インタビュー
2020/11/05

「無料のスケブ文化を変えようと思って」Skeb創設者、なるがみ氏インタビュー【シリーズ:東方からはじめた人たち。】

【シリーズ:東方からはじめた人たち。】Skeb創設者、なるがみ氏インタビュー

 今年で25年目を迎える東方Project。その長きにわたる歴史は、様々な人の、創作の「はじまり」を見つめてきた。この人、その人も、実はあんな人も?その創作の最初に、実は「東方」が関わっていたりする。
 東方我楽多叢誌では今後、【シリーズ:東方からはじめた人たち。】として、現在様々な世界で活躍している、そのモノづくりのはじまりに「東方」が関わっている人― 東方からはじめた人たち ―に、その始まりの話や、今行っていることについて伺ってみることにした。

 

 同人即売会が中止、規模の縮小を余儀なくされる中で存在感を高めているサイトがある。手軽にイラストや音声データを有償でリクエストすることができるWebサービス「Skeb」だ。

 Skebの設立者であるなるがみ氏は、もともと東方Projectの二次創作サークルに所属していた。その活動の中で得た経験からクリエイターを支援するサービスの企画、開発でキャリアを重ねてきた人物である。

 今回の取材は、その経歴から個人のクリエイターの置かれている状況と、彼らを支援するWebサービスについて伺った。かなり具体的な数字の出る、非常に興味深い話を聞くことができ、クリエイターにとって参考になる情報も多い。ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。

 

取材:斉藤大地・西河紅葉・国里コクリ
文:国里コクリ

すべてはニコニコ動画と東方Projectから始まった

──なるがみさんは長年同人サークルとしても活動してらっしゃっていて、その経験がSkebの成功にも大きく寄与しているんじゃないかと思うんです。まずはこれまで、どんな風に同人文化を楽しんできたかを聞かせていただけますか。

なるがみ氏近影。「VRChat」上でのアバターで登場していただいた

なるがみ:
 最初に同人文化に触れて、作家さんと交流するようになったのは2008年、高校生の時ときでした。ニコニコ動画にニコニコミュニティという機能が実装されて、「東方手書きコミュ」というコミュニティを立ち上げました。当時「東方手書き動画」という、東方の同人作家さんがイラストや漫画を簡単なアニメにした動画が流行っており、その技術共有や作家さん間の交流を行うコミュニティでした。

──ニコニコ動画で東方Projectと同人文化に出会って、そのままハマるきっかけになったということですね。そこから実際に同人活動を始めたのはいつごろから?

なるがみ:
 大学に入ってからですね。最初は「Neetpia【※】」というサークルにいました。「Neetpia」の代表さんが大学の先輩にいまして。その方にある日いきなり「やあ、一緒にゲームつくらない?」って言われたんですよ。それで「やりまーす!」ってノリで入った(笑)。当時の「Neetpia」は別の同人ゲームサークルと一緒にゲームを共同開発しようとしてたんです。残念ながらその企画は途中で立ち消えになってしまったんですけど、そのあと別のサークルの代表さんに「なんか一緒にやらない?」って個人的に言われて、お手伝いを始めたのが同人活動の初期です。東方の同人界隈のつながりはそこからですね。

Neetpia:2007年より活動する同人ゲームサークル。現在はコンソール機及びPC向けにゲームを開発するインディーゲーム開発グループとして活動。最新作は『幻想郷ディフェンダーズ』(PS4、NintendoSwitch、Steam版が存在)。Webサイト:http://neetpia.sakura.ne.jp/

──その後も東方以外のジャンル含めて色んな同人活動をされてらっしゃいますよね。

なるがみ:
 東方だと『幻想テレグノシス』という3Dの風景鑑賞ツールみたいなものも作りました。同人のすべてのジャンルで一作品ずつ作ってみようと思って活動していた時期がありました。オリジナル方面だと「BACKBONES」というサークル名義で『アキバのアナバ』という情報系同人誌を頒布したり、東方で活動している音楽系の方と『unisonia』というオリジナル音楽CDシリーズを作ったり。コスROMも作ったりしました。自分一人ではなくて、色々な方と一緒に活動することができたのは、「東方手書きコミュ」の存在も大きいです。

「アキバのアナバ」表紙。公式サイトより引用

なるがみ:
 今お話しした中には大学卒業後の活動も混ざってますけど、そんなこんなでドワンゴに入社し……という感じですね。大学時代にはCircle.msとpixivでアルバイトをしていました。

──勤めてる会社の経歴がすごい!(笑) ドワンゴには何年くらい在籍されてたんですか?

