特集
2020/09/29

岸田教団&THE明星ロケッツ・岸田×「紅蓮華」作曲者・草野華余子 対談(前編)――同じものを目指す真逆のふたりの音楽的ルーツとは

岸田教団&THE明星ロケッツ・岸田×「紅蓮華」作曲者・草野華余子 対談(前編)

 2005年から東方アレンジシーンで活動を始めた岸田教団&THE明星ロケッツ(以下、岸田教団)の総帥・岸田氏。彼が信頼を置いている音楽作家のひとりが、LiSAが歌い昨年大ヒットしたアニメソング「紅蓮華」の作曲者としても知られるシンガーソングライター・草野華余子氏だ。

 実は草野氏も、2017年から岸田教団のボーカリスト・ichigo氏から誘われ「大人の東方アレンジ」をテーマにした「ONSEN PROJECT」にアレンジャー&ギタリストとして参加していたり、岸田教団の2019年に発表された7曲入りアレンジ作品『MOD』にアレンジャーとして参加するなど、東方アレンジシーンでもその才能を発揮しています。

 長年ichigo氏を介しての仲だった岸田氏と草野氏が、なぜここ2年で急速にビジネスパートナー/作家仲間になったのか。全3章に渡り、おふたりのクリエイティブ脳を探っていきます。

岸田(きしだ)
2005年から岸田の個人サークル「岸田教団」として東方ProjectのアレンジCDや、オリジナル楽曲を手がける。2007年東方アレンジライブイベント「フラワリングナイト」への出演のため、岸田教団&THE明星ロケッツを結成させる。作詞・作曲・編曲・エンジニアリング楽曲に関わるすべての工程をほぼ担当している。東方アレンジを主たる活動に置き、メジャーレーベルとも組み、岸田教団&THE明星ロケッツの活動をリーダーとして進めている。

草野華余子(くさの・かよこ)
大阪府出身・東京都在住、シンガーソングライターときどき作詞作曲家。3歳のころからピアノと声楽を始め、中学生のころに出会ったJ-ROCKシーンのバンドサウンドに衝撃を受け、18歳の大学進学を機にバンド活動を始める。バンド解散後、2007年ごろから「カヨコ」として活動を開始。自身の活動に加え、そのメロディの力強さが認められ、LiSAを始めとする数多くのアーティストやアニメ作品への楽曲を提供。2019年から活動名を「カヨコ」から本名の「草野華余子」に改名。

岸田さんから「お前のドラムの打ち込みはなってない」と言われて、わたしはわたしで岸田さんに「メロディがつまらん!」て言うて(笑)(草野)

――東方シーン以外でも活躍するおふたりのクリエイティブな面が覗ける対談になればと思います。

岸田:
 東方シーンから一歩外に出ると、だいぶ華余子さんのほうが偉いですけどね(笑)。

草野華余子(以下、草野):
 やめてください(笑)。今日は東方Project専門メディアさんでの対談ということで、フレッシュな気持ちでここにいますので!(笑)

岸田:
 昔はそんなことなかったんですけどね……。ほんと偉くなられましてね……!(笑)

――(笑)。おふたりが知り合ってから、けっこう長いんですよね。

草野:
 もう6~7年前ですね。でもわたしはコミケに通うようなオタクなので、岸田教団のことはもともとアニメのタイアップ曲で知ってたんです。最初顔を合わせたときは、岸田さんはすっごい怖い人だなと思ってて(笑)。

岸田:
 うちのボーカルのichigoさんが企画した、友達を集めたライブイベントが初対面だったかな?分島花音とか華余子とかがichigoさんと一緒にキャッキャしてて、華余子は俺からするとよくわかんねえやつって感じでした(笑)。

草野:
 ichigoさんの友達のひとりって感じですね(笑)。それがLiSAさんに「DOCTOR」(※LiSAの2ndアルバム『LANDSPACE』収録曲。2013年10月リリース)を提供したあとかな? 「シルシ」(※LiSAの7thシングル曲。2014年12月リリース)の提供が決まったときに、ソニー・ミュージック内の作家事務所から「うちで作家活動をしないか?」と声をかけてもらって上京したんです。

