「マーガトロイド邸の土になりたくない?」アリスについて考えるべきことは無限 RD-Sounds(凋叶棕)インタビュー

RD-Sounds(凋叶棕)インタビュー 第2回

(取材は2019年12月に行われました)

取材:杉江松恋・斉藤大地・西河紅葉
文:杉江松恋

アリス語りーー考えることは無限にある

——キャラクターのお話の続きなんですが、RDさんのお好きなアリスについて伺いたいと思います。アリスってすごく複雑なキャラクターだなと思っていて、魔理沙よりは一歩人外じゃないですか。なんだけど、人間とも積極的に関わっていて、他キャラとの関わりも多い。そういうキャラとして絶妙な場所にいると思っているんですがこの印象は正しいんですかね?

RD:
 「萃夢想」でも言われているんですけど、アリスは強敵を避けて行動するんですよね。おそらくは自分の領域を何かしらの形で侵害されるときに動くタイプで、それ以外は積極的に動かない。魔法使いは概して引きこもりなので、そういうところがあるのかなと思います。そして本質的に他者がいなくても成立する存在なんじゃないかと思います。

——自己完結がすごく高いキャラですよね。

RD:
 ちょうど今、アリスについては、みんなドキドキしているんです。というのは、創造する神様である埴安神が出たので。魔界のものは皆神綺が作ったというあのセリフは、アリスを含めるのか含めないのか。含めるとするならアリスは作られた命なのか、それともアリスは元人間で妖怪になったという言及を信じるならば、一体どこから来た人間なのか。そのあたりを踏まえると、アリスはもしかしたら、命を作りたいのではないか、魔界の神様と同じことをやりたいのではないか。そういう前提に至ったところで、埴安神は埴輪に命をもたせて自立させている、という話を聞くと、非常にアツい。考えることは無限にあります。

——「上海アリス幻樂団」というサークル名にアリスという名前が含まれているじゃないですか。ZUNさんにとってもちょっと特別なキャラクターなのかなというのが名前に見えていると思うんですけど。

RD:
 そうですね。特別であってほしいなと思うんですけど、特別ゆえにあまり登場しないでほしいみたいな。いろいろな側面が出てくると考えることが難しくなるので。でも、考えることが難しくなるのは或いは幸せなのかもしれません。今は設定が出ないからある意味で安心していられるのかもしれませんし、でも設定が出てほしいという気持ちは常にありますし。これは冗談ですが、いつかアリスが「死んでくれる?」って言い出したら面白いですよね(笑)。

——複雑なオタク心を見ました……。ちなみに、殺されるならどのキャラがいいですか?

RD:
 アリスと言いたいですが、それって本当死ぬほど贅沢だと思います。なので、マーガトロイド邸の土になりたいですね。床板までいくとそれもかなり贅沢なので、やっぱり土です。森でのたれ死んで、一瞥をくれてほしいかもというところではありますね。

——死ぬ瞬間にちょっとだけなんですね(笑)。アリスはもちろんお好きなキャラクターでしょうけど、阿求はどういう位置付けでしょうか。RDさんが曲を作られる際、自己投影じゃないですけど、彼女の位置に自分を置いておくと曲が作りやすいってことで阿求をリファレンスすることが多いのかなと考えていたんですが。

RD:
 投影というのはちょっと違います。阿求にどういうものを感じているかという話であれば、まず、いくら生まれ変わるとはいえ阿求は人間、肉体的にはひ弱な存在として理解しています。そして、はるか昔からの歴史を知っている者として理解しています。そしてもう一つは、好奇心の象徴です。「記憶する幻想郷」(原作:ZUN、画:秋枝。『COMIC REX』2006年12月号)にも確か「稗田は常に好奇心を歓迎する」というセリフがありました。曲にそういうモチーフがあるときに阿求は選ばれ易いのだと思います。あとは、人間と幻想の架け橋的なニュアンスです。ずっと同じ命を続けてきたのだとすると、人間だけどもはや幻想に片足を突っ込んでいるようなところもありますよね。曲のメッセージがそういうところに来たときに阿求はハマるという感じです。

——その流れでいうと、射命丸文も同じ感じでとっていますか。意外と文も曲数が多いですよね。

RD:
 文は様々な側面があるように思えますますからね。里に最も近いというところから、人間との関係性が深いので、人間よりの存在や記者として捉える部分と、妖怪として、天狗として捉える部分があります。私はどちらかというと妖怪よりは人間が好きなんですが。

——幻想郷の人間を取り上げるのがRDさんとしては面白いわけですよね。人間と近い存在として文は選ばれることが他の妖怪よりちょっと多いと。すごくしっくり来ました。そして、そんな東方Projectを通じてRDさんが表現したいことなど、RDさんの創作を通して原作に向き合っていきたいと思います。

