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2020/07/31

「その音楽が、距離を超えて様々な人の“ひとりぼっちの部屋”へ届く」FloweringNight2020 TaNaBaTaライブレポート

FloweringNight2020 TaNaBaTaライブレポート

 東方アレンジシーンのギターロック/オルタナ代表と言えばやはりこのサークル、あにー率いるTaNaBaTaだろう。

 TaNaBaTaが発足した2008年頃、ニコニコ動画はアニソンやトランス、電波ソング、超絶テクニカルなド派手サウンド、ラウドロックなど、インパクトが先行したサウンド感が主流だった。

 だが当時のわたしは、海外ならRadioheadやThe Strokes、Arktic MonkeysといったUKロック、国内ならBUMP OF CHICKENやART-SCHOOL、Syrup16gといった、オルタナやグランジから影響を受けたギターロックを好んで聴いており、愚かなことにインターネットには自分好みの音楽がないと決めつけていた。ニコニコ動画でそれらのMAD動画を視聴することが至福のひとときであった。

 そんな中、友人が薦めてくれた東方アレンジサークルのひとつがTaNaBaTaだった。低音を生かした耳に優しいボーカル、原曲のメロディを生かしつつも大胆かつファンタジックにアレンジしてしまう思い切りの良さ、少々気だるいムード、オルタナやグランジを想起させるギターの質感――その心地よくもありどこか反骨精神を感じさせる絶妙な温度感と、来るもの拒まずでありつつもどこにも群れない孤高感が、自分にはとてもフィットした。私にとっては、東方アレンジのジャンルのフィールドを広げている重要人物のひとりである、と言っていい。

 

 

「東方があったから出会えた人もたくさんいる」― TaNaBaTaの音楽が、距離を超えて様々な人の“ひとりぼっちの部屋”へ届く

 メンバーはセッティングを済ませ、板付きでライブをスタート。4人で拳を突き合わせたあと、黒いチューリップハットを深く被り、ビックサイズのTシャツに身を包んだあにーは「よっしゃいこうか!」と久し振りのステージに覇気を加える。

 昨年発表した疾走感のある四つ打ちナンバー「今夜、少女じゃいられない」で口火を切ってギアを上げると、「インターネッツの大海原で海賊船のパーティーをしたいと思います」という口上から「黄金航路」へ。シニカルな空気が作り出す怪しげで妖しげなポップ感は、思わず踏み込んでしまった泥沼に足元を奪われるように、抜け出せず癖になる。ジャズマスターのざらついた音色もまた中毒性が高い。

 そのままテンポよく「テンプテーション」につなげ、マイナーコードとギターリフ、ブレイク、ベースソロなどを巧みに用いてグルーヴを作り上げていく。比較的新しい楽曲が多かったこともあり、原曲に自分なりの解釈を化合させる編曲力の高さその磨かれ方にあらためて唸った。

 アウトロでマイク前に出て小さくカーテシーのような仕草をしたあにーは、「FloweringNightというだけでも特別な気持ちで来たんですけど、今日はTaNaBaTa配信ライブデビューなんです」と告げる。勝手がわからないと思っていたという彼だが、3曲演奏してみての感想は「いつもと全然変わんない」。なかなか言葉がうまく出てこないのに、零れんばかりの笑顔でそう語る彼は高揚が止められないといった様子だ。

 ステージの目の前に設置された視聴者からのコメントがリアルタイムで観られるモニターを覗き込むと、読めないくらい矢継ぎ早に投稿されていく様子に「泣きそうになってきた」と話す。思い入れのあるFloweringNight、中止が続いたなか久し振りに立ったライブハウスのステージ、初めての配信ライブと、刺激的な出来事に対して少年のように胸をときめかせていた。

 「この込み上げてくる気持ちをね、からっぽのチッタに全部ぶつけて、回線に乗せるので、なにかちょっとでも受け取って帰ってください。最後までよろしくお願いします!」という言葉で始まったのは「ダンスホールでつかまえて」。イントロが鳴った瞬間に、CLUB CITTA’の天井のシンボルとも言うべき、六芒星の中心部にあるミラーボールがゆっくりとテンポに乗って回り始めた。この日初めて天井を見上げ、「ああ、この感じライブハウスだなあ」とその景色にしばし見とれてしまった。

 

 

 あにーは観客が目の前にいる状態とまったく変わらずスマートに視聴者を煽り、演奏に対する集中力をさらに研ぎ澄ましていく。「大切な曲を続けます」と言い「Unknown Girl」へ。ボーカルもさらに熱を帯び、本来のライブならば観客が歌うはずであろうサビ前の《壊して》の箇所は、いつも以上に強くギターをかき鳴らしていた。バンドメンバーもあにーの心情をしっかりと察知し、そこに音色を合わせていく。

 ラスサビ前に演奏を止め、胸に手を当て天を仰いだあにーは、感極まった様子で「本当に、本当に、なにも変わらないです。いつものライブと」と告げる。すると気持ちを落ち着かせ、おもむろに弾き語りで歌い始めた。歌詞を一言一言噛みしめて歌うその姿は目を見張るものがあると同時に、その純度がとても眩しい。《君の胸の中この手を伸ばすことができるなら/そんなことを思うよひとりぼっちの部屋で》という無観客生配信という環境とリンクする歌詞を歌い終えたあとに、バンドが一斉に音を出すその瞬間は、画面の向こうにいる視聴者の心を颯爽とさらいにいくように、情熱的で華麗だった。

 「今日は世界中の人が観てくれてると思うんですけど、あなたの街の空はどんな色ですか? 川崎はきっとこれからゆっくり夜が降りてきます。星の海に光が揺れますように。願いを込めて、大事な歌を歌います」というMCのあと、センチメンタルと疾走感が交錯する「スターオーシャン」を届ける。《ねえダーリン》という言葉のたびに彼がこちらに向かって語り掛けてくるようだった。

 無観客生配信ライブでも「いつもと全然変わらない」と彼が語るのは、きっといつもその瞬間瞬間に湧き上がる気持ちすべてを音楽に乗せてきているからだろう。そして想いを含んだ音楽は、画面という隔たりがあろうとも届くと心から信じている。いつものライブと変わらず、ただただ音楽と真摯に向き合うあにーの姿がそこにあった。

 最後の曲を演奏する前、あにーは再び口を開いた。彼がコロナ禍で最も強く思ったことは、大切な人たち、大好きな人たち、会うのが当たり前のような存在の人たちに会いたいということだった。「東方Projectがあったから出会えた人もたくさんいます。会いたい、会いたい、会いたいなって――そんな気持ちを閉じ込めた曲を最後に歌います」と言い「Setsuna-Light」を演奏する。

 TaNaBaTaのアレンジ曲は東方アレンジという枠は優に超えていて、オリジナルやアレンジという概念を失うくらいあにーの世界観が色濃い、まさに「TaNaBaTaの音楽」だ。
 ふと近くにあったiPadに映し出されたニコニコ動画の生配信に視線を落とすと、ちょうど「ZUNさんは縁結びの神様だね」というコメントが目に入ってきた。まさにそうだなと思った。上海アリス幻樂団の楽曲があにーの心の鍵を開け、そのなかで生まれてきた楽曲たちが今こうして距離を超えて様々な人々の心の扉を開いている。同人とは様々な人々が手と手を取り合う文化であり、出会うことなんてなかったはずの人たちを出会わせる場所。そんな夢のような空間が存在することに、あらためて心から喜びを覚えた。

 演奏を終えると、爽やかな面持ちで4人はステージを後にした。TaNaBaTaの純粋さと情熱の海に酔いしれる40分間であった。

 

セットリスト

1. 今夜、少女じゃいられない
2. 黄金航路
3. テンプテーション
4. ダンスホールでつかまえて
5. Unknown Girl
6. スターオーシャン
7. Setsuna-Light

文:沖 さやこ
撮影:羽柴実里、紡

 

「その音楽が、距離を超えて様々な人の“ひとりぼっちの部屋”へ届く」FloweringNight2020 TaNaBaTaライブレポート おわり