ゲーム禁止! 遊べないから自分でゲームを作った。クリエイターEIKIが育った環境と東方Projectとの出会い
Swicth&PC版『幻走スカイドリフト』発売記念インタビュー【第1回】
Swicth&PC版の発売日を明日12/12に控えた『幻走スカイドリフト』。
今回のリリースを記念して、開発したサークルilluCalab(いるからぼ)から、EIKIさん&えぅさんのお二人に来ていただきました!
開発時の秘話や、EIKIさんのこれまでの活動歴など盛りだくさんの内容でお送りしていきます!
『幻走スカイドリフト』
開発チーム:illuCalab.
ジャンル:アクションレーシング
プレイ人数:1~4人(ネット対戦:最大7人)
対応ハード: Nintendo Switch/PC(Steam) PlayStation4
※PS4版は後日配信予定です。(配信日未定)
配信日:Nintendo Switch版/PC(Steam)版:2019年12月12日予定
価格:ダウンロード版2980円(税込)
公式サイト:http://skydrift.illucalab.com/
© illuCalab. 2020
【セール情報】
Nintendo Switch
あらかじめDL:11月28日0:00~
セール期間:11月28日0:00~12月31日23:59
PC(Steam)
セール期間:12月12日0:00~12月19日23:59
ゲームクリエイター・EIKIが誕生するまで
「クリエイターEIKI来歴」
2009年9月 illuCalab.結成
2010年4月 「ダブルクリーチャー ~ 東方攻雑郷」リリース
2010年8月 「東方十七歩」リリース
2010年12月 「いるからぼっくす」リリース
2011年4月 「incubator-インキュベータ-」リリース
2011年8月 ハルさん失踪
2011年11月 「ドリルナ」リリース
2011年12月 「I.⑨ -Intelligent Fool-」リリース
2012年5月 「Takkoman-Kouzatsu World-」リリース
2012年12月 「HEART of CROWN PC」リリース
2013年4月 「パンツァー☆リート~乙女達の聖戦~」リリース
2013年8月 「HEART of CROWN PC」DLCリリース
2013年12月 「幻走スカイドリフト」体験版リリース
2014年11月 「雨傘アンブランス」リリース
2015年4月 「きらりん☆DASH」リリース
2015年8月 「幻走スカイドリフト」リリース
2016年8月 「魔法の女子高生」体験版リリース
2017年5月 「魔法の女子高生」リリース
2018年8月 「はむころりん」リリース
2018年12月 「獣王武陣」開発開始
2019年4月 「Project “Alice”」開発開始
2019年12月 Switch&PC版「幻走スカイドリフト」リリース
──(来歴をみんなで見ながら)めちゃめちゃゲーム作ってますね! 年表を見ながら、EIKIさんのゲーム開発経歴についてもお話をお聞きしていきます。生まれた年は?
EIKI:
1989年、平成元年です。
──ということは……初代の『ポケモン』【※】がドストライクな世代ですね。物心ついた時にはすでにお家にゲーム機があった?
【※】1996年に発売された『ポケットモンスター 赤・緑』
EIKI:
そうですね。でも、うちはゲーム禁止でした。
──え!?
EIKI:
父親が◎◎◎(※某大手レコード会社)でゲーム系の仕事もやっていた関係で、家にソフトの見本が大量にくるんです。それを起動するための本体もあったのですが、なぜかゲーム禁止で……。でも母親は、僕がお腹の中にいるときにファミコンの『ドラゴンクエスト』をやっていたみたいです。
──ご両親はいいんですか?
EIKI:
僕が生まれてからは(ゲームを)やっていないですね。やってる姿を見たことがない。
──そんな家庭環境で『ポケモン』はどうやって遊んだのでしょうか?
EIKI:
友達の家でした。発売されてから2、3年経った頃に「もう俺遊ばないからやっていいよ」って言われて、遊びに行った時にずっとやっていました(笑)。
──そうやってゲームに親しみつつ、ゲームを作る方に関心が向いたきっかけはというと?
EIKI:
家では休日にたまにやらせてもらえるくらいで、基本的にはできないのですが、ゲームは滅茶苦茶好きでした。そんな風に過ごしていた小学5年生くらいの時、親がPCを買い替えた時にいらなくなった古いPCを譲ってもらったんです。「捨てるくらいなら僕にくれ」って。
──ちなみに、その時の機種は?
EIKI:
MacintoshのColorClassic2です。ゲームは禁止なんですけど、なぜかPCは自由に触ってよかったんです。画面が512×384しかなくて、テキスト書いたり簡単なイラストしか描けないんですけど、その中にHypercardってソフトがありました。調べたら、どうやらこれですごいものを作れそうだということがわかって、「じゃあゲーム遊べないなら自分で作ろう」と。それがデジタルゲームを作りはじめた最初です。
──当時の王道の流れですね(笑)。Hypercardで作れるものというと真っ先に浮かぶのがアドベンチャーゲームですが、当時はどういうゲームを作りましたか?
EIKI:
僕が作ったのはミサイルを避けるだけのゲームとか、今思うとゲームの体をなしているのかどうか、というものでしたね。
──そういったものを作りながら、いつかはプレイステーション用ゲームのようなものを作ってやろうと。
EIKI:
そうですね。あとはデジタルとは別に、ガチャポンのフィギュアを並べて弟とか友達とか呼んで、TRPGとまではいかないんですけど、キャラクターがいてボスがいて戦って……というRPGみたいな“ごっこ遊び”をしていました。電子ピアノのデモ曲をBGMに使ったりして(笑)。
──凝ってますね。その時点ではシステムを構築することにも興味が?
EIKI:
そんな大それたことはしてないですよ。ただ、キャラクターのステータスを書いたりといった中二病的なことは、小学生の時からしていました。
──実際にアプリとして作るようになったのはいつ頃でしょうか?
EIKI:
そこに至るまでには結構段階があるんです。中学にあがると、ブラウザで動くCGIゲームが流行っていた時期なんです。『スクリプトオブサーガ』とか、ブラウザで遊べるRPGが全盛期で、その時にクリエイターのおじさんにひな形になるスクリプトをもらえたので、それを改良してサーバーにアップロードして遊んでいました。でもCGIゲームはそれってゲームとしては限定的で、もっとリッチな表現にしたいなとなって高校に入った時に初めてFlashに触りました。
──2000年前後のブラウザゲームの流れにバッチリはまっていたんですね。
EIKI:
2004年……Flashゲームの全盛期がひと段落ついたくらいですね。その時にはもうWindows PCを使っていました。まずはFlashコンテンツの簡易制作ソフトでムービーを作りました。創作活動としては一緒ですけど自分で絵を描いたりしてムービーを作っていました。
──その時は、学校に同じようなことをやっている仲間が……。
EIKI:
いなかったですね。友達がいなかったわけじゃなかったですけど(笑)。僕が作ったCGIゲームを遊んでくれたりはしたけど、自分でゲームを作りたいって人はいなかったですね。そうしてやっとMacromedia Flash【※】を買ってスクリプトを組めるようになりました。そこが“ゲームらしいゲーム”の制作の最初の一歩です。
【※】Flash規格アプリケーション開発ソフトウェア。後にシリーズ名称が「Adbe Flash」に変更
──中学、高校で着実にステップアップしていったんですね。
EIKI:
VisualStudio【※】に初めて触ったのは、大学に入ってからです。
【※】マイクロソフトのソフトウェア統合開発環境。これによって、WindowsをはじめiOS、Android、LinuxなどのOSで起動するソフトウェアを開発できる。
──それは学校の授業でですか?
EIKI:
授業半分、研究室半分ですね。それまではJavascriptだけだったんですけど、C言語触ってDirect Xもさわって、いわゆるWindowsのアプリケーションを作れるようになりました。それが2010年、同人サークルilluCalab.の開始とほぼ同じタイミングです。
──明確な目標があると、プログラムの習得も早そうですね(笑)。
EIKI:
illuCalab.の第1作は『Takkoman -Kouzatsu World-』(以下、『Takkoman』)っていう2Dアクションだったんですけど、僕のアプリケーション作成スキルはあれの開発と一緒に成長したようなものです。なぜこういうゲームにしたかというと、当時からのメンバーにハルさんという絵描きの方がいるんですけど、一緒に何か作ろうとなった時に彼が「アクションゲームを作ろう」と言ったからです。
『Takkoman -Kouzatsu World-』公式サイトはこちら
えぅ:
結構息が長い作品で、体験版をすごい数だしていましたね。5、6回かな。
EIKI:
発売したのは大学卒業後でしたね(笑)。
──(『Takkoman』の映像を観ながら)東方二次創作であることは確かですが、ちょっと独特なムードがありますね。。
EIKI:
この主人公キャラは『東方緋想天』のコミュニティから生み出された、“攻雑クリーチャー”という、派生キャラのひとつで、八雲紫の頭部と霊夢の下半身を組み合わせたクリーチャーなんです。
えぅ:
東方なんだけど東方ではない、もはや何次創作なんだという(笑)。
──そこを1作目にもってきたということは、東方への関心は『Takkoman』制作以前からかなり深かった……と。
EIKI:
中学の終わりごろに友人から「東方のおもしろい作品があるんだ」と勧められて、とりあえず『東方紅魔郷』から『東方永夜抄』まで借りて一気に遊んだのが東方との出会いです。個人制作でこんな凝ったPCゲームが作れるんだということと、その時すでに活発だった東方のコミュニティ文化を知って衝撃を受けました。もしその友人がいなかったら、このインタビューも受けていなかったですね(笑)。
──ゲームジャンルの好みは?
EIKI:
僕何でも好きで、シューティングゲームを作っていたこともあります。未完なんですけど。
──そういった屍を乗り越えた末に『Takkoman』が作られたんですね。
EIKI:
作りはじめたのは『Takkoman』が最初なんですけど、最初にリリースしたのは『東方十七歩』っていう作品です。『カイジ』(※福本伸行氏の漫画)に出てきた特殊ルールの麻雀をモチーフにしたゲームを1か月くらいで作りました。
えぅ:
EIKIは、ゲーム制作の気分転換にゲームを作るんですよ(笑)。
──ちょっと話が戻りますけど、えぅさんはどのタイミングでilluCalab.に合流されたんですか?
EIKI:
『Takkoman』でコミケに出たりショップとやり取りし始めた時にはいつの間にかいましたね(笑)。
えぅ:
当時って東方ファンコミュニティの主流はIRC【※】だったんですけど、俺とEIKIは『東方緋想天』の濃いファンが集まる同じチャンネルにいました。そこのメンバーとは攻略本を作ったりしていたんですけど、コンボムービー集を作ろうとなった時にムービーを作れる人として名乗り出たひとりがEIKIでした。
【※】Internet Relay Chatの略称。インスタントメッセンジャーのプロトコルのひとつ。
──そこが合流ポイントなんですね。
えぅ:
『Takkoman』の完成に向かっている2011年に、イラストレーターのハルさんが体調を崩して入院したんです。それを俺もEIKIも知らなくて、4、5か月くらい音信不通の期間がありました。ちょうど開発が止まっていた時期に、『ハートオブクラウン』ってカードゲームが発売されたんですけど、俺もEIKIもそのゲームかなり遊んでいたんですよ。そしたらEIKIから、「(『Takkoman』の開発は進められないから)『ハトクラ』のPC版でも作らない?」 って話が来て、俺も面白そうだしいいねっていったんですけど、そしたらEIKIは「(同人ではなく)公式として作りたい」と言ったんです。
原作のFLIPFLOPsさん(漫画家)とは懇意にしていたので、早速相談しにいったんですけど快諾してくれて、絵とか素材とか全部提供してくれました。結果的にPC版『ハートオブクラウン』は『Takkoman』とほぼ同時期に出たゲームなんですけど、現在もうちの重要なコンテンツのひとつです。
──PC版『ハートオブクラウン』は非常に出来が良いですよね。UIまわりがきれいで、ゲーム自体の手ざわりがすごくいいんです。ドミニオン系ゲームのUIとしては決定版だったと思います。
EIKI:
ありがとうございます。
──UI設計は、プログラムとはまた違う技術や考え方が必要かなと思いますが、そのあたりは。
EIKI:
やらざるをえないので(笑)。『Takkoman』の初期とかそれ以前のミニゲームのUIは、酷いもんです。当時は『ベヨネッタ』などを参考にして、UIはこうやって作るんだなと学びながらひとつひとつ更新していきました。
──PC版『ハートオブクラウン』を「公式」として作ることにこだわった理由は?
EIKI:
二次創作だと似た素材を一から作らないといけないけど、公式素材を使えば、ネットワークシステム周りもちゃんと作り込めるだろうと。UIの話にも近いんですけど、「やるなら同人というところで妥協しないで、プロ志向でいこう」というのを最初から意識していました。
──基本的に昔からしっかりしてますよね。
EIKI:
これはハルさんとの共通認識でもあるんですけど、アクションの動きひとつとっても“同人ぽさ”消していこう、できるかぎりプロに近いものを作っていこうというのがありました。
──つまりilluCalab.は、当初から商業作品レベルが念頭にあったサークルだったんですね。
EIKI:
それはもう、ZUNさんの一次作品が商業レベルに匹敵するクオリティを出していたので
「じゃあ二次の我々もそれを目指そう」と。
──それを同人でやり抜いたのはすごいですね……。ちなみにどういう仕事をしていたのですか?
EIKI:
任天堂でゲームを作っていました。
──なんと!?
(第2回へつづく)
聞き手:戸塚伎一、斎藤大地
文:戸塚伎一
ゲーム禁止! 遊べないから自分でゲームを作った。クリエイターEIKIが育った環境と東方Projectとの出会い おわり