全日本幻想入り展・結綺ユキインタビュー(後編)

全日本幻想入り展・結綺ユキインタビュー(後編)

 

 東方ユーザーそれぞれにある幻想郷のイメージ。それを創作として他者へ伝える手段は様々です。漫画、イラスト、小説、音楽、グッズ等々。そうした表現手法のひとつとして、写真によって幻想郷のイメージを写し出す展示があります。

 東方Projectの世界観を写真として表現する展示会「全日本幻想入り展」。

 幻想入り展はどのようにして誕生し、どのように歩んできたのか。幻想入り展代表・結綺ユキ氏へのインタビューを通して、その軌跡を辿ります。

 前編では結綺さんが東方と出会い、幻想入り展を立ち上げるまでの経緯を伺いました。後編では幻想入り展の理念を通して、写真で東方を表現することの意義についてお話いただきました。

 

結綺ユキ(ゆうきゆき):
高校の日直日誌でAngelBeats!の話題を出して、それに反応したオタクたちと同人サークル「斜辺計画」を結成。自分は絵も小説も音楽も何もできなかったので、代表という名ばかりの雑用係をやってたら、雑用を極めて雑用専門のサークル「doujin2.0」を作る。
主には合同誌や作家さんのバックオフィスサポート、幻想入り展の運営母体として活動をしている。同人活動の影響から新卒で印刷会社に入社し、現在は作家管理や運営、効率化の側面で配信事務所に勤務する、徹底されたワークアズライフ思考。

https://syahen.info
https://twitter.com/syahen96

それを東方でやることの意味は、人それぞれが答えを持っているんです

――写真についての話が出ましたので、ここで幻想入り展のサイトに記載されている「開催理念」から、幻想入り展の行っていること、目指す目的について触れていきます。

幻想入り展グループ 4つの理念

幻想入り展グループは健全なる同人文化を守り、クリエイターファーストのもと4つの理念を考えております。イベントは皆さんの信頼をなくしては実施は出来ず、我々は信頼獲得を目指し、常にぶれないイベント運営を実施するための判断の軸として、全主催・出展者が、これを共有いたします。

 ひとつ目の「誰でも作品発表」は結綺さんがおっしゃっていた「ツールを選ばず、誰もが取れる写真で、それぞれの持つイメージを落とし込む楽しさ」についてですよね。

誰でも作品発表

東方projectを通して何かを表現したい方であれば、誰でも出展参加が可能です。主催の私もそうでしたが、同人活動の中で何かを表現したいと思った時、イラストや文章、音楽などが出来ないと、頭の中ではこういった世界観を表現したい思っても形に出来ず、なかなか一歩が踏み出せない方が多いと思います。
そんな方に向けて、誰もが持っているスマホなどのツールで、ボタンひとつであなただけの幻想郷や秘封倶楽部の世界観を写真で表現してみて下さい。上手い下手は全く関係ありません。写真をどのようにして東方要素に紐づけ、あなただけの幻想郷の世界観を作るかが大切です。あなたの作った幻想郷が、来場者によって境界を暴いてくれることでしょう。

幻想入り展Webサイトより引用

結綺:
 写真という誰でも使えるツール、それこそ今はスマートフォンの写真でもすごい綺麗な写真が撮れます。ボタンひとつで自分の考えてる世界を写し出せるんだったら、それをもっと作品展にしてやってもいいんじゃないかなと思って始めてます。

 幻想入り展自体、もともとは第1回でやめようと思ってたんです。そこに水越さんから「ぜひ京都でもやってほしい」って話をされて、第2回をやったんです。

 そのときの参加者で「コスプレを撮らない普通の写真でも活躍できる場があるのがすごい良かった」「そもそも小説も絵も書けない私がちゃんと作品を出すことができた」って言ってくれる人が何人かいたんですよね。それに対して、じゃあ自分の過去に経験してきたことを、みんなにもそれをサポートできるような展示会ができたらいいなと思って、それがきっかけで同人活動に挑戦したり、成功体験を持ってくれるといいなと思い、このひとつ目の理念が成り立っています。

――それはふたつ目の「コミュニティの場」にもつながってきますね。

コミュニティの場

幻想郷や秘封倶楽部の世界観を写真で表現するコミュニティは少なく、今後もリアルソーシャルな心地の良い繋がりの場を作って行きたいと思っております。ギャラリー開催では、誰もが入れて、企画展などで一般来場者も参加出来る展示企画を実施し、何度来ても飽きない空間作りをしております。
また、遠方で行けない出展者や来場者にも楽しんで頂きたく、QR感想ツールなどを用いて、来場者が直接作家に感想を送れるようにしてみたり、誰もが扱えるロゴやタグでの投稿を楽しんで頂くなど、様々な方が幻想入り展を楽しめる場、コミュニティの場を作っていきます。

幻想入り展Webサイトより引用

結綺:
 同人活動ってコミュニケーションが面白いなぁと思っているんですよ。作品を作るときも楽しいんですが、出したあとのコミュニケーションも醍醐味なんです。お互いに感想を言い合ったり、好きな作品を紹介しあったり、「創作なのかなこれは」と迷ってる人へ「それも創作なんだよ」と背中を押してあげることもできる。それがあるから、クリエイターさんも作り甲斐があるんじゃないでしょうか。幻想入り展もそこはすごく大切にしたいです。