なるがみ:
 ドワンゴは約3年ですね。

編集部(斉藤)注:なるがみさんが入社したときは、今「東方同人音楽流通」をやっている伴龍一郎さんがドワンゴで部長をやっていて、オタク担当として活躍していたころ。そこに僕が使えない正社員としている中、たいへん使えるエンジニアとして入ってきた(笑)。在籍していた3年くらい、お互いに近いところで仕事をしていたというのが知り合ったきっかけ。

なるがみ:
 僕と斉藤さんはともにニコニコ超会議の企画担当者で、「超!アニメエリア」を担当していました。僕は『艦これ』『SHIROBAKO』『ご注文はうさぎですか?』ブースなどを企画しました。

 僕はもともとドワンゴにエンジニアとして入っていて。そちらの仕事としては「ニコニ立体」っていう3Dモデリングの共有サービスを開発しました。

──ドワンゴのあとはDMM.comに転職されたんですよね。

なるがみ:
 当時、TPPによる著作権法改正で、著作権法が非親告罪化して、二次創作がすごくやりにくくなるんじゃないかという懸念が同人業界でも大きな問題になってました。

 DMMには「亀チョク」という、亀山会長に直接企画を持って行って認めて貰えば、半年間プロデューサーとして任意の予算と裁量が与えられる制度があったんですね。その制度を利用して、亀山会長に「二次創作を公認する緩やかな業界団体を作りたい」とプレゼンしましたら、無事合格したので実際に動いていたんです。

 同人作家さんが年間9,800円を社団法人に支払うことで、社団法人と提携しているコンテンツホルダの二次創作を自由に発表することが可能となるだけでなく、税理士さんへの確定申告の料金や健康診断の料金も補助してもらえる……という仕組みでした。

──なるほど……。他にも違法アップロード対策事業をやられていたそうで。この問題は現在進行形の課題でもありますよね。

なるがみ:
 そうですね。機械学習を使って、同人誌の違法アップロードを検出して削除するという試験的なプロダクトを作っていました。アナログのスキャンにも対応可能な高精度なものを作ることができましたが、このサービス自体はサーバの費用が高額かつ収益性に乏しいため、単体での事業化は難しいものでした。

 

無料のスケブ文化を変えようと思って

──DMMの後は外神田商事株式会社を立ち上げて……という感じになるんでしょうか?

なるがみ:
 実は外神田商事とDMMの間に、大手転職サービス「DODA」を運営するパーソルという会社にいました。

 当時新規事業開発部に所属していて、クリエイターを含めた個人事業主のための健康診断・保険事業に携わっていました。調査の結果、個人事業主の約50%が過去10年間、一度も健康診断を受診していないことが分かりました。

 正社員の方々は毎年会社の費用で健康診断を受診することが法的に義務付けてられていますが、クリエイターの方々は毎年健康診断を受けるという文化自体がありません。周りの作家さんにも「結果が怖すぎて行っていない」という方が多く、この現状をどうにかしたいと思い、パーソルに入社した経緯です。

──最初からSkebをやろうと思っていたんですか?