 岸田さんとわたしはTwitterでリプライをやり合うくらいの仲だったんですけど、初めてイベントに呼んでもらったとき(※2015年秋に開催された「ごちデス(φωφ)!JAPAN TOUR」)に岸田さんとはやぴ~さんが「なんかまともなJ-POP書いてんじゃん」って声をかけてきて……ひゃ~こっわ~い! と思いつつ「ありがとうございます」と答えて(笑)。

岸田:
 その後、ichigoさんの結婚式で連絡先を交換したのが2年前の夏か。

草野:
 その結婚式の日に、お互いのデモを送り合ったんです。そしたら岸田さんから「お前のドラムの打ち込みはなってない」と言われて、わたしはわたしで岸田さんに「メロディがつまらん!」て言うて(笑)。

岸田:
 そうそう(笑)。お互いに「たしかに!」って。

草野:
 それぞれが得意なところが全然違うから、ディスカッションが始まって――そこから毎日のように音楽の話をするようになったんです。

岸田:
 そのなかで「そこまで言うならやってみろよ!」ってなって、俺から華余子に「メロディ乗せてみろ!」とドラムの打ち込みを送って。メロディが返ってきたら「それならドラムをこう変えます!」ってまた返して――。

――時期的に考えて、もしかしてそれが「Reboot:RAVEN」ですか?

岸田:
 そうそう! 「Reboot:RAVEN」はそんな場面で始まった3時間くらいのやり取りで完成した曲なんです(笑)。華余子とこの手法で作るとすごい効率でいい曲が作れるので、ここぞってときのために温存しておいてます(笑)。

草野:
 今もしょっちゅうデモを送り合っていて、意見交換をしてますね。岸田さんから送られてきたデモに対して「これでもいいと思いますけど、わたしならこうしますね」と添えて返したり――それも全部より良いものを作ることへのこだわりで。ここまで率直な意見を言い合える作家仲間はなかなかいなくて、気を使わなくていい……というか初対面で「お前売れなさそう」って言ってくる男になんで気ぃ使わなあかんねん!って話ですよ(笑)。

――ここ2年で濃い関係を築いているんですね。その前まではichigoさんを介しての仲だったと。

草野:
 そうですね。ichigoさんが東方Projectや音楽の二次創作のいろいろを教えてくれて始めたのがONSEN PROJECTで。

※ONSEN PROJECT:
岸田教団&THE明星ロケッツのボーカルichigo氏が始めた“オトナな東方アレンジ企画”。歌と歌詞をichigo氏、イラストとデザインを分島花音氏、アレンジとギターとコーラスを草野華余子氏が担当。2017年に東方紺珠伝アレンジアルバム『SUI-TEN』を、2018年には“完全彼氏目線”をコンセプトに掲げたアルバム『ORIENTAL-GIRLFRIEND』をリリースしている。
https://note.com/ichiringo/n/ne3394183d052

岸田:
 このように東方の文化は友達から友達を伝ってネチョッと広がっていくんですよねえ。宗教と同じ(笑)。

草野:
 (笑)。まあZUNさんは神主で、岸田さんは教団の総帥ですからね。

岸田:
 東方は総本山がゆるいぶん、いろんな宗派が存在するシーンですね(笑)。でもちゃんと敬ってないと破門されるからね!

