に一番不必要な人間らしい営みであり、衣食住が満たされて文化的なことをしようとなった時にたどりつく娯楽であって、そういうものを作れていろんな人々に評価してもらえるのは、とても幸せなことだなと思います。
──“ホモ・ルーデンス”ですね。EIKIさんの中でデジタルゲームがいまのところ、もっとも多様性のある娯楽だということですね。今後、ゲームの枠を超えた活動として見据えていることはあるのでしょうか?
EIKI:
とりあえず、いま作っている『獣王武陣』は、完全に自分で世界観を作って、その世界観を伸ばしていくって方針のゲームなんですけど、最終的には独自のIPを大事にしていきたいなと思っています。
──それは、東方のような?
EIKI:
東方の世界観って、めちゃくちゃ面白いんです。そういう確固たる世界観があってプロダクト自体の世界が広がると、枠組みを簡単に飛び越えられるんです。具体的には映画化、アニメ化といったメディア展開ですね。だから「ゲームじゃないとだめ」ではなくて、世界を広げていく中で面白そうなことがあったら何でもやりたいっていうのが気持ちとしてあります。
──それは、えぅさんも同じビジョンを持っているのでしょうか?
えぅ:
俺の場合はもっと単純で、こいつ(EIKI氏)が日本一、世界一のクリエイターになるまで付き合うっていう気持ちだけです。
──おお!
えぅ:
今まで見てきたクリエイターのなかで最高の人材だし、30手前までゴミクズみたいな人生を送っていた俺に「お前とだったら会社をやりたい」と言ってくれたのはすごいありがたいと思っています。もともとクマシステムっていう会社も「お前はゲーム作っているだけでいい。それ以外のことは全部やるから」ってのが根底にあって作ったものだし、一緒についてきてくれているメンバーも同じ気持ちだと思います。
──インディーゲームって、やはりこの人とこの人が出会って……というめぐり合わせが大きいんですね。おふたりの場合、間を繋いだものが東方だったと。
えぅ:
それはもう、東方なかったらilluCalab.はできていないですね。
──そんな東方の魅力を、改めて。
EIKI:
東方って僕の娯楽の原体験とほぼ一緒にあるんですけど、やっぱり幻想郷という世界がすごいんです。その世界が何でも生み出すので、その土壌に乗っかっているだけで我々もいい気分になれるし、じゃあ僕らがゲーム作ろうとなった時に、無限にアイデアが湧いてくるんです。だから東方二次創作をずっとやってきたっていう面もあるんですけど、作りたい企画はまだまだ山ほどあります。ただ、僕はクリエイターとしてもうちょっと名を上げたいと思っているので、幻想郷みたいな世界を自分で作ることが、これからの大きな目標になっています。
──ある意味それを実現することは、自分を育ててくれた東方への恩返しにもなりますね。
EIKI:
そうですね。そういう世界に浸れるのはクリエイターとして幸せなことだなと思います。
えぅ:
俺は東方の世界観というか……東方“界隈”っていっちゃっていいのかな。その度量の広さがすごい好きです。それはZUNさんの度量の広さとイコールでもあるんですけど、我々クリエイティブな人材が何をしても受け入れてくれる、許してくれる一番大きいコミュニティだと思っています。それが昔から変わらず、ずっとあるのが好きですね。
──いつでも帰ってこられる故郷みたいな。
EIKI:
D.N.A.さん【※】も言ってたけど、東方の新作が発表された時に界隈の皆がワクワクするあの空気感が好きなんですよね。僕はZUNさん個人に対してももちろん尊敬しているんですけど、ZUNさんの東方にたいするバランス感覚は絶妙だなと思っています。あれが計算しているのか、お酒を飲んでいて偶然生まれたものなのかわかんないですけど(笑)、自分の目が届く範囲でファンがどういう感じに東方を楽しんでいるかをちゃんと見ているし、東方という作品がどういう風に広がっていくかにも気を配っているんです。
【※】同人サークルD.N.A.Softwares代表。
えぅ:
“汚い大人の匂い”を感じないんです。そこはZUNさんの度量に乗っかって皆で作りだした空気感なんだなと。
──そんな土壌があって作られ今回リリースされたSteam/Nintendo Switch版『幻走スカイドリフト』ですが、最後にファンに向けてひとことずつお願いします。
EIKI:
同人版からのファンの皆様にはお待たせしましたというのと、まだ遊んだことがない方には、メチャクチャ気合を入れて作った一作なので、ぜひ一度手に取って触れてほしいですね。バトルのバランスも、僕自身がレースゲームのコアなファンなので、かなり考えて作っています。
えぅ:
同人ゲームで7人のオンライン対戦ができるレーシングゲームって結構珍しいと思います。クロスプラットフォームも実装していたりとネット対戦に重きを置いて作ったので、そこで楽しんでほしいですね。近い腕前の人がマッチングしやすいシステムも用意しているので、初心者から上級者まで楽しんでください。あと、リリース後の追加情報として、キャラやコース、ストーリーなどのDLCも出す予定です。
──リリース後も楽しみが用意されていると。
えぅ:
あまりここで大風呂敷を広げるとEIKIに怒られるかもしれませんが、大会もどんどんやりたいと思っています。
──それはオンラインで?
えぅ:
オンライン、オフラインの両方です。Nintendo Switch版はローカル通信対戦ができるので、それを生かしたオフライン大会なんかも考えています。その進出者をオンラインで決めて……といった形で連動させたいですね。
──かなり本格的ですね。
えぅ:
もともとPC同人版の時も“優勝したら好きなキャラを追加リクエストできる大会”というのを2回やっているんです。『幻走スカイドリフト』は2キャラで1組なので、最低でも2回はやらないとなと。
EIKI:
ゲーム内の看板を争う大会も考えています。
──看板?
EIKI:
優勝した人に自分が宣伝したいものの画像をゲーム内の看板として表示できる権利を獲得できるというものです。さすがに公序良俗に反するものは難しいですが、たとえば自分が作っているゲームのPRをしたりとか、いろいろな使い方ができると思いますので、大会を開催した際にはたくさんの人に参加してもらいたいですね!
(おわり)
聞き手:戸塚伎一、斎藤大地
文:戸塚伎一
『幻走スカイドリフト』
開発チーム:illuCalab.
ジャンル:アクションレーシング
プレイ人数:1~4人(ネット対戦:最大7人)
対応ハード: Nintendo Switch/PC(Steam) PlayStation4
※PS4版は後日配信予定です。(配信日未定)
配信日:Nintendo Switch版/PC(Steam)版:2019年12月12日(発売中)
価格:ダウンロード版2980円(税込)
公式サイト:http://skydrift.illucalab.com/
© illuCalab. 2020
【セール情報】
Nintendo Switch
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セール期間:11月28日0:00~12月31日23:59
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「今の目標は、幻想郷みたいな世界を自分で作ること」気鋭のゲームクリエイターEIKIの挑戦と、戦友えぅの矜持「EIKIが世界一のクリエイターになるまで付き合う」 おわり