なるがみ:
 はい。Skebの構想自体は2016年からありましたが、本業の合間に開発する時間がなく、実際に開発に着手したのはサービス公開の3ヶ月前からでした。

──事業としては先にクリエイター特化の確定申告サービス「ドージン・ドット・タックス」をスタートしてますよね。

なるがみ:
 DMM時代は正社員ではなく個人事業主だったため確定申告が必要になり、家から一番近い税理士事務所を訪ねたんですよ。担当の税理士先生が20代と異例の若さで事務所を運営しており、パラレルワークでデザイン事務所も経営している面白い方だったんです。彼もまた、デザイン事務所で取引のあるイラストレーターさんたちと交友を深めるうちに、彼らの税知識が乏しく、健康保険にも加入していない方がいることに問題意識を持っていて、同じことを考えていたんですね。それで一緒に始めたのがドージン・ドット・タックスでした。2016年から今年で5期目となり、契約者数も500名を越えました。

──契約されている方はどのようなジャンルの作家さんが多いのでしょうか?

なるがみ:
 2016年当初は紙の同人誌を発行されている同人作家さんが中心でしたが、現在ではCG集や音声作品など、ダウンロード系作品を発表されている方の比率が多くなっています。VTuberさんの受付も2019年から行っており、現在50名以上のVTuberさんにご利用いただいています。

──わずか数年でお客さんのジャンルの変化が目まぐるしいのも同人らしさが垣間見えますね。
 そろそろ本題のSkebについても詳しくお聞きしていきたいと思います。まずはSkebを知らない方に向けて、どのようなサービスなのか教えていただけますか。

なるがみ:
 端的に言えば有償のお題箱です。次に作る作品のお題をクリエイターさんが募り、ファンが作ってほしい内容とその支援の金額を送るサービスです。広義の意味では「コミッション」というものに該当します。コミッションとは、主に欧米のアートイベントにおいて、出展されているクリエイターさんにファンの方がお金を渡して好きなものを即興で描いてもらう文化のことです。

 日本で一番近い文化として同人誌即売会におけるスケブというものがあります。クリエイターさんが作品を買ってくれたファンの方に、お礼としてファンの方が持参したスケッチブックに無償で絵を描く文化があります。
 コミッションとスケブを組み合わせ、日本でもたとえ即興であっても「絵を描いてもらうことは有償である」という文化を根づけようとしたのがSkebです。

──名前の元になっているスケブ文化についてはどのような考えをお持ちですか。最近こそ有料で、という話をちらほら見るようになりましたが、それ以前は無料で当然という感じでしたよね。

なるがみ:
 そもそもスケブ文化とは、クリエイターさんの善意によって成立しています。

 暑い中寒い中、イベント会場まで足を運び作品を買ってくれたファンに対して、お礼としてスケッチブックにイラストを描くとというのが本来の意味です。残念ながら昨今は、作品を購入せず山のような資料を会場で渡し、描くことを強要するような参加者が話題になるなど、様々なトラブルが目立つようになってきました。描いてもらうからには対価が必要という意識の改革、文化の上書きをしたくて、Skebというサービス名にした一面もあります。聞いただけではスケブなのかSkebなのか分からないのは意図した設計です。

──有料でイラストを依頼することができるサービスはたくさんありますが、Skebはまったくコンセプトが違いますよね。

なるがみ:
 大きな違いはSkebが「二次利用を想定していない」点にあります。たとえば競合サービスの「ココナラ」さんや「SKIMA」さんは、本の表紙を描いてほしい、お店の広告に使うイラストがほしいなど二次利用を想定しています。二次利用が前提のイラストでは金額は安ければ安いほど都合が良く、また仕様を満たすイラストであれば誰が描いてもいい場合が多いです。二次利用が前提かつ金額帯での検索が可能な場合、安ければ安いほど表示される回数が増えるため、設定金額が安いクリエイターほど有利となり、最終的にサービス内の相場が崩壊します。

 一方、Skebは「ずっと憧れだった先生に描いてもらう」ことが主体で、納品物の二次利用は規約によって原則不可となっています。Skebの平均取引金額は11,000円ですが、他のサービスでは1,000〜3,000円が相場です。

──手数料が安いのも特徴ですよね。通常は最大13.6%で、TwitterのプロフィールにSkebのURLを掲載していると半分以下の3.9%まで下がる。他サービスは平均して20%くらい。実質30%以上取るところもあります。

