東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2019/12/12

ゲーム製作を学んだ任天堂を辞めて独立!独立初期の困難を支えた共同代表えぅさん「僕は警備員をやりながらゲーム開発を手伝っていました」

Swicth&PC版『幻走スカイドリフト』発売記念インタビュー【第2回】

 本日は、ついにSwicth&PC版『幻走スカイドリフト』が発売!
 リリースを記念して、昨日に続いてEIKIさん&えぅさんのお二人のインタビューをお送りします!

任天堂勤務時代から会社設立まで

──びっくりしましたが、就職先は任天堂だったんですよね。なぜ志望されたんですか?

EIKI:
 大学4年の時に修士は受かっていたんですけど、一応ゲーム会社も受けてみて、受かったら行こうかなくらいの感覚で何社か受けてみて、運よく任天堂にひっかかりました。

──いやいや、そこは運では引っかからないところでしょう(笑)。

EIKI:
 結構落ちましたよ。◎◎◎◎(※某大手企業)は書類で落ちました。

ーー就職活動をしている時点でも、将来的にインディーゲームを作っていこうと思っていたんですか?

EIKI:
 そうですね。大学を卒業する時にZUNさんに進路についてお話しする機会があったんですけど、「社会人適性がある人も向いていない人もいるから、もし試せる立場だったら社会人をやってみたらいいんじゃないか。そして合わなかったら辞めればいいし、実際僕もそうした」と言われました。実際そうすることにしたので、そこもZUNさんをなぞっているのかもしれません。

──大人数でのゲーム開発についての興味は?

EIKI:
 それはもちろんありました。ああいう大規模なゲームを作る時に、どういう作り方や組織運営をするんだろうっていう。一番は勉強になったのはデバッグ……作ったゲームをどういう風に製品に仕上げていくかという工程はああいう会社でしか見えないので、そこは勉強になりましたね。僕の時は入社して半年間、デバッグ会社の社員として数十人のデバッガーさんを管理する研修がありました。その時は身だしなみをちゃんとしないといけないし、朝は遅刻しちゃいけないし、社会人としての経験になりましたね(笑)。

──研修期間が終わってからは、いよいよゲーム開発に。

EIKI:
 僕の代は同期が100人くらいだったったんですけど、その中でソフトウェア開発部に入れるプログラマは10人くらいで、実際にソフトウェアやアプリの開発に携われるのは半分くらいでした。僕は運よく『マリオカート8』(WiiU用ゲーム)のチームに入れました。

──開発のどの段階からでしょうか?

EIKI:
 だいぶ初期ですね。車で走れるけどキャラクターはひとりでコースはできていないという段階です。僕はUIのプログラマーのひとりとして入りました。だいたい新人は、仕事がそこで完結するセクションから任されるみたいです。

──その段階で、自分のゲームの作り方と決定的に違うなと感じたところは?

EIKI:
 大人数で作業するので、プログラムの組み方そのものが違うんです。UIにしても、個人で作る時はプログラムとほぼ直結する形で動き部分も作るんですけど、UIを組み立てるツールをデザイナーが単独で使えるようにする必要がるんです。「なんでこんな遠回しな作り方をしてるんだろうな」と。

ーーわりと跳ねっかえりだったんですね。

EIKI:
 そうだったのかな? ZUNさんは会社に入ったら一旦同人活動を止めて、退職が近づいてから再開したそうなんですけど、僕の場合はまぁ……社会人としてはZUNさんより少しだけアクセルは踏んでいたかもしれませんね。

──そこはZUNさんと少し違ったんですね。

えぅ:
 当時Skypeで連絡をとっていたんですけど、いつも夕方5時半にはログインしていました(笑)。通勤時間の分、自分の時間を取れるように自転車で(会社に)通える場所にこだわって住んでいたそうです。

EIKI:
 それは桜井さん【※】も同じことを言ってましたよ。「会社は自転車通勤に限る」って。

【※】『星のカービィ』『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズなどを手がけたゲームクリエイター・桜井政博氏)

ーーしかし、『幻走スカイドリフト』を作ったひとが、『マリオカート』を作っていたというのは面白いですね。

EIKI:
 とはいえ、うちのゲームは結構そうなんですが、もともと学生時代に『Takkoman』を作っていた時から進めていた企画で、息が長いんです。

──そうだったんですね。

EIKI:
 「東方でレーシングゲーム作りたいね」ってことは、ハルさんとずっと話していました。だから自然に作っていたらその後偶然作ることになった、という方が感覚としては近いです。

えぅ:
 当時から東方の二次創作ってすごく流行っていたんですけど、レーシングゲームは出ていなかったんです。ひとつあったんですけど開発途中で立ち消えちゃったので、それもあって「うちらが第一人者としてやるしかない」という使命感もありました。

EIKI:
 “人がもうひとりの上に乗る”っていうのは最初から決まっていたんですけど、最初の体験版では『咲夜さんレーシング』というタイトルで、あえて下の人しか出さない普通のレーシングゲームとして出しました。

ーーなぜタッグでいこうと?

