特集
2020/01/22
unofficial

アダムスファミリーに影響を受けた東方イラストはどうして生まれた? ことイナリ氏といってつ氏のやり取りが生みだす「古明寺こいしの世界」

【第2回】

ゲームデザインが決まるまで。さい氏の八面六臂の活躍

——本当に出たとこ勝負でここまで作られているのはすごいことですよ。企画書がない中、ゲームの完成イメージの共有ってどのように行われたのでしょうか。

さい:
 そもそも完成系って見えていたっけ……?

いってつ:
 完成系はけっこう……たぶんサークル「汁うどん」的にはこういう話を作ろう、というのは最初から分かっていたんですね。僕らはそれを映像として想像していたのがやっぱりあったので、それをどうやってゲームプレイと言う形にするかというのはボンヤリとしていました。

——こいしの「第3の目」を使って探索する能力や、ドライアイになるとゲームオーバーなどしっかり作られている印象です。このあたりのゲームデザインはどのあたりで決まりましたか?

さい:
 だいぶ初期に決まりましたね。実際に作業を始めたのが2017年の9月くらいなんですけど、「11月のデジゲー博【※】に向けて体験版を作ろうぜ!」って話をしていて、その2ヶ月の間です。

【※】「デジゲー博」日本の同人ゲームやインディーゲームの見本市となるイベント。

——2ヶ月でプロトタイプ制作ですか!

さい:
 そもそもコアゲームプレイをどうするかは全然決まっていなかったので、僕が作りながらちょっと試行錯誤してた感じですね。スクラップ&ビルドしながら。

——プログラマー兼ディレクター兼、プロジェクトマネージャーに加えてゲームデザインまで担当されているとは……

さい:
 このふたり(いってつ氏、ことイナリ氏)がイラストやシナリオが得意そうだなと思っていたので、それをどうゲームに落とし込むかをすごく考えていました。アイテムとかを探索したりする(ゲームデザインが)良いだろうなと。

 あとは東方らしさであったりとか、『3rd eye』らしさであったりをどこにつけるかをすごく考えていました。単純にアイテムを探索するだけのゲームだとオリジナリティがないなと思っていて。

 ゲームの内容が決まるか主人公が先に決まるか忘れちゃったんですけども、まあ主人公がこいしだから、「第3の目」があるじゃないですか。原作の設定だと閉じているんですよ。あれを使って探索していく、第3の目から光が出て、それを当てるといろいろなものが見えて来たりするものなら、けっこうオリジナリティがありそうだし。

——そこはすごくいいアイディアだと思いました。『Fran Bow』的な要素をこいしに繋げるのは。

いってつ:
 『Fran Bow』は話を聞いて印象に残っていて、こいしが主人公であることと繋げやすいな、とすごく思っていて。ゲーム設計に影響を受けたなと思いますね。……タイトルが決まる前の初期のプロジェクト名も『Koishi Bow』でした(笑)。

 いまだに僕らのデータをGoogleで格納している名前も『Koishi Bow』のまま(笑)。(タイトルが正式に決まったあとも)リンクがおかしくなったら嫌なので、名前はそのままにしていました。

ことイナリ氏の描く仄暗い世界

——ことイナリさんはどんなふうに『3rd eye』にアプローチしたアートを手掛けましたか。

ことイナリ:
 普段から観ているのがホラー映画とかゲームの影響もあるというか。やっぱり自分が見るホラー映画って、わりと子供がかわいそうな目にあう映画が多いというか。

 子供とホラーってすごく相性がよくて、あと精神世界というのもそうです。『サイレントヒル』【※】とかありますし。題材として描きやすかったというのもあります。

【※】「サイレントヒル」コナミが制作した人気ホラーシリーズ。

――ことイナリさんのPixivにあげた作品を観させていただき、登録した初期から今までで大きく画風が変わっていっていますよね。どのあたりから現在のスタイルが固まったかうかがってもいいですか。

ことイナリ:
 そうですね、2016年くらいが今の画風になった時期で。

いってつ:
 2016年くらいに自分の作りたいものが決まっていました。

——東方の短頭身のイラスト本を制作したあたりから作風が変わっていますよね。この時期からぐっと方向が変わったのを感じたんです。

ことイナリ:
 2012年の春に、美大に行ったんですね。たぶんそのあたりで一回絵が変わって。2015年くらいに特に何かあったってわけではないんですけど、自分の中で方針が決まったというか。