なるがみ:
 そもそもSkebは趣味で開発したサービスで、クリエイターさんを応援したいという気持ちで始めたものなので、本格的な事業化やスケールは考えていません。僕の本業は別にあり、Skebは趣味の盆栽のような感覚で規模が大きくなる様子を観察しています。

 TwitterプロフィールにURLを掲載することで手数料を大幅に安くしているのは、広告宣伝費と考えているからです。GoogleやTwitterに広告を出稿するよりもクリエイターさんに還元したほうが僕とクリエイターさんの双方にとってメリットが大きいです。ちなみにSkebは1円もGoogleやTwitterに広告費を払ったことはありません。

──会員登録数は順調に伸びていっていて2020年9月には75万人。今日の時点でももっと増えていると思うんですけど。

なるがみ:
 そうですね。毎月約10%ずつ伸びています。このペースですと年内に100万人を突破します。売上も2ヶ月で2倍になった月もあります。

──クリエイター登録者数もどんどん増えていってますね。

なるがみ:
 Skebの特徴の一つとして即金性があります。納品後最速10秒で入金されます。ほかのサービスでは納品から入金まで2ヶ月を要します。結果、新型コロナウイルスによって経済が大きく変わった今年4月や5月は新規のクリエイター登録者数が過去最大となりました。

──取引件数も急激に伸びているわけですよね。

なるがみ:
 登録者数の増加に併せて取引高も伸びいています。統計データはTwitterなどですべて公開してるので、詳しくはそちらを見ていただければと思います。

──海外ユーザーも多そうですよね。

なるがみ:
 多いです。2割が海外ユーザーとなっています。それだけ登録されているクリエイターさんのファンが海外にいるってことですよね。アメリカと韓国の方が多く、いずれもコミッションの文化が定着している国ですね。彼ら海外のファンが今までコミッションしようと思って、日本のクリエイターに対して英語で「PayPalでお金を送るから絵を描いてくれ」と連絡しても、英語が分からないから無視してしまうことが多いです。また、銀行口座に振替可能なPayPalビジネスアカウントの開設がかなり手間なので持っていないクリエイターさんが多いです。その点SkebはVISAとMastercardがあれば利用できるので便利なようです。

──最初から5ヶ国語対応の自動翻訳機能がついていたというのも大きそうですね。

なるがみ:
 それも大きいですね。日本のサイトは対応しても英語ぐらいですが、Skebはリリース時点から日本語、英語、中国語の繁体字と簡体字、ハングルに対応していました。そこは海外ユーザーに評判が良かったと思いますね。

──作家とコミュニケーションが必要なのは最初のリクエストだけで、あとは待つだけという点も海外ユーザーにとって助かったと思うんですけど、そういう結論に至った理由はなんでしょうか?

なるがみ:
 端的に言えば、同人誌即売会のスケブは打ち合わせもリテイクもないからですね。海外の方にとっては慣れない文化で不便だと感じている方もいると思います。

 個人的にSkebを本業にやっていこうという人を作りたくないのもあります。打ち合わせをするとコミュニケーションコストや相手のチェックバック待ちの待機時間が発生します。あくまでSkebはお仕事の谷間や、原稿が終わったあとのちょっと手持ち無沙汰な時間に「リクエスト溜まってるじゃん、これやろう」とパッと描いて、小銭を稼ぐような使い方をしてほしいと考えています。

──「見積もり・打ち合わせ・リテイク・リクエストに関する一切の連絡が禁止」としているのはそのためですね。

なるがみ:
 クリエイターが「描く」ことだけに集中できる環境を目指してるわけです。最初はURLも貼れないようにしていて、資料すらダメにしていたんです。でもそれだと自分のオリジナルキャラを描いてもらうとき、さすがに資料がないと厳しい……ということで解禁しました。規約違反の取り締まりはAIと人力でかなり積極的に行っています。