EIKI:
 『東方十七歩』がタッグバトルだったので「タッグバトルいいよね」となって、ひとりが飛ぶ時にもうひとりはどうするよとなった時に、「東方だったら、ひとりが飛んでいるならもう一人はその上に乗るよね」と。

──そこに至る過程がない(笑)。

EIKI:
 ハルさんは反対したんです。「乗るなら女の子らしく座って乗せよう」と。僕はかたくなにボード乗りを主張して通しました。

──いざゲームを作る時って、最初にどのくらい仕様を固めてから作りはじめるのでしょうか?

EIKI:
 あんまり固めないですね。ゲームループが最低限回ったらそこに肉をつけて行こうという形なので、最初の段階はほぼ僕の頭の中です。「これはゲームとして成立するな」ってなったら、それを形にしていく感じですね。

──脳内が広大な仮想ビルド領域なんですね。多作なのも納得がいきます。

EIKI:
 ゲームをずっと好きで遊んでいたので、そこらへんの知見と勘頼りですね。『Takkoman』は最初敵を倒すだけだったので「目的がわからない」「モチベーションもない」と言われつつ、じゃあどうしたらゲームが面白くなるかなと繰り返し考えたりしました。

──EIKIさんって、ゲームデザインを選ばないんですよね。僕もいままでいろいろなインディーゲームクリエイターを取材してきたんですけど、こんなに多様なゲームを大量に作っている方は珍しいです。

EIKI:
 ゲームデザインに縛りがないってのも特徴といえば特徴かもしれません。桜井さんはゲームのおもしろさを分解して再構築するのがうまいじゃないですか。あれを目指そうとつねに心がけています。

──桜井さんはクリエイターとしてのスタイルの理想像ということですが、任天堂社内では著名なクリエイターさんと直接的な接点はあったのでしょうか?

EIKI:
 『スーパーマリオラン』では、チームの一番上には“マリオ御三家”の、宮本さん(宮本茂氏)と中郷さん(中郷俊彦氏)と手塚さん(手塚卓志氏)がいらっしゃって、代々伝わるマリオゲームの作り方を教えていただきました。これは貴重な体験でしたね。

 

──『スーパーマリオラン』ではどんなお仕事を。

EIKI:
 マップを作ったり、完全にプランナーの仕事でした。『マリオカート8デラックス』でプランナー的なことをやりたくて、バトルモードの提案と実装、モード全般の面倒をみたことで、『マリオカート』で僕ができることは全部できたと満足したので、新しい環境に身を置きたいなと思って志願しました。

 

──可能な範囲で結構ですので、当時のエピソードを教えてください。

EIKI:
 宮本さんは開発現場にふらっと訪れてアドバイスをされるのですが、それによってゲームの感触が良い方向に変わるのを実感できました。でもある時出社したら、マリオのジャンプの高さが変わっていたんです。

──えっ、それは宮本さんがこっそりと……?

EIKI:
 実験していたようです。ジャンプの高さがかわるとそれまで作ったマップデザインを全部直さないといけなくなるので、さすがに元に戻しましたが(笑)。

EIKI&えぅの共同代表で法人化へ

──いい話ですね(笑)。ここまでの話を伺っていると、このままずっと任天堂で続けていても良かったのでは……と思ってしまいます。

EIKI:
 辞めることに関しては、『スーパーマリオラン』が終わってからの期間に葛藤がありました。プロジェクトの初期段階から間近で見てきたNintendo Switchのローンチを見届けて、仕事的に一区切りついたタイミングでもありましたし、社内の企画コンペでなかなか自分の企画が通らないということもあって、辞める決心がつきました。

 仰る通り、そのままあと2、3年したら1本のゲーム任せられる立場になっていたかもしれません。でも、その年齢までこんな状態で会社にいるのかと考えた時に、独立してやっていったほうがいいんじゃないかと考えました。

──辞めるとき止められませんでした?

EIKI:
 偉い人にはそんなに止められなかったのですが、直属の上司には「寂しくなるよね」と言われました。同時に「辞めるならたしかに今だね」とも。30歳を超えるといろいろ難しくなるから(20代の)今のうちだよと、わりと穏やかな感じで送っていただきました。

えぅ:
 辞める時の最初の報告も、すごい軽いノリでしたね(笑)。EIKIが任天堂をやめるタイミングで、クマシステムを設立しました。

──それはいつごろでしょうか?