想いは絶対に、とにかく天に向けたい

——というわけで、もう一度自己紹介をお願いします。

RD:
 コンポーザー、アレンジャーとして音楽をやりますが、それ以前にゲーマーです。もともとあまり家の外に出ることがなかったので、ゲームばかりやっていました。たぶん普通の人の5倍くらいゲームをやっていると思います。超ゲーム好き、ゲーム音楽大好きで耳コピするのが好きだったんですよね。そういうところからゲーム音楽にめっちゃハマっていって。それを介していろんなものに触れていったという感じです。アメリカに住んでいたので、NES(Nintendo Entertainment System)が初めてのゲーム機でした。それで「ゼルダの伝説」をやって、「マリオ1~3」をやり、スーファミを買ってもらってからは「メトロイド」そこから「ボンバーマン」などの友達とプレイするものもやり、小学2〜3年は「ドラクエⅤ」「FFⅤ」。小4ぐらいに「ポケモン」「風来のシレン」「星のカービィ スーパーデラックス」あたりですね。そういう感じで有名どころにあらかた触れ、中学~高校ぐらいから、PS,PS2が手に入るとともにすごく色々なゲームをやりました。「ゼノギアス」「モンスターファーム」「パラッパラッパー」「マリーのアトリエ」「アーマードコア」「デビルメイクライ」「メタルギア」「ロックマンDASH」「エースコンバット」「テイルズオブエターニア」などなどやっていきまして。それで高2ぐらいで東方を知って……それまでシューティングはあまりやっていなかったんですけど、とてもハマったんですね。大学生からはSteamを経由して、インディーズから商業作品までいろんなゲームをやっています。

——ZUNさんにインタビューした際、半生の高校ぐらいまで、あまりにゲームの話しかなくて、「他はもう少しないんですか?」「ないです」で8割ゲームしかしていないみたいになって、そのエピソードを思い出しました。

あれ?大学入るまでゲーム以外のことほとんどしてないのでは?東方Project作者ZUNさんの半生を聞く(聞き手のひろゆきさんは2時間遅刻しました)

RD:
 あとは5歳くらいから習ったピアノを弾いてたぐらいです。

——音楽については、曲が先ですか? 詞が先ですか?

RD:
 曲が先ですね。正確にはメロディー先行というか。合唱をやっていたこともあって、口ずさめることが大切です。

——RDさんは「音楽で同人誌を描く」といろいろなところで言われているわけですけども、そのスタイルにはどうやってたどり着いたんですか?

RD:
 ここは難しいです。作り始めのころ、東方アレンジをいくつか聴いたりアレンジャーの人と話をしたりして思ったんですけど、東方の二次創作でアレンジをやっている人って、全員が全員必ずしも東方に詳しいわけじゃないんだなって思ったんです。東方をやらずに東方アレンジをやるなんて、、、という気持ちになったこともずいぶんあります。それで、東方のキャラや設定、ゲームの楽しさを主軸に書きたい、伝えたい、みたいなことから今のスタイルが出来上がっていったんじゃないかと思います。

——そもそもの初期衝動が、原作に触れた感動を、罪のような形とはいえ二次創作したい気持ちでやるわけだからそうなっていって、原作に対してのリスペクトがない創作もありうると認めつつも、その対極としてRDさんは原作をやった感動を伝えるために必然的にその順番で作られているというわけですね。

RD:
 凋叶棕という名前は東方を知らない人にはきっとわからないので、そういう人にこそ、という気持ちもありますね。嬉しかったのは、東方が好きで曲を聴いて、すごく気に入ったという人がいて。「それだよ、それ!」という感じでした。刺さる人には刺さる。そういう人に向けているという感じですね。

——Sound Horizonであるとか、オペラ形式でアルバムを作っていくタイプのアーティストとよく対比されることはあると思います。影響関係はあるんですか?

RD:
 高校時代にSound Horizonは必修科目のような感じでしたからもちろん聴いています。影響を受けたところもあると思いますし、もともとそういう方向が得意なんだと思います。歌詞の書き方もいろいろあると思いますが、情景描写に比べてキャラの心情を吐露するような歌詞を書いていくと、物語音楽に寄っていく気がします。キャラの視点で書かなくとも、外側からキャラのことを述べるという感じでもまたそうなっていきます。その語り手もキャラを見ている人にしたい。例えば阿求を書くなら阿求を見ている観測者がそばにいて、その存在もまた幻想郷で生きている。そういう観測者・被観測者の視点で対象を描写するというのは、物語音楽の得意技だと思っています。

——それはよくわかります。

RD:
 不思議なのは、結構凋叶棕って高校生くらいのファンが多いみたいなんです。なんででしょうね? 同じものを通過してきた同じ世代の方が、というのはわかるんですけど。東方は調べ始めると意外と怖いことを描写しているというような側面があるかと思うんですけど、そういう「実は怖い」みたいなのが結構みんな好きなのかもしれないですね。それで、凋叶棕もそういう風にみられているのかも。あと凋叶棕の曲ってすごくイメソンにされやすいみたいです(笑)。