──そのガイドラインが非常に分かりやすく書いてあるんですよね。何かあったときに責任逃れをするためのものじゃなくて、本当に守ってほしいという意思を感じます。

なるがみ:
 そうですね。Skebがサービスを開始した際に利用規約にすべて要約がついていてバズったことがありましたここを守ってほしいんだという点を分かりやすく説明してます。この要約も齟齬が生まれないように顧問弁護士と何度も相談しながら作りました。

Skebの利用規約ページ。右側に各規約の「重要なポイント」が書かれている。

 ほかにもSkebでは二次創作公認プログラムという仕組みがあります。二次創作の原著作者さんがこのプログラムに登録した場合、運営に入る利益のほぼ全額を原著作者さんにお渡ししています。このアイデアは先ほどお話ししたDMMで行っていた事業に通ずるものがあります。登録の比率としてはVTuberさんが圧倒的に多いです。納品されたイラストはVTuberさんが動画のサムネイルとして使うことができるようになっています。

 

Skebの今と未来

──Skebをこれまで運営してきて、予想外のトラブルみたいなことはありましたか。

なるがみ:
 一番は不正アクセスによるクレジットカードのチャージバックです。盗難されたクレジットカードを加盟店が使われた場合、クレジットカード決済会社にその売上を返金しないといけません。総務省や関連団体が定めるガイドラインによって加盟店は使われたカード番号すら教えてもらえないのに、その損害は加盟店の責任です。加えてチャージバックの発生は、決済されてから数ヶ月後に決済会社から連絡が来るまで分かりません。

 1万円のチャージバックが発生した場合、損失額は約2万円で、これは300~400万円分の取引で得られる手数料相当に相当します。

──Skeb音声のコミッション「ボイス」機能を始められてましたけど、発想はいつからあったんでしょう。

なるがみ:
 イラスト以外を増やそうかと思ったときに考えたもので、最初は発想すらありませんでした。Skebは納品物について個人鑑賞が原則となりますが、プログラムや3Dデータは二次利用が前提となりがちです。その中でボイスはSkebのコンセプトに合っているなと思いました。

 当時VTuberの勉強をしていて、ボイス機能とVTuberさんはかなり相性が良いだろうと思いました。

 リクエストマスターという、多数のリクエストを送信しているクライアントさんの中にはVTuberさんのファンも多いです。YouTubeのSuper ChatよりもSkebのほうが手数料安くて支援になるじゃんとなり、ボイスの平均取引金額が5万円を超えた時期もありました。

──ちょっとしたお祭り状態ですね……。クリエイターさんの支援目的で使う方も少なくないと。

なるがみ:
 そうですね。Skebは納品物の完成度が保証できないにも関わらず、同ジャンルのサービスの中でも平均取引金額がかなり高額です。

──なるほど。PixivFANBOX、Fantia、Entyのようなサブスク系のパトロンサービスは実際のところ会員コンテンツの豊富なファンクラブに近いものになっているのに対し、Skebの方がパトロン感の強いサービスかもしれませんね。

なるがみ:
 僕自身がそもそもSkebのリクエストマスターの上位ランクに入っていて、100万円以上使っています。よくリクエストしているのは自分のVRChatでのアバターのイラスト。

──それはすごい……。さらに上の方は4桁万円いってる可能性があるということですか?

なるがみ:
 そうとも限らないです。リクエストマスターのランキングは、金額を含む20個以上の要素から算出していて、それぞれのクライアントの方がいくら使ったかは分からないようになっています。また個々の納品物の金額も第三者から分かりません。

──クリエイターがたくさんリクエストを受けるポイントみたいなのはありますか?

