特集
2020/08/31

「公務員として隠岐の島町のことを考えたとき、村紗をソロで起用するのが一番“粋”だと直感した」 東方Project×隠岐の島町コラボ担当者、野一さんインタビュー

東方Project×隠岐の島町コラボ担当者、野一さんインタビュー

 7月9日に、突如発表になったコラボプロジェクト。当日直後はほぼ誰も気づいていない様子が、その夜には数百、数千リツイートに到達する大騒ぎ。

 8月13日には、「島に伝わる民話『舟幽霊ムラサ』を題材とした、村紗水蜜との単独コラボレーションプロジェクト」であることが発表され、東方ファン達の中では更に話題に。

 この2ヶ月間の「村紗水蜜」の話題を殆どかっさらっていった「『東方Project』×隠岐の島町コラボプロジェクト」。その発起人であり担当者である、【隠岐の島町】地域おこし協力隊・集落支援員の野一夢二さんに、コラボ内容発表前だった前回のインタビューより更に掘り下げた内容を、電話インタビューさせていただきました。

前回のインタビューはこちら
幻想入りしてしまった民話を、現代に呼び覚ます 『東方Project』×隠岐の島町 コラボプロジェクト

 今回インタビューでは、「地方自治体にしか出来ないこと」と「東方Project」との奇跡とも言える素敵な融合が、このプロジェクトでなされていた事実が明らかになりました。

 

「東方隠岐誉」のモデルは「ZUNビール」からだった!?

――Twitterで公開されている一連のツイート『東方×隠岐コラボ:Project.0を拝見いたしました。改めて、最初の経緯と、コラボがお酒に決まるまでの話を教えて下さい。

地域おこし協力隊・集落支援員 野一夢二さん:
 前記事でも申しました通り、今回東方隠岐誉のラベルを描かれた田中まにこさんというイラストレーターさんが、ふとした雑談中に「そういえば、この島の妖怪がモデルになった東方のキャラがいますよね?」と聞いてくださったのがきっかけです。

 そこから東方コラボ企画といっても何をするかを考えた時に、真っ先に思い浮かんだのがZUNビールだったんですね。島には島民なら誰もが知る有名な地酒「隠岐誉」が既にありましたので、この方針ならいけるんじゃないか、と。

超ZUNビール https://chokaigi.jp/2020summer/plan/zun.html

 とはいえ、何年も続いていて大成功を納めているZUNビールのような前例が無ければ、今回は企画を通すのは難しかったかもしれません。「東方隠岐誉」の企画書には、ZUNビールのことをバッチリ書かせていただきました(笑)。

 それでいうと、特に隠岐酒造さんには、新型コロナウイルスで経営に大打撃を受けた中でよくもまあこんな前代未聞のプロジェクトを引き受けてくださったなということで……。この場を借りてお礼申し上げます。

 隠岐酒造の毛利社長は時代の波に敏感で、新しい事業に精力的な方なのですが、最初にこの話を持ち込んだ時は、流石に怪しまれまして……。それでも、今となっては「東方隠岐誉」に関するありとあらゆるツイートをRTされていて、大変喜ばれているのが見えて私としても嬉しいです(笑)。

隠岐酒造の毛利社長

――隠岐の島町の地酒「隠岐誉」というのは、どういうお酒なのでしょうか?

野一さん:
 島を代表する、島民なら誰もが知る地酒の純米大吟醸です。香り華やかで味わい深いです。純米吟醸と比べて純米大吟醸の方が少し甘く感じるかもしれません。

隠岐誉 純米大吟醸 720ml (隠岐酒造ホームページより)

 隠岐酒造の毛利社長曰く、基本的に冷酒で呑むのが美味しいお酒だそうです。冷酒、ということでお寿司やお刺身と相性が良くて、宴の席には非常に向いているお酒ではないかと。ですが「東方隠岐誉」が皆様の元に届くのは来年1月になりますので、その時期ならコタツで暖まりながら冷酒か常温で飲んでいただくのがおススメです

――こちら、セットとして木製のコースターがつくのは何故なのでしょうか?