——文芸部にいそうな女の子がすごく多いなという印象をもっています。オタクって根本的に、メジャーなものに対しての反抗心があるじゃないですか。メジャーにあるものってすべてが明るめなんですよね。それに対して、東方も入口の感じはわりと明るいんですけど、実はすごく深いところに暗いものがあって、それに気づくと「俺だけが知っている」感が凋叶棕は非常に強いんですよね。その気持ちを触ってくる感があって。

RD:
 ただこうしてインタビューを受けるまでになった凋叶棕は果たしてマイナーなのかメジャーなのかというのはちょっと考えないではいられないですが、あんまり考えすぎても不毛なので、そういったことは考えずに、やりたいことだけやって、あまり周りも見ないようにしようと思います。想いはとにかく天に向けたい。そこだけ見ていたい、そういう姿勢を常に持っていたいです。

——二次創作をやっていくと、同じ作者とのコミュニケーションであったり、ファンとのコミュニケーションだったりいろいろ気になることはあると思うんです。もちろんそれをされていないわけではないのでしょうが、RDさんはまず自分ひとりで作り上げるところが非常に強固だなと。これは話が変わりますが、アルバムの中に二次創作ではない曲が入っていることがあるじゃないですか。本来であればNGとおっしゃっていましたけど、それはアルバムを成立させるためにあえて原曲にはない要素であるオリジナルを加えられたということですよね。それはなぜやられたのかぜひ聞きたいです。

RD:
 曲ごとに事情が違います。「サナエさん」の場合は、適切な原曲が存在しないのでそうせざるを得ませんでした(アルバム『かたり』収録)。早苗さんが幻想郷に入ったときに外の世界で噂として残されたサナエさんですから、早苗さん曲を選ぶのはちょっと違うような気がしたというのが主な理由です。「墓標」と「葬迎」はまた事情が違います(アルバム『ほふり』の第1・15曲。この2曲のみがオリジナルだった)。グスターヴ・ホルストの『惑星』の話になるんですけど、このアルバムは海王星で終わるんですが、それに有志の作曲家が続きを書いて、その続きの4曲が収録された、みたいなアルバムを昔買ったんですけど、それに似た感じです。「蓬莱人形」は13で美しく完結しているのですけれども、あえてそれに14・15を付け加えた。そこは最初に言った「業」ですね。13で完成していて美しいけど、業として、どうしても、という想いがあったんです。だから自分の中で自分を許せない想いと、でもやりたいという想いが同時にあったという感じです。

——二次創作のアルバムを成立させるときにどうしても足りないピースがあるのが見えてしまった瞬間があって、それを埋めるために必要な何かをオリジナルで埋めるという選択をされることも柔軟性だと思います。かつそれを本来はNGと言われつつ、ファンから東方では全くないと言われない理解力とクリエイティビティをちゃんと発揮されたということですよね。その意味は、ユーザーも理解していると思います。

RD:
 それは本当にありがたいですが、そういうことを意識し始めると甘えにも繋がりそうです。それってエゴですよね。そもそもの話として、二次創作でやるべきなのかどうかということも常々気になります。もうこれ以上アルバム作らない方がいいんじゃないかって思うこともあるのですが、今は冬コミに向けてやる気を取り戻しています(取材は2019年12月)。ベートーベンの弦楽四重奏をシューベルトが聴いたときに「これ以上に何を作ればいいのだ」と言ったらしいんですけど、それに近い想いで、どうせなら聴いた人が絶対にこれ以上のものを作れないと思うようなものを作ろうと思っています。史上最強のものを作って全てを滅ぼしたいという想いでいます。

——RDさんの中に、東方が好きならこれぐらいのことはついてこられるだろうという、東方のファンへの信頼があるのかな、と思うんです。

RD:
 確かにあの神主についていけるならこれぐらい大丈夫だろとういうのはありますね。

——リアル東方ファンの実像はともかく、志と共にするユーザーはいけるでしょという。無自覚的に東方のコミュニティを信じていたということだと思いますね。

RD:
 そういう意味では、今までも色々と冒険したような気がします。「つたえ」「うつつ」「」「さかさ」「騙」なんかですね。でも、その作品世界における忠実さが何よりも大切で、そのためにすべてをやったという感じがあります。よしんば失敗したとしてもかまわない、そもそも失敗って何? みたいな意気込みです。

——みんなそこに憧れがあって、これだけ強い創作をしている人が、俺と同じ東方が好きというのが嬉しいんですよね。強いオタクを見るとオタクは嬉しいので。好きになりやすい要素が揃っているからみんな集まってくるんですよね。

RD:
 いや、好きになってもらわなくていいんですけど(笑)。

(第3回へつづく)

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