なるがみ:
 Skebで一番の難関は、最初のリクエストをもらうことです。リクエストさえもらって、最初の一件だけでも納品すれば、カレーライス現象と内部で呼んでいる現象が発生します。「えっ、こんな特殊性癖をこの作家さんに頼んでいいのか!」「おかわりもいいぞ!」って(笑)

──(一同笑)

なるがみ:
 「石化」というキャラクターを石化させる性癖のジャンルがあります。それまで1回も石化を描いたことがなかった方が、リクエストをもらって描いてみたら、新着一覧を見た複数のクライアントの方から立て続けに10件以上も石化のリクエストが来るようになる(笑)。これがカレーライス現象です。

 Skebは特殊性癖のるつぼ、みたいなところがあります。世の中には待っていても絶対に供給されない特殊性癖が山ほどあるわけです。Skebなら自分で供給を増やすことが可能です。そこにほかの同志が気づいて、さらにリクエストが生まれる。金銭の授受もあるため作品のレベルも高い傾向にあり、「確定SSRガチャ」と呼ぶ方もいます。

──この先のSkebの展開についてもお聞きしていきます。「ボイス」に加えてさらにほかのジャンルを入れることは考えていますか。

なるがみ:
 小説と動画を考えてます。実装自体は容易なのですが、小説は夢小説や解釈違いなど注視すべき文化があるため、勉強してから実装しようと思っています。

──新機能の実装はありますか?

なるがみ:
 納品物を印刷してお届けする機能を現在開発中です。ただ印刷するだけでは面白くないので、今回印刷会社の方と何度も打ち合わせしてデジタルデータを前提とした特殊な可変式の額装とプリンタをご用意いただきました。また、大きな印刷に耐えられない解像度の作品についてもディープラーニングの力を借りて解決しようと思っています。リアルなアイテムが届くというのはファンにとって嬉しいし、満足感がありますよね。

──Skebがこの先どう展開していくのか、いかないのかにも興味があります。例えばSkebで活躍している方を集めて何かイベントをやるとか。

なるがみ:
 そういうことは全く考えてないですね。あくまでサイドツールです。僕が趣味で使っている以上皆さんも趣味で使ってくれると嬉しいです。

──目標にしていたスケブ文化を上書きして、イラストは有償であるという文化を普及させることは達成したと言えるでしょうか。

なるがみ:
 成功していると思います。Skebによって仕事の単価が上がったとおっしゃっているクリエイターさんもいらっしゃって嬉しく思います。ただ、現在Skebは僕ひとりで、開発・企画・運用・インフラ・営業を全部やっているので、ほかのやりたいことができないのは少し辛いです……。新しいサービスも並行して開発していますが、なかなか進みが悪いです。

──アバターの販売とカスタマイズが依頼できる新サービス「POLYGON TAILOR」のことですね。

なるがみ:
 はい。これは個人的にSkebより流行るサービスになると思います。

 

デジタル時代の同人業界

──同人業界全体のお話もお聞きしていきたいと思います。まず今、コロナ禍によって同人即売会の中止が続いてる現状はどう見てますか?

なるがみ:
 デジタルへの移行を、全ての関係者が考えるべきときが来たと思います。

──デジタル化には色々な試みがあって、ComicVket【※】みたいなのは面白いんですけど、今の最適解かっていうと違うように感じてます。

ComicVketバーチャル空間上の同人誌即売会、2020年8月13~16日に「1」が開催。

なるがみ:
 VR空間が浸透するのはかなり先の話になるでしょうね。VRでイベントを行うプロモーション的な側面の強いものよりも、ECサイトの拡充やキャッシュレスの促進など、デジタルデータの売買を容易にする環境の整備が重要だと思います。BOOTHはそこに大きく貢献していると思います。

──いま既存の同人作家さんのエコシステム(ビジネス生態系)の中で、コミックマーケットをはじめとした同人誌即売会は環境の大きな部分を占めていたと思うんです。このまま即売会が行われない、もしくはすごい制限される形でずっと続いてしまうとしたらどうなると思いますか?