――「空間作品」についてはどうでしょう。

空間作品

お酒を味を引き立てる空間としてのバーのように、作家の世界観をより引き立てる空間としての本展は、幻想入り展(東京開催)のそのものを作品として捉えております。
立地、音楽、匂い、配置、写真では用紙、額、キャプションなど余韻に浸れる空間作りを目指しております。数分ではなく是非30分近くはゆっくりと幻想郷や秘封倶楽部の世界観をお楽しみ頂ければと思います。

幻想入り展Webサイトより引用

結綺:
 空間作品は私のモチベーションの話でもあるんです。自分は、第3回以降は幻想入り展に作品出してないんですよ。というのも、自分が別に作品発表したいってわけじゃなくて、どちらかというと、みんなの作品が展示されているこの空間自体が私の作品、みたいな捉え方で、その作品を構築するのにみんなをサポートしてるっていう考え方にしたいなと思ってるんです。人って何かしら目的がないとなかなか続けることができないですからね。

 続けて最後の「自己実現の場」についても話すと、「マズローの五段階欲求」という概念に基づいて、幻想入り展は開催しています。生理的欲求・安全欲求・所属の欲求、続けて承認欲求、そのあとに自己実現の欲求があるんですよね。

自己実現の場

作品出展から、イベント主催へ。幻想入り展ではグループ主催や本展企画スタッフとして参加することが可能です。自身の作品に世界観や自信が着いてきたら、ぜひ今度はあなたらしい東方projectの世界観を持って、幻想入り展や企画展の主催にチャレンジしてみて下さい。
主催に不安を抱える方が多いと思いますが、本展でのノウハウ提供や暖簾分け、通話や実現場でのサポートをいたします。

幻想入り展Webサイトより引用

 承認欲求、基本的には自分の作品を出したいって人が抱く欲求です。自己実現は、主語が今まで「私」だったものが「他人」に代わります。「誰か」のためにやる、みたいな。

 クリエイターの多くは自分の作品の世界観やすごさを多くの人に見せたい気持ちがあって、これはすごくいいことだし、この欲求が原動力で多くの作品が生まれ、人々に笑いや感動を生む。しかし、底が見えない承認欲求は、時に他人の作品を貶したり、求めすぎて病んでしまったりするクリエイターも少なくなく、そういった行き過ぎた承認欲求にならないように、自己実現が達成できる場として地方幻想入り展があるんです。

――結綺さんにとって、幻想入り展をやって良かったことってなんですか?

結綺:
 感想をすぐ送り合えることです。「コミュニティの場」の話にもつながってくるんですけど、出展者がその場にいて、来場者が出展者の前でその人の作品を見る。それに対して、作品の説明を通してコミュニケーションできる。その関係を見て「あぁ良かったな」って思いました。

 出展者が在廊してれば「この人の作品すごい良いね」「これどういう意味なの?」と、作品について考えたくなったときに「じゃあその人いるんで聞いてみてよ」みたいな話ができる、そういう場です。ここにコミュニティが生まれていくんです。

 これがネットだと、大体は感想を言って終わりじゃないですか。やり取りが生まれない。そうじゃなくて対面で感想言い合えるのは「やっぱ良いな」って思いましたね。

 それともうひとつ、これは雉杤さんという方の写真なんですけど。雉さんが散歩していてたまたま見つけたものらしくて。カラスの羽が針金に刺さっている、カラス避けなのかな。それに対して自分が感じたことをそのまま率直にキャプションとして書いてるんですよね。

 これは、視点を変えればどこでも幻想郷につながるような道があって、それをどう写すか、どう見るかはあなた次第ですよ、ということを象徴している一枚ですね。

――カラスの写真に対して、撮影者は言ってしまえばどんな意味を与えても良い、どんなフィクションを付与しても構わないところを、その人は東方が心にあるから、そこに烏天狗を見た、というわけですよね。

結綺:
 「これ東方でやる必要ある?」みたいなことって、よく言われたりするじゃないですか。それを東方でやることの意味は、人それぞれが答えを持ってるんです。

 人によって幻想郷の考え方が違っていて、たとえばいろんな同人誌を読んできた中でそれぞれ多種多様な幻想郷のイメージを抱いている。そのイメージを、写真を撮ることで表現しようと試みる。そうやって生まれた写真を展示できたのは、幻想入り展をやって良かったと思えることですね。

 また、そうして幻想入り展を何度かやっているうちに今度は「自分で写真集を作りたい」「写真関連で秘封の即売会に出たい」っていう人もちらほら出てきていて。それは自分がもともとやりたかったサポートとか一押しといったものが結実している部分なので、それができたのは嬉しかったですね。