野一さん:
 実はこれ、隠岐酒造の毛利社長のアイディアなんです。何か今回限りのノベルティをつけた方が、購入された人々にとって思い出になるんじゃないかということで。

コースターの後ろにはシリアルナンバーが入ります

 島外の方が「離島の産業」と聞いた場合、主に漁業を思い浮かべるかと思います。ですが主に隠岐の島町は主に漁業と林業によって栄えてきた歴史があります。
 今回の企画は島おこしとしての側面が強いので、なんとか林業も広めるチャンスにしたいということでコースターという形で付属させていただきました。

 製造は隠岐の島町の森林組合の中にある製材部門を担当しておられる、隠岐島木材業製材業協同組合「ウッドヒル隠岐」さんです。もちろん、コースターを作るのはウッドヒル隠岐さまの本業ではないので、もしかしたら今回の企画で一番負担をかけてしまった方々かもしれません。お詫び申し上げます。

木製コースター制作の様子

 

「村紗水蜜」になったワケ―「営利企業の考え方と行政の考え方」の奇跡の融合

――今回の東方コラボキャラクターは「村紗水蜜」ですが、村紗というキャラクターに至るまでの経緯を教えて下さい。

野一さん:
 今回の企画で一番難しかったと言うか、気を使った部分がここになります。

 冒頭でイラストレーターさんに教わったキャラクターというのが実は村紗水蜜のことだったんですが、正直に申し上げると当時の私は東方について知識が浅く、最初は村紗水蜜のことを存じ上げなかったんですね。なのでまず村紗水蜜をはじめとして、東方のキャラを総ざらいして隠岐の島町や島根に関係がありそうなキャラクターをピックアップすることから始めたわけなんですが……。

 結果的に「なぜ村紗水蜜単独でのコラボになったのか」というのを後から振り返ると、「営利企業の考え方と行政の考え方」が奇跡の融合を果たしたというのが一番しっくりくるかもしれません。

――とても興味深い表現です、より詳しく教えていただけますか?

野一さん: 
 ちょっと長くなるかもしれません……(笑)

 僕は地域おこし協力隊として島に移住してきて、民間人から公務員になったのですが、やっぱり民間と役場とでは色々と文化が違うわけです。
 中でも最も違和感を感じたのは、企画を立てる時の「市場(マーケット)」に関する考え方です。民間企業が良い企画を立てるときの目標はおおむね「どのように目立つか」……つまり「市場にどれだけインパクトを与えられるか」を一番重視して考えます。

 でも、1年あまり準公務員として働いてみて思ったのは、行政は自分の自治体以外の方々へのPRが大変苦手だということです。

 とはいえ、僕は「他県の人を島に移住させる」という目的の定住支援員という職種です。島外の人の目をこちらに向けてもらうための企画を打つ場合、そこには民間企業の考え方が必要なんですよね。都道府県だけで言えば、島根の他に46の“競合他県”がいるわけで、市区町村ならそれが2000近くの数になるわけで……

 ですが、役場は前例のない事業に挑みにくいという性質があり……予算に税金を使っている関係上、市場にインパクトを与える可能性があるけれども失敗する可能性がある事業をおこすより、予算の使い道として町民市民村民の方々から批判を受けない、安全な事業をおこすことの方が多いんです。

 だから、「行政と『東方Project』とのコラボ」というそれ自体は性質として民間企業っぽい考え方の企画なんですね。市場にインパクトを与えることを優先したような企画です。

 しかし、ここで大事だったのが「東方の誰とコラボするか」という話なんです。

 もし民間企業が東方コラボ企画をやるなら、最も売れ行きがよくなりそうなキャラクター……霊夢、魔理沙、妖夢ちゃん、紅魔館組なんかを使うのが適切です。「出来うる範囲で最大の利益を求める=営利を追究」するのが民間企業だからです。

 でもここで「村紗水蜜」を選択するということに、公務員の利点が出たんです。

――島にある民話を題材にしたキャラクターを選択するということが、島民の皆さんの理解も得やすく、地元の気持ちを反映したコラボレーションになったというわけですね。東方Projectの題材は妖怪や民話を題材にしたものが多く、実は地方自治体との相性が非常に良かったと。

野一さん:
 我々は仕事の中でもたびたび“公益性”というワードを使います。「組織体として目先の営利を追究するよりも、自分の町と町民のことを優先すべき」というのが公務員の基本的な考え方になります。

 ……正直、コラボ相手として村紗を真ん中に置いて霊夢・魔理沙で挟んだり、後ろに人気の紅魔館の面々や、星蓮船組の面々を置いたりとか……そういうことはもちろん頭をよぎりました。その方が“売れる”んじゃないかとも思いました。

 でもやっぱり最終的に、それは“粋”じゃないだろうと。
 営利というのはある意味呪いのような物というか……そこをかなぐり捨てて、公務員の人格で隠岐の島町のことを考えたときに、やっぱり村紗をソロで起用するのが一番“粋”だと直感で思ったんです。

 村紗も聖白蓮によって念縛霊から解放されたという経緯がありますが、私もその時の村紗と似たような気持ちを味わえたのかもしれません(笑)

 

「東方隠岐誉」のこれから

――正式発表後の、町や役場での反応は如何ですか?