なるがみ:
 そうなったとしても、クリエイターとファンの関係は変わりません。同人誌の購入に使われるはずだったお金は可処分所得として残っているし、クリエイター側も作品を作る時間がある。

 紙からデータに変わったとしても、ファンが作品を買い、クリエイターがその売上で次の作品を作るスタイルは変わらないと思います。その過程や媒体が変わるだけで。しかしながら、今までクリエイターとファンの間の仲立ちをしていた方々、例えば同人誌印刷所や、同人誌即売会の運営の方々には厳しい時代だと思います。

──その周辺産業が大変なことになってしまうだろうと。

なるがみ:
 まさに今、同人誌や即売会で使われていた可処分所得は、ダウンロード販売サイトやパトロンサービス、そしてSkebに使われています。逆にデジタルが死ぬ事件があれば、昔の形に戻るかもしれないし、また新しい媒体が生まれるのかもしれない。

──デジタルが死ぬ、というのはありえると思いますか?

なるがみ:
 去年新型コロナウイルスでこんな状況になるとは誰も思ってなかったですよね。それはデジタルの世界でも起こり得ることです。著作権法やプロバイダ責任制限法が改正されたり、表現規制が行われデジタルデータの流通が難しくなることは十分に現実的な話だと思います。

──同人誌即売会がこの状況下によって一定以上“消失”してしまった場合、気になっているのは、同人活動を新しく始めるはずのこれからの若い人たちです。同人文化における大切なことというのは、たとえばそういう方が地元の小さな同人誌即売会のようなところに出て「思うほど売れなかったけど、交流もできたし楽しかったね」みたいなことを重ねて、モチベーションと技術を高めていくことがひとつあると思っています。
 それが、デジタルへの移行によって失われていくんじゃないかなという危惧があります。いきなりDLsiteみたいな世界大会のような市場に出て、売上0でランキング圏外みたいな目にあって、くじけないかなと。

なるがみ:
 そういったランキングによる弊害って、いずれ解決する問題だとは思いますね。ランキングはWeb業界では悪いものになりつつあって、パーソナルレコメンドが主流になりつつあります。たとえばYouTubeにはランキングがありませんし、HIKAKINさんだけしか食っていけないみたいな世界ではなく、十分に多様性のあるエコシステムになっていると思います。

 ただ、同人系のWebサービスはレガシーなものが多く、ランキングが主流なのも事実です。Skebはランキングとパーソナルレコメンドを併用しています。

──レコメンドも、今流行ってるものを可視化してしまうように思えます。ひとつのゲームが流行ると、同じゲームを実況しているゲーム実況者が並んでしまったりする。要するに自分の興味がないものが出にくくなって、隣だったジャンルを見るという「思わぬ出会い」の可能性は失われてしまう、ということはないでしょうか。

なるがみ:
 CDショップでジャケ買いするような仕組みや文化をサービスに取り入れることは必要かもしれませんね。これはパーソナルレコメンドにどんな要素を組み込むか次第で解決できると思います。

──サービスの進化によって変えていける問題ということですね。現状の同人ショップはある意味でレガシーなサービスであるけれども、一方でSkebのような同人文化に慣れ親しんだエンジニアが作った、新しいサービスも生まれてきている。そうなってくるとサービスの多様化が、才能の多様化につながってくるかもしれない。

なるがみ:
 そうです。いろんなサービスが乱立して、それぞれに特性が生まれれば、創作活動で収入を得る人は増えていくと思います。Skebに登録しているクリエイターさんから「自分はとにかく手が速いけれど、なかなかお金にできなかった。でもSkebのおかげでそれができるようになった」と感謝されたことがありました。その方はリクエストを受けてから一日未満で描きあげる技術があってすごいと思います。

──その方の才能とSkebのマリアージュがあった。同じようなことはサービスが多様であればあるほどあり得る。これまで埋もれていた才能が、発見される可能性が高まっていくと。

なるがみ:
 いまクリエイターさんに最も必要なことは、収入の多角化にあると思います。売上や印税を一箇所だけから大きくもらうのではなくて、小額を多数の場所からもらうことが重要だと個人的には考えます。

 PixivFANBOXやFantiaのようなパトロンサービスを使ってもいいですし、Skebを使ってもいい。FANZAやDLsiteを使ってもいいし、同人誌即売会を使ってもいい。どれかひとつしか使えないルールはありません。単一の場や収入源に頼らないことが大事だと思います。それは投資や会社経営でも同じことが言えます。ポートフォリオや事業の多角化といったリスクヘッジは重要です。

 同人市場は年々拡大の一途にあります。矢野経済研究所の最新の資料だとたしか九百数十億円。しかしながら紙の売上は新型コロナウイルスの登場以前から微減していて、逆にCG集や音声作品といったダウンロード系作品の売上が激増しています。

──出版業界の状況を見てもそうだろうなと思います。

なるがみ:
 市場規模が大きくなればなるほど、それを専業とするクリエイターさんも増えていく。収入を多角化するお手伝いをSkebがちょっとでもできたら良いなと僕は思います。

 

作家のセルフプロデュース

──今後、作家さんは多角的な稼ぎ方をしたほうがいいという話がありつつ、デジタルはまだ完全に進歩していない状況がある。これから作家さんの生き方はどう変わっていくでしょうか。

なるがみ:
 セルフプロデュースができる人は生きていけるし、できない人は大変かもしれません。

──無料の娯楽が溢れている中、自分の作品を知ってもらう、見てもらうというハードルが上がっていて、その「知ってもらう、見てもらう」役割を果たしていたはずの出版社は雑誌が売れなくなって、過去ほどにはその役割を果たせなくなってきていますね。

なるがみ:
 作品の人気や売上の結果というのは「インプレッション」と「エンゲージメント」で計算できると個人的には思っています。どちらも広告業界の用語で、インプレッションは「何人がそれを見たか」エンゲージメントは「そのうち何割が買ったか」です。

 例えば100人見たら90人が感動する、エンゲージメント90%のすごい作品があったとします。それを1人しか見る人がいないような場所に置いても、1人にしか売れません。

 対してエンゲージメントが1%。つまり100人見たら1人しか買わないような平凡な作品があったとします。そんな作品でも1万人が見る場所に置けば100人に売れる。結果としてはすごい作品より平凡な作品が100倍売れることになります。インプレッションだけに注力しても中身がスカスカの作品になってしまいますが、作家さんの中にはエンゲージメントだけを重視している方もいらっしゃる気がします。バランスの問題です。

──たしかにそこそこの作品だったけれども、宣伝が上手くいって大ヒットみたいな例はたくさんありますよね。

なるがみ:
 作品作りだけに集中できる環境がベストですが、この時代の作家さんはエンゲージメント(完成度)を高める努力だけではなく、セルフプロデュースや広報宣伝といったインプレッションの部分も自分でどうにかせざるを得なくなっています。

 個人的にはVTuberをされているイラストレーターさんはセルフプロデュースの天才だと思います。

――本当はそれも出版社の役割だったはずなんですよね。でもどうしても現状だとそうではないケースが増えていますね。

なるがみ:
 SNSの台頭によって「一緒に一から考えましょう」から「Twitterでバズっていたので声をかけました」にシフトしている編集者も見かけます。それで印税が5%や10%といった昔の利率のままなのは個人的には納得できない部分です。

 

──最後に、東方Projectのメディアとしての質問です。なるがみさんが東方Projectと出会ったことによって何が変わりましたか?

なるがみ:
 東方Projectほど没頭してハマった作品は過去にも先にもないと思います。ZUNさんの二次創作に対する考え方やガイドラインは当時は斬新で、かつて東方Projectの二次創作をさせていただいていた身としてはありがたい限りでした。二次創作の在り方を大きく変えた作品であると思います。

 また、同人市場の拡大に伴い、専業として同人活動をされているクリエイターさんも少なくない中、東方Projectがあったから精神的にも経済的にも今生活できているクリエイターさんや東方Projectのファンの方々が多くいらっしゃると思います。僕も東方Projectを通してたくさんのクリエイターさんと友達になることができました。改めてZUNさんには感謝申し上げます。

 

「無料のスケブ文化を変えようと思って」Skeb創設者、なるがみ氏インタビュー【シリーズ:東方からはじめた人たち。】 おわり