紙にすることの良さって、記憶に残ることなんですよ

――運営の視点としてはどうでしょう。展示会として上手くいったと感じたことについては。

結綺:
 僕は広報がすごい苦手なんですよ、人に何か宣伝することがすごく苦手で。そこで考えたのが「誰かに宣伝させる」やり方でした。

 そのために考えた手段のひとつはフリーで提供した幻想入り展のロゴを使ってもらうことです。ロゴとタグを使ってツイートしてもらう。そうすると、自分が宣伝しなくても載ってるロゴやタグが宣伝になる。僕自身ではなく投稿者に広めてもらおうと。

 もうひとつは、自分以外の人が各地で開催している「地方幻想入り展」ですね。やっぱりひとりで主催していると、どうしてもいろいろ抜けたりとか忘れたりとかするし、もっと改善したいことがあってもなかなか実現できない。

 そこで、地方幻想入り展をやってもらうことで「幻想入り展のここはもっと改善したほうがいいよ」とフィードバックをもらえる。共通してる同じプロダクトだから、フィードバックを活かすことができますね。

――春頃に行われた「#StayHomeGallery」という企画は、昨今の人が集まるのが難しい状況というに基づいた企画でした。あの企画の趣旨を改めて教えてほしいです。

結綺:
 ギャラリー自体がコロナでやばいな!って状況に対して、何かできないかなと思ったときに、今ここで展示会を開いても集団感染の原因になってしまうかもしれないので駄目だなと。じゃあいつでも展示会ができるような状態を作っていけばいいんじゃないかと始めたのが「#StayHomeGallery」でした。

#StayHomeGallery

 あの企画は「実際写真を印刷してみよう」というものです。みんな、写真ってなかなか印刷しないんですよ。レタッチまでして、それをネットに載せてお終い、みたいな。現像という行為がなくなっていく。それだと展示会はできないんです。

 基本的に展示会は必ず印刷を通す、プリントして出すので。そのプリントをするまで、ギャラリーに出す直前の段階、つまり額装するまでの段階ですね。そこまでをサポートできるようなことができないかなと始めたのが「#StayHomeGallery」です。

 そこで「Boundary #02」という冊子を作って、レタッチの仕方から額装するまでを記載しました。これを一般公開して、「チケットを買ってデータを送れば写真プリンターで印刷して送りますよ」っていうサービスを作ったんですね。

――「#StayHomeGallery」もそうですけど、結綺さんは「実物としての写真」にだいぶ重きを置いていますよね。データではなくて、紙に刷って、額装して、飾ってという工程に。

結綺:
 そうですね。展示会では飾るところがゴールなので、それを家でやってもらいたいんです。

 紙にすることの良さって、記憶に残ることなんですよ。今はスマートフォンでTwitter見て、写真見て、3秒でスライドしちゃうじゃないですか。がんばって撮った写真なのに、たった3秒で上面だけ見て画面外に動いてしまう。もったいないですよね。

 それが、アナログだと長く見るんですよ、間違いなく。3秒以上は絶対見ると思うんです。おそらく10秒くらいは見ると思うんですけど、その10秒で「あっ、こういう撮り方があるんだ」「こういう考えあるんだ」って気付いてもらうきっかけになる。それが大きいんですよね、データよりも。

 TwitterのようなSNSでバズる写真っていうのは基本的に分かりやすい写真なんです。明るくて、綺麗で、誰が見てもいい写真というようなもの。対して、芸術としてのいい写真っていうのは、難しいんですよね。数秒見ただけじゃ理解できなくて、Twitterではバズらないですし。

 そういった状況に対して、印刷することによって深くその写真を見てもらう。写真に対して深く読んでくれると、記憶に残りやすいんです。アナログにすることによって自分の意図を誰かが深く読んでくれる。そういう意味はあります。アナログって、それしか見るものがないんです。だから見ることに集中ができるんですよね。

 「この人はどういう考えで幻想郷を感じたのか」に考えを巡らせて、写真を読んでほしい。そう思っています。

――今後、幻想入り展はどのようなイベントになっていくのでしょうか。

結綺:
 ひとつは「引き続き持続可能にしていく」ってことです。イベントって信頼で成り立ってる部分が大きくて、継続して開催することが主催の使命かなとは思ってます。

 あとは時間があれば、東方芸術祭で展示されていたような物理系の作品に少し手を出してみたいです。衣装もそうですし、あとはフィギュア作ってる人ですとか、そういう人に対して何かできないかなと模索してる段階ではあります。

――最後に、幻想入り展の参加者や、この記事で幻想入り展を知ったという読者の皆さんにお伝えしたいことはありますか。

結綺:
 「幻想入り展は誰でも作品発表できる場所である」ことです。即売会へなかなか参加できない人への入り口として幻想入り展にぜひ参加してほしいです。自分の中にある「こういうもの作ってみたいな」「こういう世界観の話作ってみたいな」という言語化できないものを、写真として写してほしいですね。

 自信持って創作を続けていただければな、と思ってますね、本当に。これで東方の即売会に写真島ができると面白いですね。それを目指したいです。

『あいち幻想入り展』12月11日(金)から3日間開催

12月11日(金)~13日(日)

11:00~18:00(最終日 17:00)

愛知県名古屋市 市民ギャラリー矢田 第四展示室

入場無料

全日本幻想入り展・結綺ユキインタビュー(後編) おわり