野一さん:
 僕も知らなかったのですが、実は役場にも隠れ東方ファンが居たみたいで…!それまでずっと少ない戦力で戦ってるものだと思っていたのですが、仲間がいました(笑)。

 どうにもこの島ではオタク……というよりサブカル文化そのものがまだあまり市民権を得ていないようで、そういう中に隠れオタクみたいな人たちが結構いたらしく。それが「東方隠岐誉」によって次々炙り出されたと(笑)。

 町の中では……まだ浸透したとはとても言い難いですね。舟幽霊ムラサの民話が残っていた都万という地区と絡んで、何か出来ればいいなとは個人的に考えてます。

――公式ツイッターの方では、東方隠岐誉に関するイラストや話題を結構リツイートされていますよね。

野一さん:
 けっこう気にしております(笑)。多くの東方ファンの皆様にご歓迎いただいていて、公務員冥利に尽きます。

【隠岐の島町】地域おこし協力隊・集落支援員ツイッターさん、たくさんおめでとうイラストをリツイートされています

――改めて、「東方隠岐誉」の購入方法について教えて下さい。

野一さん:
 既に告知しております通り、今回は新型コロナウイルスの影響を鑑みまして、インターネット上でのみ予約注文を受け付けます。
 何人か「島に買いに行かなきゃ!」という反応をされている方もおられましたが、島内には在庫がございませんので、慌てず焦らずお願いいたします。 

 9月1日のお昼12時、隠岐酒造公式HPからの注文が可能になります以前よりフォームでの注文とお伝えしておりましたが、変更になっておりますのでご注意下さい

隠岐酒造 ホームページ
https://okishuzou.com/

野一さん:  
 また、ふるさと納税の返礼品としても登録します

 隠岐酒造HPから95セット、ふるさと納税の返礼品として5セットです。コースター付セットの返礼品の方は隠岐の島町に4万円以上寄付していただいた方への返礼品となります。

 ということで隠岐酒造のHPからは限定先着95セットの予定です。システム上は弾くようにするつもりですが、万一注文を過剰に受けてしまった場合は、ご購入をお断りさせていただく可能性もございますのでご了承ください。

――ネット上では「100セットなんてすぐになくなっちゃう!」という声も多いですが、今後このセットの増産は検討されていますか?

野一さん:
 既にTwitterでも発表しておりますが、注文状況に応じて「東方隠岐誉」を単品で販売する準備を進めています
 増産を先にお知らせしておくことは、ささやかではありますが東方隠岐誉の転売対策の一貫でもあります。

 こちらはコースター限定100セットが予約完売時点で商品が単品に切り替わります。コースターが付属しない分お安くなり、価格は5,500円(税込み)+送料になります。なのでもし「コースターがいらないよ」という人は注文をお待ちいただき、欲しい人に行きわたるようにしていただければ幸いです。ご協力お願いします。

 コースターの方は予算の都合で増産できませんでしたので、コースター付セットの明らかに過剰な数の注文に関しては購入数を制限させていただく可能性もございます。何卒ご了承ください。

――今後このプロジェクトを継続していく予定はありますか?

野一さん: 
 地域おこし協力隊は3年間しか任期がなく、僕は今2年目なので、協力隊として直接東方に関わるチャンスは出来たとしてあと1回です。

 ただ、個人的にはこの島で起業したい、ゲーム会社を興したいなと考えており、ゲームと地域の事業とのコラボをしたいと思っています。もし今回の企画をきっかけに島内の事業者さんがたに「東方ってすごいじゃん!」という認識が広まっていけば、東方Projectとのコラボを継続できる可能性が高まるかも知れません。

 なのでちょっと嫌らしい言い方をするなら、今後については「東方隠岐誉」がどうなるか次第ということで……。今は営利を求めない公務員としての立場ですので、これ以上は言えません。お察しください(笑)。

 究極的には、舟幽霊ムラサの民話が残っていた都万という地区にムラサを祀る祠なんかができたら面白いと思いますが……話半分で聞いてください(笑) 

 

 「東方Project」と地方自治体の相性の良さ。それは東方のキャラクター・世界観が様々な地域伝承に基づいているというだけでなく、東方の持つ精神性が地域のことを第一に考える「公務員」の理念とも共感するものがあったということは、とても興味深い発見でした。

 「東方隠岐誉」セットは9月1日昼12時より、注文ページがオープンされます。手に入れたい方は忘れずに、【隠岐の島町】地域おこし協力隊・集落支援員公式ツイッターアカウントをチェックしておきましょう!

【隠岐の島町】地域おこし協力隊・集落支援員 公式ツイッター
https://twitter.com/Oki_chiiki

 

 

「公務員として隠岐の島町のことを考えたとき、村紗をソロで起用するのが一番“粋”だと直感した」 東方Project×隠岐の島町コラボ担当者、野一さんインタビュー おわり