えぅ:
 2017年の9月です。発言権は僕とEIKIで50:50の共同代表で。

──普通は51:49にしてどちらかの発言権を上げるものですが。

えぅ:
 それは税理士さんからも強く勧められました(笑)。でも、俺とEIKIが揉めた時はもう終わりだから、そういうのはいいよねと。

──信頼関係が厚いですね。えぅさんは開発以外の部分をやられているんですよね?

えぅ:
 はい。外注管理から総務、会計まで。決算の時も全然協力してくれないんです(笑)。

──国内のインディーチームでそこまできっちり分業制なのは珍しいですよね。

えぅ:
 この体制はPC版『ハートオブクラウン』制作の時点でほぼ確立されていました。

──現在の社員構成は?

えぅ:
 正社員がグラフィックのハルさんを含む4人で、アルバイトが1人です。来年には少し増える予定ですが、“少人数開発”はこだわりだいところです。

──会社化してから、何か大きな変化はありましたか?

EIKI:
 制作体制は変わりませんが、みんなが社会保険になって人権を得ました(笑)。もともと税務や保険のことをちゃんとしようというのが法人化の大きな目的だったので。あとは法人化して活動の場が増えたっていうのがありますね。会社員時代だとアワードを受賞しても顔出しできなかったけど、いまでは何の問題もないので。

──初期は苦しかったんじゃないですか?

えぅ:
 ええ、僕もEIKIと一緒に勢いで会社を辞めて、彼を支えようと思ったんですが、やっぱり初期は苦しくて……僕は警備員のアルバイトをやりながらゲーム開発を手伝っていました。

──ええ、それはすごい…本当に人生をかけてEIKIさんを支えていますね…。でもいまはもう順調に回り始めた、ということですね。

えぅ:
 そうですね、いまはありがたいことに警備員をしなくて済んでいます(笑)

──現在とりかかっている新規プロジェクトは?

EIKI:
 メインのプロジェクトとしては『獣王武陣』っていう3Dアクションゲームを制作中です。ハルさんがそのモデリングやイラストにかかりっきりな時に、手が空いていた僕ひとりで作ってみようと、『はむころりん』(※2018年リリースのスマートフォン用アスレチックアクションゲーム)をリリースしました。あとは、code;jpさん原作の『Alice Project(仮)』の制作など、いくつか並行して進行中です。

『はむころりん』の公式サイトはこちら

えぅ:
 PC版『ハートオブクラウン』は、中国語や韓国語に対応したSteam版が今月(※2019年11月)にリリースされて、そちらも好評のようです。オリジナルのカードゲームは発売から7年経った今でも売れ続けていて、PC版では、6つのエキスパンションのうち未実装の3つのエキスパンションのリリースを待ってくれているユーザーさんもいます。

EIKI:
 PC版の外国語対応は素材から何から全部作り直す必要があったので自分ではやるつもりはなかったのですが、MangaGamerさん(※海外向けの翻訳開発を手がけるブランド)がうちがやりますと言ってくれたのでお任せしました。それはそれとして、もし今後エキスパンションを出すとしたら当時のままのUIデザインではなく、今風に作り直す必要があると思っています。

──先ほどのお話にもありましたが、『ハートオブクラウン』というIPを使えるのは、会社としての強みですね。

えぅ:
 ありがたいことにFLIPFLOPsさんからは、うちら側で新要素を追加してもいいと仰ってもらっています。『ハートオブクラウン』って、新しいエキスパンションが出るたびに新しいお姫様が登場することが楽しみのひとつでもあるんですけど、つまり、PC版専用に作ったお姫様がカードゲーム版に“逆輸入”されることもありえる……ということです。

──そしてもちろん、本日発売のスカイドリフトのNintendo Switch版ですよね。改めてスカイドリフトについて根掘り葉掘り聞かせてもらいますよ!

(第3回へつづく)

聞き手:戸塚伎一、斎藤大地
文:戸塚伎一

 まさに本日発売のスカイドリフトはこちら、ぜひプレイして明日の記事をご覧いただければさらに楽しめます!

『幻走スカイドリフト』
開発チーム:illuCalab. 
ジャンル:アクションレーシング 
プレイ人数:1~4人(ネット対戦:最大7人) 
対応ハード: Nintendo Switch/PC(Steam) PlayStation4
※PS4版は後日配信予定です。(配信日未定) 
配信日:Nintendo Switch版/PC(Steam)版:2019年12月12日予定
価格:ダウンロード版2980円(税込) 
公式サイト:
http://skydrift.illucalab.com/
© illuCalab. 2020

【セール情報】
Nintendo Switch
あらかじめDL:11月28日0:00~
セール期間:11月28日0:00~12月31日23:59

PC(Steam)
セール期間:12月12日0:00~12月19日23:59

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