エンジニアを諦めて、アーティストになるしかなかった(岸田)

――草野さんの音楽のルーツは、5歳から10年間、妹さんのために曲を書いていたことにあるとのことですが、その背景をお聞かせいただけますか。

草野:
 音楽を趣味にしている家族が多かったので、家にオルガンとピアノ、クラシックギターがあって、わたしも3歳からピアノを習っていて。クラシックに触れる機会が多いかたわら、歌謡曲の歌番組がすごく好きで、TVで流れてた音楽を1回聴いて覚えて歌うというのをずっとしていたらしいんです。そのころから音符に対する瞬発力はあったのかなと思います。それで妹に何十曲、何百曲とプレゼントしていたのが作曲の原点というか。

岸田:
 その曲を使って、ぬいぐるみでMステごっこやってたんでしょ? このエピソードだけでこいつヤベえなって思う(笑)。真っ当な道には絶対に進めない匂いが半端ない(笑)。

草野:
 5歳でぬいぐるみに12曲書いてるんだもん、ヤバいよね~……親も心配してたみたい(笑)。

――草野さんは絵もお描きになるんですよね?

草野:
 美術部だったので同人誌出したりしてました(笑)。それも作曲に関わっていて、わたしは観た景色を音符化したり、感情をメロディにするんです。「春から夏に変わる風の匂いの変化をコードにしたらどうなるだろう?」と考えて、その最適解を出す――みたいな手法でわたしの作曲は成り立っているので。岸田さんは真逆だよね。

岸田:
 そういうことに興味を持ったことはほとんどないですね(笑)。もともと僕は作曲家志望ではないので。

――えっ、そうだったんですか。

岸田:
 もともとはレコーディングエンジニア志望だったんですよ。うちも両親が音楽をやっていて、父親がクラシック系のミュージシャンなんです。その流れで楽器に触れてはいたけれど、作曲や編曲に一切興味はなかった。でもエンジニアの技術を高めたくても、曲がないと作業ができないんですよね。最初はミックスやマスタリングをしてほしい人を探してたんですけど、探すのにすごく時間がかかって面倒くさくてしょうがなくて。じゃあ自分で作ってしまおう――っていうのが曲を書くきっかけなんですよ。

 だからできる限り早く、できる限りラクに曲を書きたいということが作曲の原点で(笑)。でもある程度バンドをやっていくなかで少しずつ「ひょっとして思ったより自分は作曲というものができているのかも。自分が作る意味はこういうことなのかな」と学んでいった結果、今に至る。小説家になろうと思ってた人が漫画の原作者をしていたり、漫画家志望の人がイラストレーターをしているのと同じというか。

草野:
 シンガーソングライターになるつもりが、作曲家になった人間もいるし(笑)。

岸田:
 そうそう、そういうことだよ。エンジニアを諦めて、アーティストになるしかなかったって感じ。

草野:
 曲を作れる人が作る音像やサウンドは、生かすべき楽器をちゃんと生かせてるなと感じるんです。岸田さんは曲を作れるだけでなく、楽器を演奏もできるし、ステージにも立っているので、そういう人が作る音像になっていると思うし。

岸田:
 バンド経験がある人は、バンドのなかで演奏している音やリアリティ、空気感をわかっているから、それをいかにしてCDに詰めようかを考えてるからね。

草野:
 LiSAさんに提供した「紅蓮華」とかも――。

岸田:
 出た! 「紅蓮華」!(笑)

草野:
 やめろ! わかりやすいから言ってんだ!(笑)

東方のメロディを聴いて「向いてるんじゃないか」と思った(草野)/東方の音楽が「自分と遠いから好き」になった(岸田)

草野:
 「紅蓮華」のメロディは懐かしさを感じる歌謡曲なんですけど、16ビートで裏が感じられるものになっていたりと令和の香りを入れて、老若男女みんな楽しめるものを作ることはコンセプトにしてますね。わたしは日本人なりに洋楽の要素を取り入れているけど、岸田さんは洋楽ライクなものを日本的に変換している。目指すものは同じでも、そこに辿り着くまでの道のりが違うというか。

岸田:
 日本人らしい歌謡曲メロディは、僕にとって理解するうえで遠い存在なんですよ。

――岸田さんのオリジナル曲はアメリカど真ん中のものが多いですものね。

草野:
 そういう人がかなりの和メロを持っている東方音楽のアレンジをしてるのって面白いですよね。ONSEN PROJECTで初めて東方アレンジをさせてもらったとき、東方のメロディは自分のなかに持ってるメロディの感性とかなり親和性を感じて「向いてるんじゃないかな?」と思ったんです。それを経て去年『MOD』を一緒に作らせてもらって、(東方の音楽二次創作は)自分をフラットに出せる領域だなと感じて。

岸田:
 僕は逆に、東方の音楽が自分と遠いから好きなんですよね。日本人的なメロディは作れんな……と前々から困ってたんですよ(笑)。ZUNさんのメロディを使って作ると自分にないものを表現できるというのは、東方アレンジを作るたびに実感していて。でもオリジナルだと自分たちのカラー一色で塗り固められちゃうから、「東方アレンジのほうがいいよね~」と自分たちで言い合うこともしばしばあるっていう(笑)。

草野:
 自分たちで言っちゃうんだ(笑)。

岸田:
 オリジナルには感覚でやれるがゆえの一本槍の強さがあるけど、東方アレンジは他人の力によって色彩感が入ってくるから、情報量は多いよね。

――では東方アレンジを始めたきっかけも「自分にない要素」を入れて制作をしたいと思ったからですか?

岸田:
 いや、始めたときは全然そんなこと考えてなかった。東方が本当に流行る前、『東方永夜抄』が出る前あたりの、盛り上がり始めている時期特有の熱量を目の当たりにしたからですね。我々世代のコアなオタクは東方に触れないわけがない、くらいの勢いがあったんですよ。時代の後押しは当然のごとくありました。第一回例大祭が開催されたあたりでは、もう東方アレンジに着手してましたね。ただ福岡に住んでいたので、何者でもない俺はそこに行くお金すらなかった。

――では原作をかなりプレイなさっていたんですね。

岸田:
 もちろん。それこそ『永夜抄』が初めてプレイした東方のゲームで、出たころに「また近々新しいの(『東方萃夢想』)が出るからやろうよ」と友達に誘われて。そのころには自分もスクエニのゲーム楽曲の二次創作をしていて。友達はみんな東方アレンジを作ってたので、僕もその流れで始めましたね。

草野:
 2004年かー……わたし就職しようとしてたころで(笑)。そのころにはもうすでに岸田さんは東方の大海原に旅立ってたんですね。自分から発信しようと思うところがすごい。

岸田:
 いやいや、当時のアレンジCDは「発信」と呼べるものではなく、全然気軽なものだったよ。作ってる人間たちも全然名を馳せてるわけでもないし、そもそも同人CDが売れるものではなかった。東方が流行り始めた時期であっても、まだ二次創作CDが売れるような時代ではなかったし。「東方アレンジをやれば売れる」なんて、誰も思ってもみなかったころの話。

草野:
 古参だな~。

岸田:
 俺より古参なんてもっといるよ。『紅魔郷』組と『妖々夢』組と『永夜抄』組が三大古参なんだけど、俺は『永夜抄』組だから古参のなかではいちばん偉くない(笑)。やっぱり作品もどんどんポップになっていくし、この3作のなかなら『紅魔郷』がいちばんコアだしね。『妖々夢』でちょっと見えたキャッチーさが『永夜抄』で開花して――あれは神主も意識したのかな? ちょっとマスに広がった瞬間なのよ。

 僕はもともとゲーセンでシューティングゲームをやっているタイプの人間だった……でも(ビート)まりおさんみたいに得意じゃないんだよな(笑)。ゲーマーにも得意ジャンルがありますからね。やっぱり同人ゲームの世界では強さがヒエラルキーを作りますから(笑)。

――――

 岸田さんと草野さんの出会いからおふたりのルーツ、「紅蓮華」にまつわるお話までたっぷりと伺った前編。明日公開の中編では、岸田教団と東方アレンジの関係性や岸田さんの想いを中心に伺います。

岸田教団&THE明星ロケッツ・岸田×「紅蓮華」作曲者・草野華余子 対談(前編)――同じものを目指す真逆のふたりの音楽的ルーツとは おわり