——よくある東方のファンアートではなくなっていて、アカデミックな書き方に変わっていますよね。

ことイナリ:
 そういうのが見え始めてきたというか。……強いていうなら、飼っていた犬が死んだくらい。

——だんだんと日本のアニメやライトノベル的な方向ではなく、海外のアニメーションのキャラデザインであったり、絵本のような手触りになっていっています。影響を受けた作家などはいましたか。

ことイナリ:
 もともとディズニーやピクサーの作品は観ていたんですけど、参考というか、作画の資料にし始めたのが、それこそ2014年とか2015年とかそのあたりで、作家はエドワード・ゴーリー【※1】とか、チャールズ・アダムス【※2】など、そのあたりを観ていました。

 またそのくらいの年代から、いろんなホラー映画も新しくどんどん観始めていて、そして観る回数を増やすようにして、どんどん自分の中のインプットを増やそうって時期をやっていて。だからいろんなところがごっちゃになっているんです。

【※1】「エドワード・ゴーリー」アメリカの絵本作家。残酷さと不条理さを特徴とする作風。

【※2】「チャールズ・アダムス」ダークさとユーモアを併せ持ったカートゥーン作家。彼の作品では映画化もされた『アダムス・ファミリー』が有名。

——なるほど。ことイナリさんの絵の変遷がどうしてそうなったかわかりやすいです。

ことイナリ:
 あとよく美術館に通っていて。一番は大学が美術系だったのもあって、授業でよく西洋美術史を専門で勉強していたのも、たぶんあるかもしれません。

——まじめな美大生だったんですね。すごく今の作風になるのは納得します。専攻はどこだったのでしょうか。

ことイナリ:
 デザイン科ですね。広告デザインとかそういうことをやらされて。(イラストは)油絵っぽいってよくいわれるんですけど、油絵は一度も描いたことないです。

——教養として美術史も学ばれていたんですね。ちなみに、画材は今はなにを使われていますか?

ことイナリ:
 いまは、ほぼほぼデジタルです。(使っているツールは)SAI【※3】とPhotoshop【※4】です。

【※3】「SAI」ペイント機能に特化したツール。ペンタブレットで描くのに適している。

【※4】「Photoshop」写真の編集を主にしたツール。画像編集やイラストレーションなどでも活用される。

うさまた氏が “自由に作れた”というアニメーション

——うさまたさんは、ことイナリさんのキャラクターにどんなふうにアニメーションを付ける作業を行ったのですか。

うさまた:
 最初、2017年9月に打ち合わせしたときに「じゃあ一回アニメーションを作ってみましょう」ってことで、こいしの立ち絵をもらったんですね。それを一回作ってみて、「こんな感じですか?」と(メンバーとの)すり合わせを一応しましたね。

 それプラス、サークル「汁うどん」さんたちの世界観を知るために、どんな映画が好きかとか、アニメーションが好きかを聞いて、どういうイメージのゲームを想像されているかっていうのをもう少し話し合いました。

——その時の映画やアニメーションってどんなタイトルが上がりましたか。

うさまた:
 めちゃめちゃ聞きましたね。『シャイニング』とか『パンズ・ラビリンス』とか。私がホラー映画に詳しくなくて、そこから好きなもの、今ハマているものとか聞いて、(その作品などを)観たりしました。(『シャイニング』が元ネタの)「murder」のくだりもその当時知らなくて。「なんだろう、この血のりは?」という。

――(『3rd eye』の様々なアニメーションを見ながら)うさまたさんはイメージ通りのものが出るんですね。

いってつ:
 ほとんどリテイクしていないよね?

ことイナリ:
 それどころか、指定すらしていない。

——えっ(笑)!? それで大丈夫だったんですか!? 

うさまた:
 最初はもっと詳しく「どういうふうに動くんですか?」って聞いていたんですけど、スケジュールも切羽詰まってきていて「わかりました。勝手に作ります」とやっていました(笑)。それで怒られないので「あ、これでいいんだ」って。

 それで乗ってきたので、仕事ではできないような、楽しく「これも追加しよう」ということができるんですよ。それで褒められるんですよ。めちゃめちゃ楽しいです!

——勝手に作ったものがぴったりだったんですね。動きの付け方は、カートゥーン的な印象を持ちました。

うさまた:
 実はSpriteStudioで頂点変形をよく使っているんです。それが3rd eyeだと実装できなかったんですね。まだこの時期では。なので、あえて紙人形っぽく動かしてみると、それが逆に「これいいね」って感じになりました。

——ちょっとチェコアニメ的な匂いも感じます。うさまたさんはアニメーションの技術を覚えるにあたって、参考にしてきたものはありますか。

うさまた:
 なんでも観ています。爆発が必要なら、爆発のアニメーションを(参考資料に)探してみたいな、その時々ですね。

 動きとか雰囲気についても、これが正解ではなくて、この世界観の空気はこれっていうふうに落とし込むって感じですね。チルノが首を吊られるシーンはセリフと、状況を説明したテキストと、一枚絵がありました。

 アニメ―ションで吊るすって動作の指示がなかったので、「本当に首を吊るんですか?」って何回も確認しました。「絶対吊ったら怒られますよ!」って。

いってつ:
 「そこは吊ってください!」と。

ことイナリ:
 「首をいく(吊る)のもいっちゃってください」って。

うさまた:
 (首を斧で切ったあと)身体を持っていくところも、最後まであったら邪魔だなと思って、チルノが移動するときにいっしょに持って行っています。

ことイナリ:
 海外のゲーム実況者がこのシーンで「Oh,My Gods!」って(笑)。

さい:
 発想としてすごいと思いますね。「悪質だなー!」ってすごい思いました。

うさまた:
 チャプター4の蓮子とメリーが出てくるところで、あそこら辺から私はもっとアニメーションを作っていいなと思って、オープニングとか作ったんですけど、メリーをちょっと動かし過ぎて、(実況動画などで)コメントにバタ臭いって言われて(笑)。

——確かに、あれだけちょっと、アニメとしてはバタ臭いですよね。

うさまた:
 いろんな表情を用意したので……。

いってつ:
 でもメリーの表情など反響があったと思いますよ。「この顔が好き」など。

ことイナリ:
 動かないより動いたほうがいいかなと。

いい意味での放任主義プロデューサー、ニシム監督

——プロデューサー兼コンポーザーのニシム監督はどのように制作に当たっていましたか?

いってつ:
 最初っから、制作が全然進んでいないときもすでにテーマ曲を作っていましたね。

ことイナリ:
 絵からイメージして、「こんな感じでBGM作りました」って出されて、聴いてみたら「……いいじゃん」みたいな。

――(笑)。お聞きしているとニシム監督さんはメンバーをまかせたあとは「後はまかせた!」みたいになってますね。

さい:
 それはありますね。ニシム監督の中では「各自が好き勝手にやったほうがいいものができる」って考えがあって、口を出さずに僕らにいろいろやらせてくれたんだと。

——それもすごいですね。発起人だと口を出しがちですし。皆さんが自分の役割を決めていって、丸く収まっている印象です。

さい:
 誰がどこまでやるかを手探りしていきながら、決まっていった感はありますね。

いってつ:
 本当は僕も脚本じゃなかったからね。最初はことイナリのつきそいで中華料理屋にいただけで……

——すごい重要な立場なのに当初関わるつもりじゃなかったとは!逆になぜシナリオを書く気になったんですか?

いってつ:
 最初はさいさんと、ニシム監督さんとことイナリのチームでした。ことイナリがなんとなくお話を考えて作りましょう、みたいにやっていたらしいです。

 最初は3人でSkypeで通話したんですね。でもにっちもさっちも行かなくなったみたいで、僕は「手伝ってくれ」って言われ、「じゃあことイナリからお話を受けて、セリフだけ打ちますよ」ということだったんですね。

 それがいつのまにか、「フィールドの設計までやってらんないから(いってつ氏が)ぜんぶやってくれ」って話になって、「わかりました」とやっているうちに、全部やることになりましたね。

ことイナリ氏といってつ氏のやり取りが生みだす「古明寺こいしの世界」

——なるほど。皆さんそれぞれの役割に徹するだけではなく、その他の部分にも要所要所で関わられていますね。

うさまた:
 (ことイナリさんによる)絵コンテもありましたよね。

さい:
 シナリオとか絵コンテは、このふたり(いってつ氏とことイナリ氏)が話したことから降りてくるから、「こういう話してたのか、あんまり知らないんですけど……」ということが……

——おふたりは内容についてどういうお話をしていたのでしょうか。

ことイナリ:
 そもそも自分が最初に「これこれこういう場面で、こういうストーリーがいい」というのを絵コンテで描いたものを脚本に渡しています。

いってつ:
 渡してもらって「はい、わかりました。こういう場面が描きたいんですね」って、僕が発達児童学とかそういうエッセンスをちょこちょこっとふりかけつつ、セリフを書いて、「ここには木が生えています!」みたいな場面を書いて……「木は何本ですか?」とか聞かれるんですけど(笑)。それをまた(メンバー)全体で見てもらう、という流れでしたね。

——『クロノトリガー』【※】方式ですね。

【※】『クロノトリガー」1995年発売のRPG。『ファイナルファンタジー』シリーズの坂口博信と『ドラゴンクエスト』シリーズの堀井雄二に加え、キャラクターデザインを鳥山明担当した “ドリームプロジェクト”と言われた一作。ここでは鳥山氏に自由に描いて貰ったイメージボードを元にシナリオ制作を行っていたことを指す。

さい:
 けっこう、ことイナリさんの監修は強いというか。

いってつ:
 そうそう。ぼくは基本的に(脚本が)OKかどうかことイナリを見るんですよ。全ボツにもなったことありますよ。いちチャプター丸々。

ことイナリ:
 チャプター2のときですね。全ボツにして、結局自分がセリフを書いたシーンがあります。

さい:
 シナリオが遅れてくる場合、だいたい「このふたりの間で何かあったんだろうなあ……」と……

——ことイナリさんもセリフを書かれたんですね。

いってつ:
 一部ですね。チルノを雪玉から救い出すシーンがあって、そこをボツ食らってリライトしてもダメで、(ことイナリが)「もう自分が書く」ってことで書いてもらいました。

——ことイナリさんとしては、ボツと判断したポイントはどこでしたか。

ことイナリ:
 ダメだなと言ったのは、大体言動が幼すぎるって理由でボツにしたことがあります。自分のイメージではこいしの言動とは『不思議の国のアリス』のアリスに近くて、ちょっと小生意気でスカした感じだったので、それでボツにしました。

いってつ:
 チャプター1ではまだ(こいしは)幼かったんですけど、チャプター2でちょっと大人びるわけですよ。発達段階をクリアすると。

 クリアしてもこの後のチャプターで3段階も成長があるので、僕はちょっとずつセーブしてたんです。成長具合を。そしたら(ことイナリ氏から)「これだと幼すぎる」ということで、リライトになりました。

——(チャプター2のシーンを見ながら)このあたりからこいしの発達度を上げていったかたちですね。

いってつ:
 このチャプターにおけるチルノって結構自信家なんですよね。……厳密にはチルノではないんですけど。
 『3rd eye』の同人版を買った方はブックレットを見ると、チルノっぽいこの女の子の紹介のところに “チルノ”って一言も書いていないんですよ。「青い女の子」って書いてあって。

——その試みは手塚治虫の “スターシステム”を思い出したんですよ。東方のキャラが『3rd eye』という演劇を演じていると捉えたんです。

いってつ:
 そんな感じです。逆に宇佐見とメリーは、ブックレットでも「宇佐見」、「メリー」って書いてるんで。

——このふたりは頭身も大きいですよね。

いってつ:
 それは彼女たちが現実にいる存在だからです。チャプター1と3はこいしの夢の中の世界で、現実じゃないんです。でも、竹林を旅するときはこいしも「第3の目」を使えないし、周りにいる人間、蓮子とメリーも大人なんですよね。あれは現実世界なんです。

同人即売会が実質アーリーアクセス! イベント開催に合わせたチャプター制作

——2017年当時のデジゲー博に向けて、2カ月でスプリントで作っていますからね。あの時って間に合ったんですか?

全員:
 (あれ間に合ったのかな……とどよめく)

いってつ:
 最初、「チャプター1までは作ろう」って話していたんですよ。

さい: 
 ああそうそう。でもだいぶ早い段階で「絶対無理!」ってなって、とりあえずチャプター1の屋敷から出るまでをやりましょうと。それで、かさ増しじゃないですけど、ジャーナルと言うか、紙の文章を拾わせて、プレイ時間を稼ごうと(笑)。

——最初はテキストの役割はプレイ時間を稼ぐものだった、という立ち位置だったんですね。

さい:
 自己認識としては、プログラムを作る速さだけは自信があったので、2ヶ月あればとりあえずモノは作れるだろうなっていうのは、自信だけはありました。(ゲームが)面白いか面白くないかはわからないんですけど。

 自分の中で「こういうゲームを作りたい」というのがあるタイプではないので、実際に遊んでもらって、フィードバックを得て、改善していくプロセスが好きなタイプなので、デジゲー博に出展するのも、どっちかと言えばそこでいいものを出すというよりは、「とりあえずこういうもの作りましたけど、反響はどうなるだろうな」みたいな感じで、プロトタイプを作ってみたんですね。

——Steamなどでいうところのアーリーアクセスみたいな形なんですね。同人即売会が実質アーリーアクセスみたいな。そんな開発初期の反響はいかがでしたか。

さい:
 SNSでバズらなかったっけ?

いってつ:
 そもそも(ニシム監督氏の)「アニメーターを募集します」というツイートがバズったのと、さいさんとうさまたさんでティザーサイトを作りましたよね。あれがもうひとつバズったんですよね。

さい:
 『3rd eye』の公式サイトを作ろうって話になって、作ったんです。

——どれくらいバズったんですか?

うさまた:
 一日で1000リツイートくらいですね。

いってつ:
 ことイナリは当時から1万人くらいフォロワーがいたので、ファン的には「ことイナリさんの絵でゲームができる!しかもホラーゲーム」というのがあるし、いままでも東方のホラーゲームって企画としては何本かあったと思うんですけど、実際に完成した作品ってほとんどなかったんですよね。そういうところでもすごく反響がありました。

さい:
 実質、東方の二次創作ゲーム初のホラーゲームという。それもあって公式サイトを載せたツイートがリツイートされて。

いってつ:
 (公式サイトを観て)びっくりしたほんと!「ゲームじゃん!」って思った。「俺、ゲーム作ってる!スタッフに名前が乗ってる!」って(笑)。

——その時点ではまだ小説とか脚本のみ手掛けてる感覚だったんですね(笑)。

いってつ:
 それでデジゲー博に行ったら、ソニーの方が名刺を置いていって。

さい:
 デジゲー博でプロトタイプ版を出して、冬コミでチャプター1の体験版を出し、順当に博麗神社例大祭(以下、例大祭)、夏コミに出展していくたびに、少しずつアップデートしていきました。

——どのくらいのペースでチャプターを作っていったんですが?

いってつ:
 ……どれくらいですかね? やたらと時間がかかったチャプターもあったりして、「1チャプター制作に〇ヶ月かかった」という感じではなかったです。

さい:
 コミケと例大祭に出展した時に、必ずチャプターをアップデートしていました。あれって(それぞれのイベント開催の間が)3か月くらいの感じです。

——そうすると『3rd eye』は全5チャプターなので、簡単に計算しておよそ15ヶ月で完成した形ですかね。

いってつ:
 ……おかしいな。計算が合わない(笑)。まあでも2年弱くらいでしたね。

さい:
 実際の総製作期間はそのくらいでしたね。

——なるほど。同人イベントの出展に合わせて作った15ヶ月にその他制作期間をプラスして、20ヶ月くらいですか?

さい:
 2019年の5月に完成版を出したから、作り始めたのは2017年ですね。大体そのくらいです。

会社員としてホラーゲームを作る時間はどれくらい?

——皆さん本業を持っているうえで『3rd eye』を制作していると思うんですが、制作時間の捻出はどのようにしていましたか?

いってつ:
 「頑張った」としか言いようが……(笑)。ことイナリはフリーランスのイラストレーターだったんで、けっこう制作する時間に融通が効いたんです。

——フリーだとまだ自分で時間を調節できるというのはありますね。会社員だと大変そうな印象があります。

さい:
 僕は本業で普通にサラリーマンをやっているので、平日は9時から18時くらいまで拘束されて、それ以外の時間は、お仕事が終わった後に制作するし、土日は全部『3rd eye』制作をやっていました。

 当時、実質(の作業時間)を計算したら、18時から24時くらいまでって結構6時間くらいあるんじゃないかと。土日は15時間くらい作業を当てられたので、これ計算したら1人月くらい弾き出せるなと。

——ものすごく働いていますね……。

さい:
 当時はめちゃめちゃ楽しかったので、それぐらい苦も無くやれたなというのはあります。

——いってつさんもサラリーマンですよね。

いってつ:
 はい。脚本は家に帰ってから当然書くんですけど、電車の中でも書くんですよね。スマホで。スマホがあったから(脚本は)完成したようなもんですよ。スマホでの製作時間がすごく長かったので。

——行き帰りの電車内での時間は大きいですね。

いってつ:
 デカいです。電車のなかでやって、会社の休み時間でもやって……

さい:
 会社の勤務時間中でもスマホでやってなかった?

いってつ:
 やってました(笑)。サボっているわけじゃないですよ。ほんとにトイレにいるんですよ。ほんとにトイレにいるときにふと思いついたものを出す!っていう。

さい:
 スマホでスプレッドシート開いてね(笑)。

いってつ:
 あれがスマホだと大変なんですよ……

——うさまたさんは時間の使い方はいかがでした?

うさまた:
 私も会社員として働いていて、『3rd eye』は土日に作業していたんですけど、「次のイベントまでにこのアニメーションを完成させる」って納期が決まっていたので、頑張りました(笑)。何とか間に合わせるように。

——ちょっと間に合わせる大変さがある感じしますね。

うさまた:
 でも、やりたかったことができている状態だったので、ことイナリの立ち絵のpsdでもらって、「自由に動かしていいおもちゃが手に入った!」と感じてました(笑)。

さい:
 うさまたは、Discordでつぶやく時間が午前3時とかなんですよ。

いってつ:
 「あっ、この人ヤバいんだ」と思いました。

うさまた:
 盛り上がると最後まで作りたくなっちゃうんで、眠さとか気にせずに(笑)。ゲーム会社なので午後1時までに出社すればいいやみたいな。朝まで頑張ってちょっと眠ればいいかと(笑)。

英語圏や中国語圏にも展開された『3rd eye』

——最近、海外の実況動画で6万回も再生されているものがあったんですよ。リリース後の、世界からの反響ってどんなものがありましたか。

ことイナリ:
 海外の実況者がゲーム実況しているようなやつも観ましたね。

いってつ:
 あとは中国ですね。ビリビリ動画がすごかったです。

さい:
 ビリビリ動画にサンプル動画というか、ムービーをアップしたら中国の方からコメントがたくさんついて、中国語は読めないんですがとりあえず喜ばれていることだけはわかる、みたいな。

——中国語訳はしないんですか。

さい:
 Steam版では中国語にもローカライズして出しています。

——そうなんですね。ローカライズに関してはどのように行いましたか。

さい:
 そこは専門におまかせしました。『3rd eye』のパブリッシャー、UNTIES【※】さん経由で専門の翻訳の方にお願いできるので、テキストを渡したら翻訳されて返ってくるので、それをゲームに組み込む形でやっていました。日・英・中とやりました。

【※】「UNTIES」ソニー・ミュージックエンタテインメントのレーベル。インディーゲームを主に取り扱っている。

——ローカライズされたテキストを実装するときの苦労はどうでしたか。

さい:
 ……苦労はありました。プログラム的な観点で一番苦労したのは、テキストをゲーム内のプログラムに埋め込んでいたので、(コードの)書き直しになったことです。

 一般的にローカライズされるゲームだと、テキストをプログラム内ではラベルで指定しておいて、そのラベルに紐づく日本語であったり、英語であったりをそのモードに合わせて表示しないといけないんですけど、まったくそういう作りでやっていなかったんです。そういう風に作り直すのはけっこう手間がかかって。

(第3回に続く)

聞き手:葛西祝・斉藤大地
文: 葛西祝

『3rd eye』公式HPはコチラ
『3rd eye』steamページはコチラ

アダムスファミリーに影響を受けた東方イラストはどうして生まれた? ことイナリ氏といってつ氏のやり取りが生みだす「古明寺こいしの